*** 筒井筒のお約束をもう一度・・57 <高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』

 

           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        







***  筒井筒のお約束をもう一度・・57 <高彬・初夜編> ***  









「ねぇ、瑠璃さん、もう一度聞くけど、ここがどこだがわかっているよね」

瑠璃さんを座らせ、声を改めて問いただすと

「わかってるわよぉ・・・だから記憶が戻ったことを早く高彬に・・・・」

下を向き、決まり悪そうにしきりに扇をいじりながら、それでも言い募ってくる。

「それは女御さまから伺ったよ。ぼくをびっくりさせるために、瑠璃さんが後宮に来たいと言って、女御さまもそれをご承知したと」

「そうなのよ、ただ、それだけの気持ちで、つい・・・」

「つい、後宮にきたってわけだね」

「白梅院に行こうかとも思ったんだけど、いつも同じじゃ芸がないかな、なんてさ。あはは・・・」

「芸、がね」

瑠璃さんにこれ以上、芸を磨かれたりでもしたら、ぼくの命はいくつあっても足りないに違いない。

じろりと睨んでやると

「まさか・・その・・帝に、会うなんて・・・思ってもいなくて、まして、あんな風に転がり出るなんて・・・その・・・・」

つかえつかえにぼくの目を見ながら話していた瑠璃さんの言葉が、最後には消え入るように小さくなり、やがて口をつぐんで俯いてしまった。

「恥かかせちゃって・・・本当にごめんな・・・さい」

俯いたまま唇をかみ締め、思案気に眉を寄せている。

伏せた瞼が細かく振るえているのが見て取れて、ぼくは内心慌ててしまった。

せっかく記憶が戻ったと言うのに、しょっぱなに泣かせてどうするんだ。

ぼくに早く知らせたいと思ってくれた気持ちは本当なんだろうし。

瑠璃さんだってこんなに反省しているじゃないか・・・。

気付けば瑠璃さんを叱らない理由ばかりを考えていて、ぼくは小さく笑ってしまった。

───まったくぼくは瑠璃さんに甘いよな。

「記憶が戻ってよかったね、瑠璃さん」

顔を上げた瑠璃さんに笑いかけると

「・・・怒ってないの?」

恐る恐ると言う感じで瑠璃さんがぼくの顔を覗きこんできた。

「もういいさ。帝が承香殿に来られたのは、本当に偶然だったんだろうし」

「ほんとにほんとに、もう怒ってない?」

「怒ってないさ。考えてみたら、瑠璃さんらしいと言えば、こんなに瑠璃さんらしいことはないからね。女御が瑠璃さんを後宮に誘ったときに、こうなることまで想像しておけばよかったんだ。それが出来なかったぼくの判断ミスだね」

本当にそこが悔やまれる。

姉上と瑠璃さんのノリが似ていると思った時点で、何か防御策をたてておくべきだったのだ。

瑠璃さんだけを責めるのは可哀相だし、何より、早くにぼくに会いたいと思ってくれたわけだし・・・。

「高彬」

瑠璃さんがぼくの名を呼んだのと、ぼくが瑠璃さんを抱き寄せたのが同時だった。

「記憶が戻って、本当によかった」

「うん」

腕の中の瑠璃さんが頷き、ぼくは更に回した腕に力を込めた。

───最初にこの言葉を言ってあげれば良かったな・・・・

そう思いながら瑠璃さんの顎に手をかけそっと近づいて行くと

「だめよ、人が来るわ」

瑠璃さんに押し戻されてしまった。

「大丈夫だよ」

「高彬の『大丈夫』は信じないんだから!この前だって・・・」

この前・・・?

