***<原作シリーズ>~My dear ジャパネスク~2***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




        注)このお話は一話完結です。
          原作の「その後」を書いていますのでネタバレ要素を多く含みます。
          原作未読の方はご注意ください。
          
          





***<原作シリーズ> ~My dear ジャパネスク ~ ***








年が明けてからこっちなかなか暖かくならず、いつになく寒さが長引いた京も、三月に入った途端まるで今までの分を取り戻すかのように一気に季節が進んだようだった。

部屋に流れ込む風は暖かく、時折り桜の花びらがひらひらと空を舞っているのが見える。

庭のそこかしこから鶯の鳴き声が聞こえ、枝から枝に飛び移るたび鶯が立てるカサコソと言う葉擦れの音が聞こえてくる。

「春ねぇ・・・」

針を持つ手を止めて、あたしはぼんやりと庭を眺めた。

「姫さま、キリの良いところまで針をお進め下さいませ。どこまで縫ったかわからなくなってしまいますわよ」

小萩に促され手元に目を戻してみたものの、どうにも針を進める気になれず、あたしは脇息ごと押しやると思い切り伸びをした。

やっぱり慣れないことをすると疲れるわ。気のせいか目がチカチカする。

昨年いっぱい鴛鴦殿で静養していた高彬は、新年からは京の白梅院に戻りゆるゆると出仕するようになってきている。

時々、思い出したように熱を出すこともあるけれど、最近ではほぼ前と変わらないほどに仕事に復帰出来ているのだ。

あたしとしてはもっと静養していて欲しいんだけど、やっぱり高彬は高彬と言うか、今でもお役目大事な人のままで、それは思わず苦笑してしまうような、じわじわと嬉しいような、何とも不思議な心地なのよ。

やっぱり人間ってそんなに簡単に変わるものじゃないのね・・・

とか言いつつ、実はあたしは裁縫デビューなるものを果たしてしまったのだ。

思えば、あたしの人生、裳着を迎える前は庭を走り回るのに忙しく、裳着を迎えてからは父さまからの結婚攻勢をかわすのに忙しく、結婚したらしたで、今度はあれこれと事件続きでさ。

裁縫なんてしてる時間がなかったって言うのが正直なところなのよ。

でも、去年の恐ろしい事件のあと、あたしはつくづくと平凡が一番だと思ったし、もちろん事件や事故は向こうからやってくることもあるだろうけど、まぁ、自分で避けられるものは避けよう・・・なんて思ってしまった。

それに、やっぱり、高彬をあんな目に合わせてしまって、心の底から高彬の良き妻になりたい、なんて思ったしさ。

そんなこんなで小萩の手ほどきを受けながら慣れない裁縫なんかしてるわけなんだけど、高彬は「期待しないで待ってるよ」なんておどけて言いながらもどこか嬉しそうにしてるし、やってみると、これが案外面白かったりもする。

いつかは闕腋袍でも縫い上げてあげられるといいんだけど・・・

などとこもごも思っていると

「瑠璃姫さまに申し上げます。北の方さまがこちらにご機嫌伺いに参りたいとのことでございます」

いつからいたのか女房が孫廂に手をついており口上を述べた。

「母上が?・・・小萩、お前、何か聞いてる?」

隣にいる小萩に聞いてみても

「さぁ、特には何も・・」

と首をひねっている。

母上のご機嫌伺いねぇ。何かしら?

機嫌を伺われるような覚えはないんだけどな。

「いいわ。あたしから伺うわ。母上にそうお伝えして」

いい加減、裁縫には飽きてたところだもの。

春爛漫の中、散歩気分で渡殿を歩きがてら母上をお訪ねするのも悪くないわ。

そう告げると、女房は一礼し衣擦れの音も鮮やかに退出していった。



*****************************************




「まぁまぁ、瑠璃さま。瑠璃さまから足をお運び下さるなんて。何やら申し訳ない気がしますわ」

「ずっと部屋にいるのがもったいないような天気ですもの」

「えぇ、えぇ。そうでございますわね。ようやく京にも春の訪れがあり、ほんに嬉しいこと。あまりに寒さが長引くので気を揉んでおりましたのよ、少将さまのお身体にも障るんじゃないかと」

