社会人編<13>
ぼくのことを「年のわりに大人びてるところがあるかと思えば、妙なところでドンくさい」と評したのは、一体誰だっただろうか。
家族だったか、学友だったか、はたまた夢の中での出来事だったか───
そこらへんの記憶はすっぽり抜け落ちているのだけど、その言葉だけは妙に頭に残っている。
ふいにそんなことを思ったのは、今まさに「ドンくさい」ことをしてしまったと言う自覚があるからだ。
カフェオレを前に、怪訝そうな顔をした瑠璃さんが座っている。
ぼくはゴクリと唾を飲み込んだ。
─Up to you !─<第13話>
「あたしがカフェラテを好きって・・・」
瑠璃さんが窺うような視線で慎重に言い、ぼくは心の中で天を仰いだ。
きっと後に続く言葉はこうだ───『一体、どうして高彬は知っているのよ』
瑠璃さんが会社近くのカフェで、毎朝カフェラテを飲んでいることをぼくは知っていて、だけど瑠璃さんはよもやぼくに見られているなんて思ってもいないはずなのだ。
「い、いや、ほら、女の子って・・その、カフエラテとかカフェオレとか、そういうの好き・・かな・・と・・思って・・」
みっともないくらいにしどろもどろになってしまったのは、瑠璃さんがまん丸い目で、凝視と言ってもいいくらいに瞬きもせずにぼくを見ているからだ。
身を乗り出すようにしていた瑠璃さんは、やがて
「ふぅん・・・」
と鼻を鳴らしながら背もたれに寄りかかり
「やっぱり女子の好みに詳しいんだ」
ぶつぶつ呟き肩をすくめている。
上手くごまかせたと安堵しつつ、「やっぱり」と言う言葉が引っかかった。
「やっぱりって何だよ、やっぱりって」
「別に」
両手でマグを抱え、ふーふーと息を吹きかけながら「あー、いい天気ねぇ」なんて窓の外を見たりしている。
ぼくが女の子の好みに詳しいなんてこと天地がひっくり返ったってあるわけないし、それを逆手に取った当てこすりかと思えばとそんな感じでもない。
「気になるな、何だよ」
更に聞いてみても、瑠璃さんにはもう答える気はないようで
「さ、もう帰ろっかな」
ことりとマグカップを置くとイスを引き立ち上がった。
「え。・・・・お、お腹は?瑠璃さん。お腹はすいてない?」
あまりにふいに出てきた「帰る」と言う言葉に慌ててしまった。
「カフェオレで十分、お腹いっぱいになったわ」
ぼくの目を見ずに言い、その声が心なしか固いような気がしてぼくはスタスタと部屋を出て行く瑠璃さんの後を追った。
瑠璃さんは上着を羽織り、カバンを手に取っている。
何か言わなければ、瑠璃さんは帰ってしまう・・・!
「・・・パン。パンくらいなら焼けるけど」
「大丈夫。まだすいてないから」
振りかえった瑠璃さんはにっこりと笑いながら言い、だけどその笑顔はやっぱりぎこちないようにも見える。
「そういえば瑠璃さん、鍵は?鍵がなくちゃ入れないだろう」
「きっと会社のロッカーに忘れてきちゃったのよ。前もあったから。会社寄って取って行くから」
「付き合おうか?もしなかったら困る・・・」
「結構よ」
ぴしゃりと遮られてぼくは確信した。
瑠璃さんはやっぱり、ぼくが瑠璃さんに何かしたと思っているに違いない。
「・・・あのさ、瑠璃さん。本当に昨夜は何もしてないから。瑠璃さんをベッドに寝かせた後、すぐに部屋を出た。それきり入ってない」
玄関で今まさにドアを開けようとしている瑠璃さんの手が止まった。
「わかってるわよ。思いだしたもの」
「じゃあ、・・・・何か・・・怒ってる?」
「別に」
向こうを向いたまま瑠璃さんが小さく肩をすくめるのと同時に、ぐぅーとお腹の鳴る音が静かな玄関に響いた。
はっと振り返り目が合った途端、瑠璃さんの顔が真っ赤になった。
…To be continued…
(←拍手お礼。時々更新してます)
家族だったか、学友だったか、はたまた夢の中での出来事だったか───
そこらへんの記憶はすっぽり抜け落ちているのだけど、その言葉だけは妙に頭に残っている。
ふいにそんなことを思ったのは、今まさに「ドンくさい」ことをしてしまったと言う自覚があるからだ。
カフェオレを前に、怪訝そうな顔をした瑠璃さんが座っている。
ぼくはゴクリと唾を飲み込んだ。
─Up to you !─<第13話>
「あたしがカフェラテを好きって・・・」
瑠璃さんが窺うような視線で慎重に言い、ぼくは心の中で天を仰いだ。
きっと後に続く言葉はこうだ───『一体、どうして高彬は知っているのよ』
瑠璃さんが会社近くのカフェで、毎朝カフェラテを飲んでいることをぼくは知っていて、だけど瑠璃さんはよもやぼくに見られているなんて思ってもいないはずなのだ。
