***高彬のジャパネスク・クライシス の巻***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



        注)このお話は番外編ですので1話完結です。
           
          以前のお話と合わせてお読みいただくと、よりわかりやすいと思います。
          カテゴリー「二次小説」よりお入りください。
          

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*** 高彬のジャパネスク・クライシス の巻 ***




「若君、兵部卿宮の二の姫に文など書かれてみたらいかがですか?」

脇息に寄りかかりぼんやりとしていたら、ふいに守弥に声をかけられた。

「二の姫に?」

「はい。二の姫は大層お美しい姫だともっぱらの評判でございます。今、京中の公達がこぞって名乗りをあげているそうですよ」

「ぼくなどとても相手にしてもらえないよ」

肩をすくめて言うと

「何をおっしゃいますか、若君。若君のお家柄、ご才能、ご性格、そのどれをとっても、どの公達よりも立ち勝っておいでです。若君から文が届けば、きっと二の姫もお喜びになると思いますが」

守弥は熱心に言う。

「守弥はぼくを買いかぶり過ぎだよ」

ぼくはそっぽを向いた。

守弥の魂胆はわかっている。守弥はぼくと二の姫を結婚させたいんだ。

二の姫は宮中でも何かと話題に上る姫で、今、若い公達の間では「二の姫争奪戦」が繰り広げられている。

なぜかと言うと、二の姫は歌や琴、書も人並み以上に優れている上に、大変お美しい方らしく、さらには家柄が良く血筋も尊いので、一言で言えば絵に描いたような深窓の姫君だからだ。

