*** 筒井筒のお約束をもう一度・・49 <高彬・初夜編> ***
『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』
※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
*** 筒井筒のお約束をもう一度・・49 <高彬・初夜編> ***
寝殿へと向かう渡殿を歩き、坪庭を横目に角を曲がったところで、出迎えの女房が数人控えているのが目に入った。
ぼくの姿を認めると、皆、一様に手を付いて頭を下げ、その姿を見てぼくは心の中で小さく笑ってしまった。
そういえばいつだったか、この辺りで女房に扮した瑠璃さんとばったり対面したんだよなぁ・・・。
いやはや、あの時はびっくりした。
おそらくぼくの人生の中でも、一、二を争うくらいの驚愕の出来事だったんじゃないだろうか。
・・・いや、待てよ。
確か童の頃に池に突き落とされたのもかなりびっくりしたし、突然、夜中に白梅院に来た時もびっくりしたしな・・・。
「おぉ、来たか。高彬」
あれこれ考えている間に部屋の前に来ていたみたいで、父上に声を掛けられた。
「まぁ、座れ、座れ」
「はい」
手招きされ用意されていた円座に座りながら周りをすばやく一瞥したぼくは、小さく息を吸い込んでグッと腹に力を入れた。
父上が正面に、少し離れた横には母上が座っており、そしてどういう訳だか部屋の隅には守弥が控えている。
───何なんだ、一体。
母上はともかく、どうして守弥がいるのかがわからない。
(どうしておまえがここにいるんだよ)
横目で睨むと、しっかり視線が合ったはずなのに、守弥は眉毛ひとつ動かさないでいる。
日頃、うるさいくらいに「若君、若君」とぼくに入れ込んでるくせに、平然とこういう態度を取るところが守弥の判らないところなんだよな。
「お呼びでしょうか。父上」
守弥についてあれこれ考えていても始まらないから、ぼくは父上に話しかけた。
「うむ。実はのう、昨日、公子に呼ばれて承香殿に出向いた」
「姉上に、ですか」
「うむ。そこで言われたのじゃ。高彬の婚儀はいつなのですか、と」
「・・・・・」
「まだ公子には、高彬と内の大臣(おとど)のところの姫との結婚の話はしておらぬはずなのに、どういうわけだか公子の耳に入ったらしくてのう」
耳に入ったも何も、本人同士が対面済みだとはさすがに言えなくて黙っていると、さらに父上は話を進めた。
「公子が言うのじゃ。瑠璃姫は心映えの豊かな優しい良き姫だ、と。自分は全面的に応援しているから、すぐにでも婚儀の話を進めるべきだ、とな」
父上はふぅっと大きく息を吐き、ちらりと隣に座る母上に目をやった。
「だが、そうは言っても、反対する声も多くてのう。・・・そこで守弥に相談してみたのじゃよ。そうしたら守弥はのう、帝の寵愛を一身に受ける愛妃である公子が進める婚儀であれば、出世にも有利に働くからおまえにとってプラスになることが多かろう、と言うのじゃ」
ぼくはちらりと守弥を見た。
相変わらずのポーカーフェイスで微動だにせず座っている。
「それで、ついさっきまで瑠璃姫との婚儀について3人で話し合っておってのう。二度も流れてしまったが、この辺りで日程を決めておくのはどうじゃろうか。三度目の正直と言う言葉もあるしのう。おまえの考えはどうじゃ、高彬」
「父上」
ぼくは矢も盾もたまらず、膝を進めた。
「もちろんぼくは瑠璃姫と結婚するつもりでいます」
「うむ」
「ぜひ、話を進めていただきたいと思っています」
「そうか、そうか。では、早急に内の大臣とも話しておかねばのう」
「ありがとうございます」
頭を下げると、視界の隅に袖で顔を隠す母上の姿が入り、どうやら母上は諸手を挙げて賛成しているわけではなさそうだったけど、構うものか。
