***短編*** <続> on a rainy day ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






             注)このお話は一話完結です。
               
        






***短編*** <続> on a rainy day ***







「こんな感じで・・・・いいのかしら?」

まだ少し火照りの残ったような顔の瑠璃さんが、ぼくを見上げ、曖昧な声で聞いてきた。

「うん。大丈夫、だと思う」

自分の着衣を確認して、ぼくは瑠璃さんに笑いかけた。

「脱ぐのは簡単なんだけどなぁ」

呟くと、瑠璃さんは一瞬ぽかんとし、次いでじろりとぼくを睨み付け

「高彬のせいでしょ」

つんと顔をそむけて見せた。

今の今まで、ぼくたちは直衣の着付けに奮闘していたのだ。

なぜ、直衣の着付けに奮闘していたかと言うと、それは直衣を脱いだからで、ではなぜ脱いだのかと言うと、それはつまり・・・その・・・そういうわけだ。

小萩に着付けを頼もうかと提案したら、瑠璃さんが猛反対をしたので、ふたりして、ああでもない、こうでもないと奮闘し、なんとか体裁を整えることができた。

着付けができないからと言って、ぼくらが特別に不器用だとか、そういうわけではない。

ぼくたちみたいな身分だと、着付けは家の者がやっているから、普通はできなくて当たり前なのだ。

冠を正し、すっかり身なりを整えたぼくは、瑠璃さんを引き寄せた。

「ちょ、ちょっと!」

慌てふためく瑠璃さんをよそに、唇に触れようとすると

「もうっ!高彬ったら!仕事!車!」

瑠璃さんは身をよじってかわそうとした。

構わず抱き寄せて、最後とばかりに存分に唇を味わって離すと、瑠璃さんは薄暗い部屋の中でもはっきりとわかるほどに顔を赤くして、唇をとがらせた。

「じゃあ、もう行くから・・・。また、五日後に・・ね」

ぽんぽんと頭を叩くと、何かを言いかけた瑠璃さんは、諦めたように肩をすくめ、小さく笑った。

部屋を出たところで振り返り手を振ると、瑠璃さんも手を振りかえしてくれた。

外は相変わらずの雨だけど、ぼくは晴れやかな気持ちで歩き出し、渡殿を進むうちに急に現実的なことが気になってきた。

さすがに時間が経ちすぎだし、やらなければいけない仕事が残っている。

足早に車宿りに向かうと、案の上、政文が人待ち顔で立っていた。

「若君。遅うございましたね。皆、出立を今か今かと待ち構えております」

ぼくの姿を認めると走りよってきた。

「すまない。急ぎ車を出してくれ」

簾を巻き上げ、車に乗り込もうとすると、政文が

「あ・・・」

と声をあげ、その場に立ちすくんでいる。

「どうした」

振り返り、声をかけると

「わ、若君。そ、その・・・」

「なんだ」

「お、お口元に・・・・紅が・・・」

言うなり、真っ赤になって俯いている。

紅・・・・。

奇妙な沈黙が流れ、ぼくは手で口元をぬぐうと無言のまま車に乗り込んだ。

政文のやつ、何か気付いたかな・・・?

まぁ、あいつはまだ通う女もいないし、大丈夫だろう・・・

動き出した車の中で、そんなことを考えつつ、いつしか車の揺れに誘われるように、ぼくは眠ってしまっていた。

宮廷に戻ったぼくは、残務整理のために足早に渡殿を歩いてるところで声をかけられた。

「よぉ、高彬」

振り返ると、ぼくと同じ近衛少将である左近少将を勤めている源重行だった。

「忌まわしい忌み月も、あと五日だなぁ」

言いながら気軽にぼくの肩に腕を回してくる。

同じ少将同士、年格好も同じということで、世間ではぼくたちのことをライバルのように見るむきがあり、やれ仲が悪いだの口を聞かないだのと、いろいろ噂されているのだけど、決してそんなことはない。

