***短編*** 秋の、もみじ葉 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




         注)このお話は一話完結です。

         『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
         今回のお題は「紅葉」でした。

          <おまけの話>下にあります。
           





***短編*** 秋の、もみじ葉 ***








いずれの季節でございましたか・・・・などと気取るほどのことでもなく、なんのことはない、たなびく雲のたえ間から、清らかな月の光がさしこめるような秋の日の夜のことでございました。

いつもより遅くお越しになった少将さまは、姫さまの部屋の前まで来られますと

「・・・ここでいいよ。もう遅いから小萩も休みなさい。明日は少し早めに出仕するから頼むよ」

わたくしにそうおっしゃり、忍びやかに部屋にお入りになっていかれました。

パタンと閉じられた妻戸に向かい一礼をいたしまして、わたくしは局に向かったのですが、渡殿を歩いておりますと、ふと、目の前に何かが舞い、音もなくわたくしの足元に落ちてまいりました。

屈んで拾い上げて見ますと、それは真っ赤な紅葉の葉でございました。

三条邸の庭の木々はこの数日の朝晩の寒さで色づきはじめ、中でも楓の木は見事な赤色に染まっておりました。

何とはなしに手の中の紅葉の葉を眺めておりますと、ふいにある光景が思い出されてまいりました。

あれは・・・・今から十年も前のこと、わたくしがまだ三条邸にきて間もなくの頃でございます。

女童として姫さまと仲良くさせていただいておりましたわたくしは、日中などはほとんど姫さまと過ごしておりました。

その頃から少将さまは融さまとご一緒に東の対屋までおいでになり、お三人でよくお遊びになっておられました。

今日と同じような秋の日の夕刻、お庭の楓は真っ赤に染まり、時折り吹く風にその葉は舞い、それはそれは美しい光景を見せてくれておりました。

ですがそこはまだまだ幼いお三人でしたので、風情よりは遊びに向かってしまうのもせんないことでした。

姫さまは舞ってくる紅葉を捕まえようと歓声を上げながら走り回っており、そのお元気なご様子はとてものこと深窓の姫君とはほど遠く、わたくしは内心ため息を付きながらも、それでも微笑ましい気持ちで見ておりました。

そんな時でございました、ふと、わたくしの目が姫さまを熱心にご覧になっていらっしゃる高彬さまのご様子を捉えたのでございます。

瞬きも忘れたように目は姫さまのお姿を追い、まるで時間が止まってしまったかのように、その場に立ちすくんでおいででした。

高彬さまの頬がほんのりと赤く染まって見えたのは、秋の夕日のせいなのか、高彬さまご自身の高揚であったのか、今となっては定かではございませんが、高彬さまから伸びていた長い影だけは、今も鮮明に覚えております。

その時にわたくしは何の迷いもなく

(あぁ、高彬さまは姫さまがお好きなのだわ)

と思ったのでございます。

その日以来、どうにも高彬さまの恋の行方が気になって仕方なく、それでも、当の姫さまは高彬さまのお気持ちに全く気付く気配はないのでございました。

それが今ではこうしてお二人はご夫婦になられ・・・・

月日の流れるのは早いものでございます。

ひとつの思い出が呼び水となったのか、部屋に戻ってからも姫さまと過ごしたあれやこれやの出来事がいちどきに思い出され、懐かしさに浸りながら、秋の夜長を過ごしたのではありました。








********************************************************








翌朝、いつもよりも早めに部屋に伺いますと、すでに少将さまはお起きになられておられました。

普段でしたら一緒に起きてこられるはずの姫さまがいらっしゃらないので、どうしたことかと思い、几帳を回り込もうとしましたら、少将さまにやんわりと制されてしまいました。

