*** 筒井筒のお約束をもう一度・・9<高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・9<高彬・初夜編> *** 









「高彬!」

東宮の御前を辞し、武徳殿を抜けて詰め所へと歩いているところを後ろから声を掛けられ振り向くと、同僚の源重行がこちらに向かってやってくるところだった。

「聞いたぞ、高彬。おまえも隅に置けないなぁ」

来るなりぼくの肩に腕を回し、大声で言う。

「なんだよ、いきなり」

何のことかわからずに聞き返すと

「隠すなよ、水臭い。宮廷の若き花形エリート、宿命のライバルと並び称される、俺とおまえの仲じゃないか。ま、そうは言っても、もうおまえは俺の敵ではない。何しろ女官たちの間では今、おまえの人気がガタ落ちらしいぞ。恋人持ちは受けないからな」

重行はニヤリと笑って見せた。

「・・・あいにく、ぼくは花形エリートでもないし、おまえをライバルと思ったこともないさ」

重行の言いたいことが判り、腕を振りほどきながら言うと

「へぇ、恋人持ちってところは否定しないのか。ってことは、やっぱり噂は本当なのか?」

「・・・・・」

「夜半、さる姫君の寝所で、某近衛少将と鉢合わせしたってもっぱらの噂だぞ」

「・・・黙秘する」

重々しく言ってやると、重行はわざとらしく腕を組み

「ま、これ以上の追求は許してやろう」

と言い、チラリと辺りを見回し誰もいないことを確認すると

「俺も正直、某少将は好かん。だけど・・・仮にも上の人間だからな。うまくやれよ」

最後は真面目な顔で言い、立ち去っていった。

からかいながらも重行なりに心配をしてくれたってことなんだろうな。

人の口に戸は立てられないと言うけれど、あの晩のことがどうしてだが水面下では噂になっているようで、どこにいても見られてるようで落ち着かない。

重行みたいにはっきり聞いてくれれば、まだいいんだけどな。(と言っても、はっきり答える気はないけど)

───今日はもう帰ろうかな。

書類の仕上げは、明日でも間に合うだろう。

行き先を車寄せに変え歩き出す。

出迎えた従者らに声をかけ、車に乗り込んだところで、ぼくは大きく伸びをした。

大路を進みながら物見窓を開けると、四月(うづき)の空には夕闇が迫ってきており、陽は西の山に大きく傾いている。

もうじき長い梅雨がくるけれど、夕空にも吹く風にもすでに夏の気配があるようで、ぼくは瑠璃さんのことを思い浮かべた。

最近、会えてないなぁ。

お祖母さまのご病気や、夏に予定している父上主催の「釣殿の宴」の準備や、さらには近々、宮家の姫君を白梅院にお招きするとかで、家の中が何かと慌しく、瑠璃さんに会いに行けていないのだ。

瑠璃さんは元気かな。

突然、家に現れて二の姫に文を出しているのかと聞かれたときは、本当にびっくりしたけど、でも、考えてみたらぼくと二の姫の仲を気にしてくれたというわけで、嬉しいと言えば嬉しい。

ぼくはそっと袂に触れ、そこにあることを確かめた。

先日、市で買い求めた犬の形をした木彫り細工だ。

気分転換を兼ねて出かけた市で、ふと目に留まったのが、この犬の仔の人形だった。

見た瞬間すぐに(瑠璃さんにあげよう)と思った。

なぜなら、犬の仔は瑠璃さんとの大切な思い出─────忘れもしない、ぼくが瑠璃さんにプロポーズするきっかけとなった、いわば立役者だからだ。

瑠璃さんが吉野から戻って、まだ日も浅かったある日、融と三人、迷い込んだ犬の仔と日がな一日遊んだことがあった。

夕刻になり瑠璃さんが沈み込む姿を見て、ぼくはてっきり犬の仔と別れるのがつらいのだろう、と思った。

「飼ったら?」と勧めるぼくに、瑠璃さんは頭を振って

「犬はね、人間より先に死んじゃうんだよ。瑠璃はもう、好きな人が死ぬのを見たくないの」

と呟き、そんな瑠璃さんがすごく寂しそうに見えて、ぼくは「この女の子を守ってあげたい」と強く思い、気が付いたら

「ぼくがずっと一緒にいるよ。ひとりにはしないから」

とプロポーズしていた。

その後、瑠璃さんがとんでもなくお転婆で勇ましいことが発覚して、どっちかって言うとぼくが守られてばかりだったのは情けない限りだけど、それでもやっぱりぼくの中で瑠璃さんは「寂しがり屋の女の子」のままで、それは今でも変わっていない。