ぼくと重行は仲の良い同僚で、会えば気楽に話をしているのだ。

世間の噂なんて案外そんなものだ。

自分たちで、こうだったら面白いというような作り話を、まことしやかに流してるだけなのだ。

「この一ヶ月は辛かった・・・」

重行は大げさに肩を落としてみせた。

重行は、ぼくより少し後に結婚したばかりで、まぁ、新婚仲間と言えばいえるだろう。

「実際、妻が好きだから早く会いたいのか、ヤりたいから会いたいのか、わからなくなってくるよ」

あけすけに言う重行を、ぼくは呆れて見た。

「おまえ・・・そんなこと言ったら大変なことになるぞ」

「ばーか。こんなこと女の前で言うかよ」

重行はぼくの前で手を振ってみせた。

「高彬。おまえだってそう思ってるんだろ」

「いや、ぼくは・・・」

決め付けるように言われて、思わず反論しかけたところで言葉を濁す。

身に覚えがあるといえばあるし・・・なぁ。

いや、だけど。ぼくは本当に瑠璃さんをひとめでも見たくて三条邸に行ったんだ。

それが目的で行ったわけじゃないぞ。

しかしなぁ・・・

そんなこと言っても説得力ないよなぁ・・・。

こもごも考えていると、重行がぼくの顔を見て

「高彬。おまえ、なんか変だぞ」

怪訝そうに言う。

「どうしてそんな爽やかと言うか、さっぱりした顔してるんだ?」

思いもよらないことを聞いてきた。

「は?」

重行はぼくから離れ、頭から足元まで検分するように見て、最後にもう一度、顔を見たかと思うと

「高彬。おまえのその顔は、たまってる男の顔じゃないぞ」

ぐっと顔を近づけて小声で言うと

「まさか、おまえ。後宮の女房とよろしくやってるんじゃないだろうな」

さらに声をひそめて聞いてきた。

「そんなことあるわけないじゃないか」

言い返すと

「隠すな、隠すな。だれか頃合の女房がいるなら教えろよ。口は堅いぞ」

にやりと笑って肘でつつく。

「ばかばかしい」

まだ何か言いたそうな重行に構わず、ぼくは歩き出した。

まったく、何が頃合の女房だ。

と言いつつ、重行の考察は半分は当たってるわけで、内心、冷や冷やした。

こうなってくると、なんだか直衣の着心地がいつもと若干違うことすら、気になって落ち着かない。

すれ違う女官らが、何か思っているのではないかと勘ぐってしまう。

早く帰ろう・・・。

ぼくはものすごい早さで仕事を終わらせ、帰路についた。









******************************************************************








白梅院の自室に戻り、ぼんやりと雨の音を聞いていると、簀子縁に守弥が現れた。

「どうした。呼んでないぞ」

声を掛けると、守弥は返事もしないでぼくを見返してきた。

ぼくから話を振る筋でもないから、同じように黙っていると

「今日は・・・三条邸に行かれたとか」

静かに切り出して、それっきり口をつぐんでいる。

「あぁ、行ったさ。内大臣さまにお伝えすることがあってね。連絡役を仰せつかったんだ」

本当のことだからきっぱりと言うと、ふと、守弥の口元に皮肉な笑みが浮かんだ。

「ずいぶんと長い時間を三条邸で過ごされたそうですね」

「・・・・・」

「若君」

「内大臣さまと、思いがけずに話が弾んだんだ」

「政文の話ですと、内大臣さまは若君がお着きになった後、ほどなくしてお出かけになられたようですが」

「・・・・・」

「若君」

静かな、だけどいやに押しの強い声で言う。

「瑠璃さんの・・・部屋に行った」

そっぽを向いたまま言うと

「ほぉ・・・」

わざとらしく驚いた声を出した。

「・・・・それだけだ」

文句あるかとばかりに語気も強く言うと、守弥はうっすらと笑い

「御前失礼」

と丁寧に一礼をして立ち上がり、部屋を出る直前に立ち止まると

「忌み月ゆえ・・・・お慎み遊ばされますように」

そう言い残して立ち去っていった。

守弥の後ろ姿を見送りながら、ぼくは鼻を鳴らした。

相変わらずネチネチと嫌味たらしい奴だな。

それが言いたいなら、最初からそう言えばいいじゃないか。

ふてくされた気分でいると、女房らが数人、就寝の準備のために部屋に入ってきた。

こんな夜は早く寝るに限る。

今夜は・・・いつになくぐっすり眠れそうだしな。

瑠璃さんとのあれこれを思い出し、気分も良くなっていると

「あら?高彬さま。紐の結び目が逆になってますわ」

ぼくの着替えのために動いていた大江が、手をとめて話しかけてきた。

「・・・・・」

「どこかで結び直されましたの?」