「もう少し寝かせてあげて。まだ・・・起きられないようだから」

お加減でも悪いのかと思ったのもつかの間、すぐに少将さまのおっしゃられている意味がわかり、顔が赤らむ思いがいたしました。

すっかり身支度を整えられた少将さまは、妻戸に向かわれかけたところをいったん戻り几帳を回られました。

少将さまが何事かを囁かれているお声、それに答える言葉にならないような姫さまの吐息のようなお声、衣擦れの音、それに続く沈黙・・・

またしても顔が赤らむ思いがし、思わず目を伏せたのでございます。

その後、姫さまがようやく起きられたのはすっかり陽ものぼった巳の刻でした。

「姫さま、いい加減、お起き下さいませ」

放っておいたらいつまでも起きる気配のない姫さまにお声をお掛けしますと、姫さまは呆けたような声で

「小萩・・・お腹、すいた・・・」

とおっしゃられるのでした。

「もう巳の刻ですもの、お腹もすくはずですわ。すぐに朝餉の用意をさせますので、まずはお仕度なさいませ。さ、姫さま」

きびきびと申しますと、姫さまは大きく伸びをされ、ようやく起き上がられました。

そうして

「あれ、高彬は」

などと辺りを見回しておられます。

「少将さまでしたら、とうにお出かけでございます」

呆れて申しますと、姫さまは「ふぅん」とどこか寂しげに呟かれるのでございました。

お仕度を済ませ、ゆったり脇息に寄りかかる姫さまは、どこがどうとは言えないのではございますが、やはり結婚前とは少し違って見えるようで、何とはなしにちらちらと見ておりますと、ふいに姫さまが気付かれて

「何?何かあたしの顔に付いてる?」

とご自分のお顔を指さされました。

「いいえ」

笑って答え

「何やら姫さまがお綺麗になられたようで、思わずみとれておりましたのよ」

袖で口元を押さえながら申しますと、姫さまは

「やぁね、からかって」

ぷっとお顔を膨らませわたくしを軽く睨むのでございました。

「からかってなどいませんわ。本当にそう思うんですもの。姫さま・・・ご結婚って・・・どんなものでございますの?」

どうしたことか、ふいにそんな言葉がわたくしの口をついて出たのでございます。

お幸せそうな姫さまにあてられてしまったのかも知れません。

「結婚ねぇ・・・」

扇を弄びながらぼんやりとお庭を見ながらしばらく考え込まれた姫さまは、やがて

「たとえばね、こんな綺麗な紅葉をみるとね、あぁ、高彬にも見せてあげたいなぁ・・・とか、そんな感じ・・かしらね」

真面目におっしゃられ、それでも恥ずかしいのか、扇で顔を隠されてしまわれました。

紅葉を少将さまにも・・・

そうお答えになられた姫さまは、十年前の姫さまではなく、まぎれもなく恋をなされ、そして殿方にも大切に思われている女性の姿で

「さようでございますか」

笑顔で答えながらも、心の中には秋風にも似た少しひんやりとした思いが湧いてくるのを、わたくしは自分自身、不思議な思いで感じておりました。

その思いを突き詰めて考えるのが何やら怖くて

「さ、朝餉の用意をしてまいりましょう」

つとめて明るく言い放ち立ち上がると、姫さまは怪訝そうなお顔でわたくしをご覧になったのでした・・・。







****************************************************






一通りの仕事を片付けたわたくしは、局に戻り大きく息を吐きぼんやりと座り込んでおりました。

先ほどから感じている、鬱屈とした思い・・・。

わたくしにはわかっているのでございます。

姉のように、また時には母のような気持ちで姫さまのことは見守ってまいりました。

何しろ姫さまは、こう申しては何ですが、およそ姫らしくない姫さまで、几帳は蹴飛ばすわ、碁石は投げつけるわ、やることなすとこすべてが破天荒で、わたくしもお側にいて心配のし通しだったのです。

