*** 筒井筒のお約束をもう一度・・32<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・32 <高彬・初夜編> ***  









記憶を失くしたって・・・一体全体、どういう・・・・

頭の中を言葉にならない思いがグルグルと駆け巡る。

「高彬さま、瑠璃姫さまのお加減でも悪いのですか?お顔が真っ青ですわよ」

瑠璃さんが怪我を負って以来、一緒に気を揉んでいる大江は、心配そうな声で聞いてきた。

「・・・・」

言葉の出ないぼくを案じてか

「白湯でもお持ちしましょうか」

腰を浮かしかけた大江に、いや、いいと手を振ると、よっぽどぼくの様子がおかしかったのか

「本当にどうされましたの?」

と顔を覗きこんで来た。

「瑠璃さんが・・・」

「・・・・・」

「記憶を失くしたらしいんだ・・・頭を強くぶつけて・・」

「えっ?!」

大江は絶句したまま目を見開き、ややしばらくすると

「記憶を失くすって・・・それでは、何もかもを忘れてしまったというのですか?高彬さまのことも・・・結婚のことも・・・」

言ったとたん、慌てたように口を押さえたが、その手が小刻みに震えているのが見て取れた。

何もかもを忘れてしまった・・ぼくのことも、結婚のことも・・・

大江の言葉が頭の中でこだまし、ぼくもまた自分の指先が小刻みに震えだすのを感じていた。





*****************************************






「そんな、瑠璃姫さまが・・・そんな・・・そんなぁ・・」

大江は大江で派手に涙を流すし、ぼくはぼくで上手く事態が飲み込めずに、しばらくの間は異様な雰囲気が漂ってはいたものの、半刻もたつと大分、冷静さを取り戻すことが出来た。

懐紙をとっかえひっかえ泣き続ける大江の泣きっぷりのすごさに、かえって気持ちが落ち着いたのかも知れない。

と同時にやるべきことが見えてきた。

まずは公務だ。ある程度のところまで片付けなければならない。

急ぎ、参内したぼくは仕事の目処と同僚への引継ぎと、少しの間の休暇届を出してきた。

自邸に戻ったその足で父上の部屋に行き吉野に行くことを告げると、隣で母上は目を剥いていたけれど、父上が頷くのを見て、ぼくは部屋を辞した。

時はすでに夕刻───

春の陽は斜めに傾きかけており、夕闇が白梅院に迫り始めていた。

薄暗い自室に入ると、部屋の隅に何かがぼんやりと座しており、一瞬それが物の怪に見えたぼくはギョッと固まってしまった。

すぐに守弥だと気付き

「なんだ、呼んでないぞ」

我ながら尖った声だった。

早耳の守弥のことだ、瑠璃さんの記憶喪失のことも、ぼくが吉野に行こうとしてることも、すでに知っているに違いないのだ。

結婚にいい顔をしていなかった守弥だから、今回もきっとなんのかんのと難癖を付けてくるに違いない───

どかりと座り込むと同時に、女房が灯を入れにやってきた。

黙って灯入れを見ていた守弥は、やがて女房が下がって行くと

「若君」

ついと膝を進めてきた。

「何だ」

「明朝、若君が吉野に向かわれると家の者が騒いでおりますが・・・」

静かな物言いだった。

「あぁ、本当さ」

ぼくはぐっと腹に力を入れた。

しばらくの間、守弥は何も言わずにぼくを見て、ぼくも一歩も引かない覚悟で見返した。

守弥に何を言われようとぼくは吉野に行くぞ。

部屋に流れ込んできた風に灯台の灯がふいに揺れ、まるでそれが合図だったかのように守弥は一言も発しないままに下がって行った。

すっかり守弥の姿が見えなくなったところで、ぼくは大きく息を吐き出した。

相当、身体に力が入っていたらしい。

───瑠璃さん。

灯を見つめながら、思うのは瑠璃さんのことだった。

あまりにも突然の知らせに、却って真実味が沸かず、今、こうして一人になったところで、ようやく事の重大さが身に染みてくる。

記憶喪失だなんて、そんなことが本当にあるのだろうか。

吉野に行くと言う瑠璃さんを笑って見送ったのは、ほんの少し前のことなのに。

───笑って?

脇息を掴む手に力が入った。

笑ってなんてウソだ。

本当は行って欲しくなかった。

「吉野になんて行かないで」と言いたかった。「誰かを懐かしまないで」と。

ぼくがかっこ付けずに本音を言っていたら、瑠璃さんは吉野に行かずにいてくれたのだろうか。

そうしたら怪我もせず、記憶も失くすこともなかったのだろうか───

このかっこ付けめ!

力任せに脇息に拳を振り落とすと、脇息は鈍い音をたてて大きく傾いだ。





<続>

次回、いよいよ高彬が吉野に向かいます。


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

ななさま

>毎日チェックしてはアップされてるかチェックしてます。グフフ(≧∇≦)楽しみ〜!!

ありがとうございます^^
今日は書く時間があったので、さっそく続けてアップいたします!

>「恋に落ちて」バッチリわかります。「金妻」世代ではないけど、姉がいるせいか(?)小学生の時から歌ってました!I'm just a woman〜 fall in love🎶デスヨネー!

それです、それです!
今「恋に落ちて」って打とうとしたら「鯉に落ちて」って変換されました(笑)

待ちどうしいっ!!

いよいよ吉野で再会ですねー!!毎日チェックしてはアップされてるかチェックしてます。グフフ(≧∇≦)楽しみ〜!!

返信コメントありがとうございました!「恋に落ちて」バッチリわかります。「金妻」世代ではないけど、姉がいるせいか(?)小学生の時から歌ってました!I'm just a woman〜 fall in love🎶デスヨネー!
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