*** 筒井筒のお約束をもう一度・・28<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・28 <高彬・初夜編> ***  









瑠璃さんの部屋へと案内されながら、ぼくは(ひぃ、ふぅ、みぃ)と心の中で指を折った。

瑠璃さんと最後に会ってから実に三ヶ月が過ぎようとしている。

(明日こそは瑠璃さんに会いに行こう)と思った矢先、相次いで同僚が風邪にかかってしまい、宿直を代わったり仕事を任せられたり方違えがあったりで、結局、三条邸に行けずじまいだったのだ。

三ヶ月の間、瑠璃さんの声を聞けてないのはもちろんのこと、文の返事さえもらっていない。

瑠璃さんとは童の頃からの長い付き合いになるけど、こんなに会えていないのは初めてかもしれない。

逸る気持ちを抑えて、用意されてあった円座に腰を下ろした。

「久しぶりだね、瑠璃さん」

落ち着いて言ったつもりだったけれど、少しだけ声が上ずってしまった。

御簾の中は静かで、瑠璃さんからの返事はない。

もう一度、口を開きかけたところで

「高彬さま。姫さまは高彬さまにお会いできなかったことで拗ねていらっしゃるのですわ」

小萩が膝を進め小声で言ってきた。

「本当は嬉しいのに、それを素直に言えないのですわ。わかってくださいませ」

しきりに言葉を重ねる小萩の声を聞きながら、ぼくはふと、ある気配を感じて人払いをした。

御簾越しにかすかに瑠璃さんが鼻をすするような音が聞こえた気がしたのだ。

「瑠璃さん、失礼するよ」

声をかけるのと同時に御簾の中に入ったぼくの目に飛び込んできたのは、案の定、唇を噛んで静かに涙を流す瑠璃さんの姿だった。

「ずっと来れなくて本当にすまなかったと思っているよ。だから、泣かないで、瑠璃さん」

手を取って言うと

「泣いてなんかないわよっ」

思いがけず威勢の良い声が聞こえ、手を振りほどかれてしまった。

「でも涙が・・・」

こんなに頬を濡らしながら(泣いてなんかない)と言われてもなぁ・・。

「これはあくび。高彬に会えなかったくらいで、あたしが泣くわけないでしょ」

フンと横を向く。

その横顔はどこまでも勝気で、そのくせ、自分の言葉が全てを語っていることに気付いてないことが、いかにも瑠璃さんらしかった。

「なによ」

横顔をじっと見られることに耐えられなくなったのか、ふいに瑠璃さんがぼくを見て、その目はやっぱり赤かったけど、ぼくはもう泣いていることには触れないでいてあげようと思った。

瑠璃さんがあくびと言うなら、あくびでいい。

「いや、瑠璃さんらしいなと思ってさ」

振りほどかれないようにとそっと瑠璃さんの手を取ると、振りほどかない代わりに、今度はぼくを睨みつけてきた。

「そうそう。このたびは近衛の少将にご昇進されたそうですね。本当におめでとうございますっ。瑠璃との結婚よりも宮廷からの召集に重きを置いた甲斐があったわね。この調子で順調に出世してちょうだいっ」

言うほどに感情が昂ぶってきたのか、またしても目に涙が滲んできたようで、そのまま悔しそうに

「どうせ高彬は、あたしとの結婚より仕事が大事なのよ」

と呟き、ぼくは慌てて瑠璃さんの手を更に強く握り締めた。

「そんなんじゃないよ。もちろん新帝が立たれたということは国にとっての一大事だ。臣下として駆けつけないわけにはいかない。だけど、ぼくが仕事に一生懸命なのは瑠璃さんのためでもあるんだよ。瑠璃さんをずっと守れるような官位を早く手に入れたいし、そうすれば内大臣さまにだって認めていただけるじゃないか。そういう思いがあって、ぼくはいつも・・・・」

