***第十二話 七月の朝に***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




          注)このお話は連続ものです。
            カテゴリー「二次小説」よりお入りいただき
            第一話からお読みくださいませ。



          ***********************************************




*** 第十二話 七月の朝に ***



車はゆるやかに動き出し、やがて白梅院の北門をすべり出た。

まだ日が昇りきっていない七月の朝の空気は、ほんの少しだけひんやりとして季節の移り変わりを感じさせてくれた。

こんな早朝のお忍びはしたことがなかったので、あたしは物珍しさも手伝って物見窓を開けて、キョロキョロしていた。

案外と行き交う牛車が多いのでびっくりしていると

「恋人のもとから帰る人の車だよ」

高彬が教えてくれた。

そうして、自分の言った「恋人」と言う言葉でさっきのことを思い出したのか

「あそこで大江が来なければ・・・」

とぶつぶつ言うのがおかしかった。

「まぁ、しょうがないわよ。いつまでもクヨクヨしてても始まらないじゃない」

そう励ますと、高彬は一瞬、絶句し

「気楽でいいよ、瑠璃さんは。どうせ瑠璃さんには、こういうときの男の気持ちはわからないさ」

そっぽを向いてしまった。

何、すねてんのかしら。

男の気持ちがわからないと言われたって、仕方ないじゃない。

あたしは女で、男じゃないんだから。

「一体、どういう気持ちなのよ」

「おいしいごちそうを食べようと口を開けた瞬間に、目が覚めて夢だと気が付いたような気持ちだよ」

憮然としていう。

ごちそうって何よ・・・と文句を言いかけたんだけど、でも、あんまり高彬ががっかりしてるから、思わず吹き出してしまった。

そんなにあたしと、その・・・結婚したかったの、と、なんだかかわゆく思えてしまうから不思議よね。

あたしは高彬の手を取った。

「あと二ヶ月の辛抱よ、高彬。二ヶ月たったら、あたしはあんたの妻よ」

「二ヶ月って・・・瑠璃さん、求婚のお歌は?」

「もういいわよ、お歌は。あたしだって琴も弾けないしお裁縫もできないもん」

それに、お歌を習うために、あの煌姫と関わりを持たれるのはいやだしね。

「それよか高彬。せっかくなんだもん、ちょっとドライブしましょうよ」

考えてみたら、高彬と牛車に乗るのは久しぶりで、童の頃に融と3人でどこかに遊びに行ったことはあったけど、こんな風に二人っきりなんて初めてだったのだ。

「このまま三条邸に戻ったら、また二ヶ月会えないんだもん。・・・だめ?」

そう言って見上げると、少し考える風な顔をしていたんだけど、やれやれとでもいう感じで

「そうだね。そうしようか」

と許してくれた。

「嬉しい」

あたしが両手をうちつけて言うと、高彬は物見窓を開けて従者を呼びつけ、何事かを告げた。




       
        **************************************************





どこに向かうかを知らされずに車に揺られていると、ほどなくして車のスピードが落ちた。

牛から車をはずす準備をしているような気配がしたかと思うと

「若君。到着いたしました」

外で従者の声がした。

「さぁ、ついたよ。瑠璃さん」

その声が合図かのように前簾がまきあげられた。

目の前に広がる景色に、あたしは目を見張った。

豊かに水をたたえた川がゆるやかに流れ、その後ろには山々が連なっている。

山の緑はどこまでも深く、むせるような木々の匂いがあたりに満ちていた。

鳥たちのさえずりと川のせせらぎの音が耳に優しい。

あたしが景色に見とれていると

「ここは嵐山だよ」

高彬がそっと耳打ちをする。

「高彬。外に出てみたいわ」

反対されるかと思いきや、すんなりと許可してくれた。

京を離れ、高彬も少し開放感を味わっているらしかった。

従者らは、教育が行き届いているのか、少し離れたところに控えているようで姿が見えない。

高彬に手を取られ車から降りたあたしは、すぐに河原に駆け出した。

「高彬、見て!川が光ってるわ」

朝日を受けて、川面がきらきらと光っている。

