白梅の君にとらわれて<著・蘇芳(茜)さま>

前回の「らぶらぶ万歳サークル」さまの冬の競作大会で初めての投稿をされた蘇芳(茜)さまが、このたびお話を二つも贈って下さいました。

ひとつめのお話は平安編で、「白梅の君にとらわれて」。

ふたつめは社会人編で「瑠璃が異動してくる前の、ある日曜日の一コマ」のお話です。

スクロールしてどうぞお楽しみください。




   


白梅の君にとらわれて
                                                         

<著・蘇芳(茜)さま>







うららかな春の陽気に誘われてあたしは簀子縁に出ると思い切り背伸びをした。ようやく身を刺すような寒さが過ぎ去り時折吹く風も梅の香りが漂っていてなんとも気持ちがいい。

深呼吸して目の前の庭を眺めていると微かに猫の鳴き声が聞こえた。近くにいるのかしら?キョロキョロと庭を見渡してみたけど見当たらない。

「ねえ、猫の鳴き声しない?」

「さあ。わたくしには聞こえませんでしたけど」

近くに控えていた小萩に聞いてみたけど空耳かしら。そう思っていたけど確かに子猫が鳴いているのがまた聞こえた。

「やっぱりいるんだわ。子猫みたいよ」

「姫さまはお耳がよろしいのですわね」

どこか感心したような呆れたような言い方をする小萩をほおっておいて階のほうに歩き出した。

「姫さま、庭に降りてはいけませんわ」

「でも・・・」

言いかけると衣擦れの音と共に早苗が現れた。膝をつき一礼すると

「只今少将さまからの先触れが参りましてこちらに向かっているそうです」

「まあ、今日はお早いお越しですのね。姫さま準備いたしますわよ」

部屋の中に入るよう促されたけど子猫の鳴き声が気になる。鳴き方が変なのだ。

「ほら、聞こえるじゃない」

小萩も耳を澄ますとちょっとびっくりした顔をした。

「確かに聞こえますわ・・・」

「子猫が怪我でもしてるのかもしれないわ。高彬が来る前に戻るから」

「姫さま!?」

あたしは小萩が止めるのも聞かずに庭に降りて子猫を探し始めた。西の方から聞こえてきた気がして茂みの中をずんずん進んで行った。



*****



少しすると茂みから開けた場所に出て白梅の木が数本植えられている。どの木も今が盛りで芳しい香りが漂っていた。

「ミャー・・・ミャー」

子猫の鳴き声が木の上から聞こえてくる。あたしは白梅の一本を見上げ目を凝らすと枝の上に白と茶の斑の子猫を見つけた。

降りられないんだわ。回りを見渡しても母猫もいないようだし人に手伝ってもらうにも庭男もいない。子猫のいる枝に向かって両手を差し出し言ってみた。

「降りといでー。瑠璃が受け止めてあげるよー」

ミャーと鳴くばかりで動こうとしない。うーんどうしよう。ふと白梅の幹を見るとゴツゴツしてて足もひっかけられそうだわ。よし、登るか。このままにしておけないもの。

あたしは白梅の一番下にある枝に手をかけるとえいっと足を幹にひっかけ木に登りだした。

昔はよく木登りをしたけど人妻になってもやることになるなんて思わなかったわ。あたしもまだいけるわねなんて考えながら子猫がいる枝にたどり着いた。

片手を差し出しておいでと言ってみてもこちらに寄ってこない。そろりと子猫に向かって膝で半歩進むと

「瑠璃さん!」

名前を呼ばれて下を見ると高彬がこちらに駆けて来るのが見えた。しまった。もうウチに着いてたのね。

「なにやってるんだよ!」

高彬は青い顔をして叫んでいる。

「子猫が木から降りられないでいるから助けるのよ」

「ぼくが代わりにやるから瑠璃さんは降りておいでよ」

「平気よ。あと少しなんだから」

あたしはまた子猫に向き直って近付こうと動くと枝が揺れた。びっくりした子猫はミャッというと真下にいる高彬に向かって飛び降りた。

高彬は慌てて子猫を両手で受け止める。ホッとしているとガサガサと音がして母猫と子猫の兄弟たちが現れた。それに気付いた子猫は高彬の手からピョンと飛び降りると母猫達のところへ行ってしまった。

「行っちゃったわね」

「さあ、瑠璃さんも早く降りてきなよ」

「うん。今降りる」

自分も降りようと下を向いたのがいけなかった。思っていたよりも高くて後ろに下がろうにも足がすくんでしまったのだ。高彬は動かないあたしを不審に思ったようで

「瑠璃さんどうかした?」

「高彬。足がすくんで動けない」

「えっ?・・・瑠璃さんは後先考えないで行動するんだもんなぁ」

「だって早く助けてあげたかったのよ」

「まったくしょうがないな」

そう言ってふうっと息を吐くとあたしに向かって両手を差し出した。

「おいで」

ドキンと心臓が跳ねる。さっきお説教してた人とは別人かとおもうほどやさしい顔をした高彬を見たら何故だかすぐにでも高彬のもとに行きたくなってあたしは両手を広げると足にぐっと力を入れて高彬に飛び付いた。

