***短編*** ある夏の日に ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




        注)このお話は一話完結です。

        『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
        今回のお題は「氷」でした。







***短編*** ある夏の日に ***










風がそよとも吹かない真夏の昼下がり。

こうして脇息に寄りかかっているだけでも、汗が噴き出してくる。

「あーあ、高彬、早く来ないかしら」

少しでも風を感じようと、単の合わせを緩めながらつぶやくと

「まぁ、姫さまったら。珍しく素直なお気持ちをおっしゃったりして。ふふふ。少将さまはじきにお越しになられますわ」

小萩は袖で口元を隠しながら、にんまりと笑った。

「・・・・・・」

・・・・この子はねぇ、また勘違いしてるわけよ。

なにかっちゃ、あたしが高彬に<ご執心>とこじつけるところが、小萩の想像力の限界ね。

夫婦の仲って<ご執心>だけじゃ持たないってことがわかってない。

そりゃ、もちろん高彬のことは変わらず好きだし、会えれば嬉しいけど、そんな毎回毎回、ドキドキなんかしてられないわよ。

恋人になってすぐの頃ならともかく、こうして夫婦になって一年も経つんだしさ。

ドキドキなんかしない、だけど、それを超えたところにも恋はある・・・なんて言っても独り者の小萩にはわからないのかも知れないけど。

それを言ったら小萩はやっぱり嫌だろうから、あたしも敢えては言わないけどさ。

小萩の横顔を盗み見ながら、そんなことを考えていると、ふと、少し離れたところに控えている早苗と鈴鹿、2人の女房が目に入った。

目配せしたり、肘で突つきあったりして・・・・まぁ、楽しそうと言うか、落ち着きがないと言うのか。

ぼんやりと2人を見てると、あたしの視線の先に気付いたのか、小萩が

「まぁ、2人とも、静かになさい。姫さまの御前ですよ」

先輩女房らしくたしなめた。

あたしは別に何とも思ってないんだけど、確かに主人の前で取るべき態度ではないので、ここは口をはさむところじゃないと判断して静観することにした。

「2人とも局に下がってなさい」

小萩はどこまでも威厳を保ちつつ言うと、早苗と鈴鹿は静かに下がっていった。

すっかり2人の姿が見えなくなったところで

「全く困ったものですわ」

小萩は大げさにため息をついて見せた。

「何かあったの」

「いえ・・・そういうわけではいのですが・・・」

小萩は言葉を濁してから、思い切ったように

「実は・・・2人は、今日、少将さまがお見えになるのを待ち望んでおるのですわ」

「へぇ・・・」

2人がねぇ。高彬ってそんなに人気あったっけ?

そう思ったことが顔に出たのか

「いえ、実は・・・申し上げにくいことなのですが・・・2人の魂胆はこうなのですわ。少将さまの目に留まり、それで、あわよくばどなたか殿方を紹介してもらいたいと・・・そんなことを考えているようなのですわ」

「ふぅん・・・殿方ねぇ。高彬の仕事仲間とか、右大臣家の従者とか・・・そういうこと?」

「えぇ」

なるほどねぇ。そういうことが気になるお年頃ってわけね。

だけど、あの堅物の我が夫が、そんなことに気が回るとは思えないけど。

それに、殿方を紹介って言ったら、まずは小萩に、と思うんだけど。

たまには真面目に小萩の結婚観でも聞いてみようかしら・・・などと考えていたら、ふと、東門あたりのざわめきが聞こえてきた。

「あら、少将さまがお着きのようですわね」

顔をあげた小萩がするすると下がっていき、ほどなくして、女房に先導された高彬その人が現われた。










***************************************************









夏らしい涼しげな二藍の直衣に身を包んだ高彬からは、これまた夏らしいさわやかな匂いが漂っていて、軽く目配せをしながら円座に座る高彬を、あたしはちょっとだけ見惚れてしまった。

結婚して一年。

思えば、高彬もずいぶんと大人びてきたような気がするわね。

すんなりと細身の身体は相変わらずなんだけど、でも、少しだけがっちりしてきたって言うかさ。

肩のあたりとか手とかが、前よりも少し骨太になってきたような、気がする。

気のせいかしら?