その姫さまが良き伴侶を得られ、女性として幸せな道を歩んでおられる・・・。

それはわたくしにとってもこの上のない幸せなことに違いなく、言うなればわたくしも肩の荷が下りたということなのでございます。

さぁ、これからはわたくしも自分の幸せを考えなければ・・・

そう自分を奮い立たせてみても、心に流れ込む秋風はいかんともしがたいのでございました。

どうやらわたくしは「子離れ」ならぬ「姫さま離れ」できない親のようなものなのでございましょう。

「小萩ぃ、小萩ぃ」

とわたくしにまとわり付くように遊ばれる姫さま。

「小萩がいるから楽しいね」

と笑われる姫さま。

「父さまには内緒ね」

と秘密の話を耳打ちされる姫さま・・・。

ふぅ・・・

再び大きくため息をつきますと

「小萩、いる?」

突然、がらりと引き戸が開き、そこには何とまぁ、姫さまが立っておられました。

「・・・姫さま!」

びっくりして思わず中腰になり、大きな声をあげてしまいました。

わたくしの驚きをよそに、姫さまは狭い局の中に入って来られ

「これ、あげるわ」

と手を差し出されました。

姫さまのお手の中には・・・・真っ赤な紅葉の葉が数枚、乗っておりました。

「姫さま、これは・・・」

「紅葉の葉よ」

「それはもちろんそうなのではございますが・・・」

「これでも綺麗なの探したのよ。他のは虫に喰われてたり、色がいまひとつだったり」

見ると、姫さまの袿の裾がすこぉし汚れております。

「久しぶりで楽しかったわ。早苗があんまりうるさく言うから途中で切り上げたけど」

そう言うと姫さまはひょいと肩をすくめ、わたくしの手に紅葉の葉を手渡してくださいました。

そうしてふいにそっぽを向かれたかと思いますと

「おまえはあたしの一等仲良しで大切な女房なんだからね」

とおっしゃるのでした。

「女同士じゃなきゃわかってもらえないこともあるし」

早口でそうおっしゃると、もう用は済んだとばかりに引き戸に手をかけ

「小萩。おやつ、お願いね」

手をひらひらとさせながら、さっさと歩かれて行かれてしまわれました。

夢かと見紛うばかりのあっと言う間の出来事でしたが、わたくしの手には紅葉の葉があり、夢ではなかったのでございましょう。

・・・・お庭に下りられたり、女房の局にふいに訪れたり、本当に姫さまはおよそ姫らしからぬ姫君で、その破天荒ぶりは今も健在で、本当に姫さまには困ったもので、本当に本当に・・・・

