***短編*** 月下問答 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




         注)このお話は一話完結です。

         『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
         今回のお題は「月夜の晩に」でした。

          <おまけの話>下にあります。
           





***短編*** 月下問答 ***








斜めに射し込んだ月明かりが、部屋の奥に置かれた二階厨子の細かい模様までをも浮かび上がらせている。

白梅院のいつものぼくの部屋、いつもの几帳、いつもの灯台、いつもの調度品───

その中で、ぼくはさっきから息を潜めるように座り込んでいる。

なぜなら────

「どうした高彬、表情が硬いぞ。お前は実家でもそんな顔で過ごしているのか」

「は」

条件反射で平伏すると

「まぁ、そう畏まるな。ここは白梅院だ。義兄として、お前と話がしたい」

頭の上から、砕けた口調が落ちてきた。

「・・・・」

ぼくは心の中で、大きく頭を振った。

畏まるな、と言われたって、そんなのは無理に決まっている。

何しろ、ぼくの目に前には、畏れ多くも帝がいらっしゃるのだから。

普段ぼくが使っている脇息をさりげなく引き寄せ、うっすらと笑みを浮かべられた玉顔には折からの月明かりが当たっている。

どうしてこのような事態になったのかと言うと、そもそもは承香殿女御───つまりは姉上の里帰りが発端だった。

10日ほど前から姉上は里帰りをしており、それは正式な手続きを踏んだものなので何ら問題はないのだが、それが昨日になって帝御自らふいに白梅院においでになられたのだ。

もちろん<ふいに>と言ったところで、帝がお一人でふらりと立ち寄られるとかそういうわけではもちろんなく、言わば公認のお忍び、と言ったていのものである。

数日前から根回しと言う形で、我が父上、右大臣にも話しは入ってきており、ぼくも近衛少将と言う役職もあり有事に備えて(と言っても、あくまでもお忍びであるからさりげなく)待機していたわけである。

ぼく以外にも左右の両中将や左近少将、多数の武士なども、姿は見えないけれどきっちりとしかるべき場所で待機している。

おそらく白梅院はこの瞬間、京で一番、安全な場所になっているはずである。

そんなわけで、帝の白梅院ご滞在は何の手違いも手抜かりもなく、よどみなく進められて───いくはずであったのだが、少しばかり姉上に手違いが生じてしまった。

つまり、その・・・・・体調的に手違いがあったと言うか、こればかりは根回しされてもどうしようもない事態と言うか・・・まぁ、そういうわけだ。

いくら帝と言えども、さすがに妻の実家で「では、誰か他の者を・・」と言うわけには行かなかったのか、その辺りはぼくごときが詮索することではないけれど、つまりは帝はどうやら、こういう下々の言い草は大変失礼ではあるけれど、文字通り、手が空いてしまった・・・と拝察申し上げる次第である。

寝殿の間で、月を肴に後宮から姉上と一緒に下がってきていた女房相手につれづれに話しをしながら過ごされていた帝は、それにも飽いた頃

(そうだ、白梅院には高彬がいるではないか)

と思われたかどうかは定かではないけれど、ふいにぼくに白羽の矢が立った───と言うか、突き刺さったのだ。

皆と別室で控えていたぼくは「帝がお呼びでございます」と呼びに来られびっくりし、更には帝御自らに「せっかくだから、お前の部屋に行こう」と言われ、二度びっくりした。

そうして今に至るわけなのだけど・・・いやはや・・・。

一臣下でしかないぼくの部屋で、こうして帝とぼくが向かい合わせに座っているなんて、ありうべからざること 、まさしく<有事>である。

「私はお前の母君が何だか苦手でね。悪い方でないのはわかるのだけど、どうにも押しが強くて困る。あのまま寝殿で過ごしていたら、いつ母君がやってくるとも知れず、義弟の部屋に逃げこまさせてもらったよ」

