*** 筒井筒のお約束をもう一度<高彬編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編・第一話『筒井筒のお約束をもう一度』の高彬サイドの話です。
                        






*** 筒井筒のお約束をもう一度<高彬編> ***








虫の声か、風の音か、何かの気配でぼくはふと目を覚ました。

うっすらと開けた目に、やわやわとした灯台のあかりが入ってきて、そのあかりを頼りに目だけで室内を見回す。

────ここはどこだっけ?

──────それより、何でぼくは寝てるんだ?

思案すること数秒、ぼんやりとしていた頭がようやく回りだす。

あぁ、そうだ。ここは瑠璃さんちだ。

瑠璃さんとの対面中に倒れたぼくは、そのまま空いている部屋に寝かされて、たまたま三条邸に来ていたという医師に診てもらい・・・。

情けないよなぁ。

全てを思い出したぼくは、大きく息を吐いた。

今日こそは瑠璃さんに思いを伝えようと勇んでやってきたのに、当の瑠璃さんの前で倒れるなんて、なんてザマだ。

朝、出掛けに身体が熱いと感じたのは、気持ちが昂ぶってるからだと思ってたけど、そうか、風邪だったのか。

さっき飲んだ煎じ薬が効いたのか、身体はずいぶんと楽になってはいるけれど・・・。

大納言さまが、瑠璃さんを権少将に引き合わせるための宴の準備をしていると知ったのが一月前。

手をこまねいて見ているわけにはいかないし、かといって阻止する妙案が浮かぶわけもなく、どうしたものか・・・と焦る気持ちを持て余しつつ、それとなく宮廷内で探ってみたら、権少将のとんでもない醜聞を耳にした。

夫ある女性に手を出して、大立ち回りを演じたと言うのだ。

前から権少将のあまりいい噂は聞かないし、ありていに言えば俗に言う女グセの悪い方なんだろうと思う。

年は十九で、十五のぼくよりも確かに瑠璃さんの夫にはふさわしいかもしれないけど、でも、あんなやつと瑠璃さんを結婚なんかさせてたまるか。

これはなんとしてでも阻止しなければ・・・と思っていたら、運良く、などと言ったら失礼だけど、大納言さまが風邪をひかれ、それに続いて融も風邪をひき宴が延期になった。

結果オーライと言えなくもないけど、とにもかくにも時間稼ぎは出来たわけだから、まぁ良しとしよう。

でもなぁ・・・。

夜具の中、またしてもぼくはため息をついた。

大納言さまが瑠璃さんの結婚相手を探してらっしゃるのは前から知っていたけれど、何の声も掛からないということはぼくなんか眼中にないってことなんだよなぁ。

従五位上の衛門佐じゃ瑠璃さんの結婚相手としては物足りないだろうから、無理もない話しなんだけど。

それよりも何よりも問題は瑠璃さんだ。

結婚の約束したこと、コロッと忘れてるんだから。

何が<あんた、想う姫でもいるの?>だよ。

・・・そうか。あそこで

<想う姫?いるよ。瑠璃さん、あなただよ>

くらい言ってビシッと決めていれば良かったのか。

後から思いついても遅いんだよ。

何でだかこういうセリフがすぐに出てこないんだよな、ぼくは。

自分で言うのも何だけど、仕事関係のことならそれなりに気に利いた受け答えが出来るんだけど、こと瑠璃さんとの会話になると、後で後悔することが多い。

ムキになって思ってもないことを口走ってみたり、かと思うと妙に言葉足らずになったり。

今日だって、よくよく言う言葉を吟味して何度も心の中で練習してきたというのに、瑠璃さんときたら<吉野に行きたいの?>だの<橋渡しは無理よ>なんて、ほんと予想をはるかに上回るようなことをポンポン言うんだから。

