***短編*** <続>花より言葉より ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




         注)このお話は一話完結です。

        








***短編*** <続>花より言葉より ***









「姫さま、差し出がましいことを申し上げるようですが・・・」

高彬と入れ替わるようにやってきた小萩が、改まった口調で話しかけてきた。

「なぁに」

庭の雀から目を離さないままに、あたしはぼんやりと返事をした。

穏やかな冬の朝と言うのは、それでけで心が癒されるし、思いがけずに高彬の訪問があったりしたわけで、あたしとしてはもう少しだけ、この静かな時間を満喫したいんだけどな。

しみじみとした人妻の幸せ、とでも言うのかしら?ふふ、ふふふふ・・・。

高彬が通ってくることにドキドキしたり、会えば必ずのように交わされる夫婦の秘め事とか、そんなのももちろんいいけれど、こんな風に何気なくやってきて、何気なく帰って行くなんていうのも素敵よぉ。

だんだん、あたしたちも夫婦として次のステージに進むのね・・・なんて思えるし。

なんて考えるあたしの気持ちを知ってか知らずか、小萩は思いも寄らないことを言ってきた。

「少将さまには、どなたか花を贈りたい相手でも出来たのではないでしょうか・・・」

「は?」

「あの少将さまが花をご所望されるなど、おかしゅうございますわ」

「あぁ・・」

そっか、小萩は椿を用意するために下がってしまったから、あの後の高彬の話を聞いてないんだっけ。

「大丈夫よ。高彬の従者でね、想う人に花を贈りたいと言ってた人がいるんですって。そのための花よ。高彬じゃないわ」

妻の貫禄できっぱりと言い切ると、納得するどころか小萩はますますな深刻な顔をして

「ですが、姫さま。少将さまが、そのようなことに気の回るお方だとは、この小萩には到底思えませんわ。少将さまと言えば堅物、堅物と言えば少将さま、と女房の間ではもっぱらの評判ですもの」

「・・・・」

おのが主人であるあたしを心配するあまり、相当、失礼なことを言ってることには気付いてないらしい。

ま、幼い頃から高彬を見てきた小萩が、高彬のことをそう評価するのは無理のないことかもしれないけど。

でもねぇ、あたしはあたしでまた、高彬を「気の回るお方」だとは思ってないのよ。

つまり、妻の目を欺いて、妻の家に来て他の女への花を調達できるような人じゃないってこと。

「姫さま、そのうち少将さまから、折り入って話が・・・などと言われましたとしても、どうか気を強く持ってくださいましね」

「・・・ばかばかしい」

眉間に皺を寄せながら言い募る小萩には悪いけど、小萩は物語の読みすぎなのよ。

まったく、世に流布している物語って言ったら、不実な男に泣かされる人妻とか、男の夜離れを嘆き生霊になった女とか、そんな辛気臭いのばっかりなんだもの。

それでいて、なにかっちゃ「よよよ」なんて泣き崩れてるんだから、付き合いきれないわ。

気の滅入る話なんか書くなっていうのよ。

もっとこう、生き別れた恋人が万難を排して再びめぐり合う壮大なラブロマンスとか、身分も何もない冴えない男が、実は正義のヒーローで、夜な夜な朱雀大路で大活躍する痛快アクションとか、そういう話ってないのかしら。

「だいたい小萩はねぇ・・」

言いかけたところで、かすかに衣擦れの音が聞こえた気がして口をつぐむと、さっき帰ったはずの高彬が部屋に入ってきた。

「高彬・・・」

思わず呟くと、隣でしきりに小萩が目配せをしてきていて、その顔は(ほら、ご覧なさい)とでも言いたげで、あたしはにわかにドキドキしてきてしまった。

まさかとか思うけど・・・・。

折り入って話が、とか、そういうこと?!

さっき何気なく来て、何気なく帰ったのは、夫婦のステージがどうとかではなく、何か言いたいことがあった───とか?!

「どうしたの」

目の前に座った高彬にかける言葉が、思わず震えてしまった。

高彬はどこか緊張した面持ちで、小さく息を整えると

「言い忘れたことが・・・あったから」

静かに切り出した。

「なぁに」

何でもないことのように返事しながら、もうもう、あたしはそわそわしてしまった。

「その・・・」

「うん」

固唾を呑むって、こういうことを言うんじゃないかしら・・・。

「ぼくは・・・・ずっと瑠璃さんが、す・・・す・・・」

それきり言葉が出てこない。

「す?」

すって何よ!

