*** 筒井筒のお約束をもう一度<番外編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』

 

           
            ※ 無事「秋の宵夢」を迎えられた高彬ですが、さて、その後に続く日々とは──。            
              初夜編(高彬サイド)の番外編です。
             








***  筒井筒のお約束をもう一度<番外編> ***  









「・・・お久しぶりですね、若君」

部屋に入っていくと、部屋の隅に控えていた守弥が声をかけてきた。

眉を上げ驚いた顔をしているのが芝居じみていて、いかにもわざとらしい。

「久しぶりって・・・一昨日も会ってるじゃないか」

素っ気なく答えながら部屋を横切り、そのまま文箱を手に取り中を探った。

「北の方さまも大層お嘆きでございます。高彬さまは、この母、この白梅院をお忘れになられたか、と」

守弥は静かな口調で続ける。

「若君はここ一月あまり、白梅院にろくに帰ってきておりません。北の方さまは、結婚した途端に実家に寄りつかなくなるなど、そのようにお育てした覚えはない、やはり今回の結婚は何としてでも思い留ませるべきだった・・と仰せでございます」

よく言うよ、とぼくはそっぽを向いた。

何が結婚した途端、だよ。まったく。

「母上は大げさなんだよ。前から宿直やら何やらで帰ってこないことも多かったし、帰ってきたからと言って毎回、母上と顔を合わせていたわけじゃないじゃないか。それに数日に一回は来ているぞ」

手を止め守弥に向き直ると、守弥はかすかに笑った。

「しかし来ているとは言っても、何かのご用事で立ち寄るのみで小半刻もいらっしゃらない。北の方さまのおっしゃっていることもあながち外れてはおられないかと」

「・・・」

ぼくは黙って肩をすくめた。

言われて見ればその通りで、実際、今だって仕事で必要な文を取りにきただけなのだった。

「若君。この白梅院は何か問題がおありですか?」

「問題?いや、・・・別に」

「それならば、もう少し顔を出された方がお宜しいかと。北の方さまのように感情的になって申し上げているのではありません。やはり今の段階で、北の方さまのご不興を買われるのは得策ではございません」

眉ひとつ動かさずに守弥は言い、ぼくは気付かれないようにため息をついた。

実家に顔を出す方が得策だとか、そういうことではなくて───

だって、ここには瑠璃さんがいないじゃないか。

瑠璃さんは三条邸にいて、瑠璃さんに会いたかったらぼくが三条邸に行くしかない。

だから行っている───それだけのことだ。

正面切って口に出すのは憚れるからさすがに言えないけど、そこら辺、察してくれないものだろうか。

・・・まぁ、守弥には無理か。

守弥もぼくの結婚には反対なわけだろうし、どうしたって良い風には解釈してくれないのかも知れないな。

だいたいが母上も守弥も、瑠璃さんを良く知りもしないくせに頭ごなしに悪く言い過ぎなんだよ。

実家に問題があるとしたら、これこそが「問題」といえるわけで、なのに2人とも気が付いていない。

母上も守弥も、ぼくの顔を見れば文句や当てこすりのひとつは言いたくなるのだろうし、ぼくにしてみればそんな話は聞いて楽しいわけがないから勢い2人を避けたくなるしで、つまりは悪循環なのだ。

別に結婚を大歓迎してくれなくてもいいから、せめて普通に祝福してくれればぼくだってもっと実家に顔を出すかも知れないわけで・・・

文を探しながらこもごも考えていると

「まぁ、高彬さま!」

大江が部屋に飛び込んできた。

「高彬さまのお車があったのでもしや・・・と思い来てみましたの。今日はこちらにお泊り・・・なわけないですわよね。本当に仲睦まじいご様子でうらやましいですわ、ふふふ。あ、ただ今、白湯をお持ちいたしますわね」

