*** 筒井筒のお約束をもう一度・・41 <高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・41 <高彬・初夜編> ***  









「あの・・・右近少将さま。夕餉のご用意が整いましたが、お運びしてもよろしいでしょうか・・・」

声をかけられ顔を上げると、部屋の隅に女房が手を付き、遠慮がちにぼくを見ている。

「まだいい・・・・、あ、いや、お願いするよ」

いったんは断りかけて、慌てて言い直した。

女房の様子がいかにも<恐る恐る>と言った感じだったので、気の毒になってしまったのだ。

小萩がぼくのことを持ち上げすぎているのか、はたまた将来の婿君だから失礼のないようにとでも言い含められているのか判らないけど、どうも山荘の者たちはぼくに気を遣い過ぎているような気がする。

あまりに気を遣われると、かえって気詰まりなんだけどなぁ・・。

ほっとしたように下がっていく女房を見送りながら外に目をやると、雨空の向うに幾重にも連なる山の稜線がけぶって見えた。

朝から降り出した雨は、夕刻の今も降りやまず、どうやら今日は終日、雨のようだった。

降り続く雨のせいで、土や葉の匂いがむわっと立ち込めており、湿気を含んだ空気と一緒に部屋の中にまで流れ込んできている。

───ふぅ。

大きなため息と共に腕を組む。

どうにも昨日からの怒りが収まらない。

昨日、突然にやってきた宮中の使者は、驚くべきことに我が姉上、承香殿女御のお付きの者だったのだ。

その女房───顔なじみの伊勢の話を聞いたぼくは、あやうく卒倒しそうになった。

なぜなら、瑠璃さんが助けた童は、畏れ多くも東宮であらせられたと言うのだ。

事の次第を簡潔に言うと、つまり一人で外歩きをしていた瑠璃さんが、同じくお一人で外にお出になっていた東宮を見かけ、どういう経緯かは判らないけれども、崖を落ちそうになっていた東宮をかばい、諸共に崖を滑り落ちた・・・・と言うことらしいのだった。

それで、明日、姉上がお礼がてら瑠璃さんに挨拶に来ると言う話だったのだけど・・・。

こんなことってあるのだろうか。

すべての設定が、ぼくの理解の範疇を超えている。

百歩譲って瑠璃さんの外歩きは判るとして、何ゆえに東宮が、ここ吉野で、しかもお一人でお歩きになると言うのだろうか。

幼い東宮がお一人で外にお出になるなど、ありうべからざることなのである。

伊勢曰くは、姉上は時々お忍びで東宮をお連れして吉野に来ていると言うことなのだか、我々、近衛府の人間からしたら、とんでもない話だ。

姉上は、我々が日夜どんな思いで今上や後宮に住まわれる方々の警護に当たっているかをご存知ないのではないだろうか。

東宮や、その生母であるご自身がどれほど貴き存在かをご存知ないのでは───

「・・・怖い顔ね」

ふいに近くで声が聞こえて顔を上げると、いつの間に来たのか瑠璃さんがいた。

「瑠璃さん・・・」

「すごい皺が寄ってるわよ、ここに」

眉間を指差しながら言い、ぼくの隣に座った。

「明日、女御さまがいらっしゃるけど。・・・・ひどいこと言ったらだめよ」

「ひどいことって・・・。そうは言っても、もう少しで東宮の御身に・・・」

「今回のことで一番、お心を痛めてらっしゃるのは、おそらく女御さまよ。どれだけ恐ろしい思いをされたか想像に難くないわ。反省だって十分にされてるはずよ。これ以上、回りでとやかく言うことないのよ」

記憶を失っているとは言えさすがは瑠璃さん、ぼくの言葉をさえぎると一息に言う。

「しかしね、瑠璃さん」

身を乗り出した途端

「・・・あのぅ・・・夕餉をお持ちいたしましたが・・・」

おずおずと声を掛けられ振り向くと、手に手に盆や高杯を掲げ持った女房が2人、部屋の隅で控えていた。

瑠璃さんがそれを見て部屋を出て行ってしまったので、雨音を聞きながら一人で食事を摂る。

「ご馳走さま。美味しく頂いたよ」

あれこれ思うことがあり、ほとんど味なんてわからなかったけれど、一応労いの言葉をかけると、女房は一礼をして下がって行った。

暗くなりかけた空に、さっきよりも濃くなった稜線が浮かび上がって見える。

───姉上と言い、瑠璃さんと言い、危機管理能力が少し低すぎるんじゃないのか。

ぼくはまたしてもため息を付いた。




****************************************




翌日は昨日の雨が噓のような良い天気で、姉上の到着を部屋で待ちながら、ふと

(そういえば姉上は、何かと天候に恵まれている方だったよなぁ)