「えぇ、お陰さまで最近はずいぶんと調子が良いみたいですわ。その節は本当に色々とご心配をお掛けしちゃって・・・」

満面の笑みで出迎える母上を前に、あたしはぺこんと頭を下げた。

後から融に聞いたんだけど、高彬が大火傷を負った時、その知らせを聞いた母上は驚きのあまり失神してしまわれたらしく、目が覚めるやいなや、今度は集められる限りの僧侶をかき集めて加持祈祷をさせ、母上自らもずっと神仏に祈り続けていたそうなんである。

あまりに根を詰めるものだから父さまや融が止めに入っても

「瑠璃さまを未亡人にするわけには参りませんっ」

と人相が変わったような顔で言い放ち、決して止めなかったらしくてさ。

それを聞いたらあたしも神妙な気持ちになっちゃって、今まで母上のこと適当にあしらったりして悪かったなー、なんて思っちゃった。

これまで母上があたしにアドバイスすることは、どうせ高彬の母君への対抗心だろうなんて思ってたんだけど、そういうわけばかりでもないのかも知れないなぁ、なんてね。

今までだって別に母上のことが嫌いだったわけじゃないけど、でもやっぱり<なさぬ仲>だから、どっか線をひいてたって言うか。

だからこれからはあたしからも歩み寄ろうかな、なんて気持ちも出てきたりしているの。

「母上。それで、そのぅ・・・あたしに何かお話でも・・?」

歩み寄りたい気持ちにウソはないんだけど、母上の話となると、ついつい警戒してしまう。

また例のアノ言葉でも飛び出すんじゃないかしら・・・。

恐る恐る切りだすと、母上は「ふぅ」と肩で息を付き扇をはらりと広げて見せた。

そうして

「ねぇ、瑠璃さま。融さんと・・・最近、何か話されまして?」

「融と?いえ、別に。何ですの、母上。融が何か仕事で問題でも?」

仕事でとんでもないヘマでもやらかしたのかと思い(あの子ならやらかしそうだもの!)身を乗り出すと

「いいえ、仕事の問題などではないのですが、ただ・・・」

「ただ?」

ふぅ・・と母上はまたしても盛大にタメ息をつかれ

「瑠璃さまは・・・融さんに寄せられた悠姫との縁談のお話はご存じでいらして?」

「悠姫・・・」

どこかで聞いたことがあるわね・・・悠姫・・・悠姫・・・

「あ!確か・・・参議、藤原成親(なりちか)どののところの・・」

そうよ、思い出したわ。

父さまが「婿入り」を勝手に内諾してしまった姫の名よ。

「えぇ、そうなのですわ。あの時は融さんの家出やら何やらでうやむやになってしまったのですが、実は成親どのはまだ諦めきれないようで、殿に再三のお申し出があるのです。それが、融さんは『悠姫とは結婚したくありません』の一点張りで・・・。かと言ってこれと言ったお相手がいらっしゃる様子もなく、いつになく頑なな融さんのご様子に殿もほとほと困り果てているのですわ」

「・・・・・・・」

「瑠璃さまは、融さんから何かその辺りのこと、聞いてはいなくて?」

「・・・・・・・」

ううむ、とあたしは内心で頭を抱えてしまった。

聞いてはいないけど、あの子が結婚をしぶる理由は判る。

だって、あの子は今、由良姫に片思い中なんだもの。(前の時は、藤宮さまに片思い中だったってところが、あの子の節操のないところだわよ)

あたしの沈黙を何と勘違いしたのか

「何かの折りにでも結構ですので、瑠璃さまからそれとなく融さんに聞いてみて下さらないかしら?」

小首を傾げた母上に言われ、一呼吸おいて、あたしはコクリと頷いた。



****************************




部屋に戻ると、すぐさま宮中にいる高彬に『鴛鴦殿にいる由良姫を訪ねてもいいか』と言う趣旨の文を書いた。

融に聞くのなんか時間の無駄、答えは判り切っているもの。

そうなれば次に聞く相手は、ずばり、由良姫よ。

それに、実はあたしはふいに由良姫のことが気になってきてしまったのだ。

しばらく会っていないけど、由良姫は元気かしら?

