***短編*** 夏は夜 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)このお話は一話完結です。
               
※多少セクシャルな表現がありますので苦手な方は閲覧ご注意下さい。
              






***短編*** 夏は夜 ***










廂に座り、格子が床に作る月明かりの模様をぼんやりと見ていた。

日中の暑さを忘れさせてくれるような夜風が部屋に流れ込み、ふぅ、と小さなため息が出る。

夏は夜、月の頃はさらなり────。

宮中ではやっていると言う言葉が、思わず口から零れ落ちてくる。

単の首元を少し緩め、風を送り込んでいたところで、かすかなうめき声が聞こえた気がして、あたしは慌てて几帳を回り込んだ。

枕元に座り、そっと顔を覗き込む。

燈台の小さな灯りに照らされる高彬の顔は、目を閉じられたままで────

声がしたように聞こえたのは、気のせいだったのかしら?

もう一度、風に当たるために廂に戻ろうと腰を上げかけると

「瑠璃さん・・・」

高彬の声がした。

うっすらと開けた目は潤み、その頬は夜目にも赤いのがわかる。

「どう?具合は」

上げかけた腰を下ろし、優しく問いかけた。

おとといの夜、宮中から戻った高彬は、あたしの部屋に着くなりどっと伏せってしまったのだ。

その時点で、高彬の額は触るとびっくりするほど熱かった。

聞けば、数日前から喉が痛かったと言うし、おとといに至っては寒気がしていたと言うのに、そんな中、仕事を最後まできっちりとこなして来たとかで、要するに風邪を引いてしまったんだと思う。

まったく真面目なんだから。

調子が悪いんだったら、休むとか適当に切り上げるとかしてくればいいのに。

当然、翌日は参内を控えさせ、朝一番で我が三条邸かかりつけのお医師を呼びつけた。

万が一を考えて念入りに診察してもらい、やはり風邪だろうとの診断がでたところで、煎じ薬をたっぷりと出してもらった。

その煎じ薬と水分をこまめに飲ませ、それでも高彬の熱はなかなか下がらず、あたしはやきもきしてしまった。

夏風邪は治りにくいって言うから、そう簡単には治らないだろうと予想はしていたけれど、やっぱり風邪は万病の元って言うしさ。

気になるじゃない。

おとといからずっと付きっきりで水を飲ませてやったり、扇で扇いでやったり、額の小布を代えてやったり。

高彬は目を覚ましたり、起きたりで、熱のせいなのかなかなかまとまった睡眠が取れないみたいで、ついさっき寝入ったのを見届けて、あたしは月明かりに誘われて廂に出てみたと言うわけなのだけど。

やっぱりすぐに目を覚ましてしまったみたいね。

高彬はゆっくりとあたしと視線を合わせると

「・・・瑠璃さんがいなかったから、どうしたのかと思って」

口の中で呟くように言った。

「廂にいただけよ」

「廂に?」

「そう。少し風が出てきたみたい。月明かりも綺麗よ」

「そうか。・・・良かった」

風が出て月明かりが綺麗なことが良かったのか、それともあたしが廂にいたことが良かったのかわからなかったけど、あたしは黙って頷いた。

目を瞑り、少しの間、黙っていた高彬は

「ぼくも廂に・・・出てみようかな」

言いながら上体を起こしたので、あたしはびっくりしてしまった。

「まだ寝ていたほうがいいわよ」

「大丈夫だよ。大分、良くなってきたみたいだから」

「噓よ。まだそんな赤い顔して。熱だって・・・ほら、まだあるじゃない」

額に手を当てて言うと、高彬は潤んだ目であたしを見返し

「実は・・・夕方くらいからかなり調子は良かったんだ。だけど、瑠璃さんが優しくしてくれるのが嬉しくて調子が悪い振りを続けていたんだ」

おどけた口調で言いながら片目を瞑って見せた。

とてものこと<調子が良い>ようには見えなかったし、無理をしているのは明らかだったので、あたしは叱るように軽く睨んだ。

高彬は小さく笑いながら額に接吻をすると、あろうことかあたしを夜具の中に引きずり込もうとしてきた。

妻たるもの、夫のこの行動が何を意味するかくらい見当がつくけど、でも、まさか、こんな熱のある身体で・・・?

一瞬、ぼんやりとしてしまっていたら、その間にしっかり身体は横たえられ、あたしはまたもやびっくりしてしまった。

「ちょ、ちょっと、高彬。まさか、本当に・・・・?」

慌てて言ってみたものの、そのまさかのまさかみたいで、高彬は熱に潤んだ目で頷いただけだった。

あっと言う間に絡め取られてしまい、高彬の身体はと言うと、どこもかしこも熱くて、あたしは触れられるだけでクラクラしてしまうほどだった。

でも、こんな熱のある状態でなんて、身体の負担になるだけなんだし、あたしは気力を振り絞って

「ねぇ、高彬。風邪引いてる時は、身体休めて、水分摂って、栄養のあるものたくさん食べて、それから・・・」

「だからこうして食べてる」

言いながら、うなじを唇で噛んでくる。

もうっ。

風邪引いてるこんな状況で、なんでこういうことしようなんて気が回るのかしら。

ほんと、殿方って理解不能だわ。

高彬の男の動作は熱のせいなのか、いつもより大儀そうで、でもその分普段よりもじっくりと丁寧に感じられて、あたしは途中から高彬の身体の心配も忘れて夢中になってしまった。

