***第六話 白梅院にて***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




          注)このお話は連続ものです。
            カテゴリー「二次小説」よりお入りいただき
            第1話からお読みくださいませ。



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*** 第六話 白梅院にて ***





「今日から新しく入ったと言う女房はどなたか」

ふいの部屋の外から男の声がした。

あたしのことだろうと引き戸を開けると、そこには二十歳をふたつみっつ過ぎたあたりの年恰好の男がたっていた。

「おまえか。名はなんと申す」

なんともえらそうな口の聞きかたで一瞬、ムッとしたけど、あたしを瑠璃姫と知らないんだからと思い直し

「萩野・・・です」

と答えた。

「萩野か。女房歴は長いのか」

「はぁ、いえ。それほどでも・・・」

あいまいに答えつつ、あたしは思い出していた。

この声、聞き覚えがあるわよ、うん。

確か、前に高彬の部屋にいたときに聞いた声よ。

ってことは、この人が、右大臣家の女房に煙たがられてるって言う、高彬の口うるさい供人ってわけか。

そう思ってよく見ると、これがなかなかに凛々しい男ぶりで、それに声だって悪くない。

男はジロジロとあたしを見たかと思ったら

「今、こちらのお邸にはさる宮家のお客人をお預かりしている。萩野にはそちらに付いてもらう」

決め付けるように言う。

もちろん女房のあたしが意見することなんて許されないし、とりあえず高彬付きじゃなくて良かったわ。

煌姫の顔だって見られるかもしれないし、願ったり叶ったりよ。

「あとで若狭という女房がくる。色々教えてもらうように」

「はい。あの・・・」

そこへ小走りに女房がやってきたかと思ったら

「兄さま、高彬さまがお呼びよ」

「若君が」

言うなり踵を返して、さっさと行ってしまった。あたしのことなんかどうでもいいみたい。

それにしても「高彬さまが」なんて聞いちゃうと、本当に右大臣家に乗り込んじゃったんだなぁ・・・って実感がわくわ。

あたしってほんと、突拍子もないことやるわね。自分で言うのもおかしいけどさ。

「あなたが臨時で入ってくれた新しい人ね」

今きた女房があたしに向かってにっこりと言う。

「えぇ、萩野って言うの。よろしくね」

「あたしは大江よ。高彬さま付きなの。今のは兄の守弥。あたしたちは高彬さまの乳兄弟なのよ」

ふうん。あの供人、守弥って言うのか。そういや、前に高彬がそんな名前を口にしてたっけ。

見るからに性格のよさそうな感じなんだけど「高彬さま付きなの」と言う言葉には、どこかしら優越感のようなものが漂っていて、前に小萩が言っていた「皆が高彬付きになりたがる」ってのは本当なのかも知れないわ。

なんだかわからないけど、ちょっと誇らしい気持ちだわね。ふふふ。

「兄に変なこと言われなかった?」

「変なこと?いえ、別に・・・」

やたらと態度はえらそうだったけど、そうも言えずにあやふやに答えると

「兄はね、ちょっと変わっているのよ。とにかく高彬さまだけが大事なの」

そうしてふと声をひそめると

「ここだけの話よ。萩野さんは大納言家の瑠璃姫さまってご存知?」

「え、えぇ」

まさか当の本人だとは・・・言えないわなぁ。

「その瑠璃姫さまとね、高彬さまのご結婚がお決まりになったのよ。それ以来、兄はもうピリピリしちゃって」

「あら、どうして」

「兄はね、瑠璃姫さまが高彬さまの北の方になられるのが嫌なのよ」

「ふうん、なぜ」

「きっと瑠璃姫さまの世間の評判があまり良くないからだと思うわ。兄はとにかく高彬さまには何でも一番のものをあてがいたいのよ」

高彬の母君のみならず、供人までもが、あたしとの結婚に良い顔をしてないってわけか。

たかが供人の分際で生意気じゃないの。

それにしても、和泉といい大江といい、女房って本当におしゃべりね。

ここだけの話・・・が、ここだけで収まることなんてないんだから。

おかげでいろんな情報が集まるからいいんだけどね。

「そういえば、大江さん。今、こちらのお邸には宮家の姫さまがいらしているでしょう。その方と高彬さまの噂を聞いたことがあるんだけど、本当のところはどうなの」

そもそもはこれを確かめにきたんだもんね。この大江って女房、話好きみたいだし、何よりも高彬付きなんだもの、いろいろ聞き出さなきゃ損よ。

「まぁ、萩野さんも情報通ね。そうねぇ、確かに高彬さまは最近、その姫さまのお部屋を頻繁にお訪ねはしているわ。でも、お歌を教わっているだけなのよ。なんでもね、瑠璃姫さまにお贈りするためなんですって。こう申してはなんだけど、高彬さまはお歌の方があまりお得意ではないのよ。それもこれも兄の守弥のせいなんだけど」