───ほどなくして高彬から文が届いた。

『行ってもいいけど、くれぐれも外には出ないこと。ただ由良と話をするだけに留めること。扇、懐紙も忘れずに。夜にはぼくも行きます』

とのことで、短い文によくこれだけのことを盛り込んだと感心してしまう。

小半刻後、あたしは車中の人となっていた。



******************************



車が止まり簾が巻き上げられると、相好を崩した鴛鴦殿の老執事、田嶋の顔があった。

「瑠璃姫さま。お待ち申し上げておりました。ささ、どうぞこちらへ」

今年に入り、右大臣家でどんな話がなされたのかは知らないけれど、ここ鴛鴦殿は高彬が正式に相続し、名実ともに高彬のものとなった。

気のせいか田嶋もやりやすそうで、高彬の看病で詰めていた時以来、あたしともずいぶんと気心が知れた間柄となり「瑠璃姫さま、瑠璃姫さま」と慕ってくれているのである。

由良姫は鴛鴦殿で今も過ごしており、当然のように煌姫もいる。

高彬の母君としては、由良姫に白梅院に戻って欲しいようなのだけど、娘が髪をばっさりと切ったことがえらくショックだったのと同時に、どこか由良姫に対して腫れものに触るような扱いを見せていて、強く言えないでいるのだと言う。

東の対屋に通されたあたしは、頃合いを見計らって由良姫の部屋を訪ねた。

今日のところは煌姫には遠慮してもらおう。

久しぶりだし由良姫と2人で話がしたかった。

「入るわね、由良姫」

「瑠璃姉さま」

あたしが来ることをとうに聞いていたのか、由良姫は驚きもせずにっこりと笑った。

由良姫の膝には猫が丸くなっており

「その猫が茶実?」

座りながら聞くと、由良姫はコクンと頷き、茶実を抱き上げ頬ずりなんかしている。

肩を過ぎたばかりの短い髪が、童顔の由良姫を更に幼く見せ、まるで童女のように見える。

猫と戯れる由良姫を見ながら、あたしはさりげなく様子を探ってしまった。

由良姫は、この無邪気な姿からは想像も出来ないほど、心に傷を負ったのだ。

あの事件の裏で、人知れず傷付いた由良姫───

誰にも、本人にさえも知られることのないまま、葬り去られた由良姫の初恋。

初恋の人が抱えていた恐ろしい秘密、犯した罪、失われた命・・・・

事件で泣くのは何も当事者だけじゃない。

むしろ、大っぴらに泣けるだけ当事者はまだマシなのかも知れないわ。

事件の裏で、誰にも気にとめられないまま、ひっそりと深く傷付き、人目を忍んで泣くことしか出来なかった由良姫───

「・・・瑠璃姉さま。お元気そうで何よりですわ」

茶実を抱いたまま由良姫が笑い、笑うと尚のこと目元が高彬に似ていて、思わず微笑を誘われてしまう。

「由良姫も・・・元気?」

我ながらひねりも何もない聞き方だと思ったけど、由良姫は素直に「はい」と頷いた。

「煌姫さまにいつも元気付けていただいているお陰ですわ」

「煌姫に、ね」

どんな風に元気付けてるのか気になるところだけど、煌姫も性格には色々と問題はあるけど悪い人じゃないから、まぁ、安心だわ。

しばしの沈黙が流れ、茶実がミャアと鳴くと、まるでそれが合図だったかのように

「お兄さまが良くなられて、本当に良かった・・・。お兄さまにもしものことがあったら、わたくし・・・」

由良姫の言葉が途切れ、あたしは言葉もなく頷いた。

しばらく茶実の背を撫ぜていた由良姫は、ふと顔をあげ

「お兄さまが参内を始めたのに、いつまでもふさぎ込んでいては駄目だって煌姫さまに叱られてしまったんです。だからわたくし、お兄さまのためにも早く髪を伸ばして元気になろうって・・・」

「そうね。高彬もそれを望んでいるはずよ」

「はい」

由良姫は形の良い唇をキュッと引き締めたかと思うと、あたしと目が合いにっこりと笑った。

由良姫がずいぶんと元気になったみたいで良かったわ。

そうなると、気になってくるのが───

融が頻繁に由良姫に文を送ってるってことは、高彬からの情報で知っているけれど、その後、何か進展でもあったのかしら?

