***短編*** 雪のいと高う降りたるを *** 

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




         注)このお話は一話完結です。


         『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
         今回のお題は「「出湯」or「銀世界」でした。

          <おまけの話・別バージョン>下にあります。
          
           





***短編*** 雪のいと高う降りたるを ***








妻戸を細く開け外の様子を確認したあたしは、はぁ・・・と大きなため息をついた。

今日も雪が降っている。

一気に冷え込みが厳しくなった四日前、京は朝からどんよりとした曇り空で、これは一雨くるな、と思っていたら、夕刻から雪が舞い始めてきた。

どうやら夜の間中ずっと雪は降り続いていたようで、翌朝、我が三条邸の庭は一面の銀世界と様変わりしていた。

どこもかしこも真っ白い雪が積もっていて、あたしは思わず歓声を上げてしまったのだけど、でも、そんな気分でいられたのはその日だけだった。

雪は降ったり止んだりを繰り返し、更には折からの寒さも加わって、解けるどころかますます降り積もって行く。

当たり前だけど雪は三条邸の庭だけに降るわけじゃなく、大路にも小路にも、綾小路あたりにも───つまりは白梅院辺りにも降っているわけで・・・

───こんなに雪が降って、高彬は大丈夫かしら?

高彬に限らずだけど、移動は牛車か騎馬が基本のこの時代、これほどの雪が降ってしまうと、文字通りの足止め状態となってしまうのだ。

出仕は取りやめているとは思うんだけど・・・

はぁ・・と、またしても大きなため息が出てしまった途端

「この雪では、今夜も少将さまはいらっしゃらないのでしょうねぇ・・」

いつからいたのか、後ろに立っていた小萩が言い、あたしはがっくりと肩を落した。

そうなのよ。

出仕の心配は心配として、これだけ雪が降ってしまうと、つまりあたしのところにも来れないということなのよ。

実際、この四日間、高彬からの連絡は途絶えている。

文くらい、と思わなくもないけれど、急用でもないのに、この雪の中をわざわざ文遣いの人をやらせるのは忍びない・・って高彬なら思いそうだし。

童の頃は、雪が降ると手放しで喜んで、女房らが止めるのも聞かずに庭を駆け回っていたものだけど。

大人になった今では、降り止まない雪が恨めしいわ・・・

いつの頃かの宮廷勤めの女官が、雪の降った朝、自分が仕える女御だか中宮だかに

『香炉峰の雪はいかが?』

と聞かれ、とっさに御簾を高くあげて見せたところ、女主人はその女官の機転をいたく喜んでお笑いになった・・・とかなんとか、そういう話を聞いたことがあるけれど、なんのこっちゃ、って感じだわよ。

高尚過ぎて付いていけないって言うかさ。

こう言っちゃなんだけど、後宮に住まう人たちって暇なんだと思う。

雪の中を出仕したり通ってきたりする夫を持つわけじゃないし、あたしが言うのも変だけど、現実離れしてるって言うか。

もしあたしが『香炉峰の雪はいかが?』なんて聞かれたら

『さぁ?行ったことないからわかりません』

とでも答えてるところだわよ。

・・・なんて会ったこともない女官の伝聞にまでつっかっかってしまのは、やっぱり高彬に会えないでいるからなのかしら・・・?