言いながら、それでも、やっぱり瑠璃さんの気持ちをないがしろにしてしまったことには違いないわけで、ぼくはしゅんとしてしまった。

結婚を投げ出して参内してしまったばかりでなく、三ヶ月も会わずにいたことが、今更ながら悔やまれる。

どんな理由があるにしろ、やっぱり会いに来れば良かった・・・。

「瑠璃さん」

ぼくはもう一度、瑠璃さんに向き直り手を取った。

「あの日、ぼくだって本当は行きたくなかったよ。瑠璃さんのあんな姿を見て平気でいられるわけがないじゃないか」

言いながら抱き寄せると、瑠璃さんの身体はすっぽりとぼくの胸に収まり、ぼくは閉じ込めるようにさらに腕に力を入れた。

「会えない間・・・・・気が狂いそうだったよ」

「・・・・あたしも・・・」

聞き取れないほどの声で瑠璃さんが何かを言いかけ、聞き漏らすまいと耳を近づけると

「・・・会いたかった・・・」

呟くよりも小さな声で言い、ひしとぼくの胸にしがみついてきた。

「瑠璃さん」

目が合ったのが先か、唇が触れたのが先か、気付いたらぼくたちは接吻をしていた。

瑠璃さんの唇は少ししょっぱくて、ぼくは堪らない気持ちになってしまった。

瑠璃さんと三ヶ月も会わずに、よくいられたものだと思う。

衣越しとは言えこうして瑠璃さんを抱きしめていると、あの夜の白くて柔らかい肌がちらついて良からぬ考えが浮かんできてしまう。

出来ることなら、このまま瑠璃さんを押し倒して・・・・。

ふいに浮かんだ考えを振り払うように、ぼくはぐっと奥歯を噛み締めた。

三ヶ月間、放っておいて、会っていきなりなんて、さすがに身勝手すぎるだろう。

だけど、腕の中の瑠璃さんからは甘いいい匂いがしてきて、理性がぐらぐらと揺さぶられているのが自分でもわかった。

「明日は宿直だし、その後は物忌みや方違えで、こちらに三日間、続けて通える日が当分ないんだよ」

突然、今後の予定を話し始めたぼくに、瑠璃さんはぽかんとした顔になった。

一体、何を言い出すんだと思ったのだろう。

「その・・・、やっぱり瑠璃さんは、正式な手順で結婚したい・・・だろう?」

ようやくぼくの言わんとしていることがわかったのか、瑠璃さんの顔がぱぱぱと赤くなった。

「それはそうよ。急に・・・なんて、いやよ」

予想通りの返事に、ぼくは心の中でひとつ大きく息をついた。

がっかり半分、ホッとした気持ち半分と言ったところだろうか。

今、ここで瑠璃さんに色よい返事なんかもらったら、本当に行動に移してしまっていたと思うから。

良かった。

だけど、赤い顔した瑠璃さんを見てたらふいに悪戯心が湧いて来てしまった。

「ねぇ、瑠璃さん。今回は今回、結婚は結婚、と分けて考えてもらうわけにはいかないだろうか」

顔を覗きこんで言うと、瑠璃さんは「へ?」なんて頓狂な声を上げたかと思ったら

「い、いかないだろうかって・・・そんな・・・高彬・・・」

まん丸い目でぼくを見ると、ふいに笑い出した。

それは、今日初めて見る屈託のない笑顔で、その顔を見ていたら

(瑠璃さんの笑ってる顔はやっぱりいいな)

なんてしみじみと思ってしまった。

こちらを向かせ少し強引に接吻をして、身体を引き寄せる。

婚約者なんだし、これくらいいいよな。

思い切ってもう少し大胆なことをしようとしたところで思いとどまった。

「どうせいいところで邪魔が入るに決まってるんだしな・・・」

そうだよ、あの時もこの時も───。

思わずため息が出ると

「何よ、自分で飛び出して行ったくせに。文句言わないの」

顔を上げた瑠璃さんに額をつつかれてしまった。

「いてっ」

わざとらしく顔をしかめると

「大げさね」

ふふん、と瑠璃さんは鼻で笑い、その顔はすっかりいつもの瑠璃さんだった。

ぼくたちは回りに誰もいないのをいいことに、そのままの格好───つまりは抱き合ったままのかなり密着した格好で───会えなかった三ヶ月の間のあれこれを、時々の接吻をまじえながら報告しあったのだった。






<続>




(←お礼画像&SS付きです)

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