「どうしたのさ、瑠璃さん。黙り込んじゃって」

「あ、ううん。何でもないわ」

何となく顔の赤らむ思いがして、あたしは笑ってごまかした。

「わかった。お待ちかねのものが遅くなってムクれてるんだろ」

「そんなんじゃないわよ。童じゃあるまいし」

ムキになって言うと、高彬は小さく笑い扇を鳴らした。

その音が合図だったように、部屋の中に女房が現われ、その手には盆に置かれた氷の花がある。

氷の花のあまりの美しさに言葉も出ず、知らずに目が吸い寄せられてしまう。

そう。

今日、あたしが高彬を心待ちにしていた理由は、何を隠そう『氷の花』なのだ。

数日前、高彬が宮中から持ち帰ってくると聞いてから、あたしはすごく楽しみにしていた。

いくらあたしが名門の姫と言っても、滅多に見れない貴重なもので、氷の花を見たのは数えるほどしかない。

部屋の真ん中に置かれた氷の花は、夏の明るい室内でキラキラと輝き、その回りだけ凛とした冷気を放っている。

「きれいねぇ・・・」

ため息と共に言うと、高彬も黙って頷いた。

ふと気が付くと、さっき下がったばかりの早苗と鈴鹿も控えており、どうやら小萩が呼んでやったみたいだった。

きつく叱ることはあっても、こうやって気にかけてやるんだから、ほんと、小萩は良い先輩だわ。

小萩も早苗たちも、一様に氷の花から目を離せずにいるみたいで、凝視と言って良いほどに見入っている。

もちろん向かいに座る高彬もそうで、ずっと氷の花を見つめている。

そんな様子に気付いたら、なんだか落ち着かない気分になってしまった。

なんとなくもぞもぞと身体を動かしたら、目ざとく気付いた高彬が「なに?」と目で聞いてきた。

ううん、何でもない・・と頭を振ってみたものの、さらに高彬に顔をのぞき込まれて

「・・・花の気持ちに・・・・なってたのよ。皆にじっと見られて恥ずかしくないのかなって」

あたしは囁き声で言った。

一瞬、きょとんとした高彬は、目だけで辺りを見渡すと、納得したように

「確かにね」

笑いながら頷いた。

そうして、ふと思いついたように

「そうだ、瑠璃さん。勝負しようよ」

「勝負?何の」

「じっと見られて、どっちが長く黙って我慢できるかの勝負」

「なぁに、それ。いやよ」

「さては自信がないんだな」

「そんなんじゃないわよ」

「じゃあ、やろう」

「いいわよ。望むところよ。ただし、負けた方は罰ゲームね」

「望むところだ」

あーあ、なんでこんなことになったんだか。

負けず嫌いの、この性格が恨めしいわ。

「じゃあ、ぼくから」

さすが、言い出しただけあって自信でもあるのか、高彬はすっかりやる気になっているようで、一番手に名乗り出た。

「待って」

すぐにも始めそうな高彬を制し、小萩たちを近くに呼び寄せる。

側に控えて事情は飲み込めていたから、面白そうに膝を進めてきた。

三人が高彬を取り囲むように座ったのを確認して

「いいわよ。どうぞ」

促すと、高彬は軽く息を吐き、すっと背筋を伸ばした。

正面からはあたしに、少し離れた横からは小萩たちにじっと見られているというのに、高彬は微動だにしない。

目が合っているようにも思うんだけど、でも、それさえも確信が持てないほど、高彬の顔は見事なまでのポーカーフェイスだ。

やっぱり宮廷で鍛えられているのかしら。

どれくらいの時間がたったのか、いつまでも表情ひとつ動かさない高彬に観念したあたしは、肩をすくめ扇を鳴らした。

「お見事、ね。普段から、複数の女房に見つめられることにでも慣れているのかしら?」

悔し紛れに、イヤミったらしく言ってやったのに

「さぁ、次は瑠璃さんだ」

気にする風もなく、高彬は笑って見せた。

小萩たちも気持ち、身体の向きを変えて、あたしに向き直る。

あたしは大きく息を吐くと、居住まいを正した。

