*** 筒井筒のお約束をもう一度・・40 <高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・40 <高彬・初夜編> ***  









ふと遠くに聞こえた人の声は何かを大声で叫んでいるような感じで、何事だろうと耳をすませてみても、聞こえてくるのは鳥のさえずりだけだった。

気のせいだったかと思い瑠璃さんに話しかけようとしたところで

「・・・・・ぎみー、わ・・・ぎみー」

やはり途切れ途切れの叫び声が聞こえ、それが段々と近づきはっきりと聞こえ出すと、何のことはない

「若君ー、若君ー、高彬さまー」

とぼくの名前を連呼する、政文の声なのだった。

野原に入ると慌しく辺りを見回し、岩に腰掛けるぼくの姿を認めると、転がるようにしながら近寄ってくる。

岩の横に膝を付き

「若君っ、ご無事でしたかっ。ふいにお姿が見えなくなり、ぼくはもうどこに行かれたのかと・・・・」

ぼくに縋りつかんばかりに言う。

どうやら政文からは、ぼくの死角となり瑠璃さんの姿は見えていないようだった。

そういえば、瑠璃さんの部屋からそのまま出かけてしまったから、政文に声を掛けるのを忘れていた。

「あぁ、悪かったね。天気も良いから散歩にでも・・・」

「悪かった、で済まされることではございません。若君」

きっと顔をあげると

「守弥さんから、どんなことがあっても若君をお守りしろときつく申し付けられています。出掛けに守弥さんが言ってました。若君は自分にとって、いつまでも出会った頃の5歳の童のままなのだ、と。あの守弥さんが柄にもなくしんみりと言うから、ついうっかり涙ぐんでしまったくらいです。若君の身に何かあったら守弥さんに会わせる顔がありません。・・・何があってもこの政文、若君をお守り致します」

気色ばんで言う。

ぼくの心配半分、帰って守弥にどやされたくない気持ち半分、と言ったところだろうか。

「わかったから下がってくれ。もうしばらくしたら戻るから・・」

「もうしばらくなどと言わずに、ただいますぐに、この政文めと・・・」

尚も食い下がる政文に、判らせるように少し身体をずらすと、袖で顔を隠す瑠璃さんの姿がようやく目に入ったのか、政文は文字通り、数歩後ろに飛びのき

「も、申し訳ございません。姫君さまがいらっしゃるとは思いも寄らずに・・」

平伏しうろたえた声を出す。

「いいよ。黙って出てきたぼくも悪かった。すぐ戻るから先に行っててくれ」

来た時同様に、転がるように戻って行く政文の姿がすっかり見えなくなったところで、瑠璃さんがふぅ・・と息を吐き出す気配がした。

「・・・・・・」

少しの沈黙が流れ

「ずいぶんと・・・心配されてるのねぇ・・・・。その、守弥とか言う人に・・」

感に堪えないように瑠璃さんが言い、ぼくはがっくりと肩を落とした。

心配してくれる気持ちはありがたいんだけど、少し過保護なんだよ、うちの者は皆。

たった今<瑠璃さんはぼくが守るから>とかっこ良く言ったばかりなのに、ぼくを<お守り>するだの、5歳の童だの・・。

おまけに守弥、守弥と連呼しやがって。

心配するにしても、時と場所を考えてくれよ。

「そういえば、まだ年を・・・聞いてなかったわね」

どういう思考を経たのか瑠璃さんが言い、聞かれたからには答えないのは不自然な質問なので、ぼくは渋々と口を開いた。

「あなたより・・・、瑠璃さんより一つ年下なんだ・・」

「へぇ、年下なの。・・・ふぅん」

何を思うのか、そのまま黙り込み、ちらちらとぼくを横目で窺うように見る。

その目はさっきあった<信頼と期待>ではなくなっているようで、どうにも落ち着かない。

「年下じゃ、・・・・・まずいかな?」

恐る恐る聞くと

「そんなことはないけど」

にっこりと言われ、安堵しつつも、口調がすっかり普段の瑠璃さんのものに近くなっていることに気が付いた。

瑠璃さんなりに心境の変化があったのは明確で

「さ、今日はもう戻りましょう。陽が翳ってきたわ」

そういう言い方は、どことなく年上じみている。

「・・・うん」

返事をしながら

(やっぱり人間関係って言うのは、落ち着くところに落ち着くものなのかも知れないな)