気にはなっていたんだけど、正直、高彬の身体のことが一番の気掛かりだったし、それに由良姫が抱えてる事情も判ってたから、まだその時期じゃないと言うか、2人の関係が動き出す時にはいずれは動くだろう・・・くらいの気持ちだったのだ。

だけど、融に縁談の話が再浮上しているとなると事情が違ってくる。

恋愛には逃しちゃいけないタイミングってあるのよ、きっと。

「えーとね、由良姫」

コホンとひとつ咳払いをして、言葉を選びながら切りだした。

馬鹿な姉と笑ってくれてもいいわ。

だけど、やっぱり融には幸せになってもらいたいのよ・・・。

「融から・・・文とか届いて・・ない?」

「・・・・」

驚いたように目を開き、ほんのりと頬が赤くなったかと思うと、由良姫はコクンと頷いた。

「はい、頂いています。それで・・・お兄さまに相談して、何度かお返事もお出ししました」

恥ずかしそうに身を縮こませなから言う由良姫は本当に可愛らしくて、そこに感動しながらも、あたしは

(高彬、そんな助言をしてくれてたんだ)

なんて、そっちにも感動してしまった。

高彬、そんなこと一言も言ってなかったもの。

由良姫から返事をもらってれば、そりゃあ融も燃えるわよね。縁談を頑なに拒むはずだわ。

それに、由良姫のこの様子からしても───

あたしは再度、小さく咳払いをして膝を進めた。

結局は当人同士の問題と言ってしまえばそれまでだけど、そうして、いつだったか高彬にも、そういうことには立ち入らない方がいいと言われたけど、でも、小さな後押しってあってもいいんじゃないかと思う。

おせっかいってほどじゃなく、ほんの少しの後押し。

それで恋が上手くいくなら素敵じゃない?