わたくしは、手の平の真っ赤な紅葉をじっと見つめました。

「姫さま・・・」

あたたかいものが胸に広がり、わたくしの頬を一筋の涙が流れたのでございます。







************************************************************






その夜、少将さまをお部屋にご案内しながら渡殿を歩いておりますと

「今日、瑠璃さんが庭に下りたと早苗から聞いたよ。まったく瑠璃さんは・・・。少し言っておかなければいけないね」

少将さまがわたくしに困ったようなお顔で話しかけてこられました。

そうして「もう北の方だと言うのに・・・」「誰かに姿を見られたらどうするんだ」などと呟かれるのでございます。

少将さまのご心配はもっともなのでございます。

ですが・・・

「・・・・少将さま。どうか姫さまをお叱りにならないで下さいませ。本日、姫さまがお庭に下りられたのは、小萩のせいなのでございますわ」

必死にそう申しますと、少将さまは不思議そうなお顔でわたくしをご覧になられましたものの、何も聞かずに

「・・・そうか。小萩がそう言うのならば・・・・何も知らない振りをしておくとするよ」

とおっしゃって下さいました。

もうひとつ角を曲がれば、姫さまのお部屋でございます。

渡殿には風が運んだのか、紅葉の葉が散りばめられており、それに気付いた少将さまが立ち止まられました。

釣られて立ち止まったわたくしは、屈んで紅葉の葉を手にしますと

「姫さまは・・・本当にお優しい方ですわ」

昼間の局での出来事を思い出し、思わず申し上げてしまいました。

少将さまがわたくしをご覧になられ、少しすると

「うん。瑠璃さんはいい人だ」

少し恥ずかし気に、でも大層嬉しそうに頷かれるのでございました。

少将さまは楓の木を探されるようにお顔をお上げになり、その横顔に、あの紅葉舞い散る秋の日、姫さまに見惚れたいらした童の頃の少将さまのお顔が重なり

「高彬さま。姫さまとのご結婚が叶われて、ほんにようございましたわね」

つい姉のような気持ちで、申し上げてしまったのです。

わたくしのような者が、身分もわきまえずに何と気安げなことを・・・と内心、慌てふためいておりますと、お怒こりになられるどころか、高彬さまは

「ありがとう」

と素直に頷かれたのでございます。

そうして

「小萩には、ぼくが瑠璃さんを好きなこと、ばれてたよね」

きまづそうに呟かれ

「きちんとお礼を言いたいと思ってたんだ。ぼくが瑠璃さんと結婚できたのは、小萩のお陰だよ。いろいろ良くしてもらったね。ありがとう」

それはそれはお心のこもったお声でおっしゃられました。

「・・・まぁ!・・・もったいないお言葉ですわ。少将さま・・・」

思いがけない少将さまのお言葉に、胸がいっぱいになり声が涙で潤んでしまいました。

そうして姫さまのお部屋の前まで来ますと、少将さまは妻戸にかけられた手を、ふとお止めになり

「明日は仕事が休みなんだ。だから・・・」

言いづらそうに口ごもられました。

「心得ておりますわ。お呼びがあるまで人払いしておきますので、どうかごゆるりとお寛ぎ遊ばされませ」

請けあいますと少将さまは、はにかんだように小さく笑われ、そのままお部屋に入って行かれました。

何事かを話されるお二人のお声が聞こえ、わたくしは一礼をし、その場を立ち去りました。

渡殿を進みながら、どうかいついつまでも姫さまと高彬さまが仲睦まじくお幸せであられますように・・・と願わずにはおられませんでした。

それにいたしましても・・・・

亡き母は生前「小萩にも、よき殿御が通ってくれますように」と、口ぐせのように申しておりまして、わたくしに琴や和歌、手習いや裁縫などを、きちんと教え込んでくれたものでした。

それらのことを一通りこなせるわたくしが、結婚どころか恋人もおらずに、琴はおろか手習いもお裁縫もお出来にならない姫さまが、少将さまと言うこの上ないお方を得られておりますのは、やはり人生の不思議と申しますか、人の世の縁の神秘なのでございましょうか。

わたくしも姫さまのように、お優しく、また自然体でのびのびと振舞っておれば、いつかは良縁が舞い込んでくるやも知れない・・・と思いつつ、ですが、いくら自然体でのびのびと申しましても、几帳を蹴飛ばしたり、碁石を投げつけるというのは、やはり、こればかりはちょっと・・・ねぇ・・・。






                 <終>






**************************************************************************





<おまけの話>








「あのぅ・・・小萩さん。姫さま、まだお目覚めにならないようなんですが・・・」

翌日、局でたまっていた縫い物などをしておりますと、早苗が開け放った引き戸の向こうから声をかけてまいりました。

気持ちの良い秋の空気を感じたく、また、姫さまのお部屋から見える紅葉には到底かないませんが、わたくしの局からも心ばかりの紅葉が見えますので、引き戸は開けてあったのでございます。

