***短編*** 誘惑のあとで ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は一話完結ですが、短編『甘い誘惑』の「その後」のお話です。
合わせてお読みいただいたほうが楽しんでいただけると思います。






***短編*** 誘惑のあとで ***






脇息に寄りかかり、ぼんやりと庭を眺める。

今は冬。

父さま自慢の我が三条邸のこの庭にも、愛でる花なんか咲いちゃいない。

時おり雀の子がやってきて、少し遊んで飛び立って行くくらいよ。

だからこそ先日の明け方、ふと目に留まった庭に目を奪われ、外に出てしまったわけなんだけど。

釣灯籠に照らされて浮かび上がる、霜が降りた庭の美しさ、清らかさ。

邸全体が寝静まる無音の世界に、霜が灯篭の灯にゆらゆらと反射して。

菩薩様のおわす浄土ってこんな感じじゃないのかしら。

だとしたら、母さまもこれをみているのかしら・・・?

なんて、柄にもなくしんみりしちゃって。

あたしって普段はとんでもないはねっかえりのくせして、変なところでロマンチストだからね。

自分の世界に浸りきっちゃって、小萩に声をかけられたときには、すっかり身体が冷えてしまっていたのよ。

ずいぶんと長いこと、立ち尽くしていたみたい。

それがいけなかった。

翌日からきっちりと風邪をひき、あれよあれよと言う間に悪化してしまった。

少しくらいの風邪なら気合と根性で治すんだけど、さすがに高熱が出てしまうと、もうふらふらでさ。

あげくに小萩まで、あたしに付き合って風邪をひいちゃって。

やっぱり人間、病気になると気まで弱くなるものなのね。

他の女房があれこれ世話をしてくれたんだけど、小萩の顔が見えないってだけで何だか妙に心細かった。

なんだかんだいって、小萩はあたしの一の女房。

一番、気が合う仲良しの女房だしね。

それで、あー、せめて高彬に会いたいなー、なんて思った事までは覚えてるのよ。

高彬に会ったような会わないような・・・会ったような気がするんだけど、会いたいと思ってたから夢でも見たような・・・夢にしちゃやけにリアルだったような・・。

でも女房が、高彬が夜に来て朝に帰ったって言うんだから、まぁ、本当に来たんだろうけど。

女房が言うには、高彬は一晩中、あたしに付き添っていたらしくて、そのお陰かどうかわかんないけど、翌日からずいぶんと調子が戻ってきたのよ。

それはまぁ良かったし、高彬も心配してくれたみたいで感謝してるのよ。

夫なんだから当然って言いたいところだけど、今日び、妻が病気になろうがお構いなしの情け知らずな殿方も多いと聞くから、あたしもしおらしく感謝の文でも書こうか、なんて思ったわけ。

宿直や方違えで、高彬が数日来れないってことはわかっていたから。

でも、あたしが書くより先に、高彬からご機嫌伺いの文が届いたから驚きよ。

普段、まめに文を書くような人じゃないからね。

病気の妻を心配してのことだと思って、愛されてるのねー、うふふ、なんて思っていたのもつかの間、その日から矢継ぎ早に高彬からの文が届き始めたのよ。

内容は、風邪は治ったのかだの、体調はどうかだの、そんな程度なんだけど、でも、何通目かの文を見たあたりから

(なんか、ヘン)

と思い始めたの。

なんて言うか、妙な方向に張り切ってるっていうか、その、つまり・・・ヤル気まんまんっていうかさ。

何かあるな、と感じたわけよ。妻の勘っていうか。

高彬がこういう変な盛り上がりを見せている時って、ロクなことがないのよ。

途中から返事もせずにほっぽといたんだけど、今日と言う今日、高彬がやってくる。

いったい何を1人で盛り上がっているのかしら。

久しぶりの夫の帰宅だというのに、手放しで喜べないっていうのも変な話だわよねぇ。

そんなことを庭を眺めながらこもごも考えていると、東門あたりがざわついて、ほどなくして女房に先導された高彬が現われた。









*********************************************************









女房がしつらえた円座にゆっくりと腰を下ろす。

目が合い、にっこりと笑い合う。

「瑠璃さん、調子はどう?」

「調子?まぁ・・・普通にはいい、けど」

ついつい警戒してしまう。

とにかく高彬が何を考えてるかが判らないうちは要注意よ。

「調子はどう?」

「絶好調よ!」

なんて答えて、そのまま押し倒されたりしたら困るもの。

そのまましばらくの沈黙が流れる。

高彬は何もしゃべらない割にはあたしのことをじーっと見てて、その目がやけに熱っぽい。

やだわ、何か言ってくれないかしら。

「あのー、高彬は、どうなの?」

「どうって?」

「だから、その、風邪うつしてたりしたら悪いなぁ、なんて思って」

「ああ、大丈夫だよ。ぼくは・・・・」

言いながらじりじりと近づき、あたしの手を取り

「ぼくは、元気だよ」

やけに熱心に感情を込めて言う。

ちょっと!

あんた、どっちの方向に元気なのさ!