などと思い出していた。

裳着を迎えられた日も、入内した日も、晴天だったように思う。

庭先に牛車が着いた気配があり、ぼくは瑠璃さんのいる部屋へと向かった。

軽く合図をして着座すると、瑠璃さんが何か言いたげな顔でこちらを見てきたのだけど、今、瑠璃さんと会話をしたらペースを崩されそうなので、とりあえず頷くだけに留める。

ほどなくして、小萩の先導で姉上がやってきた。

久しぶりに見た姉上はお元気そうで、そこは安心したけれども、ぼくはすぐに気持ちを引き締めた。

言いたいことは山ほどあるんだ。

そんなぼくの気配を察したのか、姉上はちらりとぼくを見て、でもすぐに視線を瑠璃さんに戻すと

「瑠璃さま、このたびのこと、本当に申し訳なく、ありがたく思いますわ」

手を付き頭を下げた。

「あの・・・」

「姉上。承香殿女御と言わずに、あえて姉上と申し上げます。この度のお振舞いは、あまりにご軽率なのではないでしょうか」

瑠璃さんが何か言いかけたのを遮り、ぼくは身を乗り出した。

隣の瑠璃さんが不満気にぼくを見ている視線を感じたけれど、言わずにはいられない。

姉上はぼくの語気の強さに驚いたのか、はっとしたように顔を上げ

「えぇ・・・本当に。高彬、あなたの言うとおりですわ。東宮さまの身も危うかったし、瑠璃さままで・・」

言うほどに言葉が弱まり、最後には黙り込んでしまった。

「あの・・・、あたしは全然、大丈夫ですわ。怪我も大分、良いのですわ、女御さま」

ちらちらとぼくを非難がましい目で見ながら、瑠璃さんが言い

「でも、瑠璃さまのご記憶が・・・」

細々と消え入るような声で姉上が答えると

「記憶なんてすぐに戻りますわ。戻らなかったら、その時はその時。新しい思い出を作っていけば良いだけですもの。東宮さまがご無事で何よりでしたわ」

ことさらに明るい声で瑠璃さんは請け合っている。

「明るい方ね、瑠璃さま。明るくて、そうして優しい方。・・・ありがとう」

「いいえ、そんな・・・」

姉上と瑠璃さん、手を取り頷き合っており、ぼんやりと2人のやり取りを見ていたぼくは我に返った。

何でこんなに綺麗に話がまとまるんだよ!

初対面のくせに息が合いすぎだろう。

「姉上」

これで話を終わらせてはならないと、ぼくは膝を進めた。





<続>


瑞月です。

お陰さまで、母は先週末に退院することが出来ました。お見舞いメッセージなど、本当にありがとうございました。

初夜編、再開いたしました。

年度末で学校行事など続きますが、テンポの良い更新を目指したいと思っています。

50話くらいで完結する予定ですので、よろしければお付き合いください。

(←お礼画像&SS付きです)

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非公開さま(Mさま)

すみません、言葉足らずでした。
「メールフォーム」は画面右側の一番下に設置してあります。
(パソコンで見てる場合ですが。スマホなどですとちょっと画面が違うかも知れません)
「メールフォーム(ご用の方はこちらから)」と書いてあるところです。
もしくは「コメント本文内」にアドレスを書いていただけますでしょうか?
Mさんの書いた場所だと、どういうわけだかこちらからアドレスが見えないのです。
お手数お掛けしますがすみません。

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こももさま

こももさん、こんにちは!

> 眉間にシワ寄せてる高彬が怖いからなのでは??

言えてますね~。
どっか高彬って、自分をわかってないところありそうですしね

> 瑠璃さんに泣かれちゃうぞ〜。

はい、次回、瑠璃に泣かれます(笑)

非公開さま(Mさま)

温かいお言葉、ありがとうございます。
初夜編、再開しましたのでよろしくお願いします。

別館なのですが、一度メールフォームからご連絡をいただけますか?
折り返しこちらからメールさせていただきます。

瑞月さん、こんばんは☆彡
お忙しい中の更新、ありがとうございます!

お母様のご退院、良かったですね。
慣れたご自宅でゆっくりされて、
少しずつ日常を取り戻していかれるといいですね(^_^)

山荘の女房たちが恐る恐るなのは、
小萩のせいとか将来の婿君だからとかよりも、
眉間にシワ寄せてる高彬が怖いからなのでは??

そんなにお仕事モードでカリカリしてると、
瑠璃さんに泣かれちゃうぞ〜。






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非公開さま(Mさま)

Mさん、おはようございます。

女難の相!まさしく・・(笑)
原作で本人も「この年で女性不信になりそうだよ」とか何とかぼやいてましたよね。
瑠璃には「浮気の心配がなくていいわ」なんて軽くあしらわれてましたけど(笑)
高彬って女性から見たら何でも聞いてくれそうな雰囲気を持ってる人なんでしょうねぇ・・。
でも忘れちゃいけないのは、彼はものすごい御曹司で、かつ有能と言うことです!
ただの「いい人なんだけど、恋人にするにはちょっと・・」ってタイプではないわけです。
あ~、やっぱり高彬ってかっこいい(笑)

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