このようなささやかな人生の楽しみ方も、生前、父や母がわたくしに教えてくれたことでした。

「少将さまは今日はご出仕されないので、ごゆっくり休まれているのでしょう」

縫い物の手を止め早苗に答えますと

「はぁ・・・ですが、そろそろ朝餉をと、台盤所の者が・・・」

早苗は困ったように口ごもりました。

おそらく、台盤所の者から、催促の声がかかったのでしょう。

確かにすっかり日は高くなってきております。

「姫さまのところにはわたくしが行くから、おまえはもうお下がり」

そう言ってやりますと、早苗はホッとしたような顔をし、ふと、わたくしの手元を見ますと

「小萩さんって何でも出来るんですね。わたし、縫い物は苦手で・・・」

と上目遣いで、何やら物言いたげに言うのでした。

「何か縫い物があるのなら、あとで持ってらっしゃい」

言ってやりますと

「いいんですか?嬉しい!」

両手を打ちつけ、じゃ、あとで・・・などと言いながら下がっていきました。

やれやれ・・・。

下がっていく早苗の足音を聞きながら、わたくしは小さく息を吐きました。

微苦笑を誘われる、と言ったところでしょうか。

なんのかんのと言いましても、早苗は可愛い子です。

独身主義を通していた頃の姫さまの年頃だと思いますと、生意気なことを言いたてますのも、せんないことかと思われるのです。

ま、わたくしもついついムキになって言い返してしまうのですが・・・。

やりかけの縫い物を置き、わたくしは姫さまの部屋へと向かったのでございます。







**********************************************************





姫さまのお部屋の前で、わたくしは足を止めました。

姫さまお一人でお休みになられてるのでしたら、何の躊躇もなく部屋に入り几帳を回り込むところですが、今朝は少将さまがいらっしゃるのです。

まさか・・・・いえ、ご夫婦ですから何も悪いことなどではなく、至極当然のことなのではありますが・・・

まさかのもしも、いえ、もしものまさか・・・・の事態を考えますと、いくら女房とは言え、部屋に入っていくのはためらわれるのでございます。

そうかと言って、ずっとこうしていては埒があかないわけですし、わたくしは意を決してお部屋に入っていきました。

まずは部屋の隅に控え、耳をそばだてます。

何やら話し声が・・・・。

耳を澄ませてみますと、それはまぎれもなく姫さまのお声で「・・・雀の子が・・・」「罠をしかけて・・・」などとおっしゃっているようでした。

どうやら姫さまは雀の子を捕獲する話しを少将さまにしているようでございました。

姫さまの声に混ざって、時折り、低く笑われる少将さまのお声も聞こえてまいります。

考えていたような事態ではないことがわかり、ひとまず安堵のため息をつきました。

実は先日来、姫さまは庭にやってくる雀の子を捕まえることに夢中になっているのでございます。

この様子でしたらお声をおかけしても大丈夫だろうと思いまして、膝を進めお声をおかけしようと口を開きかけますと「小萩が・・・」と、ふいにわたくしの名前が聞こえてまいりました。

驚いて言葉を飲み込みますと

「小萩も、もういい年なのよねぇ。小萩って結婚する気あるのかしら」

なんとまぁ、今度はわたくしの結婚についての話をされているようなのでした。

ついついにじり寄って聞き耳を立てますと

「結婚ばかりは、年齢でするものではないからね。これぞという人がいなければ小萩だって結婚はしないだろう」

と、筋の通ったもっともなことをおっしゃる少将さまのお声がしました。

お2人とも普段よりも声がくぐもって聞こえますのは、やはり横になられながらのお語らいだからなのでございましょう。

ふと顔が赤らむ心地もしましたが、やはり話しの内容が気になってしまうのでした。

「高彬のとこに、誰かいい人いない?」

「いい人かぁ・・・。結婚してない者は大勢いるけど、いい人となるとなぁ」

「なによ、右大臣家の従者って、皆、性格悪いの?」

「いや、そういうわけじゃないけど。やたら気難しかったり、お調子者だったり・・・。悪い奴らじゃないんだけど。年の釣り合いだけで言ったら、あいつかなぁ・・」

「どんな人?」

「・・・気難しいやつの方なんだけど」

「気難しいのはダメ。結婚したら妻は大変よ。・・・大らかで優しくて面白くて、小萩だけを大事にしてくれるような人でなきゃ。小萩は早くに両親を亡くしてるから、父親のような包容力もなきゃダメね」