ぼくの緊張を解こうと心を砕いて下さったのか、帝は片目を瞑りながらおっしゃった。

そうしてぼくの顔を見ながら

「まぁ、お前の部屋にも興味があった。有能な武官の部屋とはどんなものかと思ってね」

「いえ、そんな・・・」

「だからと言って部屋中を見て回るなんてことはしないから安心しろ。お前にだって見られたくないものがあるだろう。たとえば・・・・・そうだな、妻からの恋文とか・・・」

ぎょっとして思わず二階厨子に目をやると

「そこか。そこに隠してあるのか」

帝はおかしそうに、くっくと喉を鳴らしてお笑いになった。

カッと首の後ろが熱くなり、ぼくは心の中で自分をののしった。

───ばか!自分でありかをばらしてどうするんだよ。

「しかしなぁ、高彬」

ぼくの心中の動揺を知ってか知らずか、帝は引き寄せた脇息にもたれ掛るように身体を預けながら、のんびりとした口調でおっしゃった。

「男と言うのは憐れなものだな。なんだかんだ言ってみても、女人の事情とやらの前ではなすすべもない」

これは姉上の体調のことを指しているに違いなく、後宮とは勝手の違う妻の実家での姉上の<事情>に、帝もある感慨を抱いていらっしゃるようだった。

妻の<事情>に振り回される男の憐れさには、ぼくにも心当たりがないわけではないので曖昧に頷くと、帝はふと、お身体を乗り出されるようにして更に言葉を続けた。

「そういう時、己が身の事情を恥じるかのように、呟くように恥ずかしそうに謝る姿と言うのも、また興がそそられるものだがね」

これなどは多いに心当たりがあり、さっきより大きく頷きかけたところで、ぼくは、再度ぎょっとして身体が固まってしまった。

ここで

『はい、そうですね』

と頷いてしまったら、それはすなわち瑠璃さんがそうであると暴露してしまうことになるし、そうかと言って

『いいえ、違います』

と否定してしまったら、それはそれで瑠璃さんは違うと言っているわけで、とにかくぼくが何かを言ったら、それは全て瑠璃さんのことを語ってしまうと言う事なのだ。

これはうかつなことは言えないぞ、とぼくは密かに腹に力を入れた。

そんなぼくに追い討ちをかけるかのように───などと言ったら、本当に畏れ多いことだけれども───帝は更に身を乗り出され、まるで楽しそうとも取れるような口調で続けられた。

「まぁ男が憐れだなどと言ってみても、やはり男は良いものだ。そうは思わないか、高彬」

「はぁ・・・」

話がどう転ぶか判らず、ぼくはあやふやに相槌を打った。

「明け方、ほどけきった顔のしどけない寝姿を見せてくれたりするのは、まぁ男冥利に尽きるというものだ」

「・・・・・・」

「ことに普段は気が強いと言うか、はねっかえりなどと思われている姫が、思いの他、自分にだけは甘えてくる姿を見た時などは、尚更、愛しさが募ると思うのだが、お前はどうだね、高彬」

「・・・・・・・」

薄雲が月を覆ったのか、月明かりがほんの少し翳った。

身体中からドッと汗が噴き出すのを感じながら、ぼくは生まれて初めて、あちこちに恋人を作り浮名を流すことの利点に気付いた。

こういう時、誰と特定せずに煙に巻くような返答ができるのか・・・。

名うての遊び人とまでは行かなくても、そこそこ普通に複数人の恋人がいれば、たとえば

『そんな女人もいたやも知れませんね。なにぶんにも昔のことで、まるで今宵の月に薄雲がかかったかのように記憶も定かではありませんが・・・』

とか何とかぼやかして言えるのだろうけど、ぼくのように今も昔も瑠璃さん一筋で来たことが周知の事実である場合、今さら色好みぶったセリフを言ってみたところでそれがまかり通るとは思えないし、どだい似合わない。

こういう時のために恋人を作ると言うのもおかしな話だし、何よりも<妻は生涯あたし一人だけ>と言い切る瑠璃さんがそれを許してくれるわけもなく、そもそも瑠璃さんを守るための手段として、その瑠璃さんが最も嫌がるであろうことをするのは本末転倒と言えるわけで・・・・

