*** 筒井筒のお約束をもう一度・・10<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・10<高彬・初夜編> *** 









「高彬さま、お車の準備が整いましたわ」

大江に声を掛けられて、ぼくは読んでいた漢籍を閉じ立ち上がった。

四月(うづき)だと言うのに、夏を思わせるような陽差しが孫廂まで届いて目に眩しいほどだ。

「若君、お出かけですか」

部屋を出ようとしたところで声をかけられると、いつ来たのか守弥が立っていた。

「うん」

「どちらに?」

言葉にトゲがあるような気がしてチラリと守弥を見ると、守弥はぼくの目をしっかりと見返してきた。

「・・・三条邸だ」

「ほぉ・・・。融君ですか」

「・・・・」

「融君は先日から風邪を召されたとかで出仕を見合わせておられますからね。そのお見舞いに・・・」

「瑠璃さんだ」

「・・・・」

「瑠璃さんに会いに行くんだよ」

「・・・・」

むっつりと黙り込み、返事もしない守弥に、心の中でため息をつく。

わざとらしく融の名なんか出しやがって。

こうやってぼくが居心地が悪くなって、瑠璃さんとの結婚を諦めるとでも思ってるのかも知れないな。

まったく・・・。

もう一度、心の中でため息をつくと、そのまま車寄せへと歩き出した。









**************************************************************








部屋に通されると、困り顔の小萩がいた。

「あれ?瑠璃さんは?」

いつもいる場所に瑠璃さんはおらず、几帳が風を受けて揺れているばかりで、ぼくはキョロキョロと室内を見回した。

「はぁ、それが・・・先ほどから姫さまのお姿が見えませんの。つい今しがたまでは、こちらに寝転がって・・・・・」

言いかけて小萩は慌てて口をつぐんだ。

姫ともあろう人が、孫廂で寝転んでいたなどというのは、さすがに口外することではないと思ったのかも知れない。

だけど、今更聞いても驚かないんだよなぁ。

小萩もそう思い直したのか

「・・・こちらに寝転がっておいででしたの。それが少し目を離したすきにいらっしゃらなくなっていて・・。家の者があちこち探しているのですが・・」

ほとほと困ったというように肩をすくめ、でも、緊迫感がないのは、こんなことは三条邸では日常茶飯事ということなんだろう。

「奥の庭の、桜の木の前は見た?」

「えぇ」

「寝殿の裏にある、小山の木の陰は?」

「見ましたわ」

「車寄せの近くの馬舎は?」

「おりませんでした」

「・・・」

他に瑠璃さんが行きそうなところと言ったら・・・。

────もしかしたら。

「ちょっと当てがあるから見てくるよ」

小萩に言い、ぼくは簀子縁に出ると歩きだした。

いくつかの角を曲がり渡殿を進むと急に視界がひらけ、行く手に釣殿が見えてきた。

遠目にも水面がキラキラと光っているのが見え、時折り吹く風にさざ波が立っているのがわかる。

やっぱり、いた。

釣殿の隣、板張りの淵に腰掛けている後姿は、まごうことなく瑠璃さんで、薄手の袿が風をはらみ膨らんでいる。

近づいて行くと、さざ波が立っていたのは、風のせいばかりではなく瑠璃さんが足で水面を蹴っていたためだと判った。

瑠璃さんが足を動かすたび、水面にしぶきが上がっている。

すぐ後ろにぼくがいることにも気が付かないほど熱心になっているのが、いかにも瑠璃さんらしかった。

ここにいると言うことは・・・。

「やっぱり、ここにいたんだね」

声を掛けると、瑠璃さんははじかれたように振り返り

「高彬・・・いつ来たの」

呆然と言った。

本当にびっくりしたみたいだった。

「たった今だよ。小萩が探してたよ。女房に黙ってこんなとこに来るなんて悪い人だね」

一応、たしなめなくてはと思いつつ、心底叱れないのは、やっぱり会えた嬉しさと、瑠璃さんがここにいる意味が判っているからかも知れない。

瑠璃さんの隣に座ると、水面を渡る風が一気にやってきて心地良かった。

「どうしたの、瑠璃さん。何かあったの」

「・・・どうしてよ」

「瑠璃さんは昔から、何か嫌なことがあると決まってここに来るだろ」

前を向いたまま言うと、瑠璃さんがぼくの横顔を見る気配があり、そうして肩をすくめたようだった。

「なんでもないのよ」

小さく言い

「ねぇ、それよか、高彬も足ひたしてみたら。冷たくて気持ちいいわよ」

ぼくに笑いかけてきた。









<続>


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

非公開さま(Kさま)

高彬は優しいですよね。
今でもこんなに優しいのだから、年を取ってもっと人の気持ちが判るようになったら、もう最強ですよね。

高彬にとって、瑠璃は守ってあげたい何かがある人なんだと思います。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

みそさま

> ②人情・道理のわからない人

これって・・・(笑)まさしく守弥じゃないですか!

ついでに堅物も調べてみました(笑)
「生真面目で融通の利かない人」でした。(goo辞書より)
高彬はどっちかって言うと堅物ですかね?

<使い方>に笑いました。

「あんな堅物と一緒にいると息がつまる」ですって(笑)

鷹男が言ったのかと思っちゃいました(笑)

時間があったら「はねっかえり」も調べておきます。

追記

私が調べた辞書によると『朴念仁』には
①無口で無愛想な人
という意味と
②人情・道理のわからない人
という意味があるようです。
確かに守弥に当てはまりますね。(笑)
そんな教育係に育てられたら高彬も…ねぇ。

みそさま

> 瑠璃のことだけに関して言えば、高彬ってそれほど朴念仁じゃないですよね~。

今、改めて「朴念仁」の意味を調べてみたら「無口」「愛想のない人」「わからずや」って意味なんですよね。
これって・・・むしろ守弥?(笑)
朴念仁がお育てしたから、やっぱり高彬にも、その気があるんでしょうかね。

> きっと口には出さなくても互いに「相手のことは、自分が一番知ってる」という自負があるんだろうなぁ。

ですよね~。
高彬→瑠璃の方が的確に掴んでそうな気もしますね。

瑠璃のことだけに関して言えば、高彬ってそれほど朴念仁じゃないですよね~。
高彬は高彬で瑠璃のスペシャリストなわけだし。
きっと口には出さなくても互いに「相手のことは、自分が一番知ってる」という自負があるんだろうなぁ。

高彬視点の瑠璃はとても可愛いのでツーショットのシーンがとても楽しみです!(≧∇≦)
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

にほんブログ村

ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
月別アーカイブ