*** 筒井筒のお約束をもう一度・・35<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・35 <高彬・初夜編> ***  









「えぇっと、そのう・・・あの・・・」

<婚約者>と言う言葉によほどびっくりしたのか、しばらく呆けたような顔をしていた瑠璃さんが、恐る恐る・・・と言う感じで口を開いた。

後ろに控えている小萩が袖で顔を覆うような仕草をしており、どうやら涙ぐんでいるようで、ぼくはふと、今回のことで一番心を痛めているのはもしかしたら小萩なんじゃないかと思ったりした。

口を開いてみたものの次の言葉が出てこないようなので

「ぼくと瑠璃さんは幼馴染なんだ。弟の融と・・・・融にはもう会っただろ?わかる?」

瑠璃さんが小さく頷いたので

「三人でよく遊んでいたんだよ。三条邸の・・・京にある瑠璃さんちの庭でね」

「三人で・・・庭で・・・」

「うん。石蹴りをしたり相撲をとったり。一日中、泥だらけになって遊んだものだよ。ぼくは瑠璃さんに、よく投げ飛ばされたな」

瑠璃さんが強すぎたのか、ぼくが弱すぎたのか判らないけれど、実際よく投げ飛ばされたものだった。

(あ、来るな)

と思った時にはもう遅く、天地はひっくり返り青い空が見えていた。

『また瑠璃の勝ちね!』

得意そうな瑠璃さんの声が響き、でも、瑠璃さんは必ず駆け寄って来て怪我をしていないか、すばやく目を走らせてくれていた。

ある時からそれに気が付いたぼくが、わざと動かないでいたら

『ねぇ、大丈夫?大丈夫?』

と真っ青になりながらぼくを揺さぶり、そっと目を開けたところで目が合うと

『もう!早く起き上がりなさいよ。まったくグズなんだから』

とプンプン怒っていたっけ。

まったくあの頃から瑠璃さんは・・・。

当時を思い出し、ふと懐かしい気持ちに浸っていると

「投げ飛ばした・・・?あたしが?」

自分の胸元を押さえながら、瑠璃さんが心底驚いたような声で言った。

「うん。そういえば池に落とされたこともあったよ」

顔を覗き込みながら言うと

「池に?」

今度は眉根を寄せ、疑わしそうにぼくを見返してきた。

自分がそんなことをしていたとは、どうにも信じられないらしい。

自分のしたことを聞いて目を真ん丸くして驚いているということは、姫らしくない姫だと言うことを自分で認めたようなもので、ぼくは心の中で一瞬

(瑠璃さんの記憶が戻ったら、絶対に言ってからかってやろう──)

と楽しく思い、けれど、そのすぐ後に

(記憶が戻ることなんてあるんだろうか・・)

なんて気弱に思ったりで、ぼくもかなり心がざわついているのだった。

思えばここ数日間、驚きや心配で気の休まる時がなかった。

それはもちろん、三条邸の方々も同じなわけで・・・

「・・・・結婚は・・・・いつなのかしら・・?」

黙り込んでいた瑠璃さんが口を開き、ふいに核心を突かれたような気がしてぼくは一瞬うろたえてしまった。

気付かれないように一回、呼吸を整えて

「ちょうど一月後だよ」

ぼくは答えた。

「一月後・・・」

瑠璃さんは考え込むような顔になり、何かを言いかけて口をつぐみ、何度かそれを繰り返した後、ようやく意を決したように顔を上げた。

ぼくは瑠璃さんの口が動くのを固唾を飲んで見守った。

きっと瑠璃さんは───

「あのぉ・・・どうして、あたしは吉野に来たのかしら・・・?」

「・・・・・・」

想像していたものとは違う瑠璃さんの言葉に、知らずにふぅっと大きな息が漏れた。

ぼくにはある予感があったのだ。

───こんな状況だし、婚約を解消してもらいたい。

瑠璃さんは、こんなことを言い出すんじゃないかって・・・。

違ってて良かった。

良かったのだけど、でも、今の質問も核心を突いてることには変わりないわけで、ぼくはそっと居住まいを正した。

『どうしてあたしは吉野に来たの』か・・。 

瑠璃さんは何もかもを忘れているんだ。何もかもを。

わざわざ言わなくてもいいんじゃないのか?