「包容力か・・・。難しいな」

少将さまが困ったように返事をされ、考え込まれているようでございました。

ほんに少将さまのおっしゃる通りでございます。

一体そんな殿方がいるのかいないのか、また、もしいたとして、この小萩を気に入ってくれますかどうか・・・。

「とにかく小萩には幸せになってもらわなきゃ。変なのに捕まる前に、あたしがいい人を探してあげられたらいいんだけど」

「あんまり瑠璃さんが口うるさく言うと、かえって小萩の結婚が遠のくと思うけど」

「まぁ、それはそうだけど。・・・父さまにも聞いてみようかしら。荘園を管理してる受領にも裕福なのはたくさんいるもの。でも、小萩に地方に行かれても寂しいし、京に住んでる六位くらいの堅実な役人あたりなら・・・」

このままでは、この場でわたくしの結婚相手が決まってしまいそうな気配でございます。

部屋の隅に戻りまして、わたくしは咳払いなどいたしました。

「小萩」

すぐに気付かれた姫さまが、ひょいと几帳から顔を出されました。

「いたの」

「今、参ったのですわ。何やらお話声が聞こえましたので、もうお起きになられてるのだと思いまして」

伏し目がちに申しますと、何も疑わないのか、姫さまは少将さまと揃って几帳を回ってこられました。

「すっかり遅くなってしまったね」

「たまにはのんびりしなきゃ。いつも忙しいだもの」

少将さまがすまなそうにわたくしにおっしゃるのを、姫さまは笑ってさえぎり、わたくしも深く頷いたのでございます。

すっかり身支度を整えられたお二人は、庭の紅葉が良く見える特等席に並んでお座りになり、こうして見ると、本当にお似合いの仲睦まじいご夫婦なのでした。

お二人とも、先ほどまでわたくしの結婚話をしていたことなどおくびにも出さず、ふとそれが何やらおかしくてならず

「少将さま。姫さまは昨日「結婚ってどんなものですか?」と聞いたわたくしに『こういうきれいな紅葉を見ると、見せてあげたくなるような感じだ』とおっしゃったのでございますのよ」

ついつい、少将さまに話してしまったのでございます。

「小萩!」

ふいをつかれたかのように姫さまが赤くなられ、少将さまは「へぇ」と目を見開いて姫さまをご覧になられました。

「それは嬉しいな」

にっこりとおっしゃる少将さまに、姫さまはむぅぅとした顔で黙り込まれ、そのままのお顔で「もうっ!」とわたくしを睨むのでございました。

やはり姫さまは、お優しいくせに、でもどこか不器用な、可愛いお姫さまなのでございます。

「そういえば、ぼくも同じように思ったことがあったな」

ふいに少将さまが口を開かれ

「でも、ぼくは美味しい団喜を食べた時だったけどね。あぁ、これを瑠璃さんにも食べさせてあげたいなって」

笑いながらおっしゃられ

「あたしがひどい食いしん坊みたいに聞こえるわ」

ますます姫さまはむくれられ、そういう姫さまを少将さまは可愛くてしょうがないと言った風情で眺められているのでした。

「・・・・朝餉の準備をして参りますわ」

一礼して立ち上がり、わたくしは御前を失礼いたしました。







***************************************************************






渡殿を台盤所へと向かいながら、ふと顔を上げますと、気のせいか昨日よりも一段と色づいたように見えるもみじ葉が庭を覆い、時折り吹く風に、その葉を舞わせているのでした。

秋の深まりにつれ、その色を変え、時満ちて色づいた葉が自然に落ちるように、いつかわたくしも、どなたかの殿方の色に染められ、そして、その方の掌中にはらはらと舞い落ちて行くのでしょうか。

そんな日が早く来て欲しいような、もう少し今のままでもいいような、ふと、我が身の行く末に思いを馳せる、うららかな秋の日なのでございました・・・。








          <おしまい>





小萩、大好きです。

「小萩」に投票して下さった方々、ありがとうございました。





(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

非公開さま

コメントありがとうございます。
「はじめまして」の方にはすぐには配布をしておりませんので、またコメントなどいただけたらと思います。
パスワードの配布にはいくつかの条件がありますので、もし知りたいようでしたらご連絡をお願いします。

cookiemomさま

> 小萩の視点から語らせると、王朝絵巻みたいな二人になるのがすっごく素敵ですね!

