***短編*** 冬はつとめて ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






             注)このお話は一話完結です。
               
               

               
              






***短編*** 冬はつとめて ***










まどろみの中、気付けば瞼の裏が薄明るくなっていて

(───あぁ、もうじき朝が来るのねぇ)

ぬくぬくとした夜具の中で、あたしは小さくため息をついた。

冬の朝はことのほか寒く、触らなくても冷気にさらされていた頬が冷たいのがわかる。

きっともうじき女房が2人抱えで火桶を運んできて、部屋が存分に暖まった頃合に小萩が声を掛けにやってくる。

そうして身支度を整えた高彬は参内してしまう───

隣で眠る高彬に気持ち身体を寄せて、あたしはもう一度、丸まった。

完全に朝になるまで、まだ間があるわ。

もうしばらくこの温もりを感じていたい。そうよ、朝が来るまでは・・・・。

────朝?

ぱちりと目を開け、耳を澄まし辺りを窺う。

何か変、よ。

朝にしちゃ静か過ぎる。

いつもなら、働き者の商人の掛け声や、恋人の元から帰る公達の牛車の軋む音や、鳥のさえずりがうるさいほどに聞こえてくると言うのに。

「・・・・・」

衾を跳ねのけ・・は、高彬に悪くてしなかったけど、あたしはそっと衾をめくり寝所を抜け出した。

足音を忍ばせて部屋を横切り、妻戸を細めに開ける。

目に飛び込んできたのは雪景色だった。

いつから降っていたのか、庭は一面の雪に覆われていて、こうして見ている間にもどんどん降り積もっていく。

東の方が少し明るくはなってきているけど空はまだまだ夜の気配を残していて、薄明るいと思ったのは、どうやら雪の白さのせいみたいだった。

通りで静かな筈だわ。

こんな中、道を歩いてる人なんているわけないもの。

開けた隙間から冷気が吹き込み、あたしは慌てて妻戸を閉めた。

またしても部屋を横切り、高彬の隣にするりと身体を滑り込ませる。

「高彬、雪よ。雪が降ってるわ」

声を掛けると

「・・・雪?」

目を瞑ったまま、高彬が返事をした。

そのままあたしを抱き寄せ

「・・・単が冷たいね、瑠璃さん。さっそく雪を見に行ったろう」

言いながら、何を思ったか自分の足であたしの足を確かめるように触っている。

「もうっ。庭には下りてないわよ」

何を疑われていたのか気付いて足をもがくと、高彬は喉の奥で笑った。

「で、どうだった?雪は積もっているのかい」

「そうね、これくらい積もってる」

指を広げて見せると、高彬は薄目を開けて確認し「ふむ」と重々しく頷いている。

「今日は参内出来そうにないかなぁ・・」

「当たり前よ。こんな中、出掛けたら途中で立ち往生してしまうわ。だから言ったのよ、あんなみぞれ混じりの雨の中、わざわざ来たりするから・・・・って、───え?」

途中で言葉が切れてしまったのは、高彬が何とも奇妙な顔をしているからなのだった。

そう。昨日は朝から冷たい雨が降り続け、高彬が遅くにやってきた時は、みぞれ混じりの空模様だった。

しかも昨日は三条邸に来る予定のない日だったので、すっかり冷え切った高彬の直衣を触りながら

「何もこんな日に来なくても。風邪でもひいたらどうするのよ」

などと、さんざん姉さん女房風を吹かせていたのだけれ・・・ど・・も・・・。ひょっとして・・・。

「───もしかして、雪になるって判ってた?」

コクコクと高彬が頷く。

「それで、わざわざうちに来た・・・とか?」

またしてもコクコクと頷くと、いたずらっ子のように眉を上げて見せた。目が笑っている。

「どうせ雪で出られないなら、瑠璃さんのところがいいと思ってさ」

あたしを抱き寄せながらくぐもった声で言い、あたしはと言えば「まったく・・・」なんて言いながらも、顔がにやけてきて仕方がなかった。

ずっと高彬といられるのはもちろん嬉しいけど、昨日そんなことを思って、みぞれ混じりの中うちに来てくれたって言うのが嬉しいじゃないの。

きっとそれを思いついたのは仕事中なんだろうしさ、あぁ、この人はあたしのこと思ってくれてるんだ、ふいに思い出してくれたりするんだ、なんて思えるもの。

今日一日、高彬と一緒かぁ・・・。

あたしは高彬の腕の中でうっとりと目を閉じた。

雪の日に一緒に過ごすなんて、何かロマンチックだわー。

人里離れたひっそりとたたずむ山荘で、人目を忍ぶように恋人同士が重ねる逢瀬・・・。

雪の降る朝に、おのれの罪におののきながらむせびなく姫と、ただ優しくなぐさめる貴公子。

何の物音もしない山荘に、聞こえてくるのは貴公子の睦言と、時折り屋根から落ちる雪の音・・・・。

あぁ、しぶいっ。

別にここは人里なんて離れてないし人目だって忍んじゃいないけど、こういうのはムードが大切なのよ。

いっそ、今日は高彬にお願いして、ごっこ遊びにでも付き合ってもらおうかしら。

お堅い高彬が聞き入れてくれる可能性は低いけど、ダメで元々だしね。

「ねぇ、高彬・・」

言いかけたところで、高彬にぐっと抱き寄せられた。

ぎゅうっとせつなげに抱きしめられてしまい、それはまさしく人目を忍んで逢う恋人を抱くって感じの抱きしめ方で、あたしは

(結婚して1年もたつと、何も言わなくても妻の気持ちが判るようになるのねぇ)

