*** 筒井筒のお約束をもう一度・・30<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・30 <高彬・初夜編> ***  









おだやかな日差しが降り注ぐ三条邸の庭に、桜の花びらが舞っている。

庭のそこかしこで待ちわびた春を告げるかのように誇らしげにさえずる鳥の鳴き声が、霞がかった空に吸い込まれていく。

───大きな桜の木の下に瑠璃さんはいた。

瑠璃さんが吉野に行くと聞いてから

(どうして瑠璃さんは吉野に行くのだろう?)

と、そのことばかりを考えていたような気がする。

色々考えると、どうしても吉野君に行き着いてしまい、やっぱり瑠璃さんは今でも吉野君を好きなのだろうかとか、気になるなら本人に聞けばいいじゃないかとか、だけど聞けない自分がいて、うじうじとそんな風に考えている自分を持て余していた。

融から瑠璃さんの吉野行きを聞いた日、仕事を終えて帰宅すると瑠璃さんから文が届いていた。

<吉野に行くことになった>と手短に書かれただけの文だった。

融から聞いていたお陰で文を読んだ時の衝撃はなかったし、とりあえず事前に瑠璃さんから直に話してもらえたわけだけど、それでもぼくの気持ちは晴れなかった。

仮にも内大臣家の姫が吉野に向かうとなれば、国司への連絡やら途中の宿の手配などが必須で、かなり前から吉野行きは計画されていたに違いないのだ。

ぼくには言いたくない理由が何かあったと思うのが順当だろう。

瑠璃さんは、いつからそうしていたのか、ぼんやりと桜の木を見上げている。

遠すぎて表情までは判らないけど、瑠璃さんの姿を見てぼくの心は決まった。

吉野に行くその理由を、とやかく聞くはやめよう。

どんな理由であれ瑠璃さんを好きな気持ちに変わりはないのだし、第一、こんな風にうじうじと思い悩んでいることを知られたくない。

「・・・木登りはだめだよ」

近づいて笑いながら声をかけると、ぎょっとしたように瑠璃さんは振り返った。

「・・・高彬。あんた、いつ来たのよ。こんなところで何してんの」

「何してるって・・・」

更に近づいてコツンと瑠璃さんの頭をつく。

「それはこっちのセリフだよ。貴族の姫ともあろう人が、うかつに庭なんかに下りちゃだめじゃないか。小萩が探してたよ」

「だって、せっかくこんなに良い天気なんだもん。部屋の中にいるなんてもったいないわ」

やれやれ、とぼくは肩をすくめた。

天気が良いってだけの理由で庭に出てたら、一年の大半は庭に出ることになるじゃないか。

「そういえば瑠璃さんは昔、よくこの木に登っていたよね」

はらはらと花びらを散らす桜の木を見上げながら言うと

「あんたはドンくさくて、木登りが苦手だったわよねぇ。登ったはいいけど今度は下りられなくなって、木の上でビービー泣いたりして・・・」

その時を思い出したのか、瑠璃さんはくすくすと笑った。

「変なこと思い出さなくていいよ。・・・まぁ、今は瑠璃さんより上手に木登りができると思うけどね」

かっこつけて言ったのに

「そうかしら」

瑠璃さんは疑わしそうな目でぼくを見た。

まさか瑠璃さんは今でも自分の方が木登りが得意だとでも思っているのだろうか。

「そりゃあそうだろ。瑠璃さんより背も高いし・・・力もあるしさ」

当たり前じゃないか・・・と、力説してみたのに

「ふーん・・」

何とも気のない返事が戻ってきた。

それでも少しは気になるのか、ちらちらと横目でぼくを見ていたので、ぼくはそっと背伸びをしてみた。

「そういや、また背が伸びたわね」

背伸びには気が付かなかったのか、瑠璃さんは感心したように言い

「なんかずるい。少し前までは、あたしの方が背が高かったのに」

「・・・・・・」

まさしく<ずる>をしていたぼくは、ぐっと言葉に詰まってしまった。

鋭いかと思うと、変なところでコロッと騙されるんだからな、瑠璃さんは・・・。

内心、くすりと笑っていたぼくは、次の瞬間、ぎょっとなった。

ちょっとした悪戯心でした背伸びだったけど、まるで今のぼくの心の中の象徴のようじゃないか。

うじうじ悩んでいるくせに、それをおくびにも出さないように振る舞って。

こんな風に背伸びばかりしてると、いつか瑠璃さんに愛想をつかされるかも知れない・・。

愛想をつかされる、と言う自分の言葉がずしりと心に響く。

ぼくは桜を見上げる振りをして、そっと隣の瑠璃さんを見た。

ぼくの<ずる>には全く気付いていないのか、無心に桜を見上げているように見える。

薄く開いた唇が目に留まり、気が付いたら吸い寄せられるように接吻をしていた。

唇を離すと、少し赤い顔をした瑠璃さんがいた。

素知らぬ振りで桜を見上げていると、何か言いたいのかチラチラと瑠璃さんがぼくを見上げる気配が伝わってきた。

「・・・こんな風に瑠璃さんに物言いたげに見られるのはいいもんだね」

さらりと笑ったつもりだったけど、うまく笑えたか自信がない。

───自信がない。

そう、自分でよくわかっているんだ。

背伸びも、強引な接吻も、自信のなさの裏返しだってこと。

だけど、仕方ないじゃないか。瑠璃さんは年上で、ばくの知らない初恋の人がいた。

背伸びくらいしなきゃ、追いつかないじゃないか・・・。

「部屋に戻ろう」