こういうのを八つ当たりって言うんだろうなぁ・・・

あたしは本日三度目の、大きなため息をついた。




*************************




夜になり、することもないから早々に横になろうと小萩に手伝ってもらいながら着替えていると、バタバタと言う足音が聞こえ、早苗が部屋に飛び込んできた。

「まぁ、早苗、何ですが。姫さまの前で・・・」

「少将さまが。少将さまがおいでです」

小萩の言葉を遮りそう言うと、早苗は胸を押さえてはぁはぁと息を整えている。

よっぽど慌てて駆けこんできたらしい。

「高彬が?この雪の中、どうやって・・・」

その言葉も終わらないうちにひょっこりと高彬その人が現れた。

「やぁ瑠璃さん」

「やぁ、ってあんた・・・。どうやってここまで・・・」

「徒歩(かち)で来た」

唖然とするあたしを前に、平然と言うので

「徒歩で?!」

びっくりして思わず大声が出てしまう。

「うん。下手に車で来て立ち往生でもしたら大変だからね。徒歩なら安心だ」

「安心って・・・」

白梅院からここまで、驚くほど離れているというわけではないけれど、それでもそれなりの距離はある。

まして雪道ともなれば歩きにくさは普段とは比べ物にならないはずで、とてものこと「安心」とは思えない。

「それにしても冷たかった」

小萩が用意した円座に腰を下ろしながら言い、見れば裾の辺りがぐっしょりと濡れている。

「当たり前よ、雪の中を歩いてきたんだから。早くそれ脱いだ方がいいわよ。風邪ひくわ」

「うん」

素直に高彬は立ちあがり、小萩は濡れた高彬の指貫を手に取ると部屋を出て行った。

すっかりくつろいで肩から単を羽織る格好の高彬と、とりあえず炭櫃に当たる。

「こんな雪の中、徒歩で来るなんて。危ないじゃない、何かあったら」

会えてすごーく嬉しいのに、ムスッとぶっきらぼうに言ってしまう。

あぁ、あたしったら本当に素直じゃないんだから。

こんな時「ありがとう、高彬。会えて瑠璃は嬉しいわ」なんて言って抱き付けていたら、あたしの人生もまた違っていたのかもしれないんだけどねぇ・・

それでも、そこはさすが夫と言うべきなのか、それとも長い付き合いであたしのこういう言い草には慣れっこなのか、高彬はさしたる動揺もみせずに

「うん。でもまぁ、こうして何事もなく来れたんだから」

なんて言って笑っている。

「仕事はどうしてたの?」

「最初の日は出たけどね、後は公休ということになったよ」

「まだ降ってるのかしら」

「どうだろう。来る時はほとんど上がってるようだったけど・・・」

言いながら自分でも気になったのか、立ちあがると妻戸を開け外を見に行った。

「瑠璃さん、ちょっとおいで」

手招きされ簀子縁に出た途端、あたしは息を飲んだ。

雪はすっかり上がり、それどころか雲の切れ間からは月が見えていて、その煌々とした月明りが庭をくまなく照らし出している。

まるで雪自体が発光しているみたいに、庭全体がほの白く輝いて見えた。

「綺麗・・・」

「うん」

声と共にもれる息はたちまち凍り、目の前でキラキラと光ると儚く消えて行く。

雪のせいなのかまったくの無音で、あたしたちは息をひそめるようにしてしばらく立っていた。

そろそろ部屋に入ろうか、と妻戸を開けたその時───

ふいにシャカシャカと言う音と、何かが動く気配を視界に感じ、あたしと高彬は同時に振り返った。

音と動く気配はどうやら同じところから出ているらしく、よーく目を凝らして見ると・・・

庭の端の方から真ん中に向って動くものがあった。

庭を横切るように一本の筋のようなものが出来ていて・・・

「犬よ。高彬、白い犬」

「うん」

白い犬がまっさらな雪の中を尻尾を振り振り歩いているのだった。

「小さいわ。まだ仔犬みたい」