「い、いや、ほら、女の子って・・その、カフエラテとかカフェオレとか、そういうの好き・・かな・・と・・思って・・」
みっともないくらいにしどろもどろになってしまったのは、瑠璃さんがまん丸い目で、凝視と言ってもいいくらいに瞬きもせずにぼくを見ているからだ。
身を乗り出すようにしていた瑠璃さんは、やがて
「ふぅん・・・」
と鼻を鳴らしながら背もたれに寄りかかり
「やっぱり女子の好みに詳しいんだ」
ぶつぶつ呟き肩をすくめている。
上手くごまかせたと安堵しつつ、「やっぱり」と言う言葉が引っかかった。
「やっぱりって何だよ、やっぱりって」
「別に」
両手でマグを抱え、ふーふーと息を吹きかけながら「あー、いい天気ねぇ」なんて窓の外を見たりしている。
ぼくが女の子の好みに詳しいなんてこと天地がひっくり返ったってあるわけないし、それを逆手に取った当てこすりかと思えばとそんな感じでもない。
「気になるな、何だよ」
更に聞いてみても、瑠璃さんにはもう答える気はないようで
「さ、もう帰ろっかな」
ことりとマグカップを置くとイスを引き立ち上がった。
「え。・・・・お、お腹は?瑠璃さん。お腹はすいてない?」
あまりにふいに出てきた「帰る」と言う言葉に慌ててしまった。
「カフェオレで十分、お腹いっぱいになったわ」
ぼくの目を見ずに言い、その声が心なしか固いような気がしてぼくはスタスタと部屋を出て行く瑠璃さんの後を追った。
瑠璃さんは上着を羽織り、カバンを手に取っている。
何か言わなければ、瑠璃さんは帰ってしまう・・・!
「・・・パン。パンくらいなら焼けるけど」
「大丈夫。まだすいてないから」
振りかえった瑠璃さんはにっこりと笑いながら言い、だけどその笑顔はやっぱりぎこちないようにも見える。
「そういえば瑠璃さん、鍵は?鍵がなくちゃ入れないだろう」
「きっと会社のロッカーに忘れてきちゃったのよ。前もあったから。会社寄って取って行くから」
「付き合おうか?もしなかったら困る・・・」
「結構よ」
ぴしゃりと遮られてぼくは確信した。
瑠璃さんはやっぱり、ぼくが瑠璃さんに何かしたと思っているに違いない。
「・・・あのさ、瑠璃さん。本当に昨夜は何もしてないから。瑠璃さんをベッドに寝かせた後、すぐに部屋を出た。それきり入ってない」
玄関で今まさにドアを開けようとしている瑠璃さんの手が止まった。
「わかってるわよ。思いだしたもの」
「じゃあ、・・・・何か・・・怒ってる?」
「別に」
向こうを向いたまま瑠璃さんが小さく肩をすくめるのと同時に、ぐぅーとお腹の鳴る音が静かな玄関に響いた。
はっと振り返り目が合った途端、瑠璃さんの顔が真っ赤になった。
…To be continued…
(←拍手お礼。時々更新してます)
コメントの投稿
非公開さま(Rさま)
Rさん、おはよございます。
高彬がプレイボーイかもしれないと言うには、はたして瑠璃の勘違いなのか、真実なのか?!
・・・って勘違いに決まってるんですけどね(笑)
でもそんな風に警戒してる瑠璃って言うのもたまにはいいですよねぇ・・
「ジレジレ」はいいけど「ドロドロ」は苦手なので、そういう要素は書きません!
「もどかしいけどピュアな2人のラブストーリー」を書けたらな、と思っています。
「女子力」って調べてみたら「輝いた生き方をしてる女性が持つ力」とかそんな意味があるみたいですね。
努力して女子力高める人もいるけど、瑠璃は天然で女子力高いタイプなのかも~!ですね。
高彬がプレイボーイかもしれないと言うには、はたして瑠璃の勘違いなのか、真実なのか?!
・・・って勘違いに決まってるんですけどね(笑)
でもそんな風に警戒してる瑠璃って言うのもたまにはいいですよねぇ・・
「ジレジレ」はいいけど「ドロドロ」は苦手なので、そういう要素は書きません!
「もどかしいけどピュアな2人のラブストーリー」を書けたらな、と思っています。
「女子力」って調べてみたら「輝いた生き方をしてる女性が持つ力」とかそんな意味があるみたいですね。
努力して女子力高める人もいるけど、瑠璃は天然で女子力高いタイプなのかも~!ですね。
非公開さま(Mさま)
Mさん、おはようございます。
上手くいきそうでいかない2人。
ベタな展開になってしまうと思いますが、2人にはたくさんヤキモキしてもらおうかと思っています!(^_-)-☆
上手くいきそうでいかない2人。
ベタな展開になってしまうと思いますが、2人にはたくさんヤキモキしてもらおうかと思っています!(^_-)-☆
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