早々に父上の部屋を辞したぼくは、自室に戻ったあたりで、心の底からじわじわと安堵感が広がってきた。
良かった。これで瑠璃さんと結婚が出来るんだ・・・。
本人のいないところで、結婚についての話し合いが行なわれていたというのが、なんだかなぁ・・・と言う気がしなくもないけど、まぁ、いい方向で話が付いてくれたのだから良しとしよう。
逸る気持ちを抑えるように、ぼくは腕組みをした。
やっぱり、ここは守弥に礼を言った方がいいのかな。
理由はどうであれ、結婚を後押ししてくれたわけで、守弥の意見は絶大な影響力があるから、母上も渋々とは言え認めてくれたのだろうし。
守弥を呼ぼうと顔を上げると、いつからそこにいたのか、守弥が部屋の隅に座っていた。
「・・・驚かすなよ。いつからそこにいたんだ」
「たった今です。お声をお掛けしたのですが、お返事がなかったもので」
「・・・・」
声を掛けられても気がつかなかったくらい、内心、浮かれていたということか・・。
当てこすりを言われたような気がするけど、まぁいいか。
守弥に礼を言おうと口を開きかけ、ぼくは口をつぐんだ。
礼を言って、素直に応じるような奴じゃないんだよな。
一計を案じたぼくは、おもむろに口を開いた。
「・・・おまえが、あの時に結婚を進めて正解だったと思えるくらいには結果を出すよ」
思ってもいない言葉だったのか、守弥の目が一瞬、見開かれた。
しばらくぼくをじっと見ていたかと思うと、やがて口の端の片方だけが微妙に引き上がったように見えた。
そのまま何も言わずに部屋を出ていく。
かなりの変化球だったし、守弥がどう受け止めたかはわからないけど、まぁ、これで良しとするか。
次に礼を言うのは、やはり姉上だろう───。
翌日、何とか午前中に仕事の区切りを付けると、その足で承香殿に向かった。
御簾を上げさせ人払いを済ませると
「高彬。おまえから訪ねてきてくれるなんて珍しいこと。さて、一体何のお話しなのかしら」
姉上は意味ありげに微笑んだ。
<続>
(←お礼画像&SS付きです)
※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
*** 筒井筒のお約束をもう一度・・49 <高彬・初夜編> ***
寝殿へと向かう渡殿を歩き、坪庭を横目に角を曲がったところで、出迎えの女房が数人控えているのが目に入った。
ぼくの姿を認めると、皆、一様に手を付いて頭を下げ、その姿を見てぼくは心の中で小さく笑ってしまった。
そういえばいつだったか、この辺りで女房に扮した瑠璃さんとばったり対面したんだよなぁ・・・。
いやはや、あの時はびっくりした。
おそらくぼくの人生の中でも、一、二を争うくらいの驚愕の出来事だったんじゃないだろうか。
・・・いや、待てよ。
確か童の頃に池に突き落とされたのもかなりびっくりしたし、突然、夜中に白梅院に来た時もびっくりしたしな・・・。
「おぉ、来たか。高彬」
あれこれ考えている間に部屋の前に来ていたみたいで、父上に声を掛けられた。
「まぁ、座れ、座れ」
「はい」
手招きされ用意されていた円座に座りながら周りをすばやく一瞥したぼくは、小さく息を吸い込んでグッと腹に力を入れた。
父上が正面に、少し離れた横には母上が座っており、そしてどういう訳だか部屋の隅には守弥が控えている。
───何なんだ、一体。
母上はともかく、どうして守弥がいるのかがわからない。
(どうしておまえがここにいるんだよ)
横目で睨むと、しっかり視線が合ったはずなのに、守弥は眉毛ひとつ動かさないでいる。
日頃、うるさいくらいに「若君、若君」とぼくに入れ込んでるくせに、平然とこういう態度を取るところが守弥の判らないところなんだよな。
「お呼びでしょうか。父上」