ぼくにはぼくの都合と言うか計画があるんだから、こういう時くらいおとなしく・・・なんてするような人じゃないよなぁ、瑠璃さんは。

延期になったとは言え、じきに宴は開催されるだろうし、せめて瑠璃さんに気持ちだけでは伝えておかないと。

玉砕覚悟の上だけど、このまま指をくわえて瑠璃さんが他の人と結婚するのを見てるわけにはいかないし。

玉砕・・・したら、やっぱり落ち込むだろうなぁ・・・。

だけど、ぼくだって男だしな。当たって砕けろ、だ。

絶好の機会だった今日を逃してしまったけれど、また日を改めて・・・・

そこまで考えて、ふとこちらに近づいてくる足音が聞こえた気がして耳を澄ませた。

渡殿をやってくるその足音は、ぼくの部屋の前で止まったかと思うと、やがて妻戸を開く木のこすれ合う音が小さく聞こえてきた。

妻戸を開けた時に入ってきた風と一緒に流れ込んできたあるかなきかの匂いで、瑠璃さんだということはすぐにわかった。

ぼくは慌てて目を瞑り寝た振りを決め込んだ。

起きてて悪いと言うことはないんだけど・・・。

衣擦れの音が聞こえ、さっきよりも匂いが強くなり、瑠璃さんがこちらにやってきたようだった。

少しの沈黙のあと

「高彬・・・」

瑠璃さんの気遣うような小さな声が聞こえた。

───うん、瑠璃さんは、やっぱりいい人だ。

ぼくは心の中でひとりごちた。

小突いたり、乱暴な口を聞くときもあるけど、ここ一番と言うところで瑠璃さんはいつも優しい。

世間じゃ色々噂されてるけど、きちんと人を気遣う心を持っている人なんだ。

そんなことを思っていたら、ふいに額に何かが当たり、びっくりして声が出そうになるのを咄嗟にこらえた。

なんだこれは・・、と思ったのも束の間、すぐに瑠璃さんの手だとわかって心拍数が跳ね上がった。

───熱計ってるだけなんだから、落ち着けよ。

ドキドキしている自分に言い聞かせる。

ほんと、予想を上回ることしてくれるよな!瑠璃さんは。

長いような短いような時間が過ぎ、ふいに手が離れ、瑠璃さんが立ち上がる気配がして────

「瑠璃さん」

気が付いたら瑠璃さんの手首をつかんでいた。

「ごめん。起こしちゃった?」

驚いたような顔の瑠璃さんが言い

「いや、起きてたよ」

ぼくは頭を振った。

そうなの?と、一瞬、怪訝そうな顔をした瑠璃さんは、それでも

「熱、下がったみたいね」

安心したように言い、笑って見せた。

何だかその笑顔がどこか不自然なような気がしたけれど、それよりも何よりも瑠璃さんの手首の細さにびっくりしてしまった。

瑠璃さんってこんなに華奢だったっけ?

長いことぼくより背も高かったし、もちろん今では追い越したけど・・・でも・・・。

「白湯でももらってきてあげるわ」

立ちあがりかけた瑠璃さんを、ぼくは強引に引きとめた。

「待って、瑠璃さん」

またしても怪訝そうな顔で振り向いた瑠璃さんの視線がチラリと手首に行き、強く掴みすぎて痛いのかと思い、気持ち緩める。

「・・・どこにも行かないで」

出てきた言葉のあまりのふがいなさに心中、舌打ちをすると、案の定、瑠璃さんは呆れたような顔になった。

「どこにもって・・・白湯をもらってくるだけよ。すぐに戻るわ。・・・まさか怖いの?安心して。あんたを1人にはしないわよ。怖いならずっとそばにいてあげるから」

笑いながらそう言い、次の瞬間、瑠璃さんと目があった。

見る見る瑠璃さんの眉間にしわが寄り、何事かを考えてるような顔つきになった。

『1人にはしない』

そうだよ、瑠璃さん。

前にぼくが瑠璃さんに言った言葉だよ。

『1人にはしないから・・・泣かないで。ずっとそばにいてあげるから』って。

思い出してよ。

手首を掴んだ手に、思わず力が入る。

思い出して。

考え込む風だった瑠璃さんの顔が、やがてどこかあやふやな自信のなさそうな顔になり、目が泳ぎ、その目がぼくとかち合った瞬間、夢から覚めたかのように瑠璃さんの視線が定まった。