守弥から見たら、二の姫はぼくの妻として理想の姫であるのだろう、と思う。

だから「文を書け」と勧めているのだ。

言い方は穏やかだが、押し付けがましいんだよな。

ぼくは今は結婚する気なんかないし、もし結婚するんなら・・・

と考えて、ぼくは小さくため息をついた。

ぼくには、幼い頃に結婚を約束した姫がいる。

ぼくが9歳、姫が10歳の時だ。家柄も釣り合うし、年齢だって、まぁ釣り合うと言えるだろう。

何の問題もないのだが、ただひとつ大きな問題がある。

結婚の約束をしたことを、姫がすっかり忘れているらしい、と言うことだ。

その姫とは、瑠璃さんなのだが、最近では会うと必ず険悪な雰囲気になってしまう。

瑠璃さんはすぐに「初恋の吉野君」を引き合いに出すし、それよりも何よりもぼくがいやなのは、何かと言うとぼくを年下の子ども扱いにすることなのだ。

融の話によると、最近、瑠璃さんは、お父上の大納言さまに結婚を熱心に勧められているらしく、結婚するくらいなら尼になってやる!と毎日、怒鳴り返しているらしい。

瑠璃さんなら、ほっとくと本当に尼になりそうで怖いんだよなぁ。

瑠璃さんが尼になったら、相当、騒々しい尼になりそうだな・・・。

瑠璃さんとは童の頃からよく遊んでたけど、その頃から元気いっぱいな人だった。

木登りなんて当たり前、邸中を縦横無尽に走り回り、大きな声でよく話し、カラカラと良く笑う。

怒ると手が出るし、機嫌が良くても手が出る。

負けず嫌いで口は悪いし、思い通りにならないと地団太を踏んで悔しがる。感情的なのだ。

でも、瑠璃さんはとても繊細な一面があることをぼくは知っている。

いつだったか、融と庭で遊んでいたら、犬の仔が迷い込んできたことがあった。

あんまり可愛いので抱き上げて、瑠璃さんに見せに行くことにした。

階から上って部屋に入ると、案の定、瑠璃さんは目を輝かせて両手で犬の仔を受け取った。

「可愛いいねぇ」

言いながら、何度も何度も頭をなぜ、女房に言いつけて犬の仔のおやつを持ってこさせた。

ぼくたち3人は、おやつを食べる犬の仔を囲み、思い思いの呼び名を呼んでは笑っていた。

その日はずっと犬の仔と遊び、遊びつかれた犬の仔が瑠璃さんの膝の上で寝てしまった。

瑠璃さんは黙って犬の仔の頭をなぜていたが、なぜだかそんな瑠璃さんは寂しそうに見えた。

「大納言さまにお願いして、飼ったら?」

きっと、瑠璃さんは犬の仔と別れるのが寂しいのだろうと思ってぼくはそう言ってみた。

「いやよ」

思いがけない返事だった。

「あんた、知らないの。犬はね、人間より先に死んじゃうんだよ。瑠璃はもう、好きな人が死ぬのを見たくないの」

そういう瑠璃さんは、泣いてはいなかったが、目が少しだけ赤かった。

感情的な瑠璃さんが泣かずにつぶやくのが、かえって瑠璃さんの心の痛みの大きさを物語っているように思えた。

瑠璃さんは少し前まで吉野で暮らしていて、大好きな人が立て続けに亡くなってしまっていたのだ。

京に戻ったばかりの頃、瑠璃さんは泣いてばかりいたが、最近ではあまり泣かなくなっていたから、ぼくもホッとしていたのだが。

瑠璃さんの横顔は寂しそうで、ぼくは思わず声をかけていた。

「瑠璃さん、ぼくはどこにも行かないよ。ぼくは瑠璃さんのそばにずっといるから」

勢いこんで言うと、瑠璃さんはぼくを見た。しばらく黙ったままだったが

「本当に?どこにも行かない?先に死んだりしない?」

「しないよ。瑠璃さんを1人にはしないよ。ずっと一緒にいるよ」

「お約束よ。瑠璃をおいて・・・どこにも行ったりしないでね」

そう言う瑠璃さんの目から、涙があふれたんだ・・・・

あれは一世一代のプロポーズ、のはずだったんだが。いやはや・・・。





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三条邸に向かう牛車の中で、ぼくはまたしてもため息をついていた。