やがて小さい犬の身体はすっぽりと雪の高さに埋もれて見えなくなってしまい、あっと思った瞬間、高彬が裸足のまま階を下りて、あっと言う間に仔犬を抱きかかえてきた。

高彬に抱かれた仔犬は本当に小さくて、触ってみるとびっくりするくらいに冷たかった。

「母犬とはぐれちゃったのかしら」

「多分ね」

とりあえず部屋に入り、炭櫃の前に座ると、仔犬は暖かさに安心したのか高彬の腕の中で「くぅーん」と小さく鳴いた。

「待って、おやつがあるわ」

二階厨子から隠し持っていたおやつを出してあげてみると、身体全体を使って無心に食べている。

「さすがだね、瑠璃さん。用意がいい」

「非常用よ」

からかいの言葉を軽く流し、そっと仔犬の頭をなぜて見ると、だいぶ身体が暖まってきたみたいだった。

やがて仔犬は眠ってしまい、高彬はそっと円座の上に仔犬を下ろした。

少し身じろぎをしたものの仔犬はそのまま眠っており、高彬はあたしに向い「しぃー」と人差し指を立てにっこりと笑って見せた。

頷き返し同じように指を立てると、高彬はするりと肩に腕を回してきたりして、そのまま横たえられてしまう。

接吻され、単衣を脱がされかけたところで、ふと視線を感じて顔だけ動かして見ると───

仔犬と目が合った。

「──起きてるわ」

合わせに入りかけた高彬の手を押さえ囁くと

「起きてる?誰が」

高彬は不審そうな声を上げた。

「誰がって・・・仔犬よ。起きてこっちを見てる」

「え」

ガバと起き上り確認し「本当だ・・」と驚きつつも、すぐに気を持ち直したみたいに

「・・・まぁ、犬だし・・・いいか」

なんて言い、またしても接吻をしようとしてくるので

「気になるわよ」

あたしは高彬を押しやった。

「たとえ犬とは言え、見られてるなんて恥ずかしいわ」

ぼそぼそと抗議してやると、少し考えた後、高彬は起き上り、円座ごと仔犬を持ちあげて几帳を回り込んだ。

「悪いけど、少しの間ここにいてくれ」

なんて言っている声が聞こえてくる。

夜具に入ってきた高彬が再開とばかりに手を動かしかけると、くぅーんと声がして、見てみると夜具の端っこに仔犬がちょこんと座っている。

「仔犬が・・・」

高彬の手を押しとどめ指差すと、高彬は再度起き上り、仔犬を抱き上げ几帳を回ると

「少しの間だから」

なんて言い含めている。

高彬が始めようとすると仔犬が戻り、また抱き上げて几帳の向こうに置いてきて、戻って始めようとすると仔犬が戻り───

何度も同じことを繰り返しているうちに、あたしはもうおかしくて、それどころじゃなくなってしまった。

夜具の上であぐらをかき憮然とした表情の高彬は、両手で仔犬をはさむように持ち上げ、目の高さを合わせると

「少しの間でいいんだ。向こうに行っててくれないか」

なんて説得を試みている。

「頼む」

額をくっつけんばかりにして言うと仔犬はそれを遊んでもらっていると思ったのか、千切れんばかりに尻尾を振りキャンキャンとそれはそれは嬉しそうに鳴いている。

「おまえもオトコならこの状況判るだろ」

そのあまりの必死さ、熱心さに、あたしはたまらず吹きだした。

吹きだしながら

(あぁ、もう。高彬、大好き──)

なんて思っている。

雪のいと高う降りたるを───

雪がたくさん降った日、高尚な会話を交わしている女官がいるかと思えば、仔犬相手に奮闘している少将がいて。 

熱心に仔犬に説得を続ける高彬の隣で、あたしは笑い転げていたのだった。





<終>

*************************************************

<おまけの話.・別バージョン>




やがて仔犬を説得することを諦めたのか、高彬は仔犬を抱いたままごろんと横になった。

急に体勢を変えられびっくりしたように首を左右に振っていた仔犬も、やがて高彬の胸の上で身体を丸め、鼻先を開きかけた単衣の合わせに突っ込むと安心したように目を瞑った。