などと変なところで感心してしまった。

どう取り繕ったところで、どうやらぼくは瑠璃さんに頭が上がらないみたいで、それはそれで悪くないと思える。

抱きかかえて歩き出し、少しすると

「少し歩いてみようかしら」

と言うのでそっと下ろして手を貸してやると、瑠璃さんは一歩一歩確かめるように歩きだした。

ゆっくりと手を繋ぎながら歩いていると

「ありがとう。京からわざわざ来てくれて・・・」

俯いたまま瑠璃さんが言った。小さな声だった。

「婚約者なんだから当たり前だろう」

「・・・うん」

立ち止まり、ぼくたちは接吻をした。




**********************************************




「まあまぁ・・・!姫さまのご記憶がお戻りになったのかと思いましたわ」

山荘に着いたぼくたちを出迎えた小萩の第一声がこれだった。

よほど打ち解けて見えたらしい。

「・・・少将さまには、どんな秘策がございましたの?」

目を見開いたまま尋ねられ、ぼくは澄まして答えた。

「秘策なんてないさ。一緒に桜を見てきただけだよ」

まさか、年下とばれたのも要因だとか、果ては接吻までしたから、と正直に言わなくてもいいだろう。

「そうそう、小萩。瑠璃さんに結婚のお許しをいただいたよ。おまえもそのつもりでいておくれね」

「まぁ!少将さま!」

小萩は更に目を剥いた。

「やっぱり何か秘策がございましたのね。桜を見てきただけでご結婚のお約束をなさるなど、いくら小萩が独り者とはいえ、とうてい信じられませんわ」

さすがは瑠璃さん付きの女房、なかなかにするどい指摘で

「困ったな・・。そう問い詰めないでくれよ」

助け舟を求めて瑠璃さんを見ると

「まぁいいじゃない、小萩。後で教えてあげるわ」

瑠璃さんは小萩に意味ありげにウインクをして見せ、ぼくたちは声を上げて笑った。

袖で口元を押さえ笑っていた小萩は、ふいに泣き笑いの顔になり

「こうしていると、まるで以前のままのようですわ。高彬さまのお陰ですわ・・・」

袖で涙をぬぐっている。

そうして涙ぐんだことを恥じるかのように「おやつでもいただいてきましょう」と独りごちると部屋を出て行った。

「秘策ですって、小萩ったら。何を想像していたのかしらね」

小萩の足音が聞こえなくなるのを待ち構えたように瑠璃さんが言い、くすくすと笑っている。

「さぁ、どうだろうね。女の人は時として、驚くようなことを思い付くみたいだからね」

以前、煌姫とぼくが恋仲だと言う事を瑠璃さんが勘違いしていたことを思い出して言ってみると

「そういうものかも知れないわね」

他人事のように頷くのもおかしかった。

小萩が持ってきたおやつを食べながらくつろいでいると、バタバタと簀子縁を駆けてくる音が聞こえてきた。

現れたのはさっき下がったばかりの小萩で、よほど慌てているのか肩で大きく息をしている。

「どうしたの、小萩」

瑠璃さんの問いに、小萩は何度も息を整えると手を付いて頭を下げた。

「申し訳ありません。たった今、宮中からのお使者が参られました」

「宮中から?」

ぼくと瑠璃さんの声が重なった。





<続>

(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

さりいさま

さりいさん、こんばんは!

