***短編*** 初恋物語 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






             注)このお話は一話完結です。
               
               
               
              






***短編*** 初恋物語 ***










「───と言うわけで、絶対に機嫌悪くなったりしないでよね」

散々釘を刺され、いい加減うんざりしかけていたぼくは、それでも、ようやく解放される兆しに素直に頷いてみせた。

瑠璃さんも納得したように頷き返し、やれやれ、ようやく終わったか・・・と思っていたところで、またしても瑠璃さんが口を開いた。

「いくら友輔があたしを呼び捨てにしても・・・」

「判ってるよ」

あまりのしつこさにさすがにムっとして言葉を遮ると、瑠璃さんは一瞬黙り込んだのち、疑わしそうな目をぼくに向けてきた。

そのまま、じーっとぼくを見ている。

「・・・・・」

目は口ほどに物を言う───つまりは、無言の抗議というやつだろう。

持っていた扇で顔を隠し、ぼくは密かにため息をついた。

確かにあの日はぼくが悪かった。

あの日のぼくの振る舞いを思い起こせば、非難されても致し方ないと思える。

あの日───

つまりは、瑠璃さんの遠縁にあたる5歳の友輔が三条邸に遊びに来た日のことなのだけど、その時、ぼくは一生の不覚とも言うべき失態を瑠璃さんの前でさらしてしまったのだ。

友輔との歓談の最中、不機嫌を露わにしてしまったのだ。

瑠璃さんと結婚し、はっきりと三条邸の人間となったわけだし、ここは何としてでも友輔を歓待しなければいけない場面だったのに、だ。

当然、友輔が帰ったあと瑠璃さんにこっぴどく叱られた。

だけど、ぼくが不機嫌になったのには理由がある。

あろうことか、友輔は瑠璃さんを呼び捨てにしたのだ。

「瑠璃ー、瑠璃ー」と何度も。

それが不機嫌の理由だとわかった瑠璃さんは呆れ「あんたはちょっとおかしい」とまで言われてしまった。

嫌なものは嫌なんだからしょうがないじゃないか・・・。

そう思っていたら、瑠璃さんに「じゃあ、高彬もあたしを呼び捨てにしたら?」と提案されてしまい、今度は度を失ってしまった。

何度か挑戦してみたものの、結局、呼ぶことが出来ずに諦めることにした。

友輔が出来ないことをぼくは出来るんだから、呼び捨てくらいいいじゃないか、と言うことに、ある場所で気付いたと言うか悟ったと言うか、まぁ、ある場所と言うのは寝所なのだけど。