一方的にまくしたてると、来た時同様に慌ただしく部屋を飛び出して行った。

あの様子だと、部屋に守弥がいることにも気が付いていなかったのだろう。

「まったく、若君の御前だと言うのに騒々しい・・」

苦り切った顔で守弥は出て行った。

大江は結婚を歓迎してくれている数少ない人間で、それはありがたいのだけれど、ちょっと歓迎し過ぎと言う気がしないでもないんだよなぁ。

隙あらば質問責めにしてくるし、まぁ、ただ単にミーハーなだけなのかも知れないけど。

反対も歓迎も両極端、と言うのが、ここ白梅院の状況で、はっきりいってどっちに転んでも疲れる───

これが偽らざるぼくの本心なのだった。




**********************************




「おかえりなさいませ、少将さま」

三条邸の車宿りに着き牛車から降りると、出迎えの小萩が立っていた。

後ろに控える他の数名の女房らも口々に「おかえりなさいませ」と頭を下げる。

軽く会釈し歩きだし、ぼくは表面は平静を保ちながら、その実はかなり動揺していた。

正直、この「おかえりなさいませ」にまだ慣れていないのだ。

晴れて瑠璃さんと結婚したのだし、悠然たる態度で頷いていればいいのだろうけど、どうにも照れくさい。

まぁ、そのうち慣れてくるのだろうけど。

「瑠璃さんは今日はどうしていたかい?」

前を歩く小萩に聞いてみると、半身をずらし振り返った格好のまま

「日中は変わりなくゆったりとお過ごしのようでございましたわ。時々、うとうとなさったり・・・」

笑顔で言い、ぼくはと言えば、かぁっと首筋が赤くなる思いだった。

寝不足にさせるようなことを毎夜しているから、日中、姫さまはうとうとしているのでは──

考えすぎだとわかっていても、言外にそう言われてる気がしてしまう。

いや、百歩譲って仮にそういう含みがあったとしたって、それがどうしたと言うのだ。

結婚して、しかも新婚なんだぞ。

少しくらい妻を寝不足にしたって構わないじゃないか。ははは・・・!