いつも本人視線なのでそうとはわかりにくいのですが(笑)あの二人はしっかり王朝絵巻してるんだと思います!

> 最高に萌えさせてくださって、ありがとうございました。

いえいえ、萌えていただきこちらこそありがとうございます。

> 吉野とかでもけっこう尻に敷いて仲良くやってましたし、いけるかな、って思います^^

次回、その辺りを考察しますので、また読んでくださいね~。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

すごい

小萩の視点から語らせると、王朝絵巻みたいな二人になるのがすっごく素敵ですね!
高彬が、低く笑われる少将様が…!あなたは夕霧(若い時の)か薫ですか!
ほぅ…っとうっとりため息が出ました。
最高に萌えさせてくださって、ありがとうございました。

小萩は気難しいやつの方とうまくいってほしいです。
吉野とかでもけっこう尻に敷いて仲良くやってましたし、いけるかな、って思います^^

非公開さま

小萩と瑠璃の絆はものすごく強そうですよね。
瑠璃も、ちゃんと小萩を労ったり気にかけたり・・・。
高彬と瑠璃のツーショットを一番見てるのは、小萩ですしね!
コメントありがとうございました。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ヨッシーさま

> 姫離れできない小萩に納得ですね。あれほど振り回されたら心配しちゃうしね。

ほんと、小萩あっての瑠璃ですよね。良い女房です。
ぜひぜひ小萩には幸せになってもらいたいです!

非公開さま

まさしく私もそう思うんです!まったく同じ印象を持っています。
未知数ですよね。彼は。
次回、そこら辺の考察をしたいと思っていますので、また読んでくださいね~。

うどんさま

> まさかのもしも、もしものまさか。

小萩もドキドキだったんでしょうね。まさか、もしも・・・と(笑)

> おまけがあって、嬉しかったです。

楽しんでいただけて私も嬉しいです。

かいちゃんさま

> 小萩が男でなくて良かったね、高彬(*^3^)/~☆

確かに!
あと、もし男だったら強力なライバルになっていたのは煌姫でしょうね(笑)

ラムティさま

> 小萩視点でもやっぱり瑠璃×高彬はラブラブですね~
> 第三者からみる二人もいいですね♪

そうですよね♪
第三者から見る二人と言うのは、原作にないシーンなので、書いてて妄想炸裂ですよ(笑)

> 高彬が小萩に...と想像したのは『若君命』の方でしょうか?(笑)

気難しいと言ったらやはり・・・ねぇ(笑)

No title

姫離れできない小萩に納得ですね。あれほど振り回されたら心配しちゃうしね。小萩には、幸せになって欲しいです。その前に、瑠璃さんが、落ち着かないとね。小萩の幸せが逃げちゃいそう。良い男を紹介してあげてね。小萩と瑠璃さんとの関係が大好きです。小萩の相手は、守弥ですかね?

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

まさかのもしも、もしものまさか。
ふふふ、笑っちゃいました。
おまけがあって、嬉しかったです。

No title

いいなぁ(〃∇〃)小萩のような女房がほしいです(〃∇〃)お茶目で頼りになる姉のような存在(〃∇〃)高彬と瑠璃さんの結婚の立役者は小萩なんですね(*^3^)/~☆でも瑠璃さんの事を思ってるのは小萩も高彬も同格かも(*^^*)小萩が男でなくて良かったね、高彬(*^3^)/~☆

おまけのお話、ありがとうございます(笑)らぶらぶ万歳サークルで拝見してとってもお気に入りの作品だったのでこちらでのupと更にはおまけ付きで嬉しいです。

小萩視点でもやっぱり瑠璃×高彬はラブラブですね~
第三者からみる二人もいいですね♪

小萩にも幸せが訪れますように...。

高彬が小萩に...と想像したのは『若君命』の方でしょうか?(笑)
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

にほんブログ村

ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
月別アーカイブ