***短編*** 牡丹日和~いつも一緒に~ ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




         注)このお話は一話完結です。

         『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
         今回のお題は「牡丹」でした。

          <おまけの話>下にあります。
          
           





***短編*** 牡丹日和~いつも一緒に~ ***








承香殿女御から「たまには顔を見せにいらっしゃい」とのお言葉を賜り、ぼくは公務の合間を縫って後宮へと赴いた。

女官の先導を受け、渡殿を歩いていると、ふと目の端に見慣れない花が飛び込んできた。

渡殿と渡殿に挟まれた坪庭の隅の方に、温かみのある桃色───東雲(しののめ)色と言うのだろうか───幾重にも花びらが重なり合う、花の群生があった。

花には詳しくないから、知っている花の名前の方が少ないけれど、それでも

(見たことあるな)

くらいは判るわけで、それで言うと、この花は名前はおろか見た事さえなかった。

「この花は『牡丹』と申します」

ぼくの視線の先に気付いたのか、振り向いた女官が説明してくれた。

「牡丹ですか。これはまた随分と見事な花ですね。私は花には不案内なもので、初めて見るのですが・・・」

「右近少将さまがご存知ないのも無理はございませんわ。本来は薬草として薬園で栽培されているものなのですもの。主上がことのほかお気に召されたようで、女御さまのためにと特別に植えさせたものなのです」

帝が女御の御ために・・・。

なるほど、咲き誇る牡丹の花の艶やかさ華やかは、人の目の触れない薬園に閉じ込めてしまうのはいかにももったいないと思える。

(牡丹か。綺麗な花だな)

