***短編*** 秋は夕暮れ ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






             注)このお話は一話完結です。
               
                ※多少セクシャルな表現がありますので苦手な方は閲覧ご注意下さい。

               
              






***短編*** 秋は夕暮れ ***










「ほら、高彬、見て。もう随分と赤く色付きはじめてるわ」

鴛鴦殿へと向かう牛車の中で、あたしは高彬の袖を引っ張った。

物見窓から外を見た高彬は

「うん、そうだね」

そう言うとそれきり黙ってしまい、それではあんまりだと思ったのか

「宮中の紅葉も日に日に赤くなっているよ」

と付け足した。

その言い方は(何とか楽しげに聞こえるように努力しました)と言うのがありありと判るような言い方で、あたしは心の中で大きなため息を付いた。

5日前───。

仕事が立込んでいたとかで、かなり遅い時間に三条邸に来た高彬の顔を見た瞬間

(何かあったな)

とピンときた。

高彬自身は普通に振舞っているつもりでも、どこか元気がないと言うか、物憂い感じと言うのが伝わってきたのだ。

伊達に筒井筒やってるわけじゃないから、そこらへんは隠してたってすぐにわかるのよ。

でも高彬は何も言わないし、あたしもあれこれ詮索するのは良しとしない性格だから、その日はそのまま普通に過ごしていった。

翌日やってきた高彬は、前日ほどではないにしてもやっぱりどこか浮かない顔をしていて、高彬が帰ったあと、あたしはすぐさま融を呼びつけた。

詮索したくないと言ったところで、やっぱり夫が元気がないというのは気になるじゃない。

もしかしたらと思うけど、またあたしのことでからかわれて嫌な思いでもしたんじゃないか・・・とか、さ。

まぁ、今更、そんなことで高彬が気分を害するとは考えづらいけど。

「ねぇ、融。高彬、宮中で何かあったの?」

融相手に当たり障りのない挨拶してもしょうがないから、単刀直入に聞くと

「うーん、あったと言えばあったような、なかったと言えばなかったような・・」

融はしきりに頭をひねりながら言い、あたしは思わず

「どっちなの。はっきりしなさいよ」

と叱り付けてしまった。

まったく、相変わらずグズなんだから。

それでも何とか聞き出したところによると、あたしが思っていたような「妻を揶揄された」と言う様なことではなくてどうやら仕事がらみで一悶着があったようなのだった。

高彬が大失敗をしたとかそういうことではないらしいのだけど、なかなかに込み入った事態に陥り、巡りめぐって高彬が濡れ衣を着せられた・・・と、そのようなことらしい。

判る人は判ってくれてるみたいだし、汚名は晴れたらしいのだけど、やっぱ権門のエリート子息と言うことでアンチ高彬と言うか、密かに高彬の失態を願ってる人とかもいるわけで、今回のことはそういうことが図らずも露呈する形になってしまい、どうやら高彬としても少しばかり味気ない思いをしたと言うか、まぁありていに言えば傷付いてしまったんだと思う。

宮廷って権力好きな人がわんさかいるみたいで、ほんと油断ならないところなんだわ。

高彬は真面目に仕事して、帝に仕えたい一心なのに。

そういうところに毎日、身を置いている高彬の心情をふと慮ってしまったら何だか気が急いてしまって、次の日やってきた高彬に

「鴛鴦殿に行かない?」

と半ば突発的に持ち掛けてしまった。

高彬が何か言うより先に

「二人でのんびり過ごしましょうよ。そしたらやなことなんか忘れるわ。判る人は判ってくれてるんだからいいじゃない」

続けて言うと、高彬は驚いた顔になり

「瑠璃さん、それって・・・」

「融に聞いたの。だって高彬、元気ないんだもの。気になっちゃって。・・・だから、ね、鴛鴦殿行こ」

ここのところずっと忙しかったし、鴛鴦殿のあたりは京から外れてる分、ここよりも静かでのんびりと出来るはず。

それで少しでも高彬の気分転換が出来ればいいし、あたしだって久しぶりに高彬とゆっくり過ごしたいもん。

最近は遅くにやってきて、早朝には出かけるってことが続いていたし。

どうにか高彬に仕事の段取りを付けてもらい、こうして鴛鴦殿へと向かっているのだけど───。

久しぶりの妻との外出に、少しは気分が上向きになってくれてるかと言えばさにあらず、数日前よりも浮かない顔を見せているのだ。

おかしいな、そんなに引きずる人じゃないはずなのに。

それとも融の知らない何か他のことがあったのかしら・・・・。






*********************************************






鴛鴦殿に付き一息ついたところで、あたしは高彬を外に連れ出した。

少し歩いたところで川原に下り、川伝いをそぞろ歩く。

川面を渡る風にはうっすらと煙の匂いが混じっており、どこか遠くで落ち葉焚きでもしているのかも知れなかった。

「静かねぇ・・・」

立ち止まり耳を澄ませてみても、聞こえてくるのは川のせせらぎと鳥の鳴き声だけで、向こう岸では傾きかけた秋の柔らかい日差しを受けて名前もわからない木々が見事な黄金色に輝いている。