いやいや、今はそんなことよりも、まずはこの場をどう切り抜けるかだ。

『お前はどうだね、高彬』

とご下問があったからには、お答えしないのは失礼にあたるだろう。

「その・・・わたくしは・・・」

ひとつ大きく息を吸い、口を開くと

「なんだね」

帝は大きく身を乗り出された。

「その・・・」

夜風が涼しい秋の宵だというのに、背中を一筋、汗が流れていく。

口を開いて見たもののどうしても言葉が出てこず、もうこうなったら正直に言うしかないかと思いかけたところで

「───たいがいになさいませな、主上。右近少将どのがお困りではありませぬか」

ふいに几帳の後ろから声が聞こえ、大納言典侍どのが現われた。

大納言典侍どのは、帝が幼き頃より側近くでお仕えてしていた古参の女房で、国母であられる大皇の宮さまの信頼も厚い方である。

そのため、帝に対しても時には母のような口を聞き、またそれを帝ご自身も疎んじられていないと言う稀有な方でもあるのだ。

大納言典侍どののふいの出現に帝は一瞬、うろたえたような表情をなされ、それでもすぐに

「右近少将を困らせていただなどとは人聞きの悪い。ただ、からかっていただけですよ。高彬はからかうと、顔が赤くなったり青くなったりで、実に面白い」

穏やかな口調で言い、大納言典侍どのに向かいにっこりとお笑いになった。

「主上!また、そのようなことを・・・」

なじるように大納言典侍どのは帝に言い、次いで、思わぬ助け舟にホッと胸をなで下ろしているぼくの方を見ると

「少将どのも、もっとしゃんとなさいませな。妻を娶った殿方ともあろう方が、これしきのことも言い返せないでどうなされますか」

ぴしゃりと言われ、ぼくはぐうの音も出なかった。

ほんの一瞬、帝と目が合うと、帝は小さく首をすくめられ、畏れ多いことながらまさしく厳母に叱られる兄弟、と言った形である。

「さ、主上も寝殿にお戻り遊ばせ。いくらお忍びと言いましても、羽目の外しすぎは仕えるものにいらぬ心配事を増やすだけでございますよ」

さすがの貫禄で言い切ると、帝は「やれやれ・・」と呟かれながらも立ち上がられ、やがて退出されて行かれた。

ぼくはと言えばすぐには立ち上がることも出来ずに、しばらくは自分の部屋の下座でぼんやりとしてしまった。

もしかしたら、帝にからかわれているのではないか・・・と、思わないではなかったけれど、ああもはっきりと「高彬をからかうのは実に面白い」と言われてしまうと、何とも言えない虚脱感がある。