守弥についてあれこれ考えていても始まらないから、ぼくは父上に話しかけた。
「うむ。実はのう、昨日、公子に呼ばれて承香殿に出向いた」
「姉上に、ですか」
「うむ。そこで言われたのじゃ。高彬の婚儀はいつなのですか、と」
「・・・・・」
「まだ公子には、高彬と内の大臣(おとど)のところの姫との結婚の話はしておらぬはずなのに、どういうわけだか公子の耳に入ったらしくてのう」
耳に入ったも何も、本人同士が対面済みだとはさすがに言えなくて黙っていると、さらに父上は話を進めた。
「公子が言うのじゃ。瑠璃姫は心映えの豊かな優しい良き姫だ、と。自分は全面的に応援しているから、すぐにでも婚儀の話を進めるべきだ、とな」
父上はふぅっと大きく息を吐き、ちらりと隣に座る母上に目をやった。
「だが、そうは言っても、反対する声も多くてのう。・・・そこで守弥に相談してみたのじゃよ。そうしたら守弥はのう、帝の寵愛を一身に受ける愛妃である公子が進める婚儀であれば、出世にも有利に働くからおまえにとってプラスになることが多かろう、と言うのじゃ」
ぼくはちらりと守弥を見た。
相変わらずのポーカーフェイスで微動だにせず座っている。
「それで、ついさっきまで瑠璃姫との婚儀について3人で話し合っておってのう。二度も流れてしまったが、この辺りで日程を決めておくのはどうじゃろうか。三度目の正直と言う言葉もあるしのう。おまえの考えはどうじゃ、高彬」
「父上」
ぼくは矢も盾もたまらず、膝を進めた。
「もちろんぼくは瑠璃姫と結婚するつもりでいます」
「うむ」
「ぜひ、話を進めていただきたいと思っています」
「そうか、そうか。では、早急に内の大臣とも話しておかねばのう」
「ありがとうございます」
頭を下げると、視界の隅に袖で顔を隠す母上の姿が入り、どうやら母上は諸手を挙げて賛成しているわけではなさそうだったけど、構うものか。
早々に父上の部屋を辞したぼくは、自室に戻ったあたりで、心の底からじわじわと安堵感が広がってきた。
良かった。これで瑠璃さんと結婚が出来るんだ・・・。
本人のいないところで、結婚についての話し合いが行なわれていたというのが、なんだかなぁ・・・と言う気がしなくもないけど、まぁ、いい方向で話が付いてくれたのだから良しとしよう。
逸る気持ちを抑えるように、ぼくは腕組みをした。
やっぱり、ここは守弥に礼を言った方がいいのかな。
理由はどうであれ、結婚を後押ししてくれたわけで、守弥の意見は絶大な影響力があるから、母上も渋々とは言え認めてくれたのだろうし。
守弥を呼ぼうと顔を上げると、いつからそこにいたのか、守弥が部屋の隅に座っていた。
「・・・驚かすなよ。いつからそこにいたんだ」
「たった今です。お声をお掛けしたのですが、お返事がなかったもので」
「・・・・」
声を掛けられても気がつかなかったくらい、内心、浮かれていたということか・・。
当てこすりを言われたような気がするけど、まぁいいか。
守弥に礼を言おうと口を開きかけ、ぼくは口をつぐんだ。
礼を言って、素直に応じるような奴じゃないんだよな。
一計を案じたぼくは、おもむろに口を開いた。
「・・・おまえが、あの時に結婚を進めて正解だったと思えるくらいには結果を出すよ」
思ってもいない言葉だったのか、守弥の目が一瞬、見開かれた。
しばらくぼくをじっと見ていたかと思うと、やがて口の端の片方だけが微妙に引き上がったように見えた。
そのまま何も言わずに部屋を出ていく。
かなりの変化球だったし、守弥がどう受け止めたかはわからないけど、まぁ、これで良しとするか。
次に礼を言うのは、やはり姉上だろう───。
翌日、何とか午前中に仕事の区切りを付けると、その足で承香殿に向かった。
御簾を上げさせ人払いを済ませると