「わっ」

勢いがつきすぎたのかあたしを抱き止めた高彬がバランスを崩して後ろに一歩下がるとそのまま尻餅をついた。

「いてっ」

あたしは慌てて身を起こして聞いた。

「大丈夫っ?」

「平気」

ホッとして立ち上がろうとすると手首をつかまれ高彬の胸に引き寄せられてあっという間に抱きすくめられた。

「つかまえた」

あたしは恥ずかしくも嬉しくてふふふなんて気分で高彬の腕の中にいたんだけど

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・そろそろ戻らないと。小萩も心配してるだろうし」

「・・・・・」

「高彬?どうしたの?どこか痛いとか」

まったく動かない高彬が心配になってもしかしてさっき打ち所が悪かったとか・・・でも尻餅ついただけだったと思うんだけど。それにこの場所は寝殿の庭に近くて人が来ないとも限らない。あれこれ不安になっていると

「瑠璃さん」

高彬の低い声がした。

「なっなに?」

あたしは慌てて返事をすると

「ぼくがどれだけ心配したかわかってる?」

これは・・・怒ってるわね。

「ごめんなさい」

「反省してる?」

「もちろん!」

お願いだからもう開放してよー!反省してるって言ってるじゃないの!

「瑠璃さん梅の香りがする。離したくないな」

「なっなに言ってんのよ、離して」

「嫌だ」

「!?」

高彬から逃れようにも肩と腰にしっかり腕が組まれていてしかも武官だけあってか力もあるからびくともしない。

あたしが高彬と抱き合っていてもなんら問題ないしとっくに夫婦で親も公認の仲なんだけどやっぱり恥ずかしいわよー。

探しに来た小萩や女房に見つかったらと思うと気が気でない。腕に込められた力は緩むことがなくあまつさえ高彬は髪に顔を埋めてくる。

まさかこんなところで・・・なんてないわよねハハハ・・・まだ春だというのに背中にじっとり汗が出てきてた。

「お願い高彬もうしないから許して」

高彬は顔を上げると横から憂いのある目であたしを見て聞いてきた。

「反省してる?」

あたしの心臓はどきりと跳ねてとてもじゃないけどまともに高彬の顔が見れない。あたしはこれ以上ないというふうに首を何度も縦に振って

「反省してる」

と応えた。すると高彬はあたしの首筋にチュッと口付けしてきた。

「!おっお願い!!後生だからっ」

と半泣き状態で言うと高彬の肩が震えてきた。

「?」

「プーッアハハハッ」

高彬が笑いを堪えきれなくなり声をあげて笑いだした。あたしが口をパクパクさせてるとやっと笑い終えた高彬は笑いすぎて出てきた涙を拭きながら

「ホントに反省したみたいだね」

と言った。あたしはやられたと思うと悔しくて高彬の胸をポカポカ叩いた。

「ホントに人が来たらどうしようかと思ったんだからっ」

おもいっきり高彬を睨む。

「ごめんごめん」

頭をポンポンと軽く叩くと高彬はあたしの手をとりもう片方の手でやさしく包むと真剣な顔で言う。

「でもぼくがどれだけ心配したか分かってくれた?」

「うん・・・。そうね、悪かったわ。ゴメンね高彬」

高彬はスッと立ち上がるとあたしの腕をつかんで立たせてくれた。

「小萩が心配してるから帰ろう」

あたしは高彬と手をつなぎ暖かな春の日差しの中東の対の屋へと戻った─────



・・・・・部屋へと戻る途中

「続きは帰ってから」

「!!」

嬉しそうに言われて『続きってなによー!』と思いつつもう言い返すことも出来ずにあたしは高彬に手を引かれうららかな春の陽気の中後先考えないで行動したことを後悔しながら歩いた。




<終>





ある日曜日の一コマ<社会人編>




日曜日の朝───

ジョギングから帰ってシャワーを浴びた後キッチンへ行って冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。