───何も友輔が瑠璃さんを呼び捨てにすることに目くじらをたてることなんかなかったのだ。

だから今日、友輔が遊びに来ると聞いても「そうか」と思っただけだし、むしろあの日に出来なかった弓や蹴鞠を教えてやろうか、と思ったくらいだった。

そこには、友輔に楽しい思いをしてもらって瑠璃さんの顔を立ててやりたいと言う気持ちもある。

まぁ、一言で言うなら「夫の余裕」と言ったところだろうか。

そんな気持ちでいたのに、どうも瑠璃さんはよっぽどあの日のことが印象に残っているのか、くどくどと釘を刺してくる。

仕方ない、これは今日の振る舞いで汚名返上するしかないか───

そう思ったところで、東門あたりがざわついて、どうやら友輔一行が到着したようだった。




****************************************




「瑠璃ー、瑠璃ー」

先導の女房より先に、タッタッタと言う足音と瑠璃さんの名を連呼する声が聞こえてきたと思ったら、友輔が部屋に飛び込んできた。

「瑠璃ー!」

部屋の入り口で立ったまま叫び満面の笑みを浮かべている。

「いらっしゃい、友輔」

笑顔で応えた瑠璃さんがチラリとぼくの方を見た。

何か言えと言う催促だろう。

「よく来たね、友輔」

鷹揚に言うと、友輔はぼくの顔を見て(誰だっけ?)とでも言いたげなきょとんとした顔になった。

それでもすぐに、ぼくが誰であるかなんてどうでもよくなったようで、瑠璃さんに向き直り

「瑠璃、瑠璃」

とニコニコしている。

「───まぁまぁ、友輔さま。きちんとご挨拶をなさいませんと」

後から入って来た友輔の乳母と思しき女性が促すと、友輔はぴょこんと座り

「本日はお招きいただきありがとうございます!」

よく通る声ではっきりと言い、その姿は確かに可愛くもある。

こんな童相手に腹を立てていたなんて、たいがいぼくもどうかしていたのかも知れないな。

瑠璃さんの言い草じゃないけど、確かにあの日のぼくは少しおかしかったのだろう。

これからは夫としても男としても度量を広げて行かなければ───

そんな風に猛省と目標を心の中で思い浮かべていた次の瞬間、ぼくは文字通り、固まってしまった。

友輔が瑠璃さんに抱き付いたのだ。

しかも思わず瑠璃さんが体勢を崩しかけるほどの勢いで。

その勢いのまま瑠璃さんの首に両腕を回しているので、密着度はかなり高い。

「・・・・!」

思わず腰を浮かしかけ、我に返る。

───気にするな、気にするな。5歳の童のすることじゃないか・・・・

「瑠璃。いい匂いがする」

瑠璃さんにひしとしがみつきながら、くんくんと匂いなんか嗅いでいる。

「瑠璃、好き」

言いながら両手を瑠璃さんの両頬に当て、瑠璃さんはと言うと、その手の小ささに心を奪われたのか、はたまた温かさに感じ入ることでもあったのか、それは定かではないけれど、何とも優しげな表情をしている。

童とは言え招かれた邸の姫に抱きつくなど、貴族の子息としては決して褒められた行いではないわけで、そこの辺り、乳母もきっちりと制してくれないものかととらりと乳母を見ると、これがまた瑠璃さんと同じく蕩けそうな顔で友輔を見ているのだ。

傍若無人とも言える振る舞いも、可愛くて仕方ないと言った感じなのだろうか。

──うーむ、友輔め。さては年上キラーなのかもな・・。

この中に味方はいないと判断したぼくは、そうと気付かれないように大きく深呼吸をした。

汚名返上のためにも、どうにかこの場面は、孤立無援、1人で切り抜けるしかないだろう。

───童だ。童だ・・・。気にするな。

目を瞑り、念仏のように唱え、そっと目を開けると、友輔と瑠璃さんが見つめ合っている姿がそこにはあった。

そのあまりの近さに、どうにも落ち着かなくなってくる。

ちょっと近すぎやしないか?