ひとまずここは空気を変えるためにも女房におやつでも持ってこさせて・・・と、辺りに目をやれば、なんとまぁ、いつのまにか人払いまでされているではないの。

高彬は、慣れた風にするりと肩に手を回して、片手であたしの顎を軽く持ち上げてくる。

至近距離の高彬の視線がチラッと動き、その先には、時々、身体を休めるためにしつらえてあったままの寝所がある。

一体、今日はどうしたっていうのかしら。

あたしの風邪や高彬の仕事の関係で、最近、ご無沙汰だったといえばその通りだけど、でも、まだお火入れの時刻にもなっていないこんな明るいうちからなんて、普段の高彬にしたら考えられないことだもの。

「ね、ねぇ、高彬。ちょっと待って。どうしたの?」

あたしはやっとのこと、高彬の肩を押しやった。

今まさに唇が触れようとしていた高彬は、一瞬、不服そうな顔をして

「どうって?」

「だって、変だもの。来て急に、こんな明るいうちから、なんて」

「瑠璃さん、風邪は治ったんだろ」

「えぇ、お陰さまでね。なんとか」

「だったら」

またもや接吻されそうになり、慌ててかわす。

「もう!風邪が治ったら、どうして『だったら』なのよ。その繋がり、なんなの」

少し強く言うと、高彬は数秒、あたしをじっと見て

「瑠璃さん、覚えてないの?」

探るように聞いてくる。

「何を?」

「風邪、引いたときのこと」

「覚えてるわよ。熱が出て大変だったんだから」

「ぼくが行ったときのことは?」

「覚えてる・・・わよ。ところどころ、は」

「ところどころ?じゃあ、ぼくとの会話は?」

「会話?会話なんてしたの」

「覚えてない?」

「・・うん」

「全然?」

「・・・うん」

そういうと、高彬の目がきらりと光った。(ような気がした)

高彬は改めて座りなおすと、あたしの手を取った。

「熱を出した瑠璃さんはね」

「うん」

「ぼくにこう言ったんだ」

「なに」

「『高彬、風邪が治ったら、いっぱい色々してね』って」

「いっぱい・・・?色々・・・?」

「そう。わかるだろ。だから・・・」

「ちょ、ちょっと待った!」

そのまま押し倒されそうになり、慌ててあたしは体勢を立て直した。

「いっぱい色々、って・・・つまり、アレを?」

「そう、アレだ」

「そんなこと、あたしが言うなんて信じられないわ」

「それが言ったんだよ。ぼくの手をこう取って、自分の胸元に近づけながらさ」

「そんな・・・」

はしたないこと、あたし言ったのかしら?

熱出して、気が弱くなってたし、記憶も曖昧で絶対言ってないと言えないところが苦しいわ。

あたしが黙りこんでいるのを良いことに、ここを先途と高彬は続けた。

「瑠璃さんがぼくを誘惑したんだから、責任はとってもらわなくっちゃ」

「で、でも、そもそもアレってそんなに色々することって・・・ない、と思うんだけど・・・・」

「いや、あるね」

高彬はきっぱりと言い切った。

「でも、あたし、まだ病み上がりだし」

「少しは身体を動かしたほうが治りがいいんだよ」

「そんなの聞いたことないわよ」

「我が右大臣家に代々伝わる療法だ」

「うそばっかり」

「いいから、もう黙って」

いい加減、じれたのか、高彬は軽々とあたしを抱き上げると寝所に横たえた。

あ、と思う間もなく耳たぶを噛まれ、そのまま首筋に接吻をされてしまった。

「高彬・・・」

急な展開に付いていけずに呆然としているあたしをよそに、高彬は手際よく着ているものを剥いでいく。あらら。

強引にあたしの顔を向かせ、噛み付くような接吻をしながら、手はせわしなく動き出す。

ここまで来た高彬を止めるのは至難のわざね。

心の中で吐息して少しだけ身体を緩める。

そんなあたしの小さな変化に気付いたのか、高彬はさらに動きをエスカレートさせた。

むき出しの肩をなぜ、そのまま感触を楽しむように胸に手を這わせる。

次の瞬間、思いがけない強さで胸をわしづかみされて、思わず身をよじってしまった。

急いている高彬の動きがちょっと怖い・・・。

「高彬・・・乱暴なのはイヤ。優しく、して」

動きが止まり、小さく頷く気配がして、いつもの高彬の動きに戻った・・・・と思ったんだけど、やっぱりどこかが違う。

いつもより丹念で執拗な気がする。

どんどん煽られていくのが自分でもわかる。

最初からこんなんで、あたし、大丈夫かしら・・・?

「たか、あきら。いっぱいって・・・どれ、くらいなの・・」

すでに息が上がってきて言葉が途切れ途切れになってしまう。

「瑠璃さんが、ついてこれるまで」

顔を上げずに言う。

高彬の手が腹部を伝い、そのまま指先でなぞり上げられて身体が勝手に動く。

逃げるように身をよじると、高彬は更に指を奥に進めてきた。

「すごい、瑠璃さん・・・。もうこんなに・・・・」

「いや・・・・」

「こんなに誘っておいて、いやはないだろう」

手と指と舌でいじられ、理性が飛びそうになるのを必死につなぎとめる。

今のうちに聞いておかなくちゃ・・・。

「高彬・・・・色々って、なにを・・・するの」

「・・・今にわかるから」

さっきより下のほうにいる高彬のくぐもった声がする。

脚の付け根を押さえ込まれて、あたしはぞくりと震えた。

いっぱい、色々って。

あぁ、あたしったら何てことを言ってしまったのかしら・・・・。

ちらりとそんな思いが胸をかすめたけれど、陶酔感が波のように押し寄せてきて、あたしは固く固く目を閉じたのだった・・・・・。





            

 <終>


~あとがき~

以上、『口は災いのもと』という教訓のお話でした。

それにしても高彬。

瑠璃は「いっぱい、してね」とは言ったけど、「いっぱい色々、してね」とは言っていませんよ。

瑠璃が覚えていないとわかった途端の見事な切り返し。

さすがは有能な右近少将。

どこかで瑠璃にばれても、管理人は一切の責任は負いませんからね。

皆さま、素敵なバレンタインを!




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