そろそろ皆のいる別室へ行かなくてはとのろのろと立ち上がり、簀子縁に出たところで月が目に入った。

澄み切った夜気の中で月は煌々と光り、白梅院の庭の隅々まで照らしている。

───からかうと面白い、か・・・

───もっとしゃんとなさいませ、か・・・

自分の未熟さをずばり指摘されたみたいで、何だかがっくりと来てしまった。

本当にぼくはまだまだなんだよな。

思わず大きなため息をつくと

「まぁ、月を眺めながらため息をつかれるなんて風流ですこと」

向うからやってきた大江がにこにこと話しかけてきた。

「ひょっとして瑠璃姫さまのことでもお考えですの?」

そのあまりに能天気な口ぶりに返事をするのも億劫になり、手だけで<下がれ>と合図をすると、大江は

「はいはい、邪魔者は消えますわ。思う存分、瑠璃姫さまのことをお考えくださいませ」

ふふふ、高彬さまったら・・・などと呟きながら、来た道を戻って行った。

なにが<ふふふ>だよ。

ぼくの胸中も知らずに、よくあそこまで一人で盛り上がれるものだ。

つくづく世の中と言うのは、思い込みと勘違いで動いているんだなと思えてくる。

こんな月夜の晩に、ぼくだって許されることなら色っぽいため息をつきたいさ。

瑠璃さんにだってため息を───つかせたい。

そうしてそれを耳元で、飽きるほどに聞きたいさ。

最近、忙しくて三条邸に行けてないけど、瑠璃さんはどうしているだろうか。

───あーあ、瑠璃さんに会いたいな。

柱を背に座り込み、もう一度、空を見上げると、月は素知らぬ風に秋の夜空にぽっかりと浮かび、変わらず煌々と輝いているのだった。








<終>



***************************************************


<おまけの話>







翌朝、帝は白梅院をご出立され、晴れて自由の身となったぼくは仕事を終えると三条邸へと向かった。

たまっていた書類や残務整理に時間を取られ、内裏を出た時には戌の刻を回っていた。

帰り際、更に仕事を言い渡してきそうな上官の視線を感じないではなかったけれど、声を掛けられないのを幸いにぼくは気が付かない振りをして席をたってしまった。

今日こそは瑠璃さんに・・・会いたい。

もう10日も瑠璃さんに会えていないのだ。

「お帰りなさいませ、少将さま」

出迎えた小萩に先導されながら瑠璃さんの部屋へと向かう途中、小萩が何かを言いたげにチラチラとぼくを見ていることに気が付いた。

うーむ、この様子はもしかしたら・・・。

「あのう・・・少将さま。申し上げにくいことなのですが、実は姫さまは数日前から・・・その・・・月の障りでございまして・・」

・・・・やっぱり、そうか。

「本当に申し訳ございません」

「・・・・」

小萩に真顔で謝罪され、いつものことながらぼくは何と言ったら良いのか困ってしまった。

それが目的なわけではないし、誰が悪いわけでもない。

でも落胆している気持ちも確かにあるわけで、何とも複雑な気持ちになる。

妻戸を開け部屋に入ると、いつもいる場所に瑠璃さんの姿はなく

「姫さまは今日はずっと臥せっていらして」

小萩が几帳の後ろに目をやり、どうやら瑠璃さんは横になっているらしかった。

「いいよ、このまま寝かせてあげて」

瑠璃さんに声をかけようと奥に行きかけた小萩に声をかける。

「では、少将さまもすぐにお休みになられますか?でしたらお召し物のご用意を・・・」

「いや、もう少し起きているよ。適当に休むから小萩も下がっていいよ」

頭を下げ部屋を出ていった小萩の姿がすっかり見えなくなったのを見届けてから、ぼくはそっと部屋を出た。

今、瑠璃さんの隣で寝るのはまずい。はっきり言って自信がない。

妻戸を閉め、柱を背に座り込む。

目の前にぽっかりと浮かぶ月を見ながら、ぼくはひそかにため息をついた。

何のことはない、せっかく三条邸に来れたと言うのに、これじゃあ昨夜と同じじゃないか。

ふと、昨夜の帝のお言葉が頭に浮かんだ。

───男と言うのは憐れなものだな。なんだかんだ言ってみても、女人の事情とやらの前ではなすすべもない。

全く言い得て妙だよなぁ。

この気持ちを同じように味わっていると思うだけで、畏れ多いことながら連帯意識を持ってしまう。

「ずるい」

ふいに声が聞こえびっくりして振り向くと、いつ起きだしてきたのか瑠璃さんが立っていた。

そうして屈みこんでぼくの目線の高さに合わせて空を見ると

「こんな綺麗な月を一人で見ちゃって」

すねたように唇を尖らせて見せた。目が笑っている。

「・・・起きだして大丈夫なの?身体の方は・・・」

あからさまに聞くのは気がひけて言葉を濁すと

「大丈夫よ。病気じゃないもの」 

「うん・・・そうか。・・・・座る?」

身体をずらして隣を少し空けると、瑠璃さんはコクンと頷いて腰を下ろした。

病気じゃないと言いつつも、その仕草はやっぱり普段よりかは少し大儀そうで、でもそれが妙に色っぽく感じられてしまい、ぼくはそんな風に思う自分に舌打ちしたい気持ちだった。