などとすっかり感動してしまった。こういうのを以心伝心と言うのよ。

さて、罪におののく姫としては何を言おうかしら・・・と思い巡らせていると、高彬が「やっぱり・・」と呟いたような気がしてあたしは顔を上げた。

「何?」と聞く間もなく高彬の手によって単は肩から外され、な、な、なんと、高彬はせわしげに自分の小袖を開くと、更にあたしを抱きしめてきたのである。

何のことはない、裸に近い格好で抱き合ってしまっているではないの。

ちょ、ちょっとー、いくら人目を忍ぶ設定とは言え、盛り上がりすぎじゃないの?!

そんな、いきなり、・・・だなんて・・・いや、夫婦だから、いいんだけどさー。

「やっぱり熱いな、瑠璃さん」

もろ肌を脱いで盛り上がる貴公子を演じていたはずの高彬の、やけに冷静な声が聞こえた。

・・・熱い?

「そりゃ、人目を忍んでの逢瀬だから熱くもなるだろうけど・・・・」

「うーん、これは熱があるんじゃないかなぁ」

あたしの言葉なんかてんで無視して、高彬は難しい顔をしている。

「瑠璃さん、頭が痛いとか、喉が痛いとか、ないの?」

ここまで聞かれて、ようやっとあたしは高彬の言わんとしていることが判った。

つまりあたしを抱きしめたのは、熱があるかを確かめたかっただけで、以心伝心で妻の心が伝わってるわけではなかったのね・・・。

だからって何も、わざわざ単を脱がせて熱計ることないと思うんだけど。

普通、額でしょ。

「・・・・・・」

黙っていると

「辛い?小萩呼ぼうか?」

高彬が心配そうに顔を覗きこんできた。

「うーん・・・」

小萩かぁ。

小萩を呼べばすぐに部屋が暖められて、お医師を呼ばれたり薬湯を飲んだりするのは目に見えている。

高彬はもう一度、あたしを抱きしめてきて「やっぱりいつもより少し熱いな」などと頷いている。

言われてみれば、ぴたとくっついた高彬の胸はひんやりと気持ちが良く、確かにあたしは微熱があるのかも知れなかった。

「どうする?呼ぶ?」

うーん、どうしよう・・・。

風邪はひき始めが肝心と言うし、今すぐお医師に診てもらうのがいいんだろうけど。

だけど、高彬と入っている夜具の中はぬくぬくと暖かく、そのくせ高彬の胸はひんやりと気持ちよくて───

「大丈夫よ」

あたしは頭を振った。

しばらくはこのままがいいわ。薬湯より効くかも知れない。

それにもう少ししたら、完全に朝が来る。

そしたら呼ばなくたって小萩がやってきて、あれこれと世話を焼き出し、女房らがばたばたと出入りをすることになる。

だけど、今はまだ朝じゃないもの。

朝が来るまでの少しの間、高彬とこうしていたい。

ひんやりと気持ちのいい高彬の胸に、身体を預け目を閉じる。

───冬はつとめて。

ぱさり、と屋根から雪の落ちる音が聞こえた。







<終>


何とかぎりぎりバレンタインにアップすることが出来ました。(あと10分で15日!)

「春はあけぼの」から始まった枕草子シリーズ、これにて終了ですが、こういう「お題」があるのもなかなか楽しかったので、またやってみたいと思います。

母はまだ入院中ですが、食欲も出てきてだいぶ顔色も良くなってきたように思います。

母へのお見舞いメッセージなど、ありがとうございます。

寒い日が続きますが、皆さんも身体に気を付けてお過ごしください。


瑞月

(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

maiさま

maiさん、こんばんは。

>氷室先生って、そういう、少女趣味っていうか、少女小説、の世界をとっても愛してらした方だと思うんです。

本当にそうですね。大きく頷いてしまいました。
原作の瑠璃ってどんなに口が悪かったり素行が悪かったりしても、やっぱり「少女」なんですよね。乙女と言うか。
初めてのキスにドキドキしたり、結婚までの手順にときめきたくて、そういうところがどこまでも「純」なんですよね。
(「しーの」とどこか共通してるところがありますよね)