───と豪快に笑い飛ばせない自分の性格が恨めしい。

悪いことをしてるわけじゃないのに、どうしてこう気まりが悪いのだろうか・・・

と、そんなことをグルグル考えていたせいか、瑠璃さんの部屋に入った時にはすっかり疲れ切っていた。

「どうしたの、高彬。疲れてるみたいだけど・・・」

気を利かせたつもりなのか、すぐに下がっていった小萩の足音が聞こえなくなると、瑠璃さんが身を乗り出してきた。

「具合でも悪いの?」

「そんなことはないよ」

瑠璃さんの隣に座って襟を少し緩めると、知らずに大きなため息が出てしまう。

「ねぇ、やっぱり変よ。どうかしたの?」

じっと顔を覗きこまれて、変に心配させても・・と思ったぼくはつい今しがた思っていたことを話した。

「・・・と言うわけで、何か・・考えすぎちゃってさ」

ふんふん、と聞いていた瑠璃さんは、ぼくの話が終わると

「よく、判るわ。あたしも・・・そうだもの」

大きく頷き

「え、瑠璃さんも?」

「うん」

再度、大きく頷き、良く見ると目の下がうっすらと赤い。

「なんとなーくね、高彬が帰った後の女房たちがあたしを見る目とか、寝具を整えてる時の雰囲気、とかね。ぜーんぶ、考えすぎと言われればその通りなんだけど・・」

ぼそぼそと言い、照れ隠しなのかしきりと扇を弄ったりしている。

「・・・・・」

そうか、瑠璃さんも同じ思いを味わっているのか。

「何か、色々思われているのかと思うと恥ずかしいわよね」

「うん」

「別に悪いことしてるわけじゃないのにね」

「うん」

誰に聞かれてるわけじゃないのに、声をひそめて2人で目交ぜして笑い合う。

やっぱりぼくが心からリラックスできるのは、結局、瑠璃さんとこうして2人で過ごしている時だけなのだ。

そっと瑠璃さんの手を取ると、瑠璃さんの頬がぱぱぱっと赤くなった。

抱き寄せ頬を近づけると、瑠璃さんの小さな吐息が聞こえてきた。

これから始まることが判っているであろう瑠璃さんの、緊張と恥じらいと、そしてほんの少しの期待が伝わってくる。

瑠璃さんが日中うとうとしてるのは、ぼくのせいだと思われているのかも知れないけど──

実際、その通りなのだ。

一晩中、ぼくは瑠璃さんを離さない。眠らせない。

瑠璃さんをこちらに向かせ接吻をする。

これがぼくたちの合図───幼馴染から切り替わる合図だった。

唇を離した時、ぼくたちは幼馴染から夫婦に、いや、男と女になっている。

横たえ覆いかぶさると瑠璃さんは黙ったまま腕を回してきた。

「瑠璃さん」

背中から強く抱きしめ、首すじに唇を這わせながら名前を呼ぶと

「ねぇ、・・・また聞かせて」

吐息混じりに言う瑠璃さんの声が聞こえた。

結婚した日以来、時々、瑠璃さんがせがむようになったもの──

「好きだよ、瑠璃さん」

耳元で囁き

「好きだ」

目を見て、接吻をする。

「もっと聞かせて」

満足しない瑠璃さんは、甘えた声でさらにせがんでくる。

「好きだよ」

言いながら瑠璃さんの身体に手を這わせると、瑠璃さんは小さな反応を示し始めた。

「もっと・・」

少し乱れかけた言葉でせがまれて

「・・好き・・だよ」

そういうぼくの声も少し乱れかけてきている。

「高・・彬・・・、あたしも・・よ・・」

その先は───よく覚えていない。

覚えていないくらい夢中になってしまうのだ。

新婚と言うことで、職場の連中にも家人にも、きっと色々と好き勝手に思われているのだろうと思う。

だけど、思いたければ好きに思ってくれればいい。

ぼくたちは皆の想像を軽く凌駕するほどの、濃密な時間を過ごしているのだから───

結婚して一月。

ぼくはこんな毎日を過ごしている。






<終>


瑞月です。

いつもご訪問いただきありがとうございます。

久しぶりに「初夜編」です。

平安・現代、あっちこっちと妄想が目移りしてしまい、お読みいただく皆さんにおかれましては、落ち着かない思いをされているのでは・・と心苦しい限りです。

甘い物の後にはしょっぱいもの、おせちの後にはカレーが食べたくなるように(?)、現代ばかりを書いていると平安を、平安ばかりを書いていると現代を書きかたくなってきます。

こんな感じで妄想の赴くままの更新になってしまうと思いますが、よろしければお付き合いください。

いただいたコメントや感想は、妄想&更新の原動力となっております。

お気軽にお声を掛けていただければ嬉しいです。

いつもありがとうございます。


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Kさま)

Kさん、こんばんは。
お久しぶりです~(*^_^*)お元気でしたか?

こちらこそ今年もよろしくお願いします!

守弥って原作ではあの後、どんな感じになったんでしょうね?!
いつまでも「瑠璃姫憎し」でいてもらうのは困るけど、かと言ってあまりに「瑠璃派」になってたらそれはそれでつまらないような気も・・(笑)

社会人編の2人が良家の出なのかどうか・・。
それもこれから書いて行こうかと思っています(^_-)-☆
よかったらまた読んでくださいね~。
コメントありがとうございました。(もうひとつのブログの方にもイイネをありがとございました<m(__)m>)

非公開さま(Nさま)

Nさん、こんばんは。

原作でも結婚当初は足繁く三条邸に通ってたましたし、それに愛人を作らない高彬には三条邸しか通い場所がないわけですし(笑)
ほんと通い婚は高彬にとって「百害あって一利なし」って感じですよね。
実家には、守弥・北の方の最強タッグ&ミーハー大江がいますしねぇ・・

オオカミ高彬、アップしたらまた読んでくださいね!(*^_^*)

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんばんは。

夜も明けないうちに帰っていた高彬。
考えてみたらその頃の高彬は、かなり寝不足だったんでしょうねぇ。
さすがの高彬も仕事中ぼんやりすることもあったのかも知れませんね。
そしてからかわれる、と(笑)

こちらこそ今後もよろしくお願いいたします(*^_^*)

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんばんは。

お付き合いいただけるとのことでありがとうございます!(*^_^*)

新婚一か月ですものねぇ。
仕事行ってるだけエラいぞ~、高彬(笑)
平安時代は官位によって与えられる土地の大きさが決まっていたみたいなので、三条邸ほどの大きさの邸は今の高彬には持てないんですよね。
でも広さなんかなくたっていいですよね~。(どうせくっついて過ごすんだし!)

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