*** 筒井筒のお約束をもう一度・・24<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・24<高彬・初夜編> ***  









三条邸に向かう牛車の中で、ぼくは大きく息を吐き出した。

知らずに身体に力が入っていたらしい。

───まぁ無理もないよな。

何しろこれから瑠璃さんとの結婚に向かうのだから。

そっと物見窓を開けると、少し冷たい初冬の風が流れ込んできた。

最後に瑠璃さんと会った二ヶ月前には、まだ暑さの名残があったことを思うと二ヶ月と言う長さが実感として迫ってくる。

普段よりも口数が少なく神妙な面持ちで付き従っている従者らが目に入り、松明を持つ政文に至っては緊張のためか顔が青ざめて見える。

白梅院でおこした火を三条邸に運ぶ大切な役目を担っているからだろう。

ガチガチに緊張した様子の政文を見たら、ぼくは少しだけホッとしてしまった。

自分より緊張してる人を見て、緊張が解けるというのも情けない話しだけど。

それにしても・・・と、もう一度、従者らの確認をしてぼくは嘆息した。

やっぱり守弥はいない。

従者に加われとどんなに言っても、やれ邸内の仕事があるだの足が痛むだなどと見えすいた噓を並べては頑として聞かなかったのだ。

この二月と言うもの、守弥とは結婚について話すことはなかった。

普通の会話はいつも通りしても、結婚の話は守弥の方で巧妙に避けてる節があったから、ぼくの方からも特別に話をすることはなかったのだ。

出発するに当たっても祝いの言葉は聞けず、ぼくは少なからずショック───と言うか、まぁ、味気ない思いを味わっていたのだが、いよいよ車に乗り込むという段になって

『若君』

と守弥が声をかけてきた。

最後の最後で何かしら祝福の言葉が聞けるのではないかと期待して振り向いたぼくに、守弥は

『もし殿と若君のどちらかを選べと言われたら、わたくしも若君を選びます』

と真顔で言い、ぼくはあやうく膝から崩れ落ちそうになってしまった。

守弥から祝言を期待したぼくが馬鹿だったのだ。

何が『若君を選びます』だ。

出発間際に気持ちの悪いことを言いやがって。

まったくこれから結婚に向かうと言うのに、幸先の悪いことを・・・・。

チラとそんな思いが頭を掠め、ぼくは慌てて頭を振った。

<幸先悪い>などと言う、それこそ縁起でもないような言葉は、こんな日にふさわしくないと言うことは陰陽師じゃなくたってわかることだ。

思いを振り払うようにひとつ大きく咳払いをして、車に乗り込んだのだが・・・・。

もしや、あの後、気でも変わって守弥も付いてきたかと思ったのだが、来てないところを見ると、とことんぼくの結婚にあいつは反対らしい。

母上といい守弥といい、そんなにも瑠璃さんとの結婚に反対なのかと思うと、さすがに気が滅入ってくる。

二人ともぼくを大切にしてくれているのは判るんだけど、だからと言ってぼくのこの<瑠璃さんを好きだ>と言う気持ちは大切にしてくれないらしい。

『高彬さんのために』とか『御ために』とか言って、ぼくの気持ちをないがしろにする。

瑠璃さんを好きになったぼくの<人を見る目>みたいなものを、まったく信じちゃいないのだ。

そこが実にもう、ぼくが味気なさを感じる最大の理由なんだけど・・・

まぁ、仕方ないか。

母上や守弥だって、いずれは瑠璃さんとの結婚を祝福してしてくれるだろう。

時が経つのを待つしかないのかも知れない。

───カタン、と音がして、どうやら車は三条邸の東門をくぐったらしい。

いつものような先導は当然なく、ぼくはそっと庭先に回りこんだ。

沓を脱ぎ、階を上がると<いよいよ>と言う感じがして、さすがに緊張感がよみがえってくる。

ひとつ大きく息をつき、そっと格子を叩く。

自分で思っていたよりも大きな音を出してしまい慌てていると、音もなく妻戸が開き、小萩が立っていた。

ぼくを認めると小さく会釈をして、そのまま部屋へと招き入れられる。

いつもの場所に変わりなく瑠璃さんは座っており、用意された円座に腰を下ろしながら、ぼくは瑠璃さんに見惚れてしまった。

瑠璃さんがいつもよりも綺麗に見えてしまい───言葉が出てこない。

ぼくがじっと見ているからなのか瑠璃さんは俯いたまま扇をしきりにいじっていて、そんな瑠璃さんを見ているうちにぼくは(あぁ、そうか)とあることに気が付いた。

瑠璃さんは見たことのない衣裳に身を包んでいたし、それにこの部屋の調度品は何から何まで新調されており、更にはそれを瑠璃さん自身が恥じらっているような気配が伝わってきて───