「高彬。おまえから訪ねてきてくれるなんて珍しいこと。さて、一体何のお話しなのかしら」
姉上は意味ありげに微笑んだ。
<続>
(←お礼画像&SS付きです)
コメントの投稿
非公開さま(Rさま)
確かに<大火傷>の辺りでしょうかね。
でも、瑠璃には確か「あの守弥にしては」みたいな言い方されてましたよね。
やっぱり瑠璃も、そう思ってるんですね。
最大の守弥の功績は、こうして私達ジャパネスクファンを楽しませてくれること!でしょうか(笑)
でも、瑠璃には確か「あの守弥にしては」みたいな言い方されてましたよね。
やっぱり瑠璃も、そう思ってるんですね。
最大の守弥の功績は、こうして私達ジャパネスクファンを楽しませてくれること!でしょうか(笑)
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非公開さま(Rさま)
Rさん、こんにちは。
守弥の実力・・・。う~ん、ほんと謎と言うか未知数ですよねぇ。
Rさんは、原作で「守弥あっぱれ!」と思った場面ってあります?(笑)
もしも私が守弥の紹介文を書くとしたら
「高彬に思い入れを持つ余り、瑠璃に嫉妬心を持つ。しかし吉野での記憶喪失をきっかけに、瑠璃に対して微妙な想いを持つことに。「頭脳専門」と評される彼が、果たしてその真価をいかんなく発揮する場面はあるのか?!」
とかこんな感じになると思います。
つまり、発揮したことがないってことです(笑)
守弥の実力・・・。う~ん、ほんと謎と言うか未知数ですよねぇ。
Rさんは、原作で「守弥あっぱれ!」と思った場面ってあります?(笑)
もしも私が守弥の紹介文を書くとしたら
「高彬に思い入れを持つ余り、瑠璃に嫉妬心を持つ。しかし吉野での記憶喪失をきっかけに、瑠璃に対して微妙な想いを持つことに。「頭脳専門」と評される彼が、果たしてその真価をいかんなく発揮する場面はあるのか?!」
とかこんな感じになると思います。
つまり、発揮したことがないってことです(笑)
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こももさま
こももさん、こんにちは!
こももさん、どうされているかと毎日、ブログをチェックしてたんですよ~。
新学期も始まったし、だいぶ新生活も軌道にのってきた頃でしょうか?
> 守弥は渋々折れたのか?
> 言ってる通り、計算の上の判断なのか?
> 読めないけど…まいっか♪
実は私も読めてません(笑)
だって守弥って本当に何考えてるか判らなくて!(何も考えてなかったりして)
ま、いっか、ですよ。
ブログの更新も楽しみにしてま~す♪
こももさん、どうされているかと毎日、ブログをチェックしてたんですよ~。
新学期も始まったし、だいぶ新生活も軌道にのってきた頃でしょうか?
> 守弥は渋々折れたのか?
> 言ってる通り、計算の上の判断なのか?
> 読めないけど…まいっか♪
実は私も読めてません(笑)
だって守弥って本当に何考えてるか判らなくて!(何も考えてなかったりして)
ま、いっか、ですよ。
ブログの更新も楽しみにしてま~す♪
瑞月さん、お久しぶりです!
お話、楽しませていただいてるのに、
いつもコメなしの拍手だけですみませんでした(^_^;)
そっかそっか、承香殿女御さまが推してくれてたんですね。
守弥は渋々折れたのか?
言ってる通り、計算の上の判断なのか?
読めないけど…まいっか♪
高彬ぁ、よかったねぇ。
お話、楽しませていただいてるのに、
いつもコメなしの拍手だけですみませんでした(^_^;)
そっかそっか、承香殿女御さまが推してくれてたんですね。
守弥は渋々折れたのか?
言ってる通り、計算の上の判断なのか?
読めないけど…まいっか♪
高彬ぁ、よかったねぇ。