*** 筒井筒のお約束をもう一度・・17<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・17<高彬・初夜編> *** 









「どうした」

控えたまま何も言わない守弥に声をかけると、小さく息を吸い込む音が聞こえ

「母が・・・いえ、按察使が倒れました」

「按察使が?!」

思わず声を上げると守弥は小さく頷き、その声も表情も、一見冷静で、でもそれはかえって守弥の混乱を伝えてくると言う類のものだった。

「倒れたってどこで?今、どうしているんだ。無事なのか」

さっき顔色が悪いように見えたのは、気のせいじゃなかったんだ・・・。

「・・・釣殿にて倒れたようでございます。医師に処方された煎じ薬を飲み、今は横になっております。処置が早かったため命には別状はないとの見立てでした」

矢継ぎ早やに尋ねるぼくの目をしっかりと見ながら、守弥は落ち着いた声で返事をした。

ふっと吐いた息に合わせて肩が動き、そのままぼくが何か言うのを待っている。

慌てるぼくを見て、本来の冷静さが戻ってきたのかもしれない。

「そうか・・・」

ひとまずは無事だと言うことが判り安堵し、腰を浮かしかけると

「どちらへ」

すかさず守弥が聞いてきた。

「どちらへって・・・按察使のところだよ」

決まってるじゃないかと立ち上がると、守弥はぼくに座るように身振りで促し

「若君にご足労いただくほどのことではございません。それに・・大江と、もう一人女房が・・付いておりますので」

軽く頭を下げながら言った。

「そうか・・・」

それならば安心だと、再び安堵したところで、ふと、守弥が何とも言えない奇妙な顔をしていることに気が付いた。

退がるわけでもなく、さりとて何か言うわけでもなく、そのままの顔で控えている。

最初に守弥の顔が強ばっていたように見えたのは、どうやら按察使のことばかりではなさそうで────嫌な予感が頭をかすめる。

「もう一人の女房って・・・」

まさか・・・。

「萩野、でございます」

「・・・・」

「最初に居合わせたのも萩野でした。どういう経緯かわかりませんが、二人して釣殿にいたようです」

淡々と話す守弥の声を聞きながら、ぼくは目を瞑った。

「駆けつけたところで、萩野は私に向かいこう言いました。・・・『早く高彬に知らせてお医師を呼べ』と」

「・・・・」

「眠りに付く直前、母は萩野に向かい手を合わせ呟きました。『思っていた通りのお方でした』と」

「・・・・」

「若君」

物問いたげな守弥の声に、腹をくくって目を開けた。

「なんだ」

「萩野は、あの者は一体・・・」

まさかと言う思いが強いのか、それとも他の理由があるからかなのか、珍しく言い淀んでいる。

「・・・おまえが・・・思っている通りの人だよ」

守弥は少しだけ目を見開きぼくの言葉を受け止めると、数秒の沈黙の後、そのまま何も言わずに部屋を出て行った。









*****************************************************







一人になったところで、ぼくは簀子縁に出た。

按察使のこと、瑠璃さんのこと、これで落ち着いていろと言うほうが無理だ。

大きく息を吐き空を見上げると、夏の夜空にはぽっかりと月が浮かび、その回りの雲がゆっくりと流れているのが見える。

────今宵は望月か。

煌々とした月明かりが、庭の造形を浮かび上がらせている。

そういえば、初めて瑠璃さんに気持ちを伝えた日も、逸る気持ちを抑えるためにこんな風に月を見上げたっけ。

その時の月は・・・・

思い出そうとして、ぼくは小さく頭を振った。

月を見上げたことは覚えているのだけど、形までは覚えていない。

それだけ舞い上がっていたということなんだろうな。

遠く牛車の進む音がかすかにして、この時間だとさしずめ恋人の元に向かうと言ったところだろうか。

・・・恋人かぁ。

勾欄に寄りかかり、もう一度、月を見上げた。

瑠璃さんはぼくの恋人のはずだけど、どうにも確信が持てない。

月がその姿を変えるように、妙に自信たっぷりに思える時があったり、全く自信が持てなかったりで、ぼくの<自信>にも満ち欠けがあるんだよな。

瑠璃さんと結婚出来るということが、まだどこか信じられないのかも知れない。

片思い期間が長かったからかなぁ・・・。

その上、瑠璃さんときたら予想をはるかに上回ることをしでかしてくれるし。

まぁ、そのお陰で按察使が命拾いしたわけだけど。

雲が流れ、月を隠したので、あたりがさっと暗くなった。

部屋に戻ったところで、少し現実的な方向に頭を働かせることにした。

萩野が瑠璃さんだと知った人は、守弥と按察使と、おそらくは大江。

何とかそこだけで留めなくてはいけないな。

父上、母上に知られるのは、さすがにまずい。

按察使と大江は懐柔できるとして、問題は守弥だ。

あいつ、元々が瑠璃さんとの結婚に良い顔してないから、ここぞとばかり・・・

───コホン

小さな咳払いが聞こえて顔をあげると、部屋の中を窺うように瑠璃さんが立っていた。

「どうだった、按察使は」

急いで部屋に招き入れると