「守弥さんの?」

あたしと高彬の結婚に良い顔をしてない供人なんて「守弥」と呼びつけにしたいところだけど、今の立場ではそれが出来ないのが悔しいわ。

「えぇ。兄は高彬さまの教育係りだったの。でも、兄は情緒がないと言うか、もののあはれを知らないと言うか、とにかくお歌なんかはからっきしでね。自然、高彬さまもお歌が苦手になってしまったの」

ふうん、高彬がお歌が苦手なのは、そういう事情があったんだ。人に歴史あり、だわ。

その時、またしても外から男の声がした。

「大江、いるのか。いつまで油を売ってる。若君が白湯をご所望だ。お持ちしろ」

守弥か。ほんと、えらそうだわ。

「はぁい」

舌を出しながら大江は返事をすると、そのまま出て行った。

入れ替わるように若狭と言う女房があたしを呼びにやってきた。

女房の局って、ほんとに気の休まるときがないのね。

煌姫の部屋の室礼を整えるのを手伝ってほしいということで、二人で渡殿を歩きながら、簡単な自己紹介をした。

それによると若狭と言う女房は、煌姫の一の女房で、あたしにとっての小萩みたいなもんらしかった。

この右大臣家に来れたことを心底喜んでいるようで、でも、それが仕えてる姫のためと言うよりも、何だか自分のためのような口ぶりで、忠義者というよりも、サバサバとしたちゃっかり者と言った印象を受けた。

煌姫は東北の対屋にいた。

「姫さま。お部屋を整えに参りましたわ」

部屋に入ると若狭は手を付いて御簾の中の煌姫に声をかけた。

新参者の女房がすぐに姫に挨拶できるわけはないので、あたしは無言で若狭の隣に控えていた。

「よろしく頼みましたよ」

御簾の中から煌姫と思しき声が聞こえた。

宮家の姫だから、しとやかな声かと想像していたあたしは拍子抜けした。

だってアヤも素っ気もないと言うか、あたしが言うのもおかしいんだけど、ぶっきらぼうな返事なんだもん。

いつものことなのか、若狭は気にもとめずに御簾をくぐったので、あたしもそれに続いた。

中では煌姫が脇息にゆったりと寄りかかっている。

チラリと横目で煌姫を見ると、これがまぁなんとも絵に描いたような姫であたしはまたまたびっくりしてしまった。

美人だとは聞いていたけど、よもやここまでだとは思ってなかったわ。

細面の顔に影ができるほどの長い睫、もったりと重たげな豊かな黒髪。

ほんのりと桃色の肌は柔らかげで、でも、顎の線はすっきりとしている。

はっきりいって最上級のド美人じゃないの。

うーむ・・高彬はこの姫に歌を教わっているのか・・・。

心は千々に乱れたけれど、とりあえず若狭に習って几帳をずらしたりしていると、遠くの方から衣擦れの音がしてきた。

しばらくすると、女房がやってきて

「これより、高彬さま、お見えになられます」

簀子縁にひかえて手をついた。

げっ、高彬が?

あたしはもう少しで声をあげそうになった。

若狭は高彬を出迎えるためにそそくさと御簾から出て行ったんだけど、あたしは気のきかない女房のふりをして、御簾の中にとどまった。

こんなところで高彬とばったりご対面なんて、困るわよぉ。

そもそも、会って困るようなところにいるあたしがいけないんだけどさ。

若狭がしきりに目配せをして、御簾の中からでてくるように合図するんだけど、無視していたら、そうこうするうちに、またしても衣擦れの音がしてきて、やがて、高彬その人が現れた。