「す、す・・」

「だから、す、が何よ」

あたしはじれじれして言った。

すまない、好きな人が出来た・・?

「す、雀って・・・」

「は?」

雀?

「雀って・・可愛いな、と思って」

「はぁ?・・・言い忘れたことって、それ?」

あたしは身体中の力が抜けてしまい、思わず脇息に突っ伏しそうになってしまった。

「・・そんなこと言いにわざわざ戻ってきたの?」

びっくりさせないでよ。

呆れるやら安心するやらで高彬を見ていると

「・・・やっぱりぼくは堅物なんだな・・」

ため息を付きながら高彬が言い、そんな高彬を見ているうちにあたしはピンと来てしまった。

<す>って、もしかしたら。

「高彬、こっちにきて」

高彬の手を取り几帳を回り込むと、あたしはそっと目を閉じてみた。

あたしの勘に間違いがなければ─────。

やがて小さく絹のこすれる音がして、肩に手がかかったかと思うと、唇が触れた。

唇が離れ目を開けると、照れくさそうな高彬の顔があった。

「このしぐさで妻の気持ちが判るのなら、堅物返上もそう先のことではないはずよ」

そう言うと、高彬は安堵したような顔で笑い

「花くらい持ってきてあげれば良かったんだけど、宿直の後、急に瑠璃さんの顔が見たくなってさ。何の準備も出来なかった」

申し訳なさそうにぼそぼそと言った。

「うん、わかってる」

「うん」

二人して意味もなくうん、うん、と頷きあいながら、あたしは心の中で

(高彬の堅物なとこ、好きだなぁ)

なんて改めて思ってしまった。

高彬には、風雅を解する男になって欲しいと言う気持ちと、堅物のままでいて欲しいと言う気持ちがあって、妻としてすこぉし複雑な気がする。

「瑠璃さん」

「なぁに」

「その・・・時間、あるかな」

チラリと高彬の目が動き、その先には敷いたままになっている夜具があった。

「・・・・」

「少し、でいいんだけど」

あたしの顔色を見ながら言う高彬がおかしくて、あたしはわざとむくれて見せた。

「少し、だけ?」

高彬の表情が動き

「いや、出来れば・・・たくさん」

目が合い─────二人して吹き出してしまう。

さっき上げたばかりの蔀戸が下げられた室内は、当然、お火入れもないので薄暗く、格子の隙間から入ってくる朝の陽が、複雑な線を床や壁に作っている。

手土産の花や、雅な言葉なんかなくても、熱さを増す高彬の手が雄弁に語るものがあり────

吐息だけで語り合うあたしたちを、まるで羨むかのように、庭の雀がチュンと鳴いたのだった。








<終>




今日はひな祭り。
大人になり忙しい毎日を頑張る「元・女の子」の皆さんに、この話を贈ります。

瑞月


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

うどんさま

うどんさん、おはようございます。

続編、読んでいただきありがとうございました。
大人になると毎日ってあっと言うまですね。
どうして子どもの頃は、あんなに時間がゆっくりと流れていたんでしょう・・・。
お互い、がんばりましょう。

遅ればせながらに読ませて頂きました。
最期の瑞月さんのコメントがとっても嬉しかったです。
日にちが過ぎて慌ててなおしましたから。

アルシュさん

アルシュさん、こんにちは~。

> そして、小萩の思い込みというか、「少将さまといえば堅物、堅物といえば少将さま」に大爆笑でした!!

小萩ってぽろっと面白いこと言うようなところありますよね!いいキャラですよ(笑)

アルシュさんの「冬椿」読ませていただきました。
また改めてコメントに伺いますね。

小萩がツボですv

瑞月さん、こんにちはv
いつも色々ありがとうございます。

競作大会の作品の続きを読むことが出来て、すっごくうれしいですv
そして、小萩の思い込みというか、「少将さまといえば堅物、堅物といえば少将さま」に大爆笑でした!!
ほんと、そうなんですけどね(笑)
でも、すっごく失礼な言葉ではあるのですが、まさにその通りなので笑うしかないです(笑)

そして「雀ってかわいいな」に、私もずっこけました(爆)
でもそれで何となくわかる瑠璃さんも妻が板についてきたのでしょうねv

朝かららぶらぶの二人に、いつも通りニヤニヤさせていただきましたv
いつも素敵なお話をありがとうございますv

非公開さま(Lさま)

こんにちは。
2話とも、ほっこりと楽しんでいただけたようで良かったです!
仲良しの2人は書いてても楽しいです。良いですよね~。

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cookiemomさま

> わたしも堅物朴念仁で純情一途な高彬が大好きです!

