*** 筒井筒のお約束をもう一度・・33<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・33 <高彬・初夜編> ***  









夜も明けきらぬうちに目を覚ましたぼくは、急ぎ寝所を飛び出し妻戸を開けた。

まだ空は真っ暗だったけれど、それでも東の空の山際が少し白み始めている。

良かった。この分なら、今日は晴れそうだ───。

京から吉野まで休まず馬を駆れば半日で着くだろう。

今日の午後には吉野入りし、瑠璃さんに会えるはずだ。

物音に気付いた女房数人が姿を現し、ぼくは手早く身支度を整えた。

厩に行くと疾風は今すぐにでも出立できるよう鞍が装備されており、ぼくの顔を見るとまるで挨拶するかのようにぶるるっと首を振った。

応えるように首を撫ぜてやっていると、少し奥に同じように鞍が装備されている馬がいることに気が付いた。

よくよく目を凝らすと、それは右大臣家でも一、二を争う駿馬で、父上が御幸に付き従われる折などに使われる馬だった。

父上自慢の栗毛が暗い場所でも艶やかに光っているのが見て取れる。

どうして・・・と思っているところに、政文が現われた。

狩衣に狩袴と言ういでたちで、一目で騎馬するための格好だということが判る。

「政文・・・」

「若君の供をするように守弥さんから言われました。道中、何があっても若君をお守りしろと」

よく見ると、政文は太刀も帯びていた。

「・・・・・・」

政文はぼくの側近の中でも馬の名手で、手馴れた様子で栗毛色の馬を引き寄せると

「この馬ならば、若君の疾風にも遅れを取りませんよ。何と言っても両馬とも右大臣家きっての駿馬ですから」

まるで自分の馬でもあるかのように自慢げに肩を揺すった。

「だけど、その馬は父上の・・・」

「昨夜のうちに守弥さんが段取りをつけていました。この馬なら若君の脚を引っ張らないだろう、と。かなり強引な手段で大臣の馬番から借り受けたみたいですけど・・・」

「・・・・」

あいつ・・・。

昨夜、澄ました顔の下でこんなことを考えていたのか。

ぼくはまたてっきり、嫌味のひとつでも言われるんじゃないかと、はなから好戦的な態度を取ってしまった。

勘ぐったりして悪かったな・・・。

「高彬さま!」

振り向くと、向うから顔を袖で隠した女房が小走りにやってくるところで、声で大江だと言うことは判るのだけど、顔を隠している理由が判らない。

息を切らしてぼくの前に立つと

「どうかお気を付けて、いってらっしゃいませ」

と頭を下げた。

顔を隠したままなのが不思議でまじまじと見ていると、視線に気が付いて頭を上げた大江は

「顔がパンパンなのですわ。昨夜、泣き過ぎちゃったみたいで・・・」

恥ずかしそうに袖の端から顔を覗かせた。

あの後、自分の局でも散々泣いたようで、他人のことでそこまで盛り上がれると言うのは、これはもう一種の才能なのかも知れない・・・とすら思えてくる。

だけど、大江が親身になってくれるのはやっぱり嬉しかった。

「私、瑠璃姫さまのお付きの女房の方に文を書いて見ますわ。女同士の方が色々と細かな情報が判るかも知れませんもの」

「うん、頼む。それと守弥に・・・」

礼を言っておいてくれ、と言いかけて言葉を飲み込んだ。

帰ってきたら自分で言おう。

まぁ、なんだかんだ言って守弥はいい奴だ、うん。

政文はと見ると、とうに騎乗しておりいつでも出立できる態勢が整っているようだった。

「では、行ってくる」

鐙(あぶみ)に足を乗せ勢いを付けて騎乗する。

ぐんとひらけた視界の隅に、按察使の姿を見かけ、ぼくは慌てて馬から降りると近づいた。

「按察使、起きだして大丈夫なのか」

夏に一度、倒れた按察使は、それ以来、寝たり起きたりを繰り返しているのだ。

「大丈夫ですわ、高彬さま」

按察使はゆっくりと頷づき微笑んだ。

「高彬さま、こたびのこと按察使の耳にも入って参りましたわ、瑠璃姫さまが・・・」

「・・・・・」

「どうかお気を落とされずに。高彬さまも瑠璃姫さまも、まだ十分すぎるほどにお若いのですもの。時間はたっぷりありますわ」

「時間・・・?」

按察使の言うことが判らずに聞き返すと

「えぇ。例え瑠璃姫さまのご記憶の中から高彬さまが消えたとしても、また出会ったらよろしいではありませんか」

「出会う・・・」

「高彬さま。縁ある人とは、何度でも出会えるものですのよ」

「・・・・」

「何度でも出会い、何度でも好きになったらよろしいではありませんか」

何度でも好きになる。

縁ある人とは、何度でも出会える。

「・・・うん」

そうか。

ぼくは、ぼくのことを忘れた瑠璃さんに会いに行くんじゃなくて、ぼくのことをまだ知らない瑠璃さんに出会いに行くんだ。

───瑠璃さんに出会いに行く。

その言葉は、思いの他、ぼくの心を浮き立たせてくれた。

「ありがとう、按察使」

微笑む按察使に礼を言い、ぼくは再度、疾風にまたがった。

掛け声と共に疾風の腹を蹴ると、ぼくの心に寄り添うかのように、疾風は一声いななくと蹄の音を響かせた。






<続>

次回こそ、次回こそ、高彬は吉野入りします。


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Sさま)