「綺麗な月」

ほぅとため息とともに呟き、しばらく月を見ていた瑠璃さんは

「来たのなら起こしてくれて良かったのに」

ぼくを見て思い出したように言った。

「小萩が・・・ずっと臥せってたって言うから・・・体調悪いのに起こしたら悪いかと思って」

まさか、瑠璃さんの顔を見たら抑えられなくなりそうだったから、とは言えなくて、つかえつかえになってしまう。

「眠かったから寝てただけよ。いくら寝ても眠いんだもの」

瑠璃さんは肩をすくめて言い、前を向くと

「気を遣わせちゃって悪かったわね」

恥ずかしそうに呟いた。

そうして黙って月を見上げている。

横顔がいつもより白く見えて、やっぱり体調が本調子じゃないことを窺わせた。

「寄りかかっていいよ」

そう言うと瑠璃さんは少し迷ったあと「うん」と頷き、心持ち身体を寄せた。

「もっといいよ。遠慮しないで」

引き寄せると、瑠璃さんは身体の力を抜いてぼくに全てを委ねるようにもたれかかってきた。

少しでも寒くないようにと肩まで抱え込むようにしてしばらく月を見ていたぼくは、やがて心の中で唸り声をあげてしまった。

うーむ、この密着度はまずいぞ・・・。

ついさっき(自信がない)と感じた思いが、再びこみあげてくる。

結婚してすぐの頃ならともかく、ある程度、色んなことをこなしてきたと言うのにこういう性急さが顔をだすところが、男の憐れさのそもそもの原点なのかもしれないよなぁ。

「瑠璃さん、ごめん。やっぱり離れて」

瑠璃さんの身体を押しやると、瑠璃さんは「え?」とびっくりしたような声をあげた。

ポカンとぼくを見て目をぱちぱちさせている。

「遠慮しないで」と言われて抱き寄せられたそのすぐ後に、今度は突き放されて、訳がわからないと言うような顔をしている。

無理もないよな。

やってることに一貫性がないと自分でも思う。

ポカンとぼくを見ていた瑠璃さんは、一度、大きく瞬きをすると、ゆっくりとぼくにもたれかかってきた。

「だからごめん。離れて」

無理やり身体を離そうとすると、離されまいと瑠璃さんはしっかりと腕を回してくる。

「瑠璃さん」

ひしっとしがみついてくる瑠璃さんと無言の攻防を繰り広げているうちに、瑠璃さんの頬が盛り上がっているのが横顔から見て取れた。

その瞬間、ぼくは悟ってしまった。

「瑠璃さん。今・・・笑ってただろ」

「笑ってないわよ」

そういう声が笑っている。

「ぼくの反応見て、楽しんでるんだろ」

「楽しんでないわよ」

楽しそうに言う。

「いーや、楽しんでるね」

「楽しんでなんかないわよ」

真顔を装いながらも、堪えきれなくなったのかとうとう声をあげて笑い出した。

結婚してある程度たって、瑠璃さんなりに妻として<夫の事情>を察するところがあるのだろう。

察してくれるのなら、もう少し優しくしてくれたっていいじゃないか。

わざとしがみついて反応を楽しむなんてひどいじゃないか。

───そっちがその気なら。

と次の動作に移ろうとすると、あんなにひっついていた瑠璃さんはまるで何かを察したかのように、するりと腕をほどくと立ち上がった。

「さ、もう寝ようっと」

妻戸を開け部屋の中に消えていく瑠璃さんを追うため慌てて立ち上がる。

ちょっと待て。

からかいっぱなしはないだろう。

部屋の中で瑠璃さんの腕をすばやく掴むと後ろ手に妻戸を閉める。

腕を引き寄せ、瑠璃さんを妻戸に押し付けたところで、ぼくはニヤリと笑って見せた。

病気じゃないと言うのなら手加減は無用だろう。

逃げられないように片腕で封じ、じりじりと近づいていくと、瑠璃さんの目がびっくりしたように見開かれた。

「た・・・」

何か言うより先に唇を奪い、きつめの接吻をしつこいくらいにしてやると、瑠璃さんの喉が鳴り苦しそうに身をよじった。

解放してやると瑠璃さんは肩で大きく息をつきながら、今度は目を白黒させている。

本当に瑠璃さんは見ていて飽きない。

思わず笑いが漏れると、目ざとく見つけた瑠璃さんが咎めるような口調で

「今、笑ったでしょ」

ぼくに問いただしてきた。

「笑った」

「・・・楽しんだでしょ」

「楽しんだ」

「・・・・」

あっさり肯定され言葉に詰まったのか、瑠璃さんは悔しそうとも恥ずかしそうとも取れる顔で俯いた。

その顔があまりに可愛くて、またしても昨夜の帝のお言葉が浮かんでくる。

───男が憐れだなどと言ってみても、やはり男は良いものだ。そうは思わないか、高彬・・・

ぼくは心の中で大きく頷いた。

こんな瑠璃さんの顔が見れるのは、まさしく夫冥利に尽きるというものだ。

顎に指をかけ顔をあげさせて優しい接吻をすると、今度は瑠璃さんも応えてくれた。

唇を離すと少し潤んだ目をした瑠璃さんの顔があった。

「ねぇ瑠璃さん。男って言うのはやっぱりいいものだよ」

そう言うと瑠璃さんは、またしても訳がわからないと言うような顔で目をぱちぱちさせたのだった。







<おしまい>



前から書いてみたかった高彬の「壁ドン」。

この時代は部屋が広く、どこが壁かイメージしずらかったので「妻戸ドン」となりました。(略して「ツマドン」)

現代編の中で高彬には「クルマをバックする時、腕を助手席に回す」「ネクタイを緩める」「ビールをぐっとあおる」などのいくつかの男の仕草をしてもらって一人でニヤニヤしているのですが、今回の「壁ドン」も書いていてかなり盛り上がりました。

皆さんは高彬にしてもらいたい「男の仕草」ってありますか?




