***短編*** さくら・桜・サクラ ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




         注)このお話は一話完結です。

        






***短編*** さくら・桜・サクラ ***







月華門から見える桜を見ながら、ぼくは小さくため息をついた。

時おり吹く風に、盛りを終えた桜の花びらがはらはらと舞っている。

つい数日前まで満開だった桜の舞い散る様は確かに心を動かされるけれど、でも、ぼくはそれほどの風流人じゃないし、何よりも今は仕事中だ。

ため息をついたのは桜を惜しんでのことではない。

ここ数日、何故だか気分がすぐれない。

仕事でミスしたとか、瑠璃さんと喧嘩したとか、そんなわけでもない。

身体もいたって健康だし、実家でゴタゴタがあるとかそういうわけでもない。

万事順調、順風満帆・・・・のはずなのだが、どうにも気持ちが晴れない。

気が付けば、ため息なんか付いている。

まぁ、いい。

今日は久しぶりの三条邸だ。

瑠璃さんに会えば気持ちも晴れるだろう。

ぼくは黙々と仕事をこなし、早めに帰路についた。








**********************************************************








女房に案内されて瑠璃さんの部屋にいくと、部屋の主は不在で、代わりに困り顔の小萩が出迎えた。

「瑠璃さんは?」

部屋を見回しながら聞くと

「それが、そのう・・・姫さまは庭に降りられてしまって・・・・」

「庭?」

「お止めしたのですが、陽のあるうちに桜を見てくるとおっしゃって・・・・。申し訳ありません、少将さま。わたくしがしっかりしないばかりに。もう北の方であられますのに・・・本当に申し訳ありません」