そうなんだ、瑠璃さんは色々と世間じゃ好き勝手に噂されているけれど、本当はすごく繊細で優しい人なんだ。

邸内を走り回ったり、ぼくの家に突然現れたり、誤解されるような立ち居振る舞いをする瑠璃さんも悪いのだけど────

だけど・・・。

ぼくはため息をついた。

それにしても、うちでの瑠璃さんの評判は悪すぎる気がするんだよなぁ。

ぼくの名で二の姫に文を贈っていると判明したあと、ぼくは父上母上に瑠璃さんとの結婚の話をした。

知らないところで外堀を固めていくようなことをされたら困るし、そのためにははっきりと伝えておいた方がいいと思ったからだ。

それ以来、どうにも家の中の空気が良くない。

母上は時間を見つけては朝な夕なに部屋にやって来て泣きつくし、守弥は守弥で不機嫌を隠そうともしない。

守弥と言えば、あいつにも想い人がいるみたいで、それならば、少しはぼくの気持ちを判って味方をしてくれたって良さそうなものなのに。

言下に「瑠璃姫などとんでもない」などと言いやがって。

参内すれば意味ありげな目で見られるし、家にいればあからさまに瑠璃さんとの結婚を反対されるしで、どうにも気が晴れない。

近いうちに時間を作って瑠璃さんに会いに行こう────

空を見上げて、ぼくはもう一度、瑠璃さんの顔を思い浮かべた。







<続>


(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

非公開さま(Kさま)

ほんと、高彬の日常は興味あります。
原作でも「ミステリー」以外はでてきませんものね。
高彬は友だちもたくさんいたと思います。

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ラムティさま

おはようございます。

> 瑠璃とは違う生活場面(宮中や白梅院)での高彬が見れて嬉しいです。

高彬編、お楽しみいただいているようで嬉しいです。
>
> この場ですみませんが、さりい様。帥の宮編の文庫本発売の情報ありがとうございます!さっそく金曜日、本屋に行ってみます!(瑞月様、この場をお借りしてすみません)

ジャパネスクの情報、何かあったら皆でシェアしていきたいですよね!
さりいさん、ありがとうございます。

No title

こんばんわ~

高彬編拝読してると所々で『あ、瑠璃編のあの場面だ(笑)』とワクワクしながら拝見してます!
瑠璃とは違う生活場面(宮中や白梅院)での高彬が見れて嬉しいです。
皆様のコメント見ながら『うん、うん』と共感しています(笑)
皆様、同じ思いを持ってるんですね~

この場ですみませんが、さりい様。帥の宮編の文庫本発売の情報ありがとうございます!さっそく金曜日、本屋に行ってみます!(瑞月様、この場をお借りしてすみません)

さりいさま

> →瑠璃目線ももう一度復習したくて、最初だけ読むつもりが・・・
> →今後、高彬に起こる出来事まで予習したくなって、最後まで通読

あはは~。
もしかしたら私よりも、さりいさんの方が初夜編に詳しいかもしれませんね。

>初恋の君に再会したような盛り上がりが自分の中にあるのかな、と思っています(笑)

あ~、それわかるような気がします。
私も青春時代から大好きだったので(ジャパネスクも高彬も)こうしてジャパネスクについて話したりしてると、あの頃の気分と言うか、自分の中の原点に近いものと向き合ってるような気がするんです。

もちろん、単純にジャパネスクが好きなんですけどね。
多分、死ぬまで好きだと思います。

>宮中の話を読んだり、初夜編で白梅院に行った時の高彬の部屋の描写とか、すごく好きです。

もうこの辺りは本当に妄想だらけなんです。

> 高彬、あんなに人格者ですから、融以外にも同僚とか、気の合う仲間もいたでしょうしね。

高彬の交遊録って気になりますよね。
仕事はできるけど「ウブ」だから、尊敬されつつもからかわれてたんだろうなぁ・・・とか。

> 原作でも、帥の宮編の「お召しにより、参りました」以下の高彬がすごく好きです。きっと仕事の時は、ぴしぃぃぃっ!としているんでしょうね。

瑠璃の前でうろたえてる高彬とは別人ですよ!(笑)このギャップがすごくいいです。

>夫の違う面を見て惚れ直すことが出来た訳ですし(笑)