あぁ、この間の三条邸でのことか。

あの時は途中で小萩が来て邪魔されたんだっけ・・・。

それならと瑠璃さんを更に奥の部屋へと連れ込み、続きを試みようとすると

「もう、高彬ったら!ここがどこだかわかっているの」

その言い方はさっきのぼくの口調を真似しているに違いなく、こういう茶目っ気はまさしく瑠璃さんのもので、変な言い方だけど記憶が戻ったということがしみじみと実感されるのだった。

「後宮、です」

今度はぼくが瑠璃さんの口調を真似て答え、目が合って笑い合う。

瑠璃さんが何かを言いかけ、それより先にすばやく接吻をした。

瑠璃さんがびっくりしている気配が伝わってきたけど、構わずに強引に唇を合わせると、解放された途端

「もう!」

と、瑠璃さんが睨みつけてきた。

軽くいなしながら、ふと思いついたことがあった。

「そういえば、融に口止めしてただろ」

ここのところ融がぼくを避けていたのは、きっと記憶が戻ったことを口止めされていたからなのだろう。

「だってあの子、すぐ顔に出るタイプだし、あんたはあんたで変にするどいとこあるし。ともかく、あっと驚かせたかったのよ」

「ふぅん、じゃあ大成功だよ、瑠璃さん。本当にびっくりしたから。座りながらでも腰って抜かすものなんだって判ったよ」

「あの時の高彬の顔ったら」

その時を思い出したのか瑠璃さんは含み笑いをし

「ひどいな」

「ふふふ・・・」

と何だかいい雰囲気になってしまい、思えば滅多に見ることのない瑠璃さんの正装姿はなかなかに魅力的でもあり、ぼくは瑠璃さんをもう一度、抱き寄せた。

「早く・・・結婚したいね」

「・・・うん」

こくりと瑠璃さんは頷き

「あと一月で、瑠璃さんと・・・」 

言いながら、あと一月もお預けなのか・・と落胆してるところもあり、やはり薄暗い奥の部屋に2人きりと言うのは、かなり酷な状況なのだった。

いい雰囲気に押されて、思わず回した腕に力が入ってしまい、何とも妖しい心持になりかけたところを制したのは瑠璃さんだった。

「もう仕事に戻った方がいいわ」

女の勘で何かを察したのか、キビキビ言うとさっと身体を離した。

「あ・・・・、うん」

かなり名残惜しい気がするけど、さっき自分で言った通りここは後宮なわけで、いつまでもいい雰囲気に浸っているわけにはいかず、ぼくは部屋を出た。

右近衛府へと戻る前、用があって立ち寄った太政官府で、長い簀子縁の向こうからやってくる人影があった。

近づいてみたら権少将で、ぼくだと気付いてるはずなのに、会釈どころか目線すらこっちによこさない。

すれ違いざまにちらりと見た感じでは、いつぞやの痣はまだうっすらと残っているようだった。

まぁ、ぼくには関係のないことだ。

痴話喧嘩だろうが、立ち回りだろうが、好きにやっていればいいわけで・・・・

次の瞬間、ふと脈絡もなくある疑問が胸にわいてきた。

───そういえば瑠璃さんの記憶は、どうやって戻ったんだろう?何かきっかけでもあったのだろうか・・?

当然、思うはずの疑問で、だけど、今の今、唐突にわいてきた疑問だった。

何か強い衝撃があって記憶が戻った人がいると聞いたことがあるけれど・・。

衝撃・・・?

立ち止まり、権少将を振り返る。

記憶が戻った経緯は、今度会った時、瑠璃さん本人に聞けばいいだけのことだ。

それだけのことじゃないか・・・。

そう思うそばから、どうしようもなく胸が騒ぎだす。

権少将がぼくを訪ねて来たこと、翌日こさえてきた痣、更には融がぼくを避けだした時期などが頭の中でぐるぐると回り、やがてひとつの疑惑が浮かび上がってきた。

───まさか、な。

『あんたはあんたで変にするどいとこあるし』

奇しくも瑠璃さんがさっき言った言葉で、もしそれが本当で、ぼくのこの考えが当たっていたとしたら───。

遠のいていく権少将の足音を聞きながら、ぼくは金縛りにあったかのようにその場に立ち尽くしていたのだった。





<続>

高彬、権少将をロックオンです。


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Dさま)

Dさん、おはようございます。

この高彬の鋭さは、有能と言う事ももちろんあるのでしょうが、それよりも恋する男子の勘なのではないかと思われます(笑)

非公開さま(Mさま)

Mさん、おはようございます。

ようやくラストが見えて参りました。
61か62話あたりで収まるのではないかと思っています!
瑠璃には甘い高彬。惚れた弱みってやつですね。
昨日、東京は久しぶりの雨が降り、少し涼しかったです^^

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