もうじき大納言さま主催の「管弦の宴」が催されるのだが、正直、気が重い。

なぜなら、その宴は瑠璃さんと権少将どのを引き合わせるために開かれるものだからだ。

知らないのは瑠璃さん本人と、こういうことに疎い融くらいだろう。

なかなか結婚しようとしない瑠璃さんに業を煮やして・・・ということだろうが、なぜ大納言さまはよりにもよって権少将どのなどを瑠璃さんの婿にと思われたのだろうか。

権少将どのは最近、左馬頭どのの北の方に手を出し、それがばれて左馬頭どのとはなばなしい立ち回りを演じられたばかり。

大納言さまはご存知でないのかも知れないが。

しかも権少将どのは、こう言ってはなんだか、出世欲が異様にお強くて公達仲間からもあまり評判の良い方ではない。

ぼくの睨むところ、権少将どのがこの話に乗り気なのは、瑠璃さんが好きだからではなくて、瑠璃さんの家柄に目がくらんでいるからに違いないのだ。

でも、大納言さまが瑠璃さんに結婚を勧める気持ちもわからなくはないし、案外、貴族の姫なんていうのは本人の意思よりも周りの思惑で結婚が決まってしまう場合も多い。

まさかとは思うが、このまま瑠璃さんが権少将どのと結婚することになったら・・・・

憂鬱な気持ちであれこれ考えていると、やがて車は三条邸の門をくぐった。

牛車が車宿りに付けられ、ぼくは車を降りた。

顔見知りの融付きの女房の先導で、ぼくは融の部屋に案内された。

「やぁ、高彬」

部屋に入っていくと、くつろいだ狩衣姿の融が笑顔で出迎えてくれた。

融とは物心付く前からの幼友達で親友である。

ぼくには兄上や姉上がたくさんいるのだが、小さい頃から遊んでもらったという記憶がない。

それは貴族の家では珍しいことではなく、だからかえって融のことの方が本当の兄弟のように近しく感じてしまっても無理はないのだ。

「なんだか元気がないな、高彬」

心配そうに聞かれて、ぼくは少しあせった。融には瑠璃さんへの気持ちは言っていないのだ。

「そんなことないよ」

円座に腰を下ろしながら答えると、遠くの方で

「結婚する気なんかないわよっ」

と言う怒鳴り声がかすかに聞こえた。

びっくりして顔を上げると、融がクスクスと笑い出した。

「姉さんの声だよ。また父さまが結婚しろって言いに行ってるんだよ。最近、毎日だぜ。2人とも一歩も引かないんだ」

面白そうに言うが、ぼくは気が気ではなかった。

それにしても、瑠璃さんのいる東の対屋から、ここ西の対屋までは母屋をはさんでかなりの距離がある。なのに声が届くなんて、さすがは瑠璃さんだ。

童の頃ならともなく、宮廷に出仕するようになってから、ぼくは瑠璃さんがかなり変わった姫だということがわかってきた。

大声を出したり、平気で顔をさらす姫というのは、現代の常識ではありえない。

変わった姫だとわかったからって、では嫌いになるかと言うとそうではなく、それどころか、そんな瑠璃さんだからこそぼくは惹かれているような気もするのだ。

言質をとられないように、皆がはっきりとしたことを言わない宮廷で過ごしていると、ポンポンと本音を言う瑠璃さんの言葉が小気味良い。

裏心なく何でも言ってくれるから、だから瑠璃さんは信用できる、と思えるのだ。

だが、間違いなく守弥は瑠璃さんを嫌がるに違いない。

あいつは二言目には「若君の御ために」とか言って、最善の方法を取ろうとする。

だけど、それは守弥の考える最善であって、ぼくにとっての最善ではないんだよなぁ。

悪いやつではないのだが、正直、うっとうしい。まるで口うるさい母上が2人いるような気分だ。

「高彬、姉さんのとこ、行ってみないか」

融に促されて、ぼくは立ち上がった。




           *****************************************************




「姉さん、いる?」

融は気軽に瑠璃さんの部屋に入っていった。

貴族ともなると、家族とはいえ先触れをやるのが普通なのだが、この三条邸ではそういった堅苦しいことはやらないらしい。

大納言さまのお人柄だと思うのだが、全体的に大らかと言うかのびのびとしたムードが漂っている。

そこが、ぼくの家とは違うところだ。

「また父さまと喧嘩したんだね。ぼくの部屋にまで声が聞こえてたよ」

融が言うと、瑠璃さんは首をすくめながら御簾の中に入っていった。

「次から次へと良く話を持ってくるわよ。今日のなんか38歳の権中納言よ。冗談じゃない」

38歳!ぼくはぎょっとした。権少将どのもいやだが、瑠璃さんが38歳の男の妻になるなど、もっといやだ。

大納言さまも本当に必死なんだ。ぼくもうかうかしていられない。

本気で何か行動に移さなければ、このままでは瑠璃さんを誰かに取られてしまう。

「あたしが結婚しない理由は、そりゃ吉野君のこともあるけど、でもそれだけじゃないわ。父さまは浮気を繰り返すし、男なんてみんなそうじゃない。どうして女ばっかり我慢しなきゃならないのよっ」