「今はよく眠っているわ。大江がついているから大丈夫よ」

瑠璃さんはにっこりと笑って見せた。

瑠璃さんに大丈夫と言われると、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だ。

按察使が無事だったのは、居合わせたのが瑠璃さんだったから、と言う気にすらなってくる。

お礼を言うと、瑠璃さんは「いいのよ、そんな」と照れくさそうに肩をすくめた。

「でもね、瑠璃さん」

「・・・・」

言わないわけにはいかないよな。

「ぼくの言いたいことわかるよね」

手を取り言ってみると

「はぁ・・・まぁ、なんとなく」

瑠璃さんはもごもごと口の中で呟いた。

判っているなら話は早そうだ。

「言ってみて」

「えぇっと・・・なるべく誰とも話さないでって言われたのに、話しちゃったこと?」

「そうだね。あとは」

「・・・まっすぐ局に戻らずに釣殿に行っちゃったこと・・?」

「うん、それもある。あとは」

「・・・・・」

「瑠璃さん。もうひとつ、一番、重要なことが抜けてるよ」

「あたしが・・・瑠璃姫ってことが・・・ばれちゃったこと・・・かな?」

あはは、と笑いかけた瑠璃さんは、ぼくと目が合うと気まずそうに俯いた。

「・・・ごめんなさい」

さすがの瑠璃さんも、正体がばれてしまったのはまずいと思っているのか、これ以上は出来ないと言うほどに身体を縮こませている。

瑠璃さんの柔らかそうな頬、俯いた目元。

さっき聞こえた牛車のきしむ音、見上げた月・・・・。

考えるより早く身体が勝手に瑠璃さんを抱き上げていた。

几帳を回り込み夜具の上にそっと瑠璃さんを横たえる。

そうだ。────望月だ。

今宵の月のせいかも知れない・・・。

びっくりしたような顔をしている瑠璃さんに、ぼくは覆いかぶさった。






<続>
(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

さりいさま

さりいさん、こんにちは。
返信が遅くなってすみませんでした。

> いいんです。不発でも(笑)高彬が行動に出るのが大切なのです!(力説)

そうですよね!
1回2回の不発でめげていたら初夜編の主役は出来ません。

> 頑張れ!高彬! (・・・って、結末は知ってるのに、変ですケド>笑  でも、つい応援したくなっちゃう)

高彬は結末を知らないんですよね。
知ってたら出演をボイコットされてたかも・・(笑)

さりいさんもGW楽しんでくださいね~。

非公開さま(Nさま)

Nさん、こんにちは!
返信が遅くなってすみませんでした。

萩野が瑠璃だと知った時、守弥はどう思ったのでしょうね~。
想像するとワクワクしますよね(笑)

PTAの連絡メールもじゃんじゃん入るようになってきました。
明日からGW後半戦。Nさんご家族もお楽しみくださいね。

あー・・・

瑞月さま・・・

あーだめです。こちらに来ると頬が緩んで緩んで仕方なくて、「むふふふふ」が止まりません(笑)
いいんです。不発でも(笑)高彬が行動に出るのが大切なのです!(力説)

でも、この辺り(按察使が倒れたことを知る場面)のエピソードは高彬目線で読んでみたい箇所
だったので、アップして頂けて嬉しいです。ふふふ、会話の運び方がまさに守弥、でした(笑)

そして、高彬、いいこと言いますね。

>月がその姿を変えるように、妙に自信たっぷりに思える時があったり、全く自信が持てなかったりで、ぼくの<自信>にも満ち欠けがあるんだよな。

頑張れ!高彬! (・・・って、結末は知ってるのに、変ですケド>笑  でも、つい応援したくなっちゃう)

話は平成に戻りますが、瑞月さん、どうぞよいGWをお過ごしくださいね!

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みそさま

> ついに高彬スイッチオン!!(笑)

不発ですけどね(笑)

> 私事ですが、瑞月さんと同じく今年のPTA役員になってしまいました。

まぁ、そうですか!
「私もやってます(ました)」と言う方、多くて、ジャパネスクファンの方って役員さんをやられてる方多いように思います・・・。
たまたまだとは思いますが。(私はクジですしね)

> 集まりも仕事も少ないみたいなので、今の所、安心しております。

私は5月は忙しそうなんですよ~。色んな行事があって。

> 疲れたら、きっと高彬が(瑠璃とラブラブして)癒してくれるはず。(笑)

ハイ、そうですね(笑)

非公開さま(Kさま)

高彬はず~っと瑠璃一筋ですもんね!
次回更新はまだ未定ですが、また読んでくださいね。

『そうだ。────望月だ。今宵の月のせいかも知れない・・・』
ああ…。
ついに高彬スイッチオン!!(笑)
次回、楽しみにしてます!(≧∇≦)


私事ですが、瑞月さんと同じく今年のPTA役員になってしまいました。
集まりも仕事も少ないみたいなので、今の所、安心しております。
お互い頑張りましょうね!!
疲れたら、きっと高彬が(瑠璃とラブラブして)癒してくれるはず。(笑)

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