心に留めて、ぼくは女御の部屋へと向かった。






*********************************************






「・・・ともかくね、本当に綺麗な花だったんだよ」

「ふぅん」

熱弁をふるうぼくに向かって、瑠璃さんは鼻を鳴らしてみせた。

早めに仕事を終え、三条邸に着いたぼくは、今日見た牡丹のことを瑠璃さんに教えてあげようと、さっきから言葉を尽くして説明しているのだけど・・・。

「綺麗だった、見事だった、あんな花見た事ない・・の繰り返しじゃ、どんな花だったか全然判んないわよ」

不満気にぶつぶつと文句を言う。

「あーあ、良いわねぇ、高彬は。そんな風に新しいものを見ることが出来て。やっぱり家に閉じこもってるだけじゃダメなのよ。見聞が広がらないわ」

「見聞って、瑠璃さん・・・。日々、見聞を広げて行く姫なんて聞いたことがないよ」

「あたしだってないわよ」

ムスッと言い

「だから女は損だって言うのよ」

と、いつもの瑠璃さんの持論<女は損>に行き着くのだった。

「女は損だと瑠璃さんは言うけどね、男だって・・・」

「あ!」

いい機会だから、男社会の厳しさのひとつやふたつ話しておこうと勢い込んだところで、出鼻を挫かれてしまった。

何事かを思いついたのか瑠璃さんは立ち上がり、戻った時には手に紙と筆を持っていた。

文机に紙を広げると

「描いて見せてちょうだい」

ぼくに筆を握らせてきた。

「は?!描く?」

「そうよ。口で説明されても判らないんだもの。描いてもらったほうが手っ取り早いわ」

「・・・・・」

うーむ。絵かぁ・・・。

絵はなぁ・・・。

ていよく断ろうと顔を上げると、瑠璃さんの有無を言わせぬ強い視線があり、ぼくは渋々と筆を動かし始めた。

「・・・・・・・」

描きあがった牡丹は、我ながらひどい出来ばえで、がっくりと落ち込んでいると

「あんたって、下手なのは字だけじゃなかったのねぇ」

瑠璃さんがため息まじりに言い、さらに追い討ちをかけてきた。

あまりと言えばあまりの言い草に、思わずムッとして

「何だよ、じゃあ瑠璃さんも何か描いて見せてよ」

筆を差し出すと

「えっ」

と小さく呻いたものの、生来の負けず嫌いの性格が頭をもたげたのか、案外、すんなりと筆を受け取った。

しばらく天井を見上げていたかと思うと

「高彬を描くわ」

きっぱりと宣言し、するすると筆を動かし始めた。

合い間合い間にチラチラとぼくを見ながら描き続け、そうして静かに筆を置いた。

向きを変えて見てみると、そこには烏帽子を被った「そら豆」があった。

「・・・・・・・」

「ちょ、ちょっと手元が狂ったわ。普段だったら・・・」

「ひどい出来だな」

仕返しとばかりに言ってやると

「でも、目は二つあるし、鼻はひとつじゃない」

悔しそうに言い

「人の顔は難しいのよ。じゃあ、今度は高彬、描いてみなさいよ、あたしの顔を」

ムッとした顔で筆を差し出してきた。

「あぁ、いいさ」

売り言葉に買い言葉とはこのことで、今度は瑠璃さんの顔を描くはめになってしまう。

考えたって上手く描けるとは思えないから、勢いよく筆を動かすと、あっと言う間に描きあがった。

「何これ!お盆に目と鼻を付けただけじゃない!」

「髪も生えてる」

「ひどい!あたしはこんなに真ん丸じゃないわ。・・・ふぅん、あんたの目に、あたしはこんな風に映ってるってわけ」

最後は凄みを利かせた声で言い

「いや、そういうわけでは・・・」

しどろもどろになっていると

「まぁまぁ、何の騒ぎでございますの、姫さま、高彬さま。お二人の声が渡殿の辺りまで聞こえておりましたわよ」

おやつを掲げ持った小萩が部屋に入ってきた。

「小萩、聞いてよ。これがあたしの顔なんですって」

ぼくの描いた絵を見せると、小萩は笑いを噛み殺した顔になり

「何となく特徴は掴んでる気もされますけど・・・」

などと呟き、瑠璃さんに睨まれている。

「ちょっと失礼いたしますわ」

小萩はふいに筆を取ったかと思うと、器用に筆を動かし始め、あれよあれよと言う間に何かを描きあげた。

「あ!」

瑠璃さんと声が重なり、それは一目でぼくの顔だと判る絵だった。

「上手ねぇ・・・」

感に堪えないように瑠璃さんが呟き、ぼくも大きく頷く。

きっと誰に聞いても、ぼくの顔だと言う様な見事な出来ばえだったのだ。

「小萩にこんな絵心があるなんて知らなかったわ」

瑠璃さんが手放しで感心していると、またしても小萩は筆を動かし始め、次に描きあげたのは瑠璃さんの顔だった。

続けて新しい紙にも同じものを描き上げ

「お二人に差し上げますわ」

一枚を瑠璃さんの前に、もう一枚をぼくの前に置くと、丁寧に頭を下げ部屋を出ていった。

文机には、二人の顔が並んだ紙が二枚置かれ───

一枚ずつくれたと言うことは、それぞれが持っていてくれ、と言うことだろうか───

「・・・・・・」

奇妙な沈黙が流れ、最初に口を開いたのは瑠璃さんだった。

「や、やぁねぇ、小萩ったら。こんなもの描いて。困っちゃうわね・・。こんなものお揃いで持てるわけ、ない・・・じゃない・・・」

「ぼ、ぼくだって・・・こんなの家の者に見られでもしたら何て言われるか・・・。かといって宮中に持って行って落としでもしたら、また口さがない連中に、やれ結婚ボケだの愛妻家だの、何てからかわれるか・・・・」

「そ、そうよね・・・。これは一思いにここで破いちゃいましょうよ」

「う、うん、そうだね・・・」

意見の一致を見たものの、二人して手が動かない。

「瑠璃さん、ほら早く」

「高彬こそ」

先に破ることを進めあい、しばらくすると諦めたように瑠璃さんはため息をついた。

「取っておくわ」

ぼそぼそと言い、ぼくの視線に気付くと

「こ、小萩に悪いじゃない、小萩に。せっかく描いてくれたのに」

言い訳するように両手をぱたぱたと振った。

「うん・・・そうだね。ぼくも取っておくよ。小萩に・・・悪い」

折りたたみ、───瑠璃さんが少し目を逸らした隙に懐に収めた。

「これも、取っておくわ。ついでだし」

瑠璃さんが、さも<仕方ない>とでも言う様な素振りでぼくが描いた「お盆に目鼻」の絵を手に取ったので

「じゃあ、ぼくも。ついでだ」

と瑠璃さんが描いた絵を手に取った。

二人して改めてまじまじとお互いが描いた絵を見ていると

「それにしてもひどい絵ねぇ」

呆れたように瑠璃さんが言い

「うん、まったくだ」

「これのどこがあたしだって言うの」

「瑠璃さんの絵だって相当ひどいぞ。これじゃ『そら豆少将』だ」

同時に吹き出してしまう。

「あたしたち、二人して絵心は皆無ってことね」

「そうみたいだね」

ひとしきり笑ったあと

「小萩の描いてくれた、あの絵・・・」

瑠璃さんはあらぬ方を見ながらぼそぼそと話しだした。

「・・・ちょっと・・・嬉しい」

「うん、・・・ぼくも」

視線が絡み合い、今度はこっそりと笑い合う。

そのままそっと接吻を交わしながら

(あの絵があれば、宿直の日でも、物忌みの日でも、これからはいつでも瑠璃さんの顔を見ることが出来るんだ───)

