*** 筒井筒のお約束をもう一度・・50 <高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』

 

           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        







***  筒井筒のお約束をもう一度・・50 <高彬・初夜編> ***  









「昨日、父上から瑠璃姫との結婚の話を進めるようにとの話がありました」

「まぁ、それは良かったこと」

「姉上が父上に進言してくれたお陰です。そのお礼を申し上げたくて・・・」

姉上は扇をはらりと広げられたかと思うと、口元を隠し「ほほ」と笑われた。

「きっと母上のことだから、あなたの結婚を頭ごなしに反対していると思ったのですよ。母上はあなたのことを一等、可愛がっておいでのようですからね」

「・・・はぁ」

童の頃ならともかく、今はそれが迷惑なんだよなぁ・・・

そう思ったことが顔に出たのか、姉上は

「そう嫌がってはなりませんよ、高彬。子を思う親心はいずれの時代も変わらないのですから。ありがたいものです」

「それは、まぁ、ぼくも感謝はしております」

姉上は軽く頷かれると

「それにね、こたびのことはおまえのためを思ってしたと言うだけではないのです」

「え」

「瑠璃姫を妹に迎えたくて仕方がないのですよ、わたくしは。『瑠璃姫の記憶が戻るのを待ったほうが良いのだろうか』などとおまえがぼやぼやと考えている間に、誰か他の人と結婚してしまうかもしれないでしょう。おまえは変なところで真面目ですしね」

「姉上!」

ぼくの声音を真似ているつもりなのか、わざと低い声で言って見せる姉上を、ついつい弟の気安さで睨んでしまった。

だけど、そう思ったことは事実なので、姉上の推測は当たらずとも遠からずなわけで、ぼくは姉上の観察眼にほとほと感心してしまった。

「早くおまえと瑠璃姫が結婚してもらわないことには落ち着かなくて」

ふふふ、と笑われる姉上は、何と言うか茶目っ気たっぷりと言おうか天真爛漫と言おうか、とてものこと将来国母となられる方とは思えない感じで、好ましさ半分、心配半分と言ったところだろうか。

姉上は以前から我が右大臣家の中で、一番、明るくて朗らかな人だったからなぁ。

ふと気がつくと部屋の中には弱々しいながらも日差しが届いており、どうやら昨日から降り続いていた雨も上がったようだった。

「瑠璃姫とは間違いなく結婚しますので・・・」

再度、お礼を言い、そろそろ引き上げようかと立ち上がりかけると

「そうやって、あなたはすぐに帰りたがって。まだ話は終わっておりませんよ」

引き止められてしまった。

「瑠璃姫にも、もう一度、きちんと結婚のお気持ちを聞いておかなければなりませんよ」

「は?・・・瑠璃さん・・・いや瑠璃姫もぼくと結婚すると、この間、吉野で・・・」

姉上は、やれやれとでも言うように大きなため息をつかれた。

「吉野でのことなど、もう二月も前の大昔のことではなりませんか。具体的なお日にちを決める前に、もう一度、瑠璃姫にお伺いをたてなければなりません。おまえは女心を何と思っているのです」

「・・・・・」

二月と言うのは、大昔なのだろうか。まさか。

だけど<女心>とやらを持ち出されたら、反論の余地はなく、ぼくは素直に頷くに留めた。

今度こそ立ち上がりかけながら、ぼくは少しの意趣返しとばかりに、回りに誰もいない気安さもあって、小声で

「姉上ももうお忍びなどと言うお振る舞いはお慎みくださいますよう」

そう言うと、姉上はちらりとぼくをご覧になった。

ふと目を逸らしたかと思うと、まるで独り言を言うかのように

「少し前、都では悪い風邪が流行っておりましたでしょう。万が一にも幼い東宮が罹ったら・・・と心配しましてね、病の流行が過ぎ去るまで、東宮を都から遠ざけたいと思ったのです」

「・・・・・」

「病を遠ざけるどころか、あんな怖ろしいことになってしまって」

「姉上・・・」

「東宮をお守りしようと、その気持ちばかりが空回りしてしまうのですよ。母とは愚かなものです。・・・でもね、高彬」

姉上はぼくをまっすぐにご覧になった。

「わたくしは命に代えても東宮をお守りするつもりです」

そうはっきりと言う姉上の口調は、まさしく将来の国母たる風格で、ぼくはそこに頼もしさよりも、ふと物悲しさを感じてしまった。

姉上はやはり後宮でご苦労をされているのではないだろうか・・・。

各方面に気を配らなければ生きていく場を失うような、そんな緊張感を強いられて。

ふと、以前の姉上の言葉が思い出された。

姉上は瑠璃さんにこう言っていたはずだ。

───後宮は毎日過ごすには退屈なところですが、時々遊びに来るには楽しいところですよ。

後宮は、時々遊びに来るには楽しいところ、か・・・。

確かにその通りなのかも知れない。

いくら姉上が明るく朗らかな方とは言え、そこには計り知れないご苦労があるわけで・・・。

いくら帝の愛妃とは言え、政治の流れひとつで、どういうお立場になるかわからないわけだし。

「・・・姉上」

もう一度、腰を下ろし向き直ると、姉上はまたしても「ふふふ」と笑われた。

「そんな心配そうな顔をして。大丈夫ですよ、わたくしは楽しくやっておりますよ。主上にももったいないほどのお心遣いを頂いて、本当にありがたいことです」

姉上はゆっくりと、まるでそこに今上がいらっしゃるかのように頭を下げた。

顔を上げるとにっこりと笑まれ

「わたくしを喜ばせるためにも、早く瑠璃姫と結婚なさいませ。一番の姉孝行ですよ」

「・・・・・・」

「また顔を見せにいらっしゃい。わたくしも母上ほどではないにしても、おまえを可愛がっているつもりですよ」

姉上が扇を鳴らすと、どこからともなく女官が現れ、それを機に一礼をしてぼくは退出した。

右近衛府へと戻りながら、ぼくは吉野で姉上を「軽率だ」と責めてしまったことを思い出していた。

姉上にも深いお考えがあってのことだったのか・・・。

『女御さまにひどいことを言ったらだめよ。今回のことで一番、お心を痛めてらっしゃるのは、おそらく女御さまよ』

そう言ったのは瑠璃さんで、よっぽど瑠璃さんの方が本質を見抜いている。

(瑠璃さん。瑠璃さんの言う通りだったよ)

ぼくは心で呟き、嘆息した。





<続>

(←お礼画像&SS付きです)

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