「実はね、由良姫」

「はい、瑠璃姉さま」

「融に・・・・縁談の話が持ち上がっているのよ」

「・・・・・・」

「ほら、あの子もいい年でしょ。父さまが心配しちゃってね。本人は断り続けてるみたいだけど・・・」

ちらりと由良姫を窺うと、瞬きもせずに息を詰めているようだった。

「だから、もし・・・少しでも・・・その、融のことを・・・」

さすがにその先の言葉に詰まると

「・・・はい」

小さいけれど、それでも思いがけないほどのはっきりとした声で由良姫が言い、思案気に目を瞬かせている。

音もなく由良姫の膝から飛び降りた茶実は、そのまま庭に下り、あたしは視線で茶実を追った。

西の庭は、今は見るべき花もなく淋しげだった。

───そういえば、この部屋は。

吉野から帰京したあたしが通された部屋だわ。

小萩が熱で倒れたり、融の家出があったり、そうして夏がいて・・・。

「・・・・・」

いつの間にか、茶実の姿は見えなくなっている。

由良姫に声を掛けられるまで、あたしはぼんやりと庭を眺め続けていた。




***********************************




「由良とは話が出来たかい?」

高彬は戌の刻を過ぎたあたりにやってきた。

女房が掲げ持ってきた白湯を飲む姿は、どこがどうとは言えないけれど、以前にはなかった貫禄みたいなものが出て来たような気がする。

この邸の主と知っているからなのか、はたまた妻の欲目なのか、またはその両方だからなのかも知れないけど。

「由良姫が元気そうで安心したわ」

「うん、由良は会うたびに元気になっていくよ。あの、とんでもなく元気な煌姫のお陰かな」

「ふふふ」

邸内にいる煌姫に配慮して、目交ぜして小声で笑い合う。

「ところで瑠璃さん。ちゃんと扇は持ってきた?」

「えぇ、もちろん、この通り。貴族の姫のたしなみよね」

ふふん、と鼻で笑い、はらりと大げさなしぐさで広げて見せると、高彬も大げさに頷いて見せ、またしても2人で笑ってしまう。

部屋からはやわやわとほのかに霞む月が見えた。

月が良く見えるところに場所替えした高彬は、ややあって白湯を飲み干すと、器をことりと床に置いた。

「ねぇ、高彬」

月を眺める高彬に話しかける。

「・・・うん」

月に目を奪われたままの、上の空での返事だったけど、あたしは構わず静かに切りだした。

「前に───」

春の夜風が室内に流れ込み、几帳を揺らす。

「前に、夏に・・・好きだって言われたんでしょ?」

「・・・・・」

ゆっくりと高彬が振り返った。

さっき───。

由良姫の部屋で、唐突に、ひらめきにも似た感覚で、判ったことがあった。

あの時、夏は高彬に自分の思いを伝えたに違いない、って。

その考えは、あまりにもしっくりと来て、今まで気付かなかったのが本当に不思議なくらいだった。

あれほどの激しさを秘めた夏が、何も告げずに去っていくというのは考えづらいし、おそらく夏ならば、どこまでも控えめに、でも鮮やかに軽やかに「好き」と言ってのけそうな気がするもの。

───夏が誰を好きだったか知ってる?