Sさん、こんにちは^^

「ざ・ちぇんじ」も、もちろん大好きです。
あれは氷室先生の数少ない三人称の作品なんですよね。
なので、同じ平安ものでもかなりジャパネスクとは違う雰囲気のあるお話だと思います。
面白かったですよね。
綺羅に、乳姉妹の小百合(だったかな?)に、天然っぽい帝。
最後、弟の綺羅がぐんぐんかっこよくなっていくんでしたよね。

少し前に集英社コバルト文庫から「月の輝く夜に/氷室冴子著」が刊行されたのはご存知ですか?
その中に「ざ・ちぇんじ」が収録されていますよ。
表題作は短い作品なのですが、「ざ・ちぇんじ」の他にクララ白書の番外編も収録されていて、かなり厚い文庫です。
(今、調べてみたら平成12年でした。少し前と思っていたら2年もたってました)
その本でしたら入手可能だと思いますよ!

別館についてのお問い合わせもありがとうございます。
後程、改めてメールをお送りしますね。

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すぎさま

> 按察使の言葉にやられました。

原作では、按察使には触れられていませんが、案外、高彬の成長には深く関わっていたのではないかなぁと思います。
守弥とは違った方面で。
あの高彬の優しさは、普段、触れ合ったいた乳母(按察使)の無償の優しさを受けていたからなのではないでしょうか。

> 瑠璃さんと高彬は何度でも出会って恋をしてほしい。

瑠璃と高彬は、何度でもどんな形で出会っても恋に落ちる二人だと思います。
そんな2人が大好きなんです^^

こももさま

はい、次回こそ(笑)吉野です!

> 周りの人たちの暖かさを感じて、
> 按察使のまさしく母心に励まされて、

本当の高彬母は苦々しく思ってそうですけど(笑)
原作でも「瑠璃姫だけはいけません」なんて叫んでましたしね。
でも、右大臣家は聡子姫も高彬も親が望んでいたような結婚をしなかったわけで、なんかちょっと興味深いですよね~。子育て方法とか(笑)

> 吉野での高彬が、むせび泣いてた割に前向きで積極的だったのは、
> こういうことだったのねっ(*゚▽゚*)

高彬って繊細そうで、案外ポジティブシンキングなタイプだと思ってます!

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんにちは!

「ミステリー」は貴重な高彬語りの唯一のお話なんですよね。
あの話、瑠璃は吉野に行っていたから、高彬目線の瑠璃との絡みがないのが残念でなりません。
高彬が語る「目の前で動く瑠璃」を読んでみたかったです・・。
ドリ〇ム、古くないですよ~(笑)
そしてM&S、1シーズンからですか!かなりの本数出てますからねぇ、それは時間がかかるのもお察しします。
私も字幕派です。やっぱり声も重要ですよね。
確かに内容が内容だけに、観た後スッキリ!は難しいかもしれませんね。
あのオープニングのメロディも抜けなくなりますしねぇ(笑)

みそさま

> そして高彬、さすがです!!
> 見事、瑠璃を自分に惚れさせることに成功させたんですから。

2人はやっぱり好き合う運命なんですよね。
いつかパラレルか何かで、瑠璃が高彬を振り向かせようとやっきになる話を書いてみたいな~、なんて思うときあります。
時にはそんなのも良さそう!

> 高彬にだったら、何度でも恋しちゃいますよ。

はい、私もです^^

何度でも

按察使の言葉にやられました。

瑠璃さんと高彬は何度でも出会って恋をしてほしい。
そして何度でも私たちを楽しませてほしい。
高彬だけではなく私の心も浮き立ちました。

二日連続の更新ありがとうございます。

がんばれ!若君!!

瑞月さん、こんにちは。
二日連続の更新!嬉しい悲鳴ですヽ(;▽;)ノ

うんうん。
周りの人たちの暖かさを感じて、
按察使のまさしく母心に励まされて、
次回こそ(笑)吉野なのですね。
しかし、まさかの守弥の心遣い、驚きましたΣ(゚д゚lll)

吉野での高彬が、むせび泣いてた割に前向きで積極的だったのは、
こういうことだったのねっ(*゚▽゚*)

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

『ぼくのことをまだ知らない瑠璃さんに出会いに行くんだ』
とっても素敵な言葉ですね!(≧∇≦)

そして高彬、さすがです!!
見事、瑠璃を自分に惚れさせることに成功させたんですから。
やっぱり誠実さに勝るものはないんですね~。

高彬にだったら、何度でも恋しちゃいますよ。
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