(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

ベリーさま

ベリーさん、こんばんは。

> 鷹男のからかい具合も的を得たものですねえ。
> 高彬めっちゃ返答に困ってる姿が「らしく」て笑ってしまいました。

鷹男って絶対に高彬が大好きですよね~。
好きな子ほど、いじめたくなるって言うアレですよ。
また、高彬も鷹男が喜ぶような反応を示すから(笑)

> 甘い二人っていいですねえ〜

いいですよねぇぇぇ。
>
> 高彬のさりげないかっこよさって原作にもありますが、パッと今浮かんだのは帥の宮vs瑠璃の白梅院対決で、高彬が妻戸からわざと宮に見えるよう構えていたそのシーン!

名シーンです!
全国の高彬ファンが悶絶したはずです。
それに瑠璃も、高彬ならこうしてくれるはずだって思ってたわけですしね。
もうもう、かっこよすぎますよ~。

> わたしは現代なら腕まくりした、平安でなら小袖姿で、多少腕が見えていて両手で何気なく悩ましげに自分の髪をかき上げるような仕草にグッときますねー。

うわ~~、想像しただけで痺れますね!どうします?(笑)

> いやーん 高彬のさりげないさの魅力たまりませんな!(一人で盛り上がりい)笑

一人じゃないですよ!私も同じくらいに盛り上がってます!

今日は短編の方に脳が飛びましたんでこちらにコメントしてます。
鷹男のからかい具合も的を得たものですねえ。
高彬めっちゃ返答に困ってる姿が「らしく」て笑ってしまいました。
これが噂の?!ツマドンなのですね
瑠璃と高彬のやりとりも可愛いです
甘い二人っていいですねえ〜

高彬のさりげないかっこよさって原作にもありますが、パッと今浮かんだのは帥の宮vs瑠璃の白梅院対決で、高彬が妻戸からわざと宮に見えるよう構えていたそのシーン!
さすがわれらが高彬!!!って思いました。
わたしは現代なら腕まくりした、平安でなら小袖姿で、多少腕が見えていて両手で何気なく悩ましげに自分の髪をかき上げるような仕草にグッときますねー。
いやーん 高彬のさりげないさの魅力たまりませんな!(一人で盛り上がりい)笑

ダイキチさま

ダイキチさん、おはようございます。

>一番の火付け役は、もちろん鷹男の帝??

確かに鷹男ならやりそうですね~。
あの方にもこの方にもドンドン妻戸を叩いてそう!(笑)

高彬もきっと心の中でガッツポーズを取っていたのでは・・?(笑)

「ツマドン」(笑)
↑この言葉、ツボに来ました(笑)若い公達や宮中の女房達の間で、かなり流行ったでしょう♪一番の火付け役は、もちろん鷹男の帝??

ツマドンが出来た高彬、心の中で「やった!」と思ったのか、はたまた瑠璃さんが驚いたのか?ですねぇ!

面白かったてす!

maiさま

maiさん、おはようございます。

>略したら、なんか「気の強い」妻に「ドン」とやられちゃった感じにも聞こえて(笑)

高彬と瑠璃だとこの解釈も「あり!」ですよね。
一瞬ね、瑠璃が「壁ドン」するって言う設定も浮かんだんですよ。
だって面白そうでしょ(笑)

「ちょっと高彬!」(壁をドン!)
「な、なんだよ、瑠璃さん・・・」

・・・って感じで。

>…想像しただけでとろけそうです〜

私もそう思ってとろけるほうを選んだ次第です(笑)

ツマドン!

おまけの話(というかあとがき)に大ウケしました!「壁ドン」は今年の流行語大賞の候補ですし。
タイムリーです、瑞月さま!「妻戸ドン」(笑)略したら、なんか「気の強い」妻に「ドン」とやられちゃった感じにも聞こえて(笑)高彬に「壁ドン」いやいや「ツマドン」されたら…想像しただけでとろけそうです〜
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Author:瑞月
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