「思い出してくれた?瑠璃さん」

確信したぼくは、ゆっくりと起き上がった。

「『ずっとそばにいてあげる。1人にはしないから』ぼくが瑠璃さんに言った言葉だよ」

「・・・お、思い出したわ・・」

視線をそらし瞬きもせずに、瑠璃さんは呟くように言い、その顔が夜目にもうっすらと赤くなっている。

そんな瑠璃さんの様子を見て、ぼくは内心、少し、いや、とても安堵した。

良かった、本当に忘れていたんだ。

瑠璃さんは結婚の約束をしたことを忘れている・・・と思いつつ、本当はすごく不安だった。

もしかしたら、忘れてるんじゃなくて、忘れてる振りして、はぐらかしてるだけじゃないのかって。

でもこの様子だと本当に忘れてたみたいだし、と言うことは少しはまだ脈があるってことだよな。

良かった・・・。

「それで、瑠璃さんはどうするの?」

「え・・・」

「やっぱり結婚はしないの?」

「・・・・」

「ちゃんと・・・・返事を聞かせてよ」

ずっと言いたかった言葉をまさかこんな展開で口にするなんて、と内心驚きつつ、それでもここを先途とぼくはたたみかけた。

「えっと・・・」

珍しく口ごもる瑠璃さんの口元を凝視し、次の言葉を待つ。

さっきとは比べ物にならないくらい、ドキドキしているのが自分でもわかった。

落ち着け、落ち着け!

気付かれないように深呼吸をすると、瑠璃さんの唇が動いた。

「そ、その、考えておくわ」

考えておくから・・・小声で自分の言葉を反復した瑠璃さんは、あきらかに動揺しているようで、何だかそんな瑠璃さんを見ていたら、かえってぼくの方が落ち着いてきてしまった。

「じゃあ、今度会ったときに返事を聞かせてよ」

幾分、強い口調で言うと、はっとしたように瑠璃さんが顔をあげた。

驚いたような、自信のなさそうなその顔が、いつもの瑠璃さんの顔とは違ってみえて、ぼくは少し不思議な気持ちで瑠璃さんを見つめた。

「瑠璃さんは忘れっぽいからね。約束だよ」

「わ、わかったわ。約束・・・するわよ」

顔を覗きこむようにして念を押すと、瑠璃さんは口ごもりながらもコクコクと素直に頷き、そんな瑠璃さんが可愛くて、考えるより先に瑠璃さんを抱き寄せて頬に接吻をしてしまっていた。

自分のしたことにびっくりしていると、当然、瑠璃さんもびっくりしたようで、ぼくから逃げるように身体を振りほどいた。

慌てて横になり、目を瞑る。

何をしているんだ、ぼくは・・・!

風邪のせいか?いや、さっき飲んだ煎じ薬のせいか・・・?