政文あたりから何か聞いているのか、どことなく含みを持たせた声で言う。

「・・・自分で、結び直した・・」

ぼそっと呟くと

「まぁ!ご自分で?どうかなさいましたの」

大仰に声をあげて見せた。

「いや、どうもしない」

「・・・・・」

これで納得したかと思いきや

「でも、紐を逆に結ぶなど・・」

じとっとした目でぼくを見ては、ぶつぶつと聞こえよがしに呟いている。

くそっ、兄妹揃ってやりづらいやつらだ。

「・・・まじないだ」

やけくそになって言うと

「は?」

大江はぽかんとぼくを見返してきた。

「そういうまじないが、宮中で・・・流行ってる」

顔も見ずに言うと

「はぁ・・おまじない・・ですか。高彬さまが・・・」

大江は小声で呟き、ちらりと見ると、笑いをこらえているのか口元が妙にゆがんでいて、回りの女房らと目交ぜしている。

「・・・あとは自分でやるから下がってくれ」

ぼそりと言うと、女房らは一礼して下がっていき、渡殿のあたりで忍び笑いが聞こえてきた。

すっかり気配がなくなったのを確認してから、ぼくは夜具の上にどかりと座り込んだ。

ちくしょう・・・!どいつもこいつも・・・!

一体、ぼくが何をしたって言うんだ。

ま、まぁ、確かに何かをしたけれど・・・。

だけど、夫婦なんだし良いじゃないか。

い、いや、確かに忌み月の禁を破ったのは悪いけど・・・。

だけど、しょうがないじゃないか。

しょうが・・・なかったんだ・・・いろいろと・・・本当に。

あーあ、忌み月が明けるまで、あと五日か。

早く明けて欲しい。

そして堂々と三条邸に通いたい。

五日は・・・・長いなぁ。

ひぃふぅみぃ・・・と指を折り、ぼくは小さくため息をついた。




                     
                           <終>




(←お礼画像&SS付きです)

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Secre

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maiさま

> 何回も出てくる「ひぃ、ふぅ、みぃ…」が場面場面で微妙に意味合いが違って、素敵。印象に残りました。

タイトル、最初は「ひぃ・ふぅ・みぃ」にしようかと思ってたんです(笑)

No title

やっぱりバレてしまいましたね!っていうか、根っから真面目な高彬が、コトが済んで頭が冷えて、我に返ってひとりで先走って慌てている様が可笑しくて可笑しくて…。何回も出てくる「ひぃ、ふぅ、みぃ…」が場面場面で微妙に意味合いが違って、素敵。印象に残りました。高彬、早く忌み月が明けるといいねっ(爆)

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ヨッシーさま

> 良い思いしたんだししょうがないですね。

おっしゃる通りです。高彬に伝えておきますね(笑)

みみたびさま

> 二人がわらわらしているのを想像するとほほえましくて笑っちゃいました。

瑠璃は怒りながら、わらわらしてたと思われます(笑)

No title

高彬は、いろいろ言い訳しなくちゃいけないので大変(*≧∀≦*) 良い思いしたんだししょうがないですね。右大臣邸でいろいろ噂されたんだろうな。あの真面目な若君がと(///ω///)♪ 母上にまで知られたのかな。知られたら後でくどくど言われそう。高彬頑張って\(^^)/

No title

かわいらしい高彬でしたね。新婚ですものね。当時は着物ですから大変ですよね。二人がわらわらしているのを想像するとほほえましくて笑っちゃいました。

とわさま

> 瑠璃姫との間では主導権を握れるようになったけど、実家ではまだまだですね。

やっぱり「頭の上がらないお坊ちゃま」は健在です!

No title

こんばんは!
高彬が子どもっぽくふてくされてるのが目に浮かんできて、思わず笑ってしまいました(#^.^#)
やっぱり告げ口されちゃったのねー(笑)
瑠璃姫との間では主導権を握れるようになったけど、実家ではまだまだですね。
高彬、がんばれ!(笑)

ももさま

> ばつの悪い高彬。

良い思いをしていますので、しょうがない・・ですね(笑)

No title

ばつの悪い高彬。
様子が目に浮かんでとっても面白かったです!!
若いから、いろいろ事情があるのですね(笑)
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