ですよね!
ある意味、女房たちの認識は正しいんです。
堅物と言えば少将さま、少将さまと言えば堅物(笑)

これからも、こんなぼくをよろしく!(高彬より)

非公開さま(Nさま)

夜じゃないって、やっぱり驚きですか?(笑)
朝なんですよ・・・朝。

「忘れ物」なんて言ってた高彬、あの後、政文になんて言い訳したんでしょうね(笑)

非公開さま(Kさま)

楽しんでもらえたようで良かったです!
瑠璃は瑠璃で(小萩の勘違いとは言え)色々思っていたんですね。
元、ですよ、元。現とはさすがに・・・(笑)

No title

ああ…、こんな幸せな続きが…!

わたしも堅物朴念仁で純情一途な高彬が大好きです!

痛快アクションとか、小ネタもきいていつも素敵なお話ばかりです。
今回も堪能させていただきましたー

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さりいさま

> 瑠璃と高彬なら何か誤解があっても、最後は大丈夫かなーって思いますが(笑)

そう思います。
2人とも「お互いを好きなあまりの誤解」をしてそうですしね!
高彬はもてると思うんですよねぇ。
平安時代のもてる基準とは微妙にズレてるところもありますが、でも、家柄の良さや誠実さ、加えて有能とくれば、もてないってことはないと思います。

まぁまぁまぁまぁ!素敵!!!
まさか続編まで拝見出来ると思っていなかったので、嬉しいです!
しかも最後はとーっても幸せな雰囲気で・・・うふふ。

しかし、瑠璃サイドでは花を巡ってそんな展開になっているとは思いませんでした。1つの行動が、見る人によって捉え方が違うって、時によって怖いですよね。人間、見たいものしか見ない時ってありますし。でも、瑠璃と高彬なら何か誤解があっても、最後は大丈夫かなーって思いますが(笑)

高彬には堅物のままでいてもらいたいなぁ。絶対、宮中でモテると思うので、本人鈍感で、女官や女房の色目攻撃にも気づかない程度に堅物くらいがちょうどいいと思います!

ところで、
『なにかっちゃ「よよよ」なんて泣き崩れてるんだから、付き合いきれないわ。』
には吹き出してしまいました。そうそう、辛気臭い話が多いですよね。だから私は、行動派の瑠璃が好きなんです(笑)

非公開さま(Cさま)

こんばんは

先日はこちらこそありがとうございました。
チャットなんて初めてだったのですが、とても楽しかったです。
不慣れなためにタイミングがわからずにすみません。
毎月、開催されていると思いますので、また機会があったらよろしくお願いします。

高彬はあの微妙な感じが魅力ですよね。
瑠璃もさんざん、高彬のことを堅物だの朴念仁だの言ってますが、きっとそんな高彬が好きなんですよね。

みそさま

> 朝からたくさん…!!

第一声がそれですか?!(笑)
なんてウソですよ。
そうたくさんですよたくさん。しかも宿直明け。
早く家帰らなくていいんでしょうかね?

> 小萩の辛口批評もグーですね。
> 本人、気付いてないところが特に。(笑)

小萩ってそういうところありますよね。
「お肌だけは」とか「人が変わったように」とか。
この主人にしてこの女房ありって感じでしょうか・・・。

ラムティさま

> でも高彬はそこがいいんです!!

そうですよね!
辞書で「堅物」と引いたら「高彬」が出てきそうなくらいの堅物っぷりが高彬らしいんですよね(笑)

> 几帳の向こう側の小萩にはいつさがっていったのーって思いましたが、気のきく小萩ですから高彬・瑠璃に言われる前に退出したんでしょうね(笑)

はい、下がりましたよ。ご心配なく(笑)

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朝からたくさん…!!
若さって眩しい~っ。
思わず興奮してしまいました。(≧ε≦)

小萩の辛口批評もグーですね。
本人、気付いてないところが特に。(笑)

桃の節句に素敵なお話ありがとうございます。

瑠璃ver. 高彬が帰ってから小萩とこんな話をしてたとは。
小萩の『 少将さまと言えば堅物、堅物と言えば少将さま』に吹き出しちゃいました(笑)
瑠璃のことを思えばのことですが確かに失礼ですね(笑)

でも高彬はそこがいいんです!!

最後はラブラブでにんまりです。
几帳の向こう側の小萩にはいつさがっていったのーって思いましたが、気のきく小萩ですから高彬・瑠璃に言われる前に退出したんでしょうね(笑)
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