ペットボトルに口をつけ朝食は・・・などと考えながら時計を見ると7時半を過ぎていた。

この時間ならもしかして───

洗面所へ行き身支度を整えると上着を手にして家を出た。

今日は天気もいいし外に出るのはもってこいだ。先程ジョギングから帰ったばかりの自分に言い訳してカフェへと向かう。

そんなことを考えて歩いているとふと昨日の電話を思い出した。

嫌なこと思い出しちゃったな。まったくアイツは───過保護で大袈裟なヤツの顔が浮かんでため息が出る。

ついと冬のよく晴れた空を見上げて朝の冷たい空気を吸いふっと短く吐く。うん、忘れよう。

行き付けのカフェで最近見かける窓際の彼女今日も来てるかな。彼女のことを考えたら気持ちが軽くなってきた。

昨日は早朝から出張でカフェに行けなかったけどやっぱり土日は来ないだろうか。普段何してるんだろう。朝に来るということは会社員かな。

だとしたら今日はなんといっても日曜日だ。来ないだろうか。でも彼女がいつも来ている時間には間に合う。もしかしたら・・・いや、日曜日のこんな時間には・・・

ハッとしてひとり一喜一憂している自分がなんだか気恥ずかしくなり軽く咳払いして日曜日の静かな街中をカフェへと向かって歩いた───








~あとがき~


こんにちは。初めまして蘇芳と申します。

いつもラブラブで胸キュンなお話で癒しを下さる瑞月さまに感謝の気持ちを込めてお話を贈らせていただきました。

無謀にも社会人編のお話も作らせていただきました。第20話のお祝いにと作ったものです。窓際の瑠璃を見かけるようになってから2週間くらいとあったので日曜日はどうしてたのかなと妄想して作りましたが…高彬カッコよくしたかったのですが力量不足ですいません(汗)

瑞月さま、これからも社会人編高彬と瑠璃の今後の展開を楽しみにしています。そしてラブラブなお話も(^^)

読んでいただきありがとうございました。






蘇芳(茜)さん、このたびは素敵なお話を二つもありがとうございました。

とても嬉しいです。

『白梅の君にとらわれて』の高彬、かっこいいです。

私も高彬に下から「おいで」って両手を広げてもらいたいです。迷わずダイブします!

その後の高彬の素敵なこと。

「高彬の低い声がした。」に悶えました。

瑠璃の木登りに青くなったものの、その後はすっかり高彬のペースですね。

そして何より「続きは帰ってから」が気になります。

こちらもさぞかし高彬のペースだったのでしょうねぇ・・・・

社会人編『ある日曜日の一コマ』は、拙作「第3話」の「東京支店に出社する前から、あたしは少しでも通勤に慣れておこうと会社近くのカフェに通っていたのだ」の辺りのお話しですね。

日曜日の朝、高彬は今日も窓際の彼女いるかな・・・とカフェに向いますが、この頃から瑠璃も高彬を気にしていたわけで、案外、瑠璃も日曜日に

「あの人、いるかな」

なんて思って来ていたのかも知れませんね。

蘇芳)茜)さんのお陰で楽しい妄想が広がりました。

素敵なお話を本当にありがとうございました。



瑞月

(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

蘇芳さま

蘇芳さん、こんにちは。

この度は素敵なお話をありがとうございました。(しかも二つも!)

> 『白梅の君にとらわれて』はもともとらぶらぶ万歳サークルさまの春の競作大会のお題投票を見にいって梅かぁなんて考えていたら梅の幹ってごつごつしてるから登れるかもなんて思って出来た作品です。

そうだったんですね(^_-)-☆
こんな風に作品の出来る過程を聞かせていただけるのも個人的には嬉しいです。
思いついたきっかけってありますものね。

> 社会人編は脳内にはカッコいい高彬がいたはずなのにうまく文章にできなくて反省してます(汗)瑞月さまのお話を勝手に妄想して作りましたがスイマセン楽しかったですm(_ _)m

いえいえ、本当にかっこいい高彬でした。
ペットボトルで水を飲んでる姿とか、想像してキャーと言う感じでした(*^_^*)
本当にありがとうございました<m(__)m>


No title

こんにちは、蘇芳です。

瑞月さま、この度はブログに載せていただきありがとうございました。

また読みたいと言って下さったのが嬉しくて調子にのって作った社会人編まで載せていただいてm(_ _)m

『白梅の君にとらわれて』はもともとらぶらぶ万歳サークルさまの春の競作大会のお題投票を見にいって梅かぁなんて考えていたら梅の幹ってごつごつしてるから登れるかもなんて思って出来た作品です。

瑠璃にくどくどとお説教するよりこの方が効果があることがわかってきた成長した高彬になりました。原作の最後のところで「心にしみるくどき文句も、いつのまにか板につく人になっていて」とあったのでこのくらいの成長はあってもいいのかななんて妄想した次第です。

社会人編は脳内にはカッコいい高彬がいたはずなのにうまく文章にできなくて反省してます(汗)瑞月さまのお話を勝手に妄想して作りましたがスイマセン楽しかったですm(_ _)m

ありがとうございました(*^^*)


Rさま、初めまして蘇芳です。

感想読ませていただきました(*^^*)とっても嬉しいです!!

サークルさまに出品した作品も読んで下さったのですね、感激です~。

白梅の最後仲良く手を繋いで帰るシーンで終わるつもりでしたが最後に高彬に一言言わせたくて(笑)

これからも作品を作っていきたいと思ってますのでまた読んでいただけたら嬉しいです(^^)

ありがとうございました(*^^*)

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんばんは。

蘇芳さまに感想をお伝えいたしました(*^_^*)
お話を頂けるのは本当に嬉しくありがたく思っています。
蘇芳さまの作品、素敵でしたよね。

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