四人の視線があたしに集中する。

高彬や、女房たちに見られることくらい何てことない・・・はずなんだけど、どうにも落ち着かない。

高彬と目が合わないように庭の木に目をやり、全く関係ないことを考える。

えーと、昨晩の夕餉は・・・たしか・・・

ふと気が付くと、いつの間にか近づいてきたのか、高彬がすぐ側に来ていて、至近距離であたしを見つめているではないの!

「ちょっと!」

あまりの近さに思わず手で押しやり

「ずるい。反則よ。高彬の負けね」

抗議すると

「見る方の人は動いちゃ駄目なんて決めてなかったじゃないか」

高彬も反論してきた。

「じゃあ、いいわよ。今のはナシでもう一度。ここから近寄っちゃだめよ」

ここから、と言いながら床に線を引くと、高彬は頷いた。

もう一度、庭に目を移し、意識を他に集中していると、今度は高彬は身を乗り出して、あたしの頬に息を吹きかけてきた。

「ひゃっ」

思わず頓狂な声が出て、あたしは身体をくずしてしまう。

「声を上げたし動いたから瑠璃さんの負けだね」

しれっと言う高彬に、あたしは猛然と抗議した。

確かに、線はまたいでないけど、これは明らかに反則よ!

「ずるいわ!息を吹きかけるなんて。動いちゃうに決まってるじゃない」

「息を吹きかけちゃいけないなんて、ルール決めてなかっただろ」

しらばっくれて言うのも憎たらしくて

「ねぇ、小萩はどう思う?ずるしたんだから、高彬の負けだと思わない?」

小萩に意見を求めると

「えぇ・・・やはり、近づいたり息を吹きかけるのは、不意打ちと申しますか・・・これで姫さまを負けとするのは、少しばかり姫さまに酷ではないかと・・・・」

高彬をちらちらと見ながら、小萩はおずおずと言った。

我が意を得たり、と胸を張ると

「おまえたちはどう思う?」

高彬が早苗たちを振り返り、二人に聞いた。

突然に話を振られた二人は真っ赤になり、口ごもりながらも

「あ、あの・・・わたくしはやはり、動かれなかった少将さまが勝ちではないかと・・・」

「え、えぇ、わたくしも・・・」

高彬は満足そうに頷き

「どうやら勝敗は決まったみたいだね」

にっこりと笑いかけてきた。

くっそー、早苗と鈴鹿め。

女主人よりも「殿方を紹介してもらえるツテ」を取ったわね。

こうなったら、絶対、あの子たちより早くに小萩に良い人を紹介してあげるんだから。

「罰ゲームは瑠璃さんだね」

笑いを含んだ高彬の声に、あたしはそっぽを向き

「罰ゲームは何よ。やるから言いなさいよ」

ムッとして答えると、高彬は少し近づいてきて

「そんなに難しいことじゃないさ。今と同じ、瑠璃さんは動かずにじっとしているだけだから」

「へ?そんなこと?」

罰ゲームと言うから、もっと大変なことを想像していたあたしは拍子抜けしていると、高彬は更に近づき

「ただし・・・夜にね」

耳元で囁いた。

「・・・!」

その思わせぶりな言い方にぎょっとして高彬の顔を見ると、高彬はまたしてもポーカーフェイスを決め込んで、あたしにだけ見えるように片眉を上げて見せた・・・。






**************************************************************







長かった夏の夕刻が過ぎ、とっぷりと陽も暮れた頃、女房たちが下がった二人きりの部屋で高彬考案の罰ゲームが始まった。

その罰ゲームであたしは・・・・

昼間よりも気温が下がった室内、入り込む夜風の涼しさを肌に感じながら、あたしはそれこそ、見る見る溶けて行く氷のように、しとどに汗を流すことになったのでは、あった。







  <終>
(←お礼画像&SS付きです)

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