「うん」

隣に並ぶ高彬が頷き、あたしはそっと高彬の手を取ると歩き出した。

「ねぇ、高彬」

歩調を合わせながら、ゆっくりと切り出す。

「高彬が仕事、真面目にがんばってるの知ってるわ。残念だけど世の中には嫌な奴っているのよ。だから高彬が気にしたり落ち込んだりすることないの。言いたい奴には言わせておけば───」

「──違うんだ、瑠璃さん」

「違う?」

遮られて思わず聞き返す。

「うん。違うんだ」

少しの逡巡の後、高彬は前を向いたまま話しだした。

「仕事のことで確かに少しは落ち込んだけど、だけどそういうのは今に始まったことじゃないからね。ぼくが心底落ち込んでるのは・・・・不甲斐ない自分自身になんだ」

「え?なぜ」

「瑠璃さんに・・・・落ち込んでるの見破られたから・・・」

「え?───えぇ?」

「男として仕事頑張るのは当然だと思ってるし、それを家に持ち込むようなことはしたくないんだ。夫たるもの、妻に仕事のことで心配かけるなんてこと、あってはならないことだと思ってるし・・・・」

言いながら、またしても新たに落ち込んでしまったかのようにため息を付く高彬を横目に、あたしはあたしで深いため息をついてしまった。

つまり高彬は、仕事で気落ちしていることをあたしに悟られてしまったことに落ち込んでいる、と。

だから、あたしが「鴛鴦殿に行こう」と誘ったあと、さらに元気がなくなったと───そういうわけなのね。

「・・・・・」

高彬の横顔を見ながら(落ち込み方にも性格って出るものなのねぇ・・)なんて、あたしは妙に感心してしまった。

男として、とか、夫たるもの、とか。

まったくもう。

「───えいっ」

掛け声と共にあたしは高彬の背中に飛びついた。

「うわぁぁ・・・!」

突然のことに頓狂な声を上げながらバランスを崩しかけた高彬は、それでも何とか踏ん張って倒れるのは免れたようだった。

「る、瑠璃さん?!」

「ほらほら、歩いて」

「歩く?!」

「あの先っぽがとんがってる木までよ」

前に見えている色付いた木を指差すと

「結構、距離あるよ・・・瑠璃さん・・・」

高彬は呟き立ちすくんでいる。

「夫たるもの、妻をおぶって歩けなくてどうするの」

ぴしゃりと言ってやると、高彬はぐっと言葉に詰まったようだった。

一拍の後、高彬は歩き出し、あたしは高彬の背中に頭を凭れかけながらキラキラと光る川面を見つめた。

「ねぇ、高彬」

呼びかけたのに返事はなく、あたしは構わず話しだした。

「あなた、男として、とか、夫たるもの、とか、そういうことを気にしすぎなのよ。嫌なことがあったらグチったらいいのよ。あたしたち夫婦なんだもの。それにね、あたしはあんたが鼻水たらしてビービー泣いてる姿見てるのよ。今さらあたしの前でかっこつけたって遅いのよ」