「いいよ。小萩のせいじゃないさ。瑠璃さんは言い出したら聞かないだろうからね。・・・ちょっと瑠璃さんを呼んでくるよ」

深々と頭を下げる小萩に笑って言い、階を降りる。

三条邸の庭は広くたくさんの桜の木があるけれど、わざわざ見に行くほどの桜と言ったら、おそらくあの木だろう。

見当をつけて歩いていると、案の定、思った通りの場所に瑠璃さんは佇んでいた。

瑠璃さん、と声を掛けようとして、ぼくは言葉を飲み込んだ。

・・・あぁ、そうか。

ぼくのここ数日の憂鬱の原因はこれか・・・。

瑠璃さんが桜を見上げている。

そして、おそらく。

瑠璃さんが桜を見ながら思い出しているのは・・・・かの地、かの人のこと、だろう。

ぼくの入り込めない、瑠璃さんの思い出。

どんなに手を伸ばしても届かない、瑠璃さんだけの思い。

結婚して、瑠璃さんはぼくの妻となったのに・・・・。

「あら、高彬・・・」

気配に気付いた瑠璃さんが振り向いた。

「帰ってたのね。声を掛けてくれれば良かったのに」

「・・・あ、あぁ」

ぼくは瑠璃さんに近づくと、並んで桜を見上げた。

西に傾きかけた春のやわやわとした陽射しが桜の木を照らし、花びらの色を実際以上の濃いものにしている。

盛りを過ぎたのは内裏の桜と同じで、舞い散った花びらが辺り一面に広がっている。

春の風が吹くたびに、花びらが舞い上がる。

ぼくらはしばらくの間、黙って桜を見上げていた。

「・・・吉野の・・・桜は、見事なんだろうね」

沈黙に耐えきれずに、言葉を発したのはぼくの方だった。

何でもないことのように言えた、と思う。

横顔に瑠璃さんの視線を感じたが、気付かないふりをして桜を見上げ続けた。

目を合わせたら・・・・内心の動揺を悟られそうだったから。

瑠璃さんはまた桜を見上げると

「そりゃあ、綺麗よ。吉野の桜は。きっと今が盛りよ」

前を向いたまま言った。

またしばらく沈黙が続き、ふいに瑠璃さんは歩き出した。

部屋に戻るのかな、と、その後ろ姿を何となく目で追っていたら、瑠璃さんはぴたりと立ち止った。

「高彬。あたしが今、考えていたことを教えてあげるわ」

振り返った瑠璃さんはそう言い、ずんずんとぼくに近づいてきた。

「あたしは今ね・・・」

一呼吸おくと

「今晩の夕餉はなにかしらー?って考えていたのよ」

「は?」

思ってもみなかった言葉に思考が停止する。

「ゆ・う・げよ、夕餉。お腹がすいてきたんだもの」

何かしら?楽しみだわぁ・・・なんて言ったかと思うと、瑠璃さんはふと、足元に広がる花びらに目を落とし、独り言のように呟いた。

「・・・桜を見たからって、決まって吉野を・・・吉野君を思い出すわけじゃないわよ。馬鹿ね」

「・・・・・」

顔を上げた瑠璃さんは一歩近づき、ぼくの胸に指をあてた。

「高彬。あんたって少し考えすぎなのよ。ほんと有能だ有能だってわりには、妙なところで勝手にこだわって。しっかりしなさいよね」

ツン、と胸をつつく。

「あんたがそんなんじゃ、おちおち桜も見てられないわ」

目をそらしてぶつぶつ言うと、吹いてきた風に誘われるように桜の木を見上げた。

「ねぇ高彬、小さい頃、相撲を取ったでしょ。ここでよ。あの時も桜が咲いていたもの。覚えてない?」

相撲か・・・。

そういわれてみればそうだった気もする。

「それに隠れ鬼のときもよ。融が鬼で、二人で隠れた場所もこの木の裏だったわ。上手く隠れてたのに、あんたが毛虫に驚いて大声出すから、融に見つかっちゃって・・・」

そのときを思い出したのか、瑠璃さんは、ふふふ・・・と笑った。

ふいにしゃがみこんだかと思うと、花びらを掴み、それをぼくの目の前で舞わせてみせた。

「高彬。思い出は、ひとつじゃないのよ」

「・・・・」

「桜は毎年、咲くわ。あたしはきっとこれから、新しい桜の思い出をたくさん作っていくのよ。・・・有能なくせに考えすぎる、優しい誰かさんとね」

ぼくを見ながら眉を上げて見せた。

「優しい誰かさんって・・・」

「誰のことかわからない?」

「・・・ぼく、の、ことかな」

つかえつかえ言うと

「よくわかってるじゃない」

そう言って肩をすくめた。

あぁ、やっぱり瑠璃さんにはかなわない・・・。

ぼくなんかより、何枚も上手だ。

「瑠璃さん。あの・・・」

「あんたって童の頃は、ほんとうに弱虫だったわよね。毛虫触ったくらいで泣くんだもの。相撲ではあたしに投げ飛ばされるしさ」

からかうような口調で言われて、言いかけてた言葉も忘れて言い返す。

「あれは瑠璃さんが強すぎたんだよ。今だったら負けないさ。そうだ、瑠璃さん。久しぶりに相撲取ろうよ」

「いやよ、負けるに決まってるもの。負けるの嫌い」

「じゃあ、負けてあげるから」

「ズルされるのは、もっと嫌いよ」

言ったとたん何かを思い出したのか、瑠璃さんの目がくるりと回った。

「ズルする子、嫌いよ。もう、遊んであげない」

大げさにつんと顔をそむけてみせた瑠璃さんと、目が合い、二人して吹き出した。

ひとしきり笑うと瑠璃さんはふいに真面目な顔でぼくを見つめた。

「ねぇ、高彬。こんな風に笑った今日の日も、新しい桜の思い出になっていくのよ。それでいつか、懐かしく思い出すの。二人でね」

瑠璃さんの声は優しかった。

「・・うん、そうだね」

さっきまで感じていた、漠然とした憂鬱はもうどこにもなかった。

「さ、もう部屋に戻ろっと」

「待って、瑠璃さん」

踵をかえしてスタスタと歩き出そうとする瑠璃さんを引き止める。

「なあに」

「やっぱり、相撲しようよ。ズルも手加減もしないからさ」

「そんなの絶対に負けるに決まってるじゃない。いやよ」

「ズルも手加減もしない代わりに・・・」

瑠璃さんの顔をのぞきこむ。

「代わりに?」

「うんと、優しく・・・するからさ」

一瞬、きょとんとした瑠璃さんは、ぼくの言わんとすることがわかったらしくて、パパパっと顔を赤らめた。

もうっ!とぶつ真似をして、それでも、はにかむように目を伏せた。

その桜色に染まった頬と、匂い立つ色香にやられ、思わず手が出そうになる。

いや、ここではだめだ。まだ明るいし、何よりも外だ・・・。

動きかけた手を止めるために両手をグッと握ると、そのしぐさでぼくの逡巡に気付いた瑠璃さんは、声をあげて笑った。







                       <終>




~あとがき~

まだまだ寒い日が続きますが、それでも3月に入ると、少しだけ気分が春めいてきますね。

寒さによる悲しい事故のニュースを見るにつけ、春の訪れが待ち遠しいです。

桜の便りはまだまだですが、昨日はひな祭り。

いつもご訪問いただいている、元「女の子」の皆さまに、この話を捧げます。


以下、拍手レスです。


****************************

>霧氷さま

高彬の考察、楽しんでいただけたようで何よりです。

>そう考えるにつけても高彬、何てイイ男なんでしょう~!

ですよね!