そうすれば瑠璃さんは、きっと思い出さない。

幼い日の、初恋の君のことを───。

一瞬、浮かんだ自分の考えに、苦い笑いがこみ上げる。

何、卑怯なことを考えているんだ、ぼくは。しっかりしろよ。

いったん、外の景色に目を向けた。

春の空にはサッと刷毛で描いたような薄い雲があり、遥か遠くの稜線は桜色に霞んでいる。

そこかしこで鳥のさえずりが聞こえ、追いかけるような犬の鳴き声がしている。

吉野は本当に良いところだった。

「ここ吉野は・・・」

瑠璃さんに向き直り、ぼくは口を開いた。

「瑠璃さんが幼い頃に過ごした地なんだ」

「そうなの・・・」

「それで・・・」

迷いを振り払うよう一息に言う。

「瑠璃さんには、吉野君と言う初恋の君がいたんだ」

「初恋の君?」

「そう。瑠璃さんが十歳の頃に亡くなられたそうだ」

うっすらと瑠璃さんの眉間に皴が寄り、気持ち、身を乗り出してきた。

「これはぼくの想像だけど、瑠璃さんは結婚する前に、初恋の君と過ごした思い出の地に来たかったんじゃないかと思う」

「思い出の地・・・」

そう呟くと瑠璃さんは黙り込み、何かを思い出そうとしているのか難しい顔をしている。

下唇を噛み、これは何か考え事をしてる時の瑠璃さんの癖で、記憶を失くしていても同じ癖が出てることが何だか嬉しかった。

長いこと瑠璃さんは黙り込んだままで、何か言葉を掛けようとしたところで、ふいに小萩の声がした。

「あまり長くのご語らいはお身体に悪うございますわ。高彬さま、また後刻にされては・・・」

しきりにぼくに目配せをする。

「あぁ、そうだ。すまなかったね。瑠璃さん、いったん、失礼するよ」

立ち上がり瑠璃さんに挨拶をすると、瑠璃さんはあやふやな笑顔を浮かべてゆっくりと頷いた。

色々な話を聞かされて疲れてしまったのだろう。

綺麗に整えられた部屋に通されると、見慣れない顔の者が白湯を持って来てくれて、ぼくは一息に飲み干した。

相当、気が張っていたようだった。

「少将さま」

声の方を振り向くと、部屋の隅には小萩が控えており

「お疲れのようでしたので、出過ぎたことと思いながらお声を掛けさせていただきました。あまりお顔の色が良くないように見受けられますが・・・」

「ぼくの?」

「はい。京から来たばかりですし、かなりお疲れのようかと・・・」

そうか、小萩はぼくの身体を案じて、話を切り上げるよう取り計らってくれたのか。

「ありがとう。少し休めば大丈夫だよ。それよりも、小萩もさぞびっくりしただろう。大変だったね」

労うと、それまで笑っていた小萩はグッと言葉につまったかと思うと

「このたびは・・・このたびは・・・本当に申し訳ございません・・!」

堪えきれずに、はらはらと涙を流し始めた。





<続>

(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

こももさま

こももさん、こんばんは~。

> せっかく忘れてくれてるんだもん、
> わざわざ思い出させたくないよねぇ。

そうなんですよねぇ。
でもきっちりと言うところが高彬!
きっと権少将だったら言わないはず。(←奴は見るからに卑怯者っぽいですからね)

> 初夜まではまだチョットあるけど(笑)がんばれ!

あと一山、二山・・・う~ん、三山くらい越えたら初夜ですね(笑)

瑞月さん、こんにちは。

そっか、吉野の君のことを瑠璃さんに伝えるかっていう葛藤があったのね。
せっかく忘れてくれてるんだもん、
わざわざ思い出させたくないよねぇ。
でも。さすがはオトコ高彬〜ヾ(*゚▽゚*)ノ

初夜まではまだチョットあるけど(笑)がんばれ!

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瑞月(みずき)です。

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