全てのあと、抱き合ったまま息を整えると

「瑠璃さんの身体はひんやりしてて気持ちいいな」

高彬はあたしをさらに抱き寄せながら言った。

「ばかね。あんたの身体が熱すぎるのよ。風邪のせいで熱があるのに、こんなことして・・」

「こうしていると、熱が冷めて行きそうだよ」

「代わりにあたしに熱がうつるなんてお断りよ。困るわ」

「そうしたらぼくが看病してあげるから」

「仕事は?」

「休む」

「そこで休むくらいなら、こんなに酷くなる前に休まなきゃ」

「その通りだね」

誰に聞かれてるわけでもないのに、ひそひそ声で言い合い、額を寄せ笑い合う。

しばらくすると高彬の声がしなくなり、そっと顔をのぞき込むとどうやら寝入ったようだった。

裸の肌を密着させていると、本当に高彬の熱がうつってきそうで、でも、それで高彬が楽になるのなら、それでもいいかな、なんて思えてくる。

風邪をひいて、高彬に額の小布を代えてもらったり、水を飲ませてもらったり。

うんと心配してもらって、うんとわがまま聞いてもらって。

それも悪かないわよねぇ・・・。

今度こそは高彬の眠りは深そうで、この分なら本当に明日の朝には良くなっているかも知れない。

高彬の規則正しい寝息を耳元で聞きながら、あたしの瞼もだんだん重たくなってくる。

日中が暑い分、涼やかさが際立つような夏の夜更け。

傾いた月の明かりが、長く部屋の奥にまで届いている。

夏は夜。

月の頃はさらなり────。

夜風が吹き、ふわりと几帳を揺らしたようだった。






<終>



瑞月です。

いつもご訪問ありがとうございます。

更新がない間も、過去記事への拍手などありがとうございます。

「あれこれ投票所」への投票やコメントもありがとうございます。

いただいたリクエストには少しずつお応えしていきたいと思っていますので、気長にお待ちいただけたらと思います。

さて「春はあけぼの」「夏は夜」ときましたので、「秋は夕暮れ」「冬はつとめて」もその季節になったら書いて見たいと思います。

暑い日が続きますが、皆さんも体調をくずされませんようご自愛ください。

台風やゲリラ豪雨なども発生していますので、どうかお気を付けてお過ごしください。



(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

さりいさま

本当に毎日、暑いですね。
大型台風が来ていますし・・・さりいさんのお住まいの地域は大丈夫ですか?
なんだか日本の天気は最近、おかしいですよね。

> そっか、次は秋!どんなお話が出て来るか、楽しみにしてますね。

ありがとうございます。
どんな話にするかまだ考え中ですが、二人の甘~いのが書きたいです!

私もみそさんと同じ事真っ先に思いました(笑)さすが、右大臣家!と(笑)
しかし、熱でぼんやりした高彬は色っぽいというのが、人妻編でバッチリインプットされてますので、今回も読んでてソワソワしました。色っぽくて大胆だけど可愛い感じもするなぁーとか(笑)
そんな高彬に心の中でつっこみつつ、結局優しい瑠璃も、相当可愛いです。
そっか、次は秋!どんなお話が出て来るか、楽しみにしてますね。

ほんと、毎日暑い!
瑞月さんもご自愛下さいね。

非公開さま(Nさま)

娘さん、大丈夫ですか?この暑さでの熱は本当に辛いですよね。
早くよくなるといいですね。
Nさんもうつらないように気を付けてくださいね。

高彬は、風邪もちゃっかりラブラブ展開に持っていってしまいましたが(笑)やっぱり風邪の時は安静にしてないといけませんよね。

暑い毎日&長い夏休みですが、がんばりましょう。

maiさま

> 平安朝では氷室先生コバルト文庫当時の「ナウな」文学だったんでしょうね!

そうなんだと思います。当時のベストセラー(と言って良いのかわかりませんが・・)ですものね。
原作で源氏物語の名前がでてくるので、枕草子も出回っていたと思われますし。
夏の次は「秋は夕暮れ」ですが、夕暮れネタはすでに書いてるなぁ・・とさっき気が付きました(笑)

> 具合が悪くても、情熱が勝っちゃう訳ですね!

瑠璃母の言い草ではありませんが、まだまだお若いですしねぇ(笑)

> ゆっくりでいいので、こうして瑞月さまの文章に逢えると嬉しいです。
> ではまた…

ありがとうございます。そういっていただけてとても嬉しいです。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

No title

そうか、「春はあけぼの」で「夏は夜」ですね。うっかりしていました(^^:)
平安朝では氷室先生コバルト文庫当時の「ナウな」文学だったんでしょうね!
具合が悪くても、情熱が勝っちゃう訳ですね!
ゆっくりでいいので、こうして瑞月さまの文章に逢えると嬉しいです。
ではまた…

みそさま

> 風邪をひいた時の『右大臣家に代々伝わる療法』ですね。(≧∇≦)

そうです!その通りです。

> この後、瑠璃に風邪はうつるのでしょうか。

もしうつったら「甘い誘惑」みたいな感じになって、そしてまた「夏は夜」になって・・・
とループしそうですよね。

> もしそうなれば、きっと高彬は責任を感じて、めちゃめちゃ優しく看病するんだろうなぁ。

そうでしょうねぇ。
実際、責任を感じるようなことをしたわけですしね(笑)

これは…!

風邪をひいた時の『右大臣家に代々伝わる療法』ですね。(≧∇≦)
さすが高彬、しっかり実行なさってらっしゃる。(笑)

この後、瑠璃に風邪はうつるのでしょうか。
もしそうなれば、きっと高彬は責任を感じて、めちゃめちゃ優しく看病するんだろうなぁ。
で、また高彬の風邪がぶり返して……なんて。
ひとり想像して悦に入ってます。(≧ε≦)
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

にほんブログ村

ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
月別アーカイブ