> これからもそんな素敵な高彬を楽しみにしております

高彬はこれからも進化していくと思います。
誉めて育てて(?)行きましょう。

コメントありがとうございました。
またのご訪問をお待ちしています。


にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ


(←お礼画像&SS付きです)

コメントの投稿

Secre

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

さりいさま

> 『桜は毎年、咲くわ。あたしはきっとこれから、新しい桜の思い出をたくさん作っていくのよ。・・・有能なくせに考えすぎる、優しい誰かさんとね』

「今」を生きてるのが子どもだとしたら、「未来」に思いを馳せたり「過去」を優しく懐かしんだりするのが大人なんだと思います。
瑠璃と高彬は童時代を過ぎ、少しずつ大人になって行くのでしょうね。
そうして振り返ったとき「いつもそばにいてくれた人」が、今も隣にいてくれるのはとても幸せなことだと思います。

> 桜は、満開の美しさや散りゆく切ない美しさなど、本当に日本人にぴったりな花だなぁと思います。

本当にそうですよね。
桜を見ると、なぜだか心がざわつきます。

本当に美しいお話

また、桜の季節になりましたね。
我が家の近所では、早咲きの桜は満開を過ぎ、少し散り始めていますが、これから本格的に咲き始める桜も多く、目に美しい季節となりました。

そんな今だからこそ、こちらの小説の感想を是非ともきちんとお伝えしておきたい!と思い、またお邪魔しています。

以前も瑞月さんにチラリとお伝えしましたが、こちらのお話、切なくも温かい感じが大好きなんです。

『桜は毎年、咲くわ。あたしはきっとこれから、新しい桜の思い出をたくさん作っていくのよ。・・・有能なくせに考えすぎる、優しい誰かさんとね』

という、優しい瑠璃の台詞が本当に胸の底にストンと落ちるんです。きっと、高彬も同じ気持ちなのではないかしら?その前に、あれこれ思い悩んでいましたから。

最近桜を見る度に、この台詞をよく思い出しますよ。
桜は、満開の美しさや散りゆく切ない美しさなど、本当に日本人にぴったりな花だなぁと思います。

瑠璃と高彬は、それこそ沢山の思い出を、幼少の頃から共有していて、キラキラ輝く心の中の宝物でしょうね。
この小説にある、相撲したり、隠れ鬼したり、という情景、瑞月さんの筆力でまたも目の前にパァーッと広がってきました。

そして、子供の頃は瑠璃に投げ飛ばされていた高彬が、相撲で優しくするからさ、なんて今では一枚上手なこと言っちゃって、読んでいてうふふ、と幸せな気持ちになりました。
瑞月さんもおっしゃっていましたが、この2人は対等な所がいいですね。主導権も握ったり握られたり、ですが、お互いを心から信頼しているからこその関係が、本当に素敵だなぁ、と思いました。

いつも素敵なお話、ありがとうございます。

Re: No title

くまくまぽんさま

> 瑞月さんの小説を読むと、高彬の魅力にますます気付かされます。

ありがとうございます!
高彬は本当にカッコいいんですよね。

> 瑠璃に代わって、高彬とラブラブしたいです(爆)

瑠璃が短剣持って、乗り込んできますよ!(笑)

コメントありがとうございました。
またのご訪問をお待ちしています。

No title

こんにちは
先日は失礼しました。
瑞月さんの小説を読むと、高彬の魅力にますます気付かされます。
エッチい高彬も良いですが、今回のような高彬も素敵ですね。
瑠璃に代わって、高彬とラブラブしたいです(爆)
新婚編続きも楽しみにしています!

Re: ほんわか春ですね♪

慧唯李さま

>瑠璃さん、ほんとうにやんちゃで可愛らしいですよね。

幼いころの瑠璃は、本当に可愛かったんだと思います。
こう、野性味あふれる感じで(笑)
子供らしい子供だったのでしょうね。

>高彬、最後の誘いのお相撲は、なかなか粋な誘い方ですね♪

ふふふ、そうですね。

コメントありがとうございました♪

ほんわか春ですね♪

高彬と瑠璃さん、幼少のころを懐かしんでいたようですね。
相撲話、思わず笑ってしまいましたよ。高彬の歯が欠けてしまったことも思い出してしまいます。
瑠璃さん、ほんとうにやんちゃで可愛らしいですよね。
吉野君のことは、綺麗な思い出でしょうね、私も、そんな淡い思い出あるな~と、つくづく考えられさせられたりしました。
ん十年前の、お話ですね。

高彬、最後の誘いのお相撲は、なかなか粋な誘い方ですね♪
春らしく、ほんわかストーリーありがとうございます。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

にほんブログ村

ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
月別アーカイブ