後宮にひょっこり妻が現れるなんて、高彬にとっては堪らないでしょうね。いろんな意味で(笑)

> そうそう、帥の宮編で思い出しましたが、私は漫画版も昔、リアルタイムで読んでいたクチでして、今年は帥の宮編の漫画の方が、文庫化されるんですよ。(金曜日に1〜2巻発売)

そうなんですか!
また、これを機にジャパネスクファンが増えると嬉しいですね!

cookiemomさま

> 某近衛少将は、高彬が右近少将になったあともずっと権少将であれ!
> そして高彬におべっか使えばいいのだ。

絶対に高彬がすぐに追い抜いちゃいますよね!
権少将は女ぐせも悪いし、そもそも仕事が出来るのか疑問・・・。

お仕事中〜

こんにちは。
相変わらず、初夜編の新作を読むと、
気になり高彬編を第1話から読み直し
→瑠璃目線ももう一度復習したくて、最初だけ読むつもりが・・・
→今後、高彬に起こる出来事まで予習したくなって、最後まで通読
→結局初夜3日目まで完読!

・・・という流れでおります(笑)楽しませて頂いております(笑)
何でこんなに好きなのかなぁ、と最近ぼんやり考えるのですが、瑞月さんのお話が本当にお上手なのは勿論のこと、初恋の君に再会したような盛り上がりが自分の中にあるのかな、と思っています(笑)
高彬は、私が大人になっても大好きなヒーローみたいです。少女漫画、少女小説、たーくさん読みましたが、大人になっても再読したいと思うものは少なく、ましてや読んで「やっぱりいい!」と思ったのは、本当に数えるほどで・・・その中でも、高彬は私の中でダントツでした。

・・・という訳で(?)今回の話もとても楽しませて頂きました。
私、高彬が仕事してる時って好きなんですよねー。ま、基本的に何をしてても好きなんですが(笑)
氷室先生はあまりお書きにならなかったので(当然といえば当然ですが。瑠璃の一人称ですから、瑠璃の知らない世界は私たちも知らないんですよね)こういう、宮中の話を読んだり、初夜編で白梅院に行った時の高彬の部屋の描写とか、すごく好きです。

色々想像して小説に出来る瑞月さんの才能には、本当に感動です。
高彬、あんなに人格者ですから、融以外にも同僚とか、気の合う仲間もいたでしょうしね。
と言いつつ、『(と言っても、はっきり答える気はないけど)』と心の中で思っている高彬はさすが宮廷人です(笑)こういう所、好きです。

原作でも、帥の宮編の「お召しにより、参りました」以下の高彬がすごく好きです。きっと仕事の時は、ぴしぃぃぃっ!としているんでしょうね。
瑠璃は型破りな姫だから、後宮にも潜入しちゃって、夫の仕事ぶりを目の当たりに出来た訳ですが、それってすごくラッキーなことだと思います。夫の違う面を見て惚れ直すことが出来た訳ですし(笑)

そうそう、帥の宮編で思い出しましたが、私は漫画版も昔、リアルタイムで読んでいたクチでして、今年は帥の宮編の漫画の方が、文庫化されるんですよ。(金曜日に1〜2巻発売)
私は文庫で全部揃える予定なので、今年はますますワクワクしています♪

No title

続きをお待ちしておりました!


高彬の宮廷生活が覗けて楽しかったです。
某近衛少将は、高彬が右近少将になったあともずっと権少将であれ!
そして高彬におべっか使えばいいのだ。

こももさま

こももさん、こんにちは!

> コイツが後々一仕事やってくれちゃうんですよね(笑)

あはは~、そうですよね。
確かに権少将って、何かのきっかけを作ってくれる天才ですね(笑)

No title

瑞月さん、こんにちは。

権少将が、有る事無い事ネチネチと、
言いふらしているんでしょうね。
ホントいやなヤツだけど、
コイツが後々一仕事やってくれちゃうんですよね(笑)

花形エリート高彬、ガンバレーー( ´ ▽ ` )ノ




非公開さま(Nさま)

おはようございます。

結婚までの道のりは、高彬の方がいろいろあったんでしょうね~。
次回はそろそろ、その場面ですね。お楽しみに~。

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