ぼくはそんなことを思ったのだった。





<終>

***************************************************

<おまけの話>***セクシャルな表現がありますので苦手な方は閲覧ご注意ください***





接吻を続けながら、瑠璃さんの手にしていた紙を取り上げ、自分のと一緒に文机に置くと、文机ごと遠くに押しやった。

そっと身体を横たえていくと「え・・」とか「ちょ、ちょっと・・」とか言う瑠璃さんの声が聞こえたけど、構わず覆いかぶさる。

「格子はさっき小萩が下ろしていったし、御簾だって掛かってる。しばらく誰も来ないさ」

瑠璃さんが口にしそうなことを先回りして言いながら単の合わせに手を掛けると、瑠璃さんはそれを阻止するように大げさに身をすくめてみせた。

「何」

ムッとして顔を上げると

「だって心の準備が」

どこか芝居がかった声で言い、目が笑っている。

「夫が帰ってきた時は、いつでも心の準備くらいしておくように」

同じく芝居じみて重々しく言ってやると、くすりと笑う気配があり、その気配ごと接吻で飲み込んだ。

接吻しながら単を肩から外すと、瑠璃さんの白い肌がむき出しになる。

頭ごと抱え込んで接吻をしていると、長い接吻に堪えられなくなったのか、瑠璃さんの喉の奥が鳴り、ぼくは喉から首へ、更に胸、腰へと手を這わせた。

ぼくが馴染んだのか、瑠璃さんがぼくの手に馴染んだのかは判らないけど、瑠璃さんの肌はしっとりと滑らかに掌に吸い付いてくるようで思わず小さな吐息が漏れてしまう。

大切に壊さないように触りたいような、めちゃくちゃに力を入れてしまいたいような、自分でもよく判らないような衝動に駆られて、気付いたらいつも夢中になっている。

どこもかしこも触れて確かめずにはいられない。

細い腰に腕を回して顔をうずめると、瑠璃さんは切なげな声を上げた。

そのまま態勢を変え身体を進めると、瑠璃さんは一瞬、声にならない声を上げ、ぼくの背を強く掴んだ。

何かに耐えるかのように眉根を寄せ、息づかいが荒くなる。

───あぁ、この顔だ

と思う。

小萩が描いた微笑む瑠璃さんの顔もいいけど、ぼくはこの時の瑠璃さんの顔が好きだ。

何かを耐えているのなら、耐えられなくなるぎりぎりのところまで追い詰めてしまいたくなる。

「瑠璃さん・・」

耳元で言ってみても、瑠璃さんからの言葉はなく、ただ途切れ途切れの声が聞こえてくるだけだった。

ぼくが動くたび身をよじり身体をしならせ、それはぼくから逃げてるようにも、反対にぼくを捕らえているようにも見える。

(・・・どっちなんだろうか)

ともすれば飛びそうな意識の中で考える。

ぼくが瑠璃さんを捕らえているのか、ばくが瑠璃さんに捕らえられているのか───

瑠璃さんの頬に赤みが差し、泣き声にも似た細い声を上げながらぼくの背をさらに強く掴み、おそらくは爪を立てているのだろう。

瑠璃さんの身体が張り詰める。

背中に小さな痛みを感じながら、ぼくは瑠璃さんを追い詰めて行く。





*************************************





荒い呼吸のまま瑠璃さんの隣にごろんと横になる。

とりあえず脱ぎ散らかしたままの袿をかき寄せ瑠璃さんに掛けてやり、天井を見ながら呼吸を整えていると、ほどなくして何とも気持ちの良さそうな寝息が聞こえてきた。

片肘を付き覗き込むと、瑠璃さんは早や夢の中のようで、さっきの切なげな耐えるような顔はどこへやら、ほどけきった寝顔があった。

ふぅっと息を睫毛に吹きかけてみると、一瞬、反応し、それでも何事もなかったかのように眠っている。

その顔は平穏そうにも満足そうにも見えて、腕枕をしてやりながら

(まったく・・・)

と独りごちる。

何が<女は損>だよ。

体力には自信のあるぼくが、まだ少し動悸が収まらないと言うのに。

牡丹の花が見られないくらい何だと言うんだ。

自分だって字も絵も下手なくせに、やれぼくの字が下手だの絵が下手だのと言いたい事を言い、そのくせぼくをいつでもその気にさせて、ふざけて焦らしては、あげくに捕らえて、そしてさんざんぼくを疲れさせ───

まったく・・・。

ぼくにいいことなんてないじゃないか。まさしく<男は損>だ。

もう一度、瑠璃さんの顔を覗きこむ。

安心しきった寝顔。無防備に開いた唇。規則正しく上下する胸。

(やっぱり好きなんだよなぁ・・)

瑠璃さんを好きな気持ちは、これはもう損とか得とかでは計れない、言うなれば人智を超えた領域なんだろうなぁ・・・

甘んじて受けるしかない、か。

諦念と甘美が入り混じった吐息をひとつつき、ぼくは静かに目を閉じたのだった。






<おしまい>

(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Mさま)

Mさん、おはようございます。

慌てふためく話も考えたのですが、今回はこちらで。
初夜編での高彬にさんざん我慢してもらっているので、高彬へのお詫びと言うか袖の下と言うか(笑)
Mさんのつっこみポイント。まさしく!まさしく!ですよ。
ほら、彼は少し自分を判ってないところがあるので・・。

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