***短編***  ジャパネスク・リタリエーション *** 

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




         注)このお話は一話完結です。


         『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
         今回のお題は「汗」でした。

          <おまけの話>下にあります。
          
           





***短編*** ジャパネスク・リタリエーション ***








内大臣家に賊が侵入し、瑠璃さんが攫われた───

その一報を右近衛府の一室で聞いたぼくは、すぐさま部屋を飛び出し、厩に繋がれていた右大臣家所有の馬に飛び乗った。

控えていた政文に行先を告げ、牛車を回しておくように指示を出す。

何事かと慌てふためく政文が何かを叫ぶ声が聞こえた気がしたけれど、ぼくは振り返ることなく馬の腹を蹴り、そのまま殷富門を潜り抜けた。

月明かりに助けられて、速度をどんどんあげていく。

目指すは七条にある、最近、京に戻ってきた、さる受領の邸だった。

ここ数か月ほど、都を騒がせるある事件が勃発していて、それは中流貴族の子女を攫い、金品を要求すると言うものだった。

望んだ金品が手に入れば人質は無事に解放されるのだが、思い通りに行かないとなると人質は手荒な扱いを受け、酷い時は河原で変わり果てた姿で発見されたと言うこともあった。

衛門府が指揮を取り犯人を捜しているのだが、別当殿に頼まれてぼくも内々に捜査に協力していたのだ。

そして、七条に住む受領が地方の武士と手を組み悪事を働いている───と言ういくつかの証拠を入手し邸内を捜索する手配を進めていた矢先のことだった。

内大臣さまはもちろん大貴族だし、ぼくは右近衛府の少将を務めているし、よもや瑠璃さんが狙われることはあるまいと思っていたのだが・・・。

簡単に金品が手に入ることに味をしめて、より高貴な子女に目をつけたのかも知れない。

目指す邸の近くまで来たところで速度を落とし、とりあえず築地塀沿いにぐるっと一周し様子を窺う。

門に警護の者がいるくらいで、他に不審なことはないことを確認すると物陰で馬を下りた。

さっき見つけておいた築地塀の朽ちかけた隙間からするりと中に入ると、とりあえず寝殿を目指し歩き出す。

腰あたりまで育った雑草を掻き分け、潅木を抜け、明かりの漏れる寝殿が見えたところで沓を脱いだ。

砂利を踏みしだく音を聞かれたらまずい。

大貴族ほどの豪華さはないが、充分な大きさの寝殿で、かなり羽振りの良い生活をしているようだった。

足音を立てないように庭を探っているうち、北面の一角に不審な気配を感じた。

真っ暗で明かりひとつ点いていない小さな離れの前に、武装した侍が数名ウロウロとしているのだ。

───ここに瑠璃さんが監禁されている。

直感したぼくは背後から忍び寄ると、侍の肩を叩き、振り向きざまにみぞおちに一発見舞わせた。

急所を捕らえたようで侍は崩れ落ちるように倒れこみ、ぼくはそいつが携えていた太刀を鞘ごと抜いた。

抜刀はなるべく避けたいが、武装した侍相手に丸腰ではさすがに心もとない。

物音に気付いたのか駆け寄ってきたもう一人の侍はぼくの姿を認めるとぎょっとしたように立ちすくみ、その隙に足払いを喰らわせもんどりうって倒れたところを上から押さえ込み───と思ったところで、急に下から顎を殴打されぼくは倒れこんだ。