高彬の心音が、母犬のそれと重なって落ち着くのかも知れない。

「・・・寝ちゃったみたいよ」

小声で言うと、高彬は身体を動かさないように目だけで確認し、あたしに向い衾を掛けるように手で合図をした。

仔犬が起きないようにそっと衾を掛けてやると、高彬はほとんど口だけ動かす感じの囁き声で

「瑠璃さんも、ほら」

と衾を上げて見せた。

すばやく横になり、冷たい空気が入ってこないように隙間をふさぐ。

高彬の片手は仔犬の背に乗せられており、その安心しきった仔犬の寝顔を見ているうちに、あたしはさっきまでケラケラ笑っていたことも忘れ、何とも複雑な気持ちになってきてしまった。

───本当だったら今頃は・・・

四日ぶりの逢瀬で、あたしだって楽しみにしていたのになぁ・・・

だけど、ぬくぬくと寝ている仔犬を起こすのは可哀想だし、何よりそんなことを女の身で言うのは恥ずかしい。

代わりと言ってはなんだけど、身を寄せ高彬の脇に身体をもぐりこませる。

密着すると(トク、トク、トク・・・)と言う規則正しい心音が聞こえ、その音を聞いているうちにあたしはいつしか眠りに落ちていたようで、ふと気が付いたのは何かの物音がしたからだった。

しばらくして、それが妻戸を何かが引っかいている音だと気付き頭を上げると、高彬も気付いたようで目が合った。

カリカリ、くぅーん、カリカリ、くぅん・・・・・・

もしや、と思い起き出して妻戸を開けると、思ってた通り、白い犬が座っていた。

仔犬の母犬に違いなかった。

さすがと言うべきなのか、どんなに小さくてもそこは耳と鼻の利く犬、仔犬はすぐに母犬の元にやってきて、そのまま階を下りて行く。

高彬と2人、しばし並んで歩く大小の犬の後姿を見送り、灌木の辺りに消えて行くのを見定めたところで妻戸を閉め寝所に戻った。

「何だか・・・あっけなかったわねぇ」

仔犬がいなくなった夜具の上で呟くと

「まぁ、母犬に会えたんだから良かったじゃないか」

肩の荷が下りたとでも言うように高彬が言い、そうして、またしてもごろんと横になるとあたしに向い両手を広げて見せた。

「さぁ、今度は瑠璃さんの番だ」

おいで、と目配せをする。

嬉しいお誘いに、あたしは仔犬みたいなはしゃいだ声を上げながら抱きついて、高彬の胸に頭を乗せた。

「やっぱり犬より瑠璃さんがいいな」

「犬と比べるなんてひどい」

むくれて言うと高彬はおかしそうに笑い、その大きな掌であたしの頭を撫ぜたのだった。






<おしまい>

先日、「<続>雪のいと高う降りたるを」 をアップしましたが、こちらは別バージョンの<おまけの話>です。


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

ベリーさま

ベリーさん、こんにちは。

懐かしいお話にコメントありがとうございます。
犬と高彬って絵になる気がしませんか?見てて癒されます~。

> 一番羨ましいのは犬ですね!その子犬になりたかったああああ!

あぁ、そうですよね~。
二の腕とかだって、くんくん嗅げちゃいますよ!(笑)

No title

一つのお題で2度も3度も美味しいお話、かわいいお話で、エンディングもいろいろあって、このシリーズもたんまり楽しませて頂きました!ピンポイントでコメントしていたようなしてなかったような記憶です。
犬と高彬の関係が可愛くて。それをみてる瑠璃も可愛くて。心がほっこりなるお話でした〜!瑞月さんの妄想力は本当に素晴らしい!
一番羨ましいのは犬ですね!その子犬になりたかったああああ!

非公開さま(Nさま)

Nさん、おはようございます。

仔犬と戯れる(?)高彬、絵になりそうですよね~。
犬も高彬も両方とも癒し系だし(笑)
あったら待ち受け画面に設定しますよ、私は。
もちろん、この後は堪能したに決まってますよね!

非公開さま(Mさま)

Mさん、おはようございます。

別バージョン、お楽しみいただけたようで良かったです!
私も仔犬になって合わせに潜り込みたいです~(笑)
そしたら、たとえ母犬が迎えにこようが出てきませんけどね。

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