だからいつもより綺麗に見えたんだ・・・なんて言ったら瑠璃さんは怒るだろうけど、でも、新調された衣裳や調度品から瑠璃さんの心弾みと言うか、瑠璃さんもこの日を待ち望んでいてくれたのだということが判って、我ながら単純だと思うけれど嬉しくなってくる。

それと同時に、瑠璃さんに対して何とも言えない気持ちが湧き上がってきた。

結婚を迎えるのは当然、瑠璃さんも同じで、きっと女性である瑠璃さんはぼくなんかの何倍も恥ずかしかったり緊張しているに違いないのだ。

ぼくが緊張してる場合じゃないんだ───

そう思ったら

「瑠璃さん」

と自然に名前を呼ぶことができた。

ハッとしたように瑠璃さんが顔を上げ、目が合うとたちまち瑠璃さんの目の淵が赤くなった。

やっぱり相当、緊張しているんだ。

「瑠璃さん。二ヶ月たったね」

「・・・うん」

二か月ぶりに聞く瑠璃さんの声だった。

ぼくは少し瑠璃さんに近づいて、そうして手を取った。

瑠璃さんの手は温かく、反対に瑠璃さんにはぼくの手が冷たく感じたのかも知れない。

「外は寒いの?」

驚いたように聞いてきた。

「うん、少しね。夜風が冷たかった」

ぼくの手、冷たい?と聞くと、瑠璃さんは首を横に振り

「もう十月だもんね」

ぼくの手を温めるかのように、少し瑠璃さんの手に力が入ったようだった。

ぼくはもう少し瑠璃さんに近寄った。

「瑠璃さん、覚えてる?」

瑠璃さんの手を握り直しながら

「童の頃、犬の仔が迷い込んだのも十月だったね」

あの日のことを覚えているかと思い、十月のところを強調して言って見ると

「そうだったっけ?」

瑠璃さんは、素っ気なく首を傾げて見せた。

犬の仔が迷い込んだ十月と言うのは、何を隠そう瑠璃さんに求婚をした時のことなのだけど、瑠璃さんはすっかり忘れてしまっているらしい。

瑠璃さんらしいと言うか・・・。

「ほんと、瑠璃さんは・・・」

言いかけると

「忘れっぽいって言いたいんでしょ」

ぷぅと頬を膨らませて瑠璃さんが先回りして言い

「だから、あたしが忘れっぽいんじゃなくて、あんたが・・・」

「何でも覚えすぎてるって言いたいんだろ」

仕返しに先回りして言ってやると、一瞬、瑠璃さんはポカンとして、目が合ったところで二人して吹き出してしまった。

「だから言っただろ。ぼくは瑠璃さんのことは、何でも覚えてるって」

瑠璃さんの手をポンポンと軽く叩きながら言うと

「何でも、なんてうそよ」

瑠璃さんが唇を尖らせた。

「何でも、だよ」

「じゃあ、あたしが裳着を迎えたのはいつ?」

「瑠璃さんが十二歳の時の11月だ。違う?」 

「・・・当たりよ」

「それで、その日、瑠璃さんは、裳着を嫌がって庭に隠れたろ。女房たちに見つかって部屋に連れ戻されたんだ」

「当たってるわ・・・変なことまで知ってんのね」

びっくりしたように言う瑠璃さんがおかしくて

「いや、今のは当てずっぽうだ」

額を指で突くと

「ひどい!」

瑠璃さんはぼくをぶとうと手を上げ、その隙をついてぼくはそのまま瑠璃さんを──── 抱き寄せた。







<続>


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

ダイキチさま

ダイキチさん、おはようございます。

> 次の展開を知ってるとはいえ、続きが気になるのは なぜ??(笑)

一応、高彬本人は次の展開を知らずに大真面目に演じてますので(笑)内密にお願いします。

> そして、守弥。この言葉、守弥にとっての精一杯の(瑠璃さんとのことも含め)「いつまでも高彬の味方アピール」??って思いました


うーん、奥が深い!はてさて守弥の心中はいかに?

次の展開を知ってるとはいえ、続きが気になるのは なぜ??(笑)

そして、守弥。この言葉、守弥にとっての精一杯の(瑠璃さんとのことも含め)「いつまでも高彬の味方アピール」??って思いました

ヨッシーさま

>二人とも、高彬命だから


ほんと、そうですよね。
瑠璃がどんなに良い人でも、やっぱり「許しません!」なのかも知れませんしねぇ。

守弥も母上と同じ事言うとは、高彬、大変だよね。二人とも、高彬命だから(。´Д⊂)ガックリだよね。瑠璃さん、情が深くて、良い人だよ。 でも、振り回されてるけどね。そんな高彬を見るのが大好きです( ̄∇ ̄*)ゞ
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