しばらくもみ合い、ようやく相手を押さえ込むと、目に入った飾り紐を使って後ろ手に縛り上げた。

声を出させないように猿轡をかませる。

念のため先にのした侍を木の根元に寄せ、紐で括り付けた時には、全身汗だくだった。

額を流れる汗を拭い辺りを窺うと物音はせず、見張りの侍は二名だったのか、もしくは異変に気付き援軍を呼びに行ったのか、もし後者だとするとぐずぐずしてはいられない。

離れの戸は幸いにも鍵はかかっておらず、すぐに中に入ることが出来た。

格子から差し込む月光が狭い室内をくまなく照らしており、案の定、部屋の隅に横たわる瑠璃さんの姿があった。

「瑠璃さん!」

駆け寄り抱き上げると、長い髪がはらりと滑り落ちた。

「瑠璃さん、瑠璃さん!」

小声で、だけどするどく呼びかけると、瑠璃さんの目がうっすらと開かれた。

「・・・・・」

「瑠璃さん、ぼくだよ。判るか?高彬だ」

「たか・・・あき・・ら・・」

途切れ途切れだけど、ぼくの名を呼ぶ瑠璃さんの声が聞こえ、ぼくはすばやく瑠璃さんの全身に目をやり目立った外傷がないことと、そしてもう一点、あることを確認した。

安堵のため息をつき、瑠璃さんを抱いて立ち上がりかけたぼくは、一計を案じ瑠璃さんの袿を脱がせると、次いで自分の単衣をすばやく脱ぎ、部屋の隅に無造作に置かれてあった唐櫃に入れた。

もう一度、瑠璃さんを抱き上げた時、遠くから人の声とこちらに向かってくる複数の足音が聞こえてきた。

多勢に無勢、瑠璃さんを抱いたこの状態で囲まれたらまずい。

戸を思い切り蹴飛ばし、ぼくは離れから飛び出した。

瑠璃さんを抱きながら庭を走り、途中、小枝で袖が裂く音がしたけれど構ってなんかいられない。

汗が首と言わず背中と言わず全身を伝い、なんとか塀の隙間から外に出られた時には完全に息が上がっていた。

「若君!」

すぐ近く、さっき馬を下りたあたりに政文が松明を掲げて立っており、言い付け通り、牛車が用意されている。

説明するのももどかしく、とりあえず瑠璃さんを抱えたまま車に乗り込むと、三条邸に向かわせた。




******************************************



「高彬!」

翌日、衛門府に向かって歩いているところで融に声を掛けられた。

「聞いたよ、高彬。お手柄だったんだってね。しっかし賊も馬鹿だよなぁ、姉さんを誘拐するなんてさ。内大臣家と右大臣家を敵に回すようなことして、ただで済むと思ったのかな」

「何も考えてなかったんじゃないか?」

「良かったよなぁ、賊が捕まって」

「うん」

そう、昨日の今日ですばやく七条の邸に捜索の手が入り、あっけなく賊は捕えられたのだ。

別当殿の詰問に最初は知らぬ存ぜぬと白を切っていた邸の主も、ぼくがわざと残した袿と単衣と言う動かぬ証拠を見せつけられ、とうとう白状したらしい。

瑠璃さんの袿だけなら、盗んだものだと言い逃れすることはまだ出来たとしても、ぼくが着ていた単衣が唐櫃から出てきたことが決定打となったのだ。

「だけど・・・その・・・大丈夫だったのかな、姉さんは。その・・・何ていうか、変なことっていうか、ほら、ああ見えて姉さんも一応、女だろ。全っ然、美人じゃないけどさ。でも、女ってことには変わりないわけだし・・・」

「その点は大丈夫だ。安心していいよ」

しどろもどろになった融の言葉を受け取り、大きく頷いてやると

「だけどさ、姉さんだって、嘘つくかも知れないだろ。何かされたのに、されてないとかさ」

融にしては珍しく食い下がってきた。

「いや、ほんと大丈夫だって」

昨夜、三条邸に送り届けた瑠璃さんは何か薬湯でも飲まされたのか眠り続けており、だから本人に確かめたわけではないのだけど、瑠璃さんは何もされていないと言う確信がぼくにはある。

実は、瑠璃さんが攫われる前の晩、三条邸で過ごしたぼくは、当然のように瑠璃さんを抱いた。

いろいろあったのち、夏用の薄い衾を掛けてまどろみながら話しているうちに、そのまま瑠璃さんはぐっすりと眠ってしまったのだ。

翌朝、ぼくは早くに出なければいけなくて、と言うことは起こしに来た女房がこの姿の瑠璃さんを見るわけで、そういうわけにはいかないと思ったぼくは、瑠璃さんに単を着せてやった。