あたしは御簾の中の、そのまた几帳の陰に隠れるようにして外の様子をうかがった。

さわさわと言う衣擦れの音も優しげに、高彬がゆったりと腰を下ろす。

夏の名残をとどめた二藍の直衣をすっきりと着こなす高彬は、三ヶ月合わないうちに、なんだか少し大人っぽくなった気がする。

型どおりの挨拶をしているのも、あたしには見せたことのない姿で、それが何だかいっぱしの公達らしくて、少しドキドキした。

あたしにはいつも、「こんにちは、瑠璃さん」だけだもの。童の頃からの決まり文句よ。

父さまはいつも、あたしに姫らしくなれだの、女っぽくなれだの言うけれど、高彬がこうなんだもの。1人で姫らしくしたって始まらないじゃない。

でも、貴族社会の型どおりの挨拶をしてる高彬って言うのもなかなか良いわ。

几帳の陰からこっそりとのぞきながら、そんなことをこもごも考えていると

「こんなにいろいろと教えていただいているのに、あまり上達しなくて、申し訳なく思っております」

高彬の声が聞こえた。

「いいえ、そんなことございませんわ、高彬さま。高彬さまのお歌の腕前は日に日に上がっていらっしゃいますもの。もし、高彬さまが上達しないのであれば、それはこの煌の教え方が悪いのでございますわ」

煌姫が答え、言ってる内容はともかくとして、あたしはあっけに取られた。

さっきのぶっきらぼうな物言いをした人とは、同一人物とは思えないような艶のある声だったのだ。

ピンと張り詰めていて、それでいて、ところどころ吐息がまじるような、ありていに言うとお色気ムンムンって声なんだもん。

ちらりと煌姫を見ると、御簾越しとはいえ高彬をハッタと見据えて、その目はキラキラと言うかギラギラしているようにさえ見える。

それが、あたかも獲物を狙っているハンターのようでもあり、お色気ムンムンの話し言葉と釣り合わない。

何なんだろ、この姫。宮家の姫ってこういうもんなの?

「いえ、ひとえにわたくしの不徳のいたすところでして・・・」

高彬がもごもごと言うと、煌姫が一瞬、黙り、次の瞬間、ちいさなため息をもらした。

それがまた、女のあたしが聞いてもゾクゾクするような色っぽさなのだ。

「高彬さまはお優しい方ですのね。そんなふうに煌をかばってくださって・・・」

「いえ、かばうだなんて、そんな」

「煌は、高彬さまから御文をいただけるようなお方が、うらやましいですわ。煌は・・煌は・・・」

あたしはもうもう頭から湯気がでそうなくらいにカッカしていた。

これはもう、はっきり高彬を誘っているじゃないの!

あの、バカ高彬!気が付かないのかしら。

高彬はと目をこらすと、落ち着かないのか、扇をもてあそんだり身じろぎをしている。

さすがに居心地の悪さくらいは感じているらしい。

もうっ、誘惑されてるって気付きなさいよ。この朴念仁!

あたしは几帳を蹴飛ばし、さらには御簾を捲り上げて出ていきたい衝動にかられて、なんとかこらえようと力いっぱい両手を握った。

しばらくは本当に(と言うのもおかしいけど)お歌の指導らしき会話が続いたかと思ったら、高彬は来たときと同じように衣擦れの音も優しげに退出していった。

変な緊張感が続いたあたしは、しばらく呆然としていたんだけど、若狭の声で我に返った。

若狭が御簾の中に入ってきたのだ。

そうして、煌姫のそば近くに座り、何事かをひそひそと話し始めた。

2人とも几帳の後ろにあたしがいることを忘れているみたいね。

妙な勘が働いて必死に耳をすますと、切れ切れにだけど2人の会話が聞こえてきた。

「・・・話が・・・違うではありませんか。高彬さまは・・・・懸想して・・・・・落ちるはずと・・・・」

「姫さま・・・・根気よく・・・・・守弥さんが・・・・じきに・・・」

変なこと言ってるわね。懸想って誰が誰によ。それになんでここに守弥って供人の名前が出てくるの。

なんだか・・・匂うわ。この人たち。

だいたい、宮中で噂が流れてるってことだって、考えてみたら変な話なのよ。

一番身近にいる大江が否定していたくらいなのに、なんで遠く離れた宮中で高彬と煌姫の仲が取り沙汰されるの。

誰かが意図的に流したんじゃないかしら。

これは少し探ってみたほうがよさそうね。

あたしはまだひそひそと何事かを話している2人に気付かれないように、こっそりと部屋を出た。





                      <第七話に続く>
  
 

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