歩き出すと瑠璃さんは黙って付いてきてくれて、それだけのことだけど嬉しかった。

途中、根っこにつまづきそうになった瑠璃さんにとっさに手を出し受け止めると、ぼくの運動神経を認めたのか

「やっぱり今なら、高彬の方が上手に木に登るかもしれないわねぇ」

などと瑠璃さんは呟き、ぼくはさらに嬉しくなってしまった。

我ながら単純だと思うけれど、瑠璃さんに誉めてもらえたことだけで

(吉野に行くことくらい何だって言うんだ)

と思えてきてしまい、実際、ぼくはその後の部屋の中で、世間話のひとつのように吉野へ行くことを話題にすることが出来た。

「そういえば・・・・吉野に発つのは明後日だったね」

小萩が用意してくれたおやつをすっかり食べ終えて、下げられていく椀を名残惜しそうに目で追っている瑠璃さんに向かって言うと、すぅっと瑠璃さんの顔が神妙なものになった。

「うん・・・」

「瑠璃さんが吉野につく頃には、あちらの桜も咲きだすだろうね。吉野の桜は見事だと聞くし、瑠璃さんも少しゆっくりしてきたらいいよ」

そう言うと、瑠璃さんは少しだけぼくの目を見ると、やがてこくりと頷いた。

吉野行きの準備もあるだろうと早めに三条邸を辞したぼくは、翌日からまた仕事に忙殺される日々を過ごすこととなった。

都では季節はずれの風邪が流行りだし、それが宮中にも押し寄せてきてしまったのだ。

一度引くと長引くと言うやっかいな風邪で、ぼくは瑠璃さんが都にいないことを密かに喜んだりしていた。

日に日に休む官吏が増えて行き、その分、一人の仕事が増える。

自邸で過ごすよりも宮中で過ごす時間の方が長くなり、移動時間を考えて泊り込むことも多くなった。

詰め所で仮眠を取ろうと横になり目を瞑る。

吉野の桜は咲いたのだろうか・・・

瑠璃さんは、存分に桜を見たのだろうか・・・

ウトウトしかけたところで、駆け寄って来た声に引き戻された。

「右近少将どの。急ぎの文を言付かっております」

───文?急ぎ?

ぼくは上体を起こし、差し出された文を受け取った。

「吉野からの早馬でございました」






<続>




(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Lさま)

Lさん、こんにちは。お久しぶりです^^

高彬・初夜編、ようやく吉野編までやってきました。
そうなんです、高彬は背伸びしてたんです・・。案外、お茶目で見栄っ張りな(?)高彬です。
Lさんもお忙しいと思いますが、ご自愛くださいね。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

非公開さま(Nさま)

Nさん、お久しぶりです。

過去にいただいたコメントを読み返してみましたら、つわりで辛い時期と書かれていました。
その時のお子さんが2歳半ですか・・・。早いものですね。
そして、ちょうどパスの配布を終了していた頃にコメントをいただいていたんですね。
今は別館は休館中なのですが、もし今でもご希望でしたらパスを配布いたします。
お試しで1話からいかがでしょうか。
アドレスをご記入いただいてるようなのですが、その欄に書いていただいても、なぜだか私の方に反映されないのです。
別館の閲覧をご希望の時は、もう一度、コメント本文の末尾にアドレスを書いていただくか、もしくはメールフォームを開けておきますので、そちらから直接ご連絡をお願いいたします。

クリスマス、お正月とイベント目白押しで忙しい時期ですが、Nさんも風邪などひかないようにお過ごしくださいね。

みそさま

みそさん、こんにちは!

> ついに「吉野編」突入ですね。

はい、30話にしてようやく吉野編まで来ました。
なんでだか高彬視点で書くと長くなってしまうようです。
やっぱりこのあたりの心情は高彬の方が複雑なのかなぁ~と思います。

> それにしても、高彬の心中は穏やかじゃありませんね。
> 浮き沈みが激し過ぎ。

確かに・・・。天国と地獄を行ったりきたり、と言う感じでしょうか。
ある意味、振り回されっぱなしの高彬。

> 強気な高彬も、ウジウジする高彬も魅力的で素敵。(≧ε≦)

どんな高彬も「なんて素敵なタカアキラ」ですよね!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ついに「吉野編」突入ですね。
高彬視点で読みたいと思っていた場面のひとつなので今から楽しみです!!

吉野に行くことを高彬に伝えられない瑠璃と、それを聞けない高彬…。
この、もどかしい距離感が良いですね~。
それにしても、高彬の心中は穏やかじゃありませんね。
浮き沈みが激し過ぎ。
まぁ、これが『片恋の後遺症』のなせる技なんでしょうけど。
強気な高彬も、ウジウジする高彬も魅力的で素敵。(≧ε≦)
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

  ↑
ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
なんて素敵にサイト様 (ジャパネスク)
なんて素敵にサイト様(他ジャンル)
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
月別アーカイブ