ようやく吉野編までやってきました。

>人間、何歳になっても胸キュンを体験出来るんだなぁ、なんて変な事に感心しながら楽しませて頂いてます。

私は実生活ではなかなか胸キュンが出来なくなっていますが(笑)ジャパネスクを読むときはいつでも心は思春期に戻るみたいです!
あ、でもこの間、いつも行く八百屋さんのおじさんが林檎をおまけしてくれて、その時は胸がキュンとしましたね(笑)

> 最近、また何となくジャパネスクの原作や漫画を読み返していました。何故か私は、この寒い時期にジャパネスク熱が入るみたいです。

人恋しい季節、だからでしょうか?!
言われてみればジャパネスクって冬のイメージがあるなぁ・・・と思い、考えてみたのですが、そもそも記念すべき瑠璃の第一声が「冬だ」でしたね(笑)
あとは吉野の雪景色とか、その辺りのイメージかも知れません。
ほんと、時間があったら10冊一気読みとかしてみたいです。

>やっぱり旧版のジャパネスクが、いいなぁ。漫画も、人妻編より昔の絵がいいなぁ。

うんうん、そうですよねぇ。
新装版は一読したくらいですが、やっぱり旧版が私も好きです。挿絵の感じや表紙の絵も。
旧版一巻目表紙の瑠璃の可愛いこと!
それが巻が進むに連れどんどん大人びてきて、並べて見てみると、感慨深いものがあります。

「冬はつとめて」14日にアップできるか微妙な感じなのですが、なるべく早めにアップしたいと思っています!
また読んでくださいね^^


瑞月さん、こんにちは!
あぁ…いいですね、吉野編。噛み締めながら読んでます。高彬が号泣しちゃう所や、2人の外出場面は、勿論瑠璃編にも立ち返り、両方読んでは胸がキュキューン、心臓ツキツキ、時々ホロリと。人間、何歳になっても胸キュンを体験出来るんだなぁ、なんて変な事に感心しながら楽しませて頂いてます。

高彬が年下だとバレたエピソードは笑わせて頂きました。きっと高彬がいくつになっても、どんなに偉くなっても、過保護な右大臣家の面々ってのは変わらないんだろうなーなんて思います(笑)

らぶらぶサークルさんの方の作品も拝読しました!写真もなかったんですものねー似顔絵、嬉しいですよね。微笑ましくてほっこりしました。

あら、あと数日で、冬はつとめてが読めるんですか?!楽しみ!
最近、また何となくジャパネスクの原作や漫画を読み返していました。何故か私は、この寒い時期にジャパネスク熱が入るみたいです。やっぱり旧版のジャパネスクが、いいなぁ。漫画も、人妻編より昔の絵がいいなぁ。子供の頃に入った記憶や感覚は、大人になっても残るんだなぁ、それだけインパクトがあったんだなぁ、と色々思いを馳せていました(笑)

すいません、久しぶりにコメントしたら、また長すぎました!

こももさま

こももさん、おはようございます!

> 惜しくもその一話で高彬くん、
> 吹っ切れたのか前向きになっちゃってたし(笑)

気持ちの切り替えが早いんです、高彬は(笑)

> 二人のこの力関係が醸し出す雰囲気が、

高彬は何だかんだ言って、瑠璃につけつけと上から目線で(笑)言われることが好きなんでしょうね。


瑞月さん、おはようございます( ´ ▽ ` )ノ
久々のコメですみませーん。

しかも、私が待ちに待っていた、
瑠璃さんの枕辺でむせび泣く高彬のシーンにもコメしそびれてしまい(T ^ T)
惜しくもその一話で高彬くん、
吹っ切れたのか前向きになっちゃってたし(笑)

<信頼と期待>の優越感は、一話も持ちませんでしたねぇ。
政文は、いい仕事してくれました。
やっぱ、瑠璃さんは腐っても瑠璃さんなわけで。
秘策は、年下夫(まだ結婚してないけど)とバレたこと、では?
二人のこの力関係が醸し出す雰囲気が、
すっかり以前のままだと小萩は感じたんでしょうね(⌒-⌒; )





非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは!

確かに「ありのままの~♪」ですね(笑)
命名の反対、ご主人のかわいい妬きもちでしょうか。
そういえば、リアルで「高彬」「瑠璃」って名前の人、見たことないです。
いたらとりあえず声をかけてしまいそう・・(笑)

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