「桂川だよ。この近くに大納言家の縁の尼寺があるだろう」

「よく知ってるわね」

びっくりして聞き返すと

「童の頃、融と三人で何度か遊びにきたことがあったじゃないか」

あー、そういや、ここに来たんだっけ。そんなこともあったわね。

「ほんとに忘れっぽいんだから・・・」

呆れたようにいうので

「あんたが何でも覚えすぎてんのよ」

ムッとして言い返すと

「瑠璃さんとのことは、何でも覚えてるよ」

真顔で言われて、不覚にも顔が赤らんでしまった。

も、もう、やだな・・・。そんな言い方、ずるいわよ・・・。

いつもみたいにポンポン言い返せなくなっちゃうじゃない。

高彬が素知らぬ風に手をつなぎ、指をからめてきた。

大きな手。

ふいに今朝の高彬を思い出してしまった。

この手が、あたしの胸の合わせにかかって・・・もし大江が来なかったら、あのまま・・・

「どうしたの、瑠璃さん。顔が赤いよ」

「な、な、なんでもないわよ。高彬のばか!あっち向いててよ」

高彬はぽかんとし、そうしてくすっと笑った。




           **********************************





あまり長く外にいるのは人目につくからといわれて、あたしは車に戻った。

それでもまだ車を動かす気はなさそうで、高彬ものんびりと外の景色を見ている。

そういえば。

「ねぇ、守弥って者、なんか言ってた?」

「あぁ、守弥か」

高彬は苦笑した。

「なんだか、えらく混乱してたみたいだよ。まぁ、あいつにしてみたら複雑だと思うよ。瑠璃さんは自分の母親の命の恩人になっちゃったんだし。あいつの思考パターンの中には、大納言家の姫が女房として紛れ込むなんてないだろうしなぁ」

「よくもまぁ、あたしに高彬の愛人にならないか、だなんて言ったもんだわよ」

むくれて言うと

「あいつも悪い奴じゃないんだけどな」

とりなすように言う。

「高彬、あんた、二ヶ月の間に愛人なんか作ったりしたら承知しないからね」

睨みつけてやると

「わかってるよ」

ムスッと答えた。

「でも・・・」

はらりと扇を開きながら、高彬の目が光った(ような気がした)。

「二ヶ月もお預けのままだと、あんまり自信がないな。ねぇ、瑠璃さん・・・」

そう言ってすばやく簾を下ろすと、にじり寄ってくる。

せまい車の中なので、あっという間に高彬の顔が至近距離にあった。

逃れようにも車内なので、どこにも逃げられない。

え、え、えっ!?

車で・・・なんて、そんなの、いけないんだよーっ。 

だけど、高彬の目はどこまでも真剣で、あたしは思わずごくりとつばを飲み込んだのだった・・・。



 
       
                   <第十三話に続く>


〜あとがき〜

『尼寺で・・・なんて、そんなの、いけないんだよーっ』

小説をお読みの方には、おなじみの言葉だと思います。

尼寺での初夜未遂のときのものですね。

あと

『母の気持ちがわからないと言われても、仕方ないではないか。ぼくは息子で、母親じゃないんだから』

これも「ミステリー」の中での、高彬の言葉です。

こんな風に、ところどころに原作でおなじみの文章のパロディというか、パクったものを入れてありますので(あぁ、あの場面の・・・)とお楽しみいただけたらと思います。

ま、そもそもすべてがパクリなんですけど(笑)

でも、高彬は、かなり積極的にバージョンアップしちゃってるかもしれません。

こんな高彬、どうですか?

この調子なら、帯解寺なんか行かなくても、結婚→即おやや懐妊・・・しそうな勢いですね。

さすが若い者は迫力が違う・・・←By大納言(笑)


読んでいただきありがとうございました。

    
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
    ↑
ランキング上昇は創作意欲につながります。
楽しんでいただけたら、1日1回、1クリックで応援お願いします。
いつもありがとうございます。


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

  ↑
ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
月別アーカイブ