暗闇だったこともあり、かなりいびつに腰紐を結んでしまったのだが、ぼく自身、睡魔がやってきて、結局、そのままにしてしまっていたのだ。

離れで確認した結び目はいびつなままで、と言うことは、瑠璃さんは単を脱いでいないということなのだ。

だけど、こういうことはいくら親友と言えどもあからさまに言えないしなぁ・・・どう説明したものか・・・。

ちらりと隣の融を見ると、どこか納得していないような顔で何事かぶつぶつと言っていたが、それでも最後には

「まあ、高彬が大丈夫って言うんなら、大丈夫なんだろうな」

と呟き、目が合うと「えへへ」と鼻の頭を掻いた。

仕事を終え、三条邸に着いたのは、もうじき亥の刻になろうかという時刻だった。

昼前に目を覚まし医師に「異常なし」の診断を受けた瑠璃さんは、それでも大事を取ってまだ横になっていた。

枕元に腰を下ろすと、気配を察したのか瑠璃さんが目を開けぼくの方にゆっくりと顔を向けた。

「瑠璃さん。怖い思いをさせて済まなかったね。ぼくがもう少し気をつけていれば瑠璃さんをあんな目に合わせずに済んだのに・・・。ごめんよ」

しばらくは黙ってじっとぼくを見ていた瑠璃さんは、いったんゆっくりと瞬きをすると、ふいに唇を尖らせた。

「助けに来るのが遅いわ」

なじっているようにも、甘えてるようにも聞こえる口調だった。

「・・・うん、ごめん・・・」

「今か今かと待っていたのに、なかなか来てくれないんだもの」

「・・うん」

「そういえばあんたって・・・・本当に昔からノロマだったものねぇ」

「は?」

「池には落ちるわ、相撲は弱いわ。いつもビービー泣いてあたしの後を付いて回ってさ」

「・・・・・・」

その頃を思い出したのか瑠璃さんはくすくすと笑いだした。

まったく───。

ぼくは心の中で大きく吐息した。

言うに事欠いて、ノロマだなんて、良く言ったもんだ。

瑠璃さんが攫われたと聞いたとき、ぼくがどれだけ肝を冷やし、そして瑠璃さんを助け出すためにいったいどれだけ汗だくになったのかを、瑠璃さんは知らないに違いないのだ。

「こら」

言いながら、瑠璃さんの額を指で軽くはじく。

目が合ったので、怖い顔を作ってみせたのに、瑠璃さんは相変わらずくすくすと笑っている。

まったく、やってられないよなぁ・・・。

惚れた弱みとは言え、瑠璃さんのために焦りまくって大汗かいて、挙句にノロマ呼ばわりされて笑われて、いいことなんてひとつもないじゃないか。

いや、待てよ・・・。

ぼくは腕を組んで考えた。

衾に二人でくるまったり、無防備に裸で眠る瑠璃さんに、単衣を着せ掛けるなんて<いいこと>もあるわけで・・・・。

ノロマ呼ばわりか<いいこと>か、どちらか選べと言われたら、断然<いいこと>だよなぁ。

「何よ」

黙り込んだぼくをどう思ったのか、瑠璃さんが聞いてきた。

今、考えてたことがばれたりしたら、またどやされるに違いない。

「いや、何でもないよ」

思ってることなんかおくびにも出さず、ぼくは涼しい顔でこう返事してやったのだった。






<終>

*******************************************************

<おまけの話>




「今日はこのまま泊っていけるんでしょう?」

「うん」

夜具の中で身じろぎしながら瑠璃さんが言い、返事をしつつぼくはまじまじと瑠璃さんを見てしまった。

瑠璃さんがこんな言い方をするのは初めてで、やはり怖いを思いをしたからなのだろうか・・・。

気丈に振舞っているとは言え、一歩間違えれば命にも関わっていたわけで、改めて身の引き締まる思いがする。

「お腹すいてるんじゃない?何か持ってこさせる?」

起き上がろうとするので

「いいよ、起きないで。ぼくもこのまま休むから」

着ていたものを几帳に掛けると小袖姿で夜具に潜り込む。

「瑠璃さん、もうちょっと向うに詰めて」

「小萩に言って褥を敷いてもらう?これ、少し狭いし」

「いや、このままでいいよ。こうして寝るから」

瑠璃さんを胸に抱え込むと

「変な格好で寝て、明日の朝、身体が痛くなっても知らないから」

下からくぐもった声が聞こえてきた。

「あら、何・・これ・・」

ふいに瑠璃さんが言い、ぼくの顎を指で辿っている。

「高彬、どうしたの、顎。赤いみたいだけど」