これは殴られるかもな・・・と内心、腹をくくっていると

「もう高彬ったら!ちょっと起きなさいよ」

勇ましいこと言ってる割には、聞きようによっては柔らかい口調とも言える瑠璃さんの声が聞こえてきた。

怒ってないのは、長い付き合いでわかる。

だけど、顔を合わせるのは気恥ずかしいし、とりあえずは頭を整理するためにも寝た振りを続けよう・・・。

「もうっ」

立ち上がる気配と衣擦れの音がして、薄目を開けると瑠璃さんが部屋を出て行くところだった。

「・・・・本当に約束だよ」

返事が、ない。

「瑠璃さん」

振り向きもしない背中に向かって声をかける。

「なによ」

昔から耳に馴染んだ、ふくれっつらした時の瑠璃さんの声がした。

このふくれっつらの気まぐれなお姫さまに、幼いぼくはどれだけ翻弄されたことか。

融と二人、それでもちょこまかと付いて回っていたっけ。

「瑠璃さんって・・・・」

「・・・・・」

瑠璃さんが全身でぼくの言葉を聞いている気配がする。

いつのまにか、ぼくの方が大きくなっていた瑠璃さんの小さな背中。

今、瑠璃さんはどんな顔をしてるんだろう。

何だかおかしくなってきて、ぼくは素直な感想を述べてみた。

「瑠璃さんって・・・柔らかいね」

瑠璃さんの背中がビクンと動いたかと思うと

「高彬の馬鹿っ」

思いっきり言い放ち、そのままバタンと妻戸が閉まった。

とてものこと深窓の姫君とは思えない退室の仕方は、やっぱり幼い頃の瑠璃さんで、懐かしさとも安心感とも言えない小さな笑いがこみあげてくる。

本当に瑠璃さんは・・・。

急に静かになった部屋は、灯台のやわやわとしたあかりもそのままで、さっきまで一人で寝ていた部屋のままのはずなんだけど、でも、どこかが違って見えた。

横になって目を瞑っても眠れるわけもなく、ぼくは勢いを付けて起きあがり几帳に掛けてあった衣装を軽く羽織ると妻戸を開けて外に出た。

春先の少し冷たい夜風が、火照った身体にはいっそ気持ち良く、ぼくは伸びをして温気をはらんだ空気を吸い込んだ。

ほのかに新緑の匂いが含まれていて清々しい。

───気持ちは伝えたんだ。

逸る気持ちを抑えるため、心の中で頷く。

始まりとなるのか、終わりとなるのか、それは瑠璃さんの返事次第だけど、とにかく伝えられたんだ。

思ってたのとは違うシチュエーションだったけど、まぁいい。

人生なんて予定通りには行かないものかも知れないしな。

もしも終わりとなったら、ぼくはどうするのだろうか。

諦めるのか、追うのか・・・。

諦める───?瑠璃さんを?

そんなの・・・嫌だ。

────とにかく、今は瑠璃さんの返事を待つしかない。

思い定めて見上げた夜空には、焦るぼくの気持ちをいさめるかのように、上弦の月がぽっかりと浮かんでいた。





         


            <終>




(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

cookiemomさま

cookiemomさん、おはようございます。

インフルでしたか・・・。大変でしたね。もう大丈夫なのでしょうか?
まだまだ寒い時期ですし、型が違えばかかる可能性もあると聞きますから気をつけてくださいね。
高彬・初夜編、お付き合いくださいね!

うれしい!

インフルで倒れていてしばらくぶりに伺ったら新連載が開始されていてすごくうれしいです。
しかも私の大好きな高彬サイド!
瑞月様ありがとうございます~。これで体力も充実、完全社会復帰できそうです!

非公開さま(Kさま)

高彬編、楽しんでいただいたみたいでありがとうございます!
一途な高彬のこと、応援してあげてくださいね~!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

非公開さま(Nさま)

Nさん、おはようございます。

原作編、楽しみにしていただいてありがとうございます。
原作の雰囲気、出ていますか?ありがとうございます!

Nさんのご期待に沿えるようなものがお届けできるか不安ではありますが、今年も大好きなジャパネスクをたくさん書いていきたいと思っています。
また読んでくださいね。

ラムティさま

ラムティさん、 お久しぶりです!

> まさか!まさか!!高彬versionが読めるなんて!!!素敵すぎます~

こんなに喜んでいただいて私も感激です!

> 瑠璃に思いを伝える直前の気持ち・葛藤・苦悩には興味があったので嬉しいです。

おっしゃる通り、この時期の高彬の気持ちは、独身主義を宣言していた瑠璃なんかよりも、よっぽど色々な思いがあったんだと思います。
原作でも瑠璃視線なので、高彬の気持ちは書かれていないし、私もずっと興味ありました。

> 瑠璃父もなぜ高彬を婿候補に考えなかったんですかね~『瑠璃と融と親しくしすぎて...』と原作でありましたがほんっと灯台もと暗しですよね。こんなに近くに立派な公達がいたのに~(笑)

ほんとですよね。
高彬のことも、幼いときから知ってる分、自分の子どもくらいに見ていたのでしょうか?

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

お久しぶりです。
まさか!まさか!!高彬versionが読めるなんて!!!素敵すぎます~

瑠璃に思いを伝える直前の気持ち・葛藤・苦悩には興味があったので嬉しいです。高彬が可愛すぎて頬がゆるみっぱなしです(笑)端からみたら私は変な目でみられてもおかしくないぐらいにニヤついていたと思います。

瑠璃父もなぜ高彬を婿候補に考えなかったんですかね~『瑠璃と融と親しくしすぎて...』と原作でありましたがほんっと灯台もと暗しですよね。こんなに近くに立派な公達がいたのに~(笑)
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

  ↑
ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
なんて素敵にサイト様 (ジャパネスク)
なんて素敵にサイト様(他ジャンル)
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
月別アーカイブ