*** 筒井筒のお約束をもう一度・・29<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・29 <高彬・初夜編> ***  









「高彬さま、白湯をお持ちしましたわ」

同僚に借りた漢詩を読み終え、次は弓術の練習でもしようかと腰を浮かしかけたところで、高坏を掲げた大江が部屋に入ってきた。

別に白湯を頼んだ覚えはなかったけれど、言われて見れば喉が渇いてるような気がして、ぼくは腰を下ろした。

受け取った白湯を口に含んでいると

「結婚が日に日に近づいてきますわね、高彬さま」

大江がニコニコと話しかけてきた。

そうか、この話しがしたくて頼んでもいない白湯を持ってきたのかと合点が行く。

大江にしちゃ気が利いてると思ったんだ。

瑠璃さんとの結婚の日取りが決まってからというもの、何かと言うと大江はこの話をしたがるのだ。

いったんは流れた結婚だったけれども、我が父上、右大臣お抱えの陰陽師に占わせたところ、四月の望月の日が良かろうとのことで、その結果を内大臣さまに打診したところ快諾してくださったのだ。

もうじき三月に入ることを考えれば、結婚まではあと一月ちょっとと言うことになる。

この間、瑠璃さんと会ってから、ぼくはなんだかすこぶる調子が良い。

それまでだって別に調子が悪かったわけではないのだけど、でも、瑠璃さんと会った後は自分でもびっくりするくらい気持ちが晴れやかで、それは近衛の少将に昇進した時の気持ちよりも上回っていたほどだった。

いつも以上に仕事に打ち込めるし、何でも挑戦したりやってみたいと言う気になっている。

瑠璃さんとの結婚の日程が決まったら、さらにその気持ちが強くなった。

瑠璃さんには(あたしより仕事の方が大切なんでしょ)なんて言われてしまったけれど、やっぱりぼくにとって、大切なのは瑠璃さんなんだ。

瑠璃さんがいるからこそ、出世したいと思うし、だからこそ仕事に打ち込まなければと思う。

それが、瑠璃さんにはあんな風に思われてしまうなんて、何とも皮肉な話しだと思うけど・・・。

「そういえば・・・守弥はどうしてる?」

ごくりと白湯を飲み干したところで聞いてみる。

ここのところ、あることがきっかけで守弥はあまりぼくの前に姿を見せないのだ。

「兄ですか?」

さほど興味がないのかわざわざ考えなければ思い出せないようで、しばらく一点を見つめていた大江は

「ぼんやりしていたかと思うと、急に立ち上がって落ち着かなかったりで、いつもより更に変なような気はしますけど、兄の変人ぶりは今に始まったことじゃありませんから」

気にすることでもないと言外に匂わせて、にっこりと笑った。

それよりもぼくの結婚話を聞きたいのか、何かぼくが言いだすのを待ち構えているようだった。

「・・・そうか」

大江の期待する話しに乗れないのは悪いけれど、守弥の様子が(落ち着かない)と知り、ぼくは少しばかりしんみりとした気持ちになってしまった。

実は少し前、瑠璃さんから『煌姫を三条邸でお預かりしたい』と言う趣旨の文がきたのだ。

以前、右大臣邸に忍び込んできた折に按察使や大江と親しくなった瑠璃さんは、煌姫の窮状を知って何とか力になってあげたいと思ったらしい。

なぜかと言うと、煌姫の乳母は按察使の妹だからだ。

何とも瑠璃さんらしい思考回路で、煌姫もその申し出を受けたとのことで、話しはとんとん拍子に進んで行き、数日前には煌姫はお付きの者と一緒に、三条邸へと移って行った。

どこにも問題はないのだが、ひとつ問題があったのだ。

単刀直入に言うと、守弥は若狭と言う煌姫付きの女房に懸想しているようなのだ。

本人がひた隠しにしているようなので、ぼくもあまり触れないようにしているのだけど、間違いないと思う。

守弥が若狭を息をひそめるように垣間見ていたのも知っているし、渡し損ねた恋文もぼくは見たのだ。

元々、煌姫を右大臣邸に預かると持ち出してきたのも守弥だったし、要は想い人の力になってあげたかったのだろう。

そうすれば好きな人を同じ屋根の下に住めると言う、ちょっとした下心・・・いや、下心と言ったら守弥が可哀相だな、何かあったら守ってあげられると言う男心もあったんだと思う。

少しばかり守弥にアドバイスをしたのだけど、どうやら2人の仲は進展しないままのようだった。

それが、こうして三条邸に行ってしまったわけで、守弥の落胆を思うと自分の結婚ばかり喜んでいるのもなぁ・・と言う気持ちになってくる。

瑠璃さんからの申し出で煌姫が三条邸に行くことになったと知らせた時の、守弥の驚きようと言ったらなかった。

そりゃあそうだよな、好きな人と離れ離れになってしまうのだから。

『瑠璃さんを通して、煌姫やお付きの者の様子をそれとなく聞いておくから』

気を利かせて言ってやったのに、ぼくの話しなんかろくすっぽ耳に入ってないような動揺ぶりだった。

あれから何日も経つのに、そうか、まだ落ち着かないでいるのか・・・。

何も知らない大江はともかく、守弥の心中が判るぼくは密かにため息をついた。

───この時のぼくは、まだ知らなかったのだ。

守弥の恋を心配している場合なんかじゃないと言うことを。

翌日、宮中の車寄せで車から降りかけたところで、偶然、同じ時間に参内した融に声を掛けられた。

「おはよう」

ニコニコと笑いながら近づいてきた融に

「融にしては早いじゃないか」

いつも時間ぎりぎりにあたふたと参内してくるから、からかってやると

「姉さんが吉野に行く準備でなんだか邸中がバタバタしててさ、落ち着かなくて出てきちゃったよ。どっかで昼寝でもするよ」

融は盛大にあくびをしながらのんびりと言った。

沓を履きかけていたぼくは固まってしまった。

───瑠璃さんが吉野へ行く?

聞いてないぞ・・・。。

ぼくは呆然と立ち尽くした。






<続>


高彬が(守弥には懸想している人がいる)と思った経緯は「守弥のジャパネスク・ラプソディ」にあります。

3年も前に書いた話ですが、煌姫が白梅院に移り住む前辺りの<守弥の暗躍>物語です。

でも、守弥、暗躍しすぎてドツボに嵌ってます。

♪~ドツボに嵌って、とっぴんしゃん~♪ (童謡『ずいずいずっころばし』より)

と言うお話です。

未読の方は、お時間はありましたら守弥を笑いに行ってあげてください。



(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Hさま)

Hさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

そうなんです、瑠璃は相談せずに決めてしまったのですよ。
高彬、びっくりです。
ゆっくり更新になりますが、よろしかったらお付き合いくださいませ。

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