まさかと思うけど、このまま友輔は瑠璃さんに接吻なんてするんじゃないだろうか・・・・

自分の考えにぎょっとして、反射的に言葉が出ていた。

「と、友輔。庭に行こう。弓をやろう」

思いがけずに裏返った声が出てしまい、心の中で頭を掻きむしる。

もっと、こう威厳と言うか、落ち着いて言えないものだろうか・・・

「やだ。行かない」

ぼくの提案を一蹴した友輔は、更に甘えるように瑠璃さんに身を寄せ、気のせいか挑発的な目でぼくを見ている。

その、(どうだ、ふん)とでも言いたげな顔に、汚名返上の決心も忘れてムッとする。

ふと瑠璃さんと目が合うと、瑠璃さんは友輔には見えないように両手の人差し指で自分の口角を上げて見せた。

笑え、と言うことだろうか。

要望通りニッと笑って見せ、すぐに元の顔に戻す。

笑えるか、と言うのだ。

男たるもの、譲れない一線もあるのだ───

「友輔!」

男の意地について思いを馳せ駆けたところで、ふいに入口のあたりから声が聞こえ、皆が一斉に振り向くと、そこには見たことのない6、7歳と思しき幼い姫が立っていた。




**************************************




「・・・まぁ、小姫さま!」

乳母に小姫と呼ばれた幼い姫は、あんぐりと口を開けたままの乳母の前をスタスタと素通りし、そうして瑠璃さんの前で止まった。

「友輔、あんた何やってるの」

瑠璃さんの膝の上で呆然としていた友輔は、その言葉にびくっと反応しはじけるように立ち上がった。

「遊びに行ったら、あんたが瑠璃姫のところに行ったって言うから、後を付けてきちゃった」

「・・・・・う・・・うん」

驚きすぎてろくに返事も出来ない友輔をよそに、小姫は今度は瑠璃さんに向かいぺこりと頭を下げた。

「はじめまして。友輔の筒井筒の百合です。友輔とは邸が隣です。瑠璃姫さまのことはいつも友輔から聞いています。急に来ちゃってごめんなさい」

ハキハキと挨拶し、もう一度、頭を下げる。

「え、えぇ・・・」

あまりのことにさすがの瑠璃さんも圧倒されているのか、目を白黒させている。

「・・・勝手に来ちゃって、おたあさまに叱られない?ゆ・・ゆ・・・百合・・・百合姫」

「大丈夫よ、おたあさまもおもうさまも、百合は怖くなんかないもの。友輔、あんたって怖がりね」

小姫──、百合姫はカラカラと笑い、更に胸を張ってみせた。

いやはや、この豪快さは誰かさんを彷彿とさせる姿で、将来、百合姫がどんな姫になるか・・・・

───百合姫?

百合姫、百合姫、・・・・瑠璃姫・・・・?

何となく閃くことがあり、そっと友輔を窺うと、上気した頬で上目遣いに百合姫を見ている。

もしかしたら・・・・・・

「庭で遊ばない?友輔」

「うん!百合・・・姫」

ぼくの誘いはけんもほろろに断った庭遊びを快諾し、そしてあれほど闊達に「瑠璃ー、瑠璃ー」と連呼していた友輔が、百合姫の名を呼ぶのに口ごもっている。

───なるほど。

「行きましょ」

百合姫に手を差し出された友輔はおずおずと手を出し、その手を百合姫はためらいなく握り、その途端、友輔の顔がさらに赤くなった。

そのまま2人、階を滑るように降りて行く。

お付きの女房たちも慌てたように付いていき、部屋にはぼくたち2人きりになった。

思いがけず部屋に取り残される形になったぼくと瑠璃さんは、思い思いの考えに耽り、しばらくは奇妙な沈黙が続いた。

ふぅ、と言うため息が聞こえ、沈黙を破ったのは瑠璃さんの方だった。

「───あたしは練習台だったってわけねぇ。瑠璃と百合。確かに似てるわ」

勘の良い瑠璃さんは、ぼくの考えたことにやはり気付いたようだった。

納得したような、どこか寂しげにも聞こえるその言い方に、ぼくは小さく笑ってしまった。

百合姫を「百合」と呼び捨てに出来ない友輔は、語感の似ている瑠璃さんを「瑠璃」と呼ぶことで、そう呼んでみたいと言う気持ちを叶えていたのだろう。

瑠璃さんの言うとおり、練習しておきたいと言う気持ちもあったのかも知れない。

お転婆な姫が初恋の人だなんて、とてものこと他人事だとは思えない。友輔にシンパシーだ。

「・・・・急にいなくなって寂しくなった?代わりにぼくが膝に乗ってあげようか?」

何とも気の抜けたような顔で膝の辺りを触っている瑠璃さんににじり寄って言うと

「ばかばかしい」

瑠璃さんはツンとそっぽを向いた。

「じゃあ、こうだ」

そのまま瑠璃さんを抱き上げ膝に乗せる。

友輔に倣ってくんくんと匂いを嗅いでみる。

確かに瑠璃さんはいい匂いがした。

「瑠璃」

そう呼んでみると、ハッとしたように瑠璃さんの目が見開かれ、次いで「おやおや」とでも言うように眉が上がった。

「──さん」

落ちつかなくて、後付けしてしまう。

「いいわよ、別にあたしは呼び捨てでも」

「いいよ、慣れた呼び方だし」

ほんと、呼び方なんて「さん付け」だろうか呼び捨てだろうが、どうでもよくて───

だけど。

一回くらいは、いいだろうか。

小さく息を整え、瑠璃さんの頬を両手で包む。

「瑠璃。──好きだ」

思い切って言ってみると、瑠璃さんは声を出さずに笑い、黙ってぼくの首に両腕を回してきた。

庭からは、かすかに友輔と百合姫の笑い声が聞こえてくる。

(がんばって初恋を成就させろよ、友輔)