日が傾いた分、川面はよりいっそうきらめきを増したようだった。

「幻滅して嫌いになるのなら、もうとっくの昔になってるわよ。・・・・一人で抱え込まれるほうがあたしはイヤ」

黙々と歩く高彬から相変わらず返事はなかったけど、それでも身体中の緊張が解けていくのが背中越しにもわかった。

「だから、これからは何かあったらあたしに言う事。・・・・・・わかった?!」

返事も頷きもしなかったので、最後の言葉を言いながら耳をひっぱてやると高彬は

「イテっ」

と大声をあげ、それでも頷かないので

「わかった?!返事は?」

と耳を引っ張りながら叫んでやると、痛みに耐えられなかったのか高彬はコクコクと頷いた。

「わかったならいいわ。・・・じゃあ、今度は走って」

「走る?!おぶったまま?」

「そうよ。ほら早く!」

背中を押すと、高彬は走り出し、途中転びそうになったりあたしがずり落ちそうになったりの大騒ぎで、目的の木に倒れこむように着いた時には二人して笑い出してしまった。

その後も、笑いの勢いのままに童の頃を思い出しながら石蹴りしたり追いかけっこしたりたくさん遊んで、気が付いたら日は大きく傾いており、あたりは茜色に包まれていた。

遠く鳥の鳴き声が聞こえ、目で追うと数羽の鳥が山際へと飛んで行くのが見えた。

二人の影も長く伸び、日没が近いことを知らせてくれている。

「帰ろうか」

手をつないで鴛鴦殿まで歩き、その間にも夕闇はどんどん深く濃くなって行く。

秋の日は早い───。

その晩、川原での戯れそのままにあたしたちは抱き合った。

じゃれあうように身体に触れ合い、笑い合いながら指と手と脚と身体を絡ませ合った。

これ以上はできないというくらいに身体を密着させ接吻をする。

高彬に後ろから抱きつかれて耳元で睦言を囁かれ、くすぐったさに身をすくめると

「妻たるもの、こんなことも我慢できなくてどうするんだ」

なんて言いながら耳を噛むので、あたしはまた笑わずにはいられなかった。

仕返しとばかりに高彬をくすぐると、戯れ言を言いながらのじゃれあいがいつしか濃密なものへと変わっていき、お互い最後には戯れ言を言う余裕もなくなって息づかいだけになってしまったけれど、それでもその乱れた息づかいさえ愛おしかった。

高彬の胸でうとうととまどろみながら、ふと、夕暮れの空に飛んでいた数羽の鳥を思い出す。

───あの鳥たちも、今頃は寝床でこんな風に身を寄せ合って眠っているのかしら・・・

「・・・高彬」

呟くと、さらにぐっと抱き寄せられ、あたしはその力強さに安心して眠りに落ちて行ったのだった。






<終>

(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

ダイキチさま

ダイキチさん、おはようございます!

> イメージとしては、原作より少し大人になった二人でしょうか??

はい、そんな感じですね^^
結婚して少し経った頃・・・くらいのイメージです。

> 二人の良い関係、バランス、こんな二人がツボです(笑)

この二人のバランスは良いですよね。
力関係が一定していない感じが、むしろ抜群の安定感を出していると思います。

可愛い二人に、ニヤニヤが止まりません(笑)

イメージとしては、原作より少し大人になった二人でしょうか??
二人の良い関係、バランス、こんな二人がツボです(笑)

非公開さま(Rさま)

Rさん、こんにちは!

「おんぶ」に萌えていただき(?)ありがとうございます(笑)
誰もいない川原だったからできたのでしょうね~。
それにしてもおんぶしながら走るって大変そうです。
高彬は武官だから出来たんだと思います。(守弥にはムリ!)

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非公開さま

こんにちは。

以前にもコメントをいただいていた方なのですね。ありがとうございます。
長きに渡ってご訪問いただきありがとうございます。

新婚編が中途半端なままになっていて本当にすみません。
私も気になっていますので、何とか最終回まで書ききりたいと思っています。

読んでいて笑顔になるだなんて、とても嬉しいです^^
そういう言葉をいただけると、書いててよかった~と思います。
楽しんで可愛がってもらえるような話を書いていけるようにがんばりますね。
コメントありがとうございました。

みそさま

みそさま、こんにちは!

> 理由は様々あるのでしょうが『宮廷内のことを家庭に持ち込みたくない』という高彬のスタンス、結構、好きだったりします。

そうですよね!
高彬は今後も、やっぱり仕事のことは瑠璃に言わないと思います。
瑠璃の言葉は嬉しかったでしょうが、まぁそれはそれと言う感じで。
それに、瑠璃に言ったらまた首を突っ込まれるのではないか・・・と言う危惧もあるわけですしねぇ・・(笑)

> そして「おんぶ」は伊勢物語かなぁ…と。

在原業平と高子、でしたっけ?
おぶって駆け落ち(未遂)の場面でしたよね。

> でも瑠璃と高彬には伊勢物語のようなロマンチックさはないですね。

ないですね(笑)

> なんたって「あたしを背負ったまま、あの木までgo!!」ですからね。(笑)

しかも走れ、と。
どこのスポ根漫画かって感じですよね(笑)

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理由は様々あるのでしょうが『宮廷内のことを家庭に持ち込みたくない』という高彬のスタンス、結構、好きだったりします。
でも結局、瑠璃に崩されてしまうのも好き。(笑)

作中の、高彬が瑠璃を背負うのが新鮮に感じました。
マンガの影響なのか、高彬は「お姫様抱っこ」のイメージが強くて。
そして「おんぶ」は伊勢物語かなぁ…と。
でも瑠璃と高彬には伊勢物語のようなロマンチックさはないですね。
なんたって「あたしを背負ったまま、あの木までgo!!」ですからね。(笑)
まぁ、そんな二人が大好きなんですけど。

高彬は身も心も瑠璃に癒されて、イロイロと元気になったんでしょうね。(≧∇≦)
妻の鏡ですね~。
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