>瑠璃や高彬が愛おしくて、ちょっと涙が出そうでした。

愛おしい。
言い得て妙です。
私も瑠璃や高彬が愛おしくて仕方ありません。
「好き」よりも、しっくりくる感じがします。
最初に読んだときは、瑠璃たちと同い年だったのに、今ははるかに年上になってしまいました。
その分、もっともっと2人が可愛く思えています。
こんなロマンチックな2人、応援せずにはいられませんよね。

No title

コメントが久しぶりになってしまいました。この「冬はつとめて」の高彬が好きで。ときめいてしまい、何度もコメントしようとしながら、今日に至ってしまいました。翌日参内できない状況を見越して、無理して瑠璃のところへ来るオトコゴコロがぐっときてしまい…瑠璃の「人目を忍ぶ恋人ごっこ」も、とっても瑠璃らしくて…。氷室先生って、そういう、少女趣味っていうか、少女小説、の世界をとっても愛してらした方だと思うんです。だから瑠璃は結婚して、現実は「めでたし、めでたし。」の向こう側にいってしまったひとなんだけど、心はいつまでも、ハッピーエンドを夢見る少女で…。瑞月さまの文章はいつも氷室先生が書いたみたい、って思うんだけど、このお話は特にそれを強く感じて、瑠璃や高彬が愛おしくて、ちょっと涙が出そうでした。

非公開さま(Mさま)

Mさん、こんにちは。
お見舞いのお言葉、ありがとうございます。
おかげさまで母は昨日、退院しました。

新しい熱の計り方!ぜひ流行らせましょう(笑)
扉絵シリーズ、ありましたねぇ。最後が童に戻るって言うオチでしたよね・・・残念・・。

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非公開さま(Rさま)

Rさん、こんばんは。

そうなんです、実は私ももう一回「春はあけぼの」で季節を一巡してもいいかなぁと思っていたところなんです。
百人一首とか古今集からお題をとることも考えたのですが、やっぱり枕草子が良いかなぁ、と。
今回は4話とも瑠璃目線にしたので、次は高彬目線での「春夏秋冬」とかどうでしょうか。
今回の話しの高彬バージョンも面白そうだし、まったく違う話も作れそうですしね。

PTAも卒業式やら次期会長さんの選出やらで、何だかんだと学校に顔を出しています。
でも先が見えてきたのでラストスパートでがんばってます。
別便、お待ちしております^^

さりいさま

さりいさん、こんばんは。

> 悪戯っ子のようにコクコクしてる高彬は峯村先生の小説最終巻の表紙絵の高彬で脳内再生され、

瑠璃と抱き合ってる絵ですね。
私もあの頃の高彬の絵は大好きです。一番、脳内高彬に近いかも。

>もろ肌脱いでる高彬は山内先生の初夜(勿論成功した日!)の高彬を彷彿とさせ、

成功って!
変換を変えたら、そのものズバリ!ではないですか(笑)←かなり下ネタで大変失礼しました。
確かに何度も失敗(お預け)してますもんね。
小袖姿で瑠璃を抱き寄せてる絵ですか?
あの絵って、確か表紙のカラー(瑠璃が目を開けてるのと)と、作品の中の絵(2人とも目を瞑ってる)の2パターンありませんでしたっけ?
私は2人とも目を瞑ってる絵が好きです~。

>いいお話どうもありがとうございました。元気が出ました(笑)

いえいえ、楽しんでいただけて私も嬉しいです。

> お母様が少し容体よいとのこと、朗報です!

ありがとうございます^^
今日も行ってきたのですが、だいぶ元気そうで笑顔もたくさん出ていたので良かったです。

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うーん、素晴らしいっ!
このお話、ニヤニヤポイントがありすぎて悶えながら読みました(笑)
特に、瑠璃の「しぶいっ!」が出た時には、思わず笑い声が出てしまい、電車の隣の人に変な目で見られました…えぇ。

悪戯っ子のようにコクコクしてる高彬は峯村先生の小説最終巻の表紙絵の高彬で脳内再生され、殿方の可愛らしさに悶絶し、もろ肌脱いでる高彬は山内先生の初夜(勿論成功した日!)の高彬を彷彿とさせ、殿方の色気に悲鳴を上げそうな私…頭の中大変な事になっております。

何も朝から色っぽい事ではなく熱だった、というオチや、フツー額でしょ、みたいなツッコミも私のツボに入りまくりで…(笑)いいお話どうもありがとうございました。元気が出ました(笑)

お母様が少し容体よいとのこと、朗報です!
とは言え、見舞う側も疲れるもの。瑞月さんもどうぞご自愛くださいね。

ななさま

ななさん、こんばんは。
お気遣いありがとうございます^^
今日も病院に行ってきましたが、母も元気そうでした。

お母様の具合はいかがですか?精神的にも肉体的にも辛い中アップありがとうございます。あまり無理しないで下さいね。お母様が早く良くなりますように!
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Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

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