そう聞いたあたしに、高彬は『時々、わかることがあった』って答えたのだけど、そもそも高彬が夏の気持ちに気付いていたって言うのがおかしいのよ。

気付くわけないわよ、筋金入りの朴念仁の高彬が。

気付いたんじゃなく、夏に告白されてたんだと考えれば納得が行く。

それに、あたしが『夏と融が通じている』と言った時の、あの驚きよう、否定の仕方。

あれだって、夏は自分を好きだと知っているからこその否定だったのよ。

更には、あたしが「邸の女房に手を出したら、それを言いふらせる?」と言った時の、みっともないくらいの狼狽ぶり。

あれは夏に告白されたばかりで、あまりにタイムリーな例えだったに違いないわ。

夏は高彬に告白していた───

そう考えたら、全ての辻褄が合うのよ。

あの時は京に戻ってきたばかりだったし、これから初夜を迎えるって緊迫の時だったから、あたしもいつもの勘が働かなかったのかも知れない。

「ねぇ、高彬」

あたしは改まった口調で高彬に向き合った。

「一回しか聞かないから、本当のことを教えて」

高彬の肩越しに朧月が見える。

あたしは高彬の目を真正面から見つめた。

「夏とは・・・・何もなかったんでしょ?」

ほんの少し高彬の目が大きくなり、やがて一度、ゆっくりと瞬きをすると

「うん」

迷いのない答えが返ってきた。高彬の目は穏やかだった。

「・・・うん。わかったわ。もう聞かない。ありがとう」

全身の力が抜けるのを感じながら、あたしはゆっくりと頷いた。

この話はこれでおしまい。

うじうじ考えるのは好きじゃない。

もしかしたら、高彬も少しは嬉しかったり、男として食指が動いたことがあったのかも知れないけど、それを想像してあれこれ詮索したってしょうがないもの。

それに、あの時に高彬が本当のこと──夏に好きだと言われたこと──を言わなかったのは、あたしや夏への気遣いがあったからに違いないのよ。

何もなかった、と言う高彬の言葉を信じるわ。

高彬の隣に座り直し朧月を見上げると、高彬が足を組み変える気配があり、やがて

「瑠璃さん」

どこか改まった声が聞こえた。

「なぁに」

「その・・・ついでと言ってはなんだけど。ぼくも聞いていいかな」

「・・・・・」

「瑠璃さんも、その・・・」

「──何もなかったわよ、あたしも」

「え。ぼくはまだ何も・・・・」

目をシロクロさせている。

何が「え」よ。

高彬が言いそうなことなんて判るわよ。

「あんたに顔向け出来ないようなことは何もないわよ、あたしは。これまでも、これからも」

「・・・うん」

「この質問はこれきりにしてよね。同じこと、また聞いてきたら怒るわよ」

つん、と言ってやると、高彬は一瞬、ぽかんとし、やがて吹き出した。

「ひどいな」なんて言いながら笑っている。

笑い続ける高彬を無視し、そっと身体を預けてみると、するりと肩に手が回された。

まだ喉の奥で、くっくと笑っている。

何がそんなにおかしいんだか。白湯飲んで酔っ払っちゃったのかしら。

春の夜、朧月───

鳥が枝から飛び立ったのか、ピッと言う鳴き声と葉擦れの音が聞こえた。





<終>

(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

ありちゃんさま

ありちゃんさん、こんにちは。

> 融となら由良姫も幸せになれると思うんですよね。

ほんとそうですよね。
お似合いの2人だと思います。(でも絶対にかかあ殿下になりそう)

>融ってボンクラだなんだと酷い言われようで、

言ってるのは、約1名、瑠璃ですよね(笑)
あ、でも、高彬も確か酷評してましたっけ。思いつきで行動してボロを出すタイプとか、何とか。

> 是非、二人の今後も読んでみたいです!(などとリクエストしてみる。)

がっちり2人を主役にした話が書けるかどうかは判りませんが、「あの人は今」的な感じで、その後の2人の様子もお届け出来たらいいと思います。

> あの、高彬が、自分が好かれてると「時々、わかることがあった」なぁんて信じられませんもんね。

そうそう、そうなんですよ。

> 気付いてほしくて匂わせたって気付きやしないのに、

そうそう!(笑)
我らが朴念仁をなめるな、って感じですよね。
女心に目ざとい高彬なんて、薪割りの得意な守弥みたいなもんですよ。(←ありえない)

> 原作の続きが読めるこのシリーズ、早くもファンになってしまいました。w

ありがとうございます。
時系列を無視してあれこれ場面は飛びますが、もう少し書いてみたいと思っています。

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは。

あの場面(手を出す~)での返答、やっぱり不自然ですよね。
宮廷ではポーカーフェイスで通ってる高彬も、あまりにタイムリーな例えにあらぬことを口走ってしまったんじゃないか・・・と思うんです。
告白されていたと仮定してみると、あぁ、なるほどね・・と納得行くことが多いんですよね。
次の記事、ちょっと夏についての雑記を書いてみようと思っています。

非公開さま(Kさま)

Kさん、こんにちは。

実はこの話を書きながら、夏について思ったこと(発見?)があり、それを次回の記事に書こうと思っています。
やはりKさんも、夏は高彬に告白していたと思われますか。
高彬が気付くって言うのが、おかしいですもんね。

また次の記事もお付き合いいただければと思います。

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんにちは。

「チームF」にアルシュさんも参加して下さいましたよ!
いよいよ大所帯に(笑)

夏についての思うこと、ちょっと出て来たので、次の記事としてアップするつもりです。
(Rさんの思うことも気なりますので、また機会があったら教えていただけたらと思います。)

No title

瑞月さん こんにちは。
最近バタバタしていてやっとコメ出来ます。w

融と由良姫がいい雰囲気で、とっても嬉しいです。
融となら由良姫も幸せになれると思うんですよね。融ってボンクラだなんだと酷い言われようで、惚れっぽいイメージもあるけれど、瑠璃が睨みを利かせそうだし、高彬だって大事な妹を泣かせまじと何かあったら黙ってないに違いない。
由良姫さえ融を受け入れているのであれば、こんなに女として幸せになれそうな相手はいないと思うんですよね。
是非、二人の今後も読んでみたいです!(などとリクエストしてみる。)

高彬と於夏のことも、そうそうと頷きながら読ませて頂きました。
あの、高彬が、自分が好かれてると「時々、わかることがあった」なぁんて信じられませんもんね。
気付いてほしくて匂わせたって気付きやしないのに、あの時の状況から言って夏が隠そうとしてたなら、気付くわけがありません。そう、絶対!断言してしまいます!
と言うことは、やはり、さらりと告白してたに1票です。
きっと、何でもないことのように言ってのけたんじゃないかな、於夏は・・・。
そう思うにつけ、夏は何事にも鮮やかな「いい女」には違いないですね。

原作の続きが読めるこのシリーズ、早くもファンになってしまいました。w
無理をなさらず、続けてください。楽しみにしております。

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