瑠璃さんは興奮冷めやらぬ感じで、融に当り散らしている。

「しょうがないだろ、姉さん。世間じゃみんなそうなんだから」

融がのんびり言うと、瑠璃さんは大げさにため息をついた。

「融、あんたみたいなのが、将来、女を泣かすのよ。吉野君はそんなことおっしゃらなかったわ」

吉野君、と言ったとたんに、瑠璃さんの声が和らいだ。

ぼくはむやみに腹がたって

「10か11の童が、男の浮気は当然、なんて言うほうがおかしいでしょう、瑠璃さん」

自分でもびっくりするくらいに冷たい声で言っていた。

瑠璃さんはムッとしたように一瞬黙り込んだかと思うと

「あたしはね、人間の品性が違うと言いたいのよ。吉野君は・・・」

「もういいよ、瑠璃さんは何かと言うとすぐ吉野君だ。死んだ相手と比べられたってどうしようもないよ」

「あんたと吉野君じゃ比べものにならないわ」

こうなると、売り言葉に買い言葉だ。

こんなことを話したいわけではないのに、どうしていつもこうなってしまうのだろう。

これじゃ、思いを伝えるどころじゃない。

ぼくが焦りとも後悔とも言えない思いをかみしめていると、険悪な雰囲気を察した融が

「高彬、そろそろ部屋に戻ろう。姉さん、これで失礼させてもらうよ。高彬はこれから管弦の宴で弾く琵琶の練習をやるんだ」

そそくさと立ち上がった。

ぼくものろのろと立ち上りかけると、御簾の中から瑠璃さんのとげのある声がした。

「せいぜい頑張って練習してちょうだい。高彬には琵琶ぐらいしか取柄がないんだから」

「瑠璃さんも、少しは筝の琴をやったほうがいいよ。琴も満足に弾けない姫じゃ、結婚なんてしたくても出来ないよ」

ぼくも負けじと精一杯の皮肉を言うと、御簾の中で瑠璃さんが立ち上がる気配がした。

歩き出すと、後ろで瑠璃さんの怒鳴り声がしたけれど、ぼくは聞きたくなくて、捨てばちな気分でわざと大声で笑った。



     
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融の部屋の戻り、琵琶を手に取っては見たものの、気分は最悪だった。

なんでこうなってしまうんだ。

宮廷でだったら、どんな嫌味や当てこすりも軽くかわせるのに、どうして瑠璃さんには食ってかかってしまうんだろう。

「なんだよ、高彬。顔色が悪いみたいだよ。やっぱり具合でも悪いじゃないの」

融が聞いてきたが、実際、本当に具合でも悪くなりそうなくらい、ぼくは落ち込んでいた。

このまま管弦の宴を迎えるのはいやだ。

せめて、瑠璃さんに権少将どののことを伝えておきたい。そうすれば瑠璃さんも少しは警戒するだろう。

融には適当な理由を言って部屋を出て、瑠璃さんのいる東の対屋に向かった。

渡殿を過ぎたあたりから、瑠璃さんの声が聞こえてきた。

「憎ったらしいったらありゃしない!な〜にが『結婚したくても出来ないよ』だっ。誰が結婚なんかするもんかっ」

何かをバンバンと叩く音がする。

「ついこの間まで、鼻垂らしてビービー泣いてたくせに!」

今度はドンっと何かが倒れる音がする。

「あたしよりひとつ年下のガキのくせに!」

バラバラッと何かが壁に当たる音がしたところを見ると、おそらく碁石でも投げたんだろう。

今、顔を出したら、確実に張り手の一発や二発は飛んできそうだ。

さすがに身の危険を感じて、ぼくは立ち止まった。

・・・出直そう。また歯でも折られたらたまらない。

威勢のよさは相変わらずで、ぼくのことを散々に悪く言っているのだけど、不思議と腹が立たない。

なんとも瑠璃さんらしくて、微苦笑を誘われる・・・という感じだ。

だけど。

鼻垂らしてビービー泣いてた、なんて、これじゃ結婚どころか、一人前の公達としてだって見てもらえてない証拠じゃないか。

大納言さまはどんどん縁談を持ってくるし、融に相談したって無駄だろう。

守弥なんて絶対に反対するに決まってる。

第一、瑠璃さんがあの約束を思い出す気配もない。

こんなんで、どうやって結婚までこぎつけられると言うんだ。

ぼくの人生、始まって以来の最大の危機だぞ。

渡殿にたたずみながら、ぼくは今日3回目の深いため息をついたのだった。





               <終>



〜あとがき〜

「管弦の宴」の前の高彬です。

この頃の高彬は、絶対に心中は穏やかじゃなかったはず!

『どうして瑠璃さんには食ってかかってしまうんだろう』

それが恋というものなんだよ、高彬・・・(笑)

片思いしてる頃の高彬って、ほんと、可愛いですね。

読んでいただきありがとうございました。
   

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