**特別編***ジャパネスク・クリスマス~イブの贈り物~***

『なんて素敵にジャパネスク~二次小説*特別編』




注)このお話は特別編です。
時は平安、今宵はクリスマス・イブ・・・・
「妄想もここに極まれり」のスペシャル・バージョン第二弾です。
はちゃめちゃな設定がお好きでない方は読むのをお控えください。
どんな妄想もウェルカム!の方は、どうぞご覧くださいませ。





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ジャパネスク・クリスマス~イブの贈り物~






「ねぇ高彬、もうそんな書類ほっといて出掛けましょうよ。ライトアップが終わっちゃうじゃない」

「そういうわけにはいかないんだよ、瑠璃さん。畏れ多くも帝御自らのご指示だからね」

「イブにこんな仕事押し付けるなんて、なんちゅうサドなのよ」

扇で肩を叩きながら鼻を鳴らすと、それまで書き物に集中していた高彬がぎょっとしたように顔を上げた。

「る、瑠璃さん。口を慎みなさい。畏れ多くも・・・」

「畏れ多くも帝におかれては、ってんでしょ。高彬はいつもそればっかり。帝は365日いるけど、クリスマス・イブはたった1日なのよ。今日、高彬とイルミネーションを見に行くのをすごく楽しみにしてたのに」

最後の方はつぶやくように言って、チラリと高彬の顔を伺うと、高彬の眉が少しだけあがったのがわかった。

もう一押しとばかり、高彬の後ろに回りこんで、抱きついた。

ふふん、あたしだって女ですからね。いざと言うときはこれくらいできるのよ。

何もね、いつもいつもあたしを優先して欲しいなんて思ってるわけじゃないの。

高彬が真面目な仕事人間だってことは判ってるし、そんな高彬を好きだったりもするの。

でも今日はイブだもの。

結婚したとはいえ、まだまだ新婚なんだしさ、恋人気分で過ごしたいじゃない。

それを持ち帰らなきゃこなせないほどの仕事を与えるなんて、いくら帝だからってひどすぎる。

高彬も高彬よ。

帝からの指示だからって、何でもかんでも言うこと聞いちゃってさ。

こうなりゃ、意地よ。

新妻が帝に負けてたまるかってのよ。

絶対にイルミネーションを見に行ってやるんだから。

抱きつかれてわずかに身じろぎした高彬の首に腕を絡ませて、身体を密着させる。

高彬が小さく息を吸い込む気配がした。

「高彬と・・・イルミネーション見に行きたいな」

耳元でささやく。

きっかり三秒数えてから

「ね、お願い。高彬」

できるだけ甘い声でさらにささやく。

ダメ押しで胸なんかも押し付けてみる。

あー、女も結婚すると恥じらいってもんがなくなっちゃうのかしら。

こういうことがなんのためらいもなく出来ちゃうところが、我ながら凄い。

と言いつつ、案外、こういうことやるのも快感なので、ついのってしまうのよね。

「だめ?」

後ろから顔を覗き込む。

必殺、上目遣い攻撃よ。これで駄目なら妻やめるわ。

至近距離で高彬と視線が絡み合う。

高彬の顔がすぅっと赤くなった。

「まぁ・・・仕事は後でやっても間に合うし、な・・・」

もごもごと言い、はぁ・・・とため息をついた。

やったね!

あたしは心の中で小さくガッツポーズを作った。








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「そのイルミネーションは、どこでやっているんだい?」

書き物をすっかり片付けた高彬は、脇息を押しやりあたしに向き直った。

待ってましたとばかりに、あたしは二階厨子に置いてあった「Miyako Walker」を手にとり、パラパラと頁をめくって差し出した。

この雑誌は京の情報誌で、最新デートスポットや流行りのメイク法、それに恋占い、はては殿方を惹きつけるしぐさの特集なんてのまで載っていて、言わば乙女のバイブルってわけ。

我が三条邸の女房たちもこぞって読んでいるし、結婚したとは言え、あたしも気分は乙女だから、当然チェックは怠らない。

最新号は大々的なクリスマス特集で、ついこの間も女房たちが声高に話題に上らせていたのだ。

今年のクリスマスの最新スポットは何と言っても朱雀大路のライトアップで、10万個のLEDライトで電飾された夜の大路はそれはそれは見事なものらしい。

恋人のいる女房はもちろんのこと、シングルな人も友達と誘い合って見に行くと言っているしさ。

「ふーん、朱雀大路か。近いから今からでも間に合いそうだし行ってみようか」

雑誌を手に取り見ていた高彬も、その気になってくれたみたいで、善は急げとばかりにあたしは扇を鳴らして女房を呼び、すぐに車中の人となった。








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朱雀大路はすごい人出だった。

恋人同士や家族連れがイルミネーションに誘われるようにそぞろ歩き、たくさんの牛車で路は大渋滞、検非違使たちが声を嗄らして交通整備をしていた。

普通だったら煩わしいだけの喧騒や渋滞も、イブの夜だとそれさえも心躍る要素になるから不思議よね。

あたしは物見窓を開けて、高彬の袖を引っ張った。

「見てみて、高彬。向こうのほうまでキラキラしてる。とてもきれいよ」

あたしの言葉に高彬も身を乗り出して、外の景色に目をやった。

「ほんとだ。これは見事だね。瑠璃さんが見たがるのも無理はないね」

目が合い、にっこりと笑い合う。

童の頃から変わらない、高彬の笑顔。

あー、あたし、やっぱり高彬が好きだなー。

こんな風にしみじみと思っちゃうのも、今夜がロマンティックなイブだからかしらん。

なんて思うまもなく高彬の顔が近づいてきて、あれよあれよと言う間に接吻をされてしまった。

クリスマスはこうでなくっちゃ!どうだ、まいったか!・・・・なんて言ってみても、やっぱり・・・恥ずかしい。

あたしも自分で抱きついたりしちゃうわりには、こういう展開は慣れないのよね。

目が合わせられずに黙り込んでいると、高彬が素知らぬ素振りでそっと指を絡めてきた。

ちらりと見ると、見慣れた、だけど気付かないくらいに少しずつ精悍になってきている高彬の横顔がある。

童の頃から、変わったところもあるのね。

あたしはうっとりと高彬を見上げた。

「ねえねえ、高彬。ここでお歌を作ってよ」

「え、ここで!?即興で作れって・・・?」

高彬はぎょっとしたように息をのみ、うーん、と唸りながら瞑目してしまった。

あたしは大げさに肩を落とし、でも、嬉しくて笑ってしまった。

やっぱり高彬は高彬ね、うふふ。

昔のあたしだったら「ここでