*** 筒井筒のお約束をもう一度・・23<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・23<高彬・初夜編> ***  









「若君。北の方さまがおいでになるとのことでございます」

文机に向かい、見るともなしに古今集を見ていたぼくは、守弥の声で顔をあげた。

「・・・うん」

小さく返事をして、文机を押しやる。

やっぱり来たか、と言う気持ちであまり驚きはない。

あの後───と言っても、もう二月も前のことだけれど、瑠璃さんが白梅院に女房としてやってきた後───数日後、ぼくは父上に呼ばれた。

何でも、瑠璃さんのお父上であられる大納言さまから話があったとかで、ぼくたちの結婚が具体的なものになったと言う話だった。

父親同士、どんな話がなされたかは聞かされなかったけれど、とにもかくにも結婚は喪が明けた二月後の佳き日、ということになった。

もちろんぼくとしては手放しで喜びたい気分だったし、父上もまぁ喜んでいてくれたように思う。

だけど隣にいた母上だけはどこからどう見ても喜んでる様子ではなかったし、それでも父上が決定したことを覆せるとは思っていないのか、始終だんまりを決め込んでいた。

その様子をみる限り、いつかは何か言いに来るだろうな、とは思っていたのだが、それがまさか今日とはなぁ・・・。

慌しく几帳だの御簾だのを整える女房らを見ながらこもごも思っていると、やがて大江に先導された母上が現われた。

裾さばきも鮮やかにぼくの目の前に座りひたとぼくを見つめると、話すわけでもなくさりとて笑うわけでもなく、じぃっとぼくの目を見続けている。

「・・・母上。何か話があってこられたのではないですか?」

ずっと黙りこくっているのが気詰まりで、ぼくから話を振ると

「えぇ、そうですよ。話があったから来たのです」

間髪いれず、まるで喧嘩腰とも取れるような口調で母上は言った。

そのくせ、また黙り込んでしまい、ぼくは内心うんざりしながらも出来るだけ優しく

「では、その話とやらを・・・」

促すと、母上の目がにわかに潤みだし、(まずい)と思った時には一筋の涙が頬を伝っていた。

見なかったことにしようと思い俯くと、これみよがしに鼻をスンとすする音が聞こえてきた。

俯いたままでいると、続けざまにスン、スンと聞こえ、ぼくはしぶしぶ顔を上げた。

「母上。何も泣かれなくても・・・」

「高彬さん。母が泣いている理由がわかりますか」

「・・・・・・」

わかるにはわかるのだけど、ここで「はい、わかります」と答えるわけにも行かず黙っていると

「これが泣かずにはいられますか。高彬さんが、あの瑠璃姫と結婚するだなど・・・」

「・・・・・」

<あの>も<この>も、そもそも母上は瑠璃さんに会ったことなんてないじゃないか。

───と言いたかったけどやめた。

更に話がややこしくなるのは目に見えている。

話しの流れを変えようと、ぼくはつとめて明るく

「母上。三条邸なんて目と鼻の先じゃないですか。ぼくだってここから通うのだし」

そうなのだ。

いくら結婚したからと言って、基本的な生活は何も変わりはしないのだ。

母上は少し重く考えすぎなんだよなぁ・・・。

「何も流刑になったわけじゃないんですし」

ははは、と笑い話しにしてしまおうと思ったら

「流刑の方がまだマシです」

母上はにべもなく言い切った。

そうして改まったようにぼくに向き直ると

「高彬さん。この母と瑠璃姫、どちらかを選ぶように言われたら、あなたはどちらを選びますか」

唇を震わせながら言い、ぼくはもううんざりを通り越して、あやうく笑い出してしまいそうになった。

母上は真剣なのだろうけど、ここまできたら喜劇だ。

「母上」

ぼくは大きく息を整え、口を開いた。

「母上は母上、瑠璃姫は瑠璃姫。比べられるものではないでしょう。第一、母上だって、父上とぼくのどちらかを選べなんて言われたらお困りになるでしょう。そんなどちらかを選ぶだなどと・・・」

「わたくしは高彬さんを選びますわ」

ぴしゃりと言い切られ、ぼくは呆気に取られ、次いでがっくりときてしまった。

もしぼくと瑠璃さんの間にやや子が生まれ、その子が男の子で、将来、瑠璃さんが息子に向かい

「あたしは高彬より、あなたを選ぶわ」

なんて言ってるところを想像したら、全くやり切れない。

何もこんなこと結婚前夜に聞かされなくたって・・・。

───そう。

明日は、いや、正確には明日の夜、ぼくと瑠璃さんは結婚するのだ。

寄りによって、今、結婚の夢を砕くような話をしなくたって・・・と、少しばかり母上を恨みがましく思ってしまうのも仕方のないことだと思う。

母上もここまできて、結婚を白紙に戻せるとは思ってないだろうから、まぁ、どうしても一言は言っておきたかったってことなんだろうか・・・。

その後も母上は何のかのと言い募ってきたが

「ぼくが息子であることに変わりはないんですから」

の一言で強引に話をまとめ、何とか母上にお引き取り願った時には、疲労困憊、疲れ果てていた。

用意させた寝床に早々に潜り込む。

この邸内で、明日の結婚を心から喜んでくれているのは、おそらく按察使と大江だけだろう。

まったく皆して瑠璃さんを悪く思いやがって。

他の姫より少しばかり元気で、少しばかりはねっかえりで、少しばかり変わってるだけじゃないか。

───瑠璃さん。

明日の今頃は瑠璃さんと・・・。

そう思った瞬間、身体中の血が逆流しそうになり、ぼくは夜具にくるまりぎゅっと目を瞑ったのだった。






<続>


いつもご訪問いただきありがとうございます。

やっと初夜・瑠璃編の15話に追いつきました。更新遅くすみません。

次回、瑠璃が出てくるので書くのも楽しみです。


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

さりいさま

さりいさん、おはようございます。

> それぞれのキャラが、もれなくダブりなく、きっちりいい仕事してますよネ(笑)


そうなんですよ。
本当にジャパネスクの登場人物って、それぞれが主役になってもいいくらいの濃いキャラクターなんですよね。
瑠璃と高彬を引き立たせるためだけに存在するような、都合のいい人物っていないんです。
高彬母、かなりいい味だしてますよね(笑)

もー、高彬ったら可愛いかわいい!
この一言に尽きます(笑)
初夜を前にしてドキドキ、初々しいなぁ。
そして高彬の母上、ほんっとにキャラが立ってるなぁ(笑)
瑞月さんが広げて下さるジャパネスクワールドに浸ってると、ほんとに氷室先生のキャラ設定がしっかりしてるなーとしみじみします。それぞれのキャラが、もれなくダブりなく、きっちりいい仕事してますよネ(笑)

非公開さま(Dさま)

Dさん、はじめまして。こんにちは。

「そして初夜は流れる(笑)」
・・・そうなんです、流れるんです。もうザバーっと。
高彬、不憫ですねって声はたくさんいただくんですが、皆さん、末尾には必ず(笑)が付くんです。
そして私も「高彬、かわいそうに・・」って言いながら笑っちゃうんです(笑)

高彬母が他の子どもの結婚にどう対応したのか、興味ありますよね。
聡子姫のときは、もう大反対したでしょうしね。
公子姫は・・・うーん、どうなんでしょう。
原作で鷹男のことを「遊び好きであられること」みたいに、さらりと言ってるところもあったので、あまりありがたがってる雰囲気はなかったように見えましたよね。


非公開さま(Rさま)

Rさん、こんにちは。
台風、私の住む辺りは雨風が強くなってきました。明日の朝がピークみたいですが・・・。

私も今では母上の年齢に近くなり昔とは違った角度で読むようになりました(笑)
よ~っぽど高彬が可愛いのか、もしくは他に理由があるのか、母上は高彬に執着しすぎですよねぇ。

Mは守弥・・・確かに!ですね。(たまたまイニシャルが一緒なのも笑えますね)
となるとSは?
瑠璃って感じじゃないですし、やっぱり煌姫・・・でしょうか?(笑)

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非公開さま(Hさま)

Hさん、こんにちは。

本人たちはいたって真剣なんでしょうがねぇ・・。(特に母上)
この先は瑠璃が出てくる場面なので、私も早く書き進めたいなあと思っています。

後ほど、メールをお送りいたしますね。

ヨッシーさま

ヨッシーさま、こんにちは。

溺愛してる高彬を取られてしまう母上の気持ちはわからなくもないですが、春日のお兄ちゃんももっと可愛がってあげてください・・・って思います(笑)

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いやー高彬、大変だ。母上、諦めてください。可愛い息子取られたくないでしょうが。高彬、母上に負けるな。高彬、結婚前だけど、息子が生まれたら取られちゃうよ。我慢してね。ガックリだろうけどね。

みそさま

> 先を知っている身としては、高彬が不憫で不憫で……。(ρ_;)

そうなんです。不憫で不憫で・・・でも、なぜか笑ってしまうと言う(笑)
まさしく喜劇・・・。

> そして、してやったりとほくそ笑む母上と守弥。
> ……見てみたい。
> スピンオフ的な話、どうですか、瑞月さん。(笑)

わー、何と魅力的なお誘いなんでしょう(笑)
考えてみたら、守弥と母上はジャパネスクのヒール役ですもんね。
目的が一致していると言う意味では、これ以上の最強タッグはないかもしれませんね。

でも「とにかく高彬と瑠璃を結婚させない」って言うのが目的っていうのは、人としてどうなんでしょう・・(笑)

ラムティさま

ラムティさん、お久しぶりです!
更新、楽しみにしていただいているとのことでありがとうございます。

母に振り回される高彬。
そういえば原作でも「この年で女性不信になりそうだよ」みたいなことを言ってましたよね。

> お忙しいとは思いますが、体に気を付けてくださいね。

ありがとうございます。ラムティさんも気をつけてくださいね。

待ってました!

待ってましたが……。
先を知っている身としては、高彬が不憫で不憫で……。(ρ_;)
母上の妨害を乗り越えて、やっとこさ瑠璃との初夜なのに。
イイトコロでお預け→二ヶ月の我慢→さらにお預け、のフルコース。(笑)
きっと帰りの車の中とか、宮中に向かう車の中の高彬は瑠璃のあられもない姿を思い出して悶々としているんでしょうね。
そんな高彬も好きです。(笑)

なんだか高彬のお預けは、母上と守弥の呪いなんじゃないかと思えてきました。
「守弥さん、今回も頼みましたよ」
「お任せ下さい。この守弥、若君の御為ならば何でも致します」
「ええ、何としてでも、高彬さんと瑠璃姫を結婚させてはなりません」
みたいな。(≧∇≦)
そして、してやったりとほくそ笑む母上と守弥。
……見てみたい。
スピンオフ的な話、どうですか、瑞月さん。(笑)

No title

お久しぶりです!久しぶりの更新嬉しいです♪

高彬の母、いぃですね~(いや、瑠璃を嫌ってるのは良くないんですが...)
結婚前日にこの母の言動に打ちのめされる息子に笑えました!!

お忙しいとは思いますが、体に気を付けてくださいね。これからも更新楽しみにしてますね~♪
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Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

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