「顎?」

指差された辺りを手の平でさすり、ぼくはあることに思い当った。

「あぁ、昨夜の七条でだよ。殴られたから痣でも出来たんだろう」

「殴られた?!」

腕の中の瑠璃さんの身体がさっと強張り

「そんな危ない目にあったの?」

ガバと上体を起こした。

「危ない目って・・・。宴に招待されたわけじゃないから、それなりに手荒なことはされたよ。まぁ、仕掛けたのはぼくの方からだけどね」

「だけど、回りにもっと人だっていたんでしょう?どうして高彬が・・」

「いや、一人で乗り込んだから」

「一人で?!」

下から見上げる瑠璃さんの顔色がさっと変わるのが夜目にも判った。

「どうしてそんな危険なことするのよ。一人でなんて無謀にもほどがあるでしょう」

「そりゃ一刻も早く瑠璃さんを助けたかったからだよ。上からの指示とか待ってられないし」

「・・・・・」

「大丈夫だよ。こうして何ともなかったんだから」

瑠璃さんの手を取りポンポンと叩く。

「だけど・・。もし高彬の身に何かあったらどうするのよ」

「それはこっちのセリフだよ。瑠璃さんの身に何かあったりしたら、それこそどうするんだよ」

「でも、あたしを助けるために高彬の身に何かあったりしたら、あたしは嫌よ。あなた、少し自分の力を過信し過ぎだわ」

「瑠璃さんにもしものことがあって、自分だけ無事でいてもしょうがないからね」

「でも・・」

「ともかく」

埒が明かない会話に終止符を打つべく、ぼくは瑠璃さんを抱き寄せた。

「良かったよ、無事で」

「・・・うん」

「攫われたと聞いた時は、冗談じゃなく寿命が縮んだよ。本当に良かった・・・何もされなくて・・」

髪を撫ぜると瑠璃さんはコクンと頷き、しばらく黙りこんだかと思うと

「牛車に押し込まれながら、あたしね・・・、もし何か変なことされたりしたら、絶対に鴨川に・・・」

「飛び込むつもりだったの?」

先回りして言うと、瑠璃さんはゆっくりと頭を振った。

「ううん。鴨川に投げ込んでやるって思ったの、そいつらをね」

言ってることは勇ましいわりに口調は弱々しくて、かえって瑠璃さんの恐怖を伝えてくるようだった。

その時のことを思い出したのか、瑠璃さんは息をひそめじっとぼくの胸にしがみついている。

「投げ込んでやるか、それはいいね」

軽く答えながらも、瑠璃さんが何者かに蹂躙されると言う想像は耐え難いもので、それはぼくにとっても恐怖以外のなにものでもなかった。

もしそんなことがあったら、自分がどうなるか分からない。

ぼくは絶対に報復しに行くだろう。例えそれで殺されたとしたって・・・。

「何かされたらって・・・怖かった・・・」

「・・・うん」

瑠璃さんの指がぼくの小袖をぎゅっと掴み、ぼくは回した腕に力を入れた。

「あたし・・・」

「うん」

「高彬じゃなきゃ・・・イヤ」

「・・・・・」

目を瞑り、大きく息を吸う。

───あぁ、ちくしょう。

どうして瑠璃さんはこんな殺し文句をいともたやすく口にするんだ。

瑠璃さんのこんな言葉にだったら、ぼくは何度だって殺られてやる。

瑠璃さんに殺されるのなら本望だ───

くるりと体勢を変えて顔を覗きこむと、瑠璃さんの目が心なしか潤んでいるように見えた。

接吻をすると瑠璃さんがしがみついてきた。

「───ありがとう。助けに来てくれて」

耳元で囁かれ、ぼくはたまらず力一杯に瑠璃さんを抱きしめたのだった。






<おしまい>


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Mさま)

Mさん、おはようございます!

おまけの話、楽しんでいただけたようで良かったです。
高彬じゃなきゃイヤ、なんて言われて、高彬、有頂天ですよね(笑)
何気に魔性のオンナ、瑠璃・・・。
もっともっと高彬を翻弄して欲しいです!

このブログは、私の大きな楽しみなのでずっと続けるつもりです^^
休載を心配していただけるなんて、私は幸せ者です。
初夜編が無事終わったので、いろいろ書きたいと思ってた話を書くぞーと意気込んでるくらいです。
こちらこそこれからもよろしくお願いいたします。いつも応援ありがとうございます。

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