瑠璃さんを抱きしめながら、ぼくは心の中で友輔にエールを送ったのだった。





<終>


今回のお話は

「瑠璃を呼び捨てにした友輔くんの話が読みたい。友輔くんがもっと瑠璃にまとわりついたら高彬はどうするんでしょう?」

とコメントをいただいたことから妄想が広がり出来たお話です。

リクエスト下さった方、ありがとうございました。

本当は友輔と瑠璃の接近に怒り狂ってる高彬を書くつもりでしたが

(5歳児相手にマジ切れしている高彬と言うのはいかがなものであろうか)

と、ふと我に返りこんな感じになりました。

5歳児相手にマジ切れしてそうな人と言ったら、私は守弥が浮かんできます。

しかも5歳児は、そんな守弥を見て半笑いしてそうなイメージが・・・

守弥は万能調味料、いい味を出してくれる人ですね。

風邪をひいている人が増えてきたようですので、皆さんも気をつけてお過ごしください。

ご訪問ありがとうございました。


瑞月
(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

> 友輔くんのお話の続きが読みたいと思っていたので、うれしいです。

こちらこそ読んでいただきありがとうございます。

>百合姫が瑠璃姫に似ているってことは、瑠璃姫も友輔の好みってことですね。

友輔が三条邸に来たら、高彬はやっぱりやきもきしちゃいそうですよね。
百合姫はどんな姫に成長していくんでしょうね。

友輔くんのお話の続きが読みたいと思っていたので、うれしいです。百合姫が瑠璃姫に似ているってことは、瑠璃姫も友輔の好みってことですね。高彬が、瑠璃をよびすてにしても怒らないのは内大臣の父様だけですね。

非公開さま(Rさま)

Rさん、2通ともちゃんと届いてましたよ。ありがとうございます。

そりゃあ友輔より高彬ですよね~(笑)
5歳の童に、我らが高彬が負けるはずがありません!
将来が少し心配な友輔くんではあります。

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非公開さま(Nさま)

Nさん、こんにちは!

はい、友輔君、三条邸に来ました(*^_^*)
マジ切れしないまでも、友輔の一挙一動にかなり心臓バクバクの高彬でしたね。
でも10年後なら、十分ありえる瑠璃との年の差・・(と、高彬を心配させてみました)

瑠璃の○○に○○する高彬。
Nさんの想像に吹き出してしまいました。
でも、まぁ、そんな感じと思ってもらっていいと思います。
決して大きく外してはいないです。
Nさんの○○より、もうちょっと下です(笑)

Nさんのおかげで話を書くことができました。
ありがとうございました。

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは!

そうなんです、友輔からは何だか女タラシの風格(?)を感じるのですよ。
高彬なんかが逆立ちしたってかなわない「何か」を彼は持っている・・(笑)

私だって「瑞月。──好きだ」って言われたいですよ~。
それが無理なら、せめて高彬の膝に乗りたい。

ありちゃんさま

ありちゃんさん、こんにちは!

> でも、5歳児よりも、高彬の方を可愛いと思ってしまう私はもう、ほとんど病気です。(笑)

はい、これは感染力の高い恐ろしい病気なのですよ・・・(笑)

> このぐらいがナイスだと思います。瑞月さん、流石!

まぁ、そうですか!
ありちゃんさんにそう言っていただけて嬉しいです^^

> 最後の「瑠璃。― 好きだ」に萌え死にそうでした。

「瑠璃、好き」と「瑠璃。──好きだ」のどっちが収まりがいいか、何度も口に出して読み確認しました(笑)
回りに人がいたら、間違いなく私は「おかしな人」として映ったことでしょう・・
そんな苦労の末に(?)決まった「瑠璃。──好きだ」。
ありちゃんさんに萌え死にしそうなほど喜んでいただけ、私も嬉しいです(笑)

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かーいー♡

瑞月さん こんばんは。

友輔、かわいいですね。
でも、5歳児よりも、高彬の方を可愛いと思ってしまう私はもう、ほとんど病気です。(笑)

仰るように、5歳児相手にブチ切れる高彬だと可愛さが半減してしまうように思います。
このぐらいがナイスだと思います。瑞月さん、流石!

最後の「瑠璃。― 好きだ」に萌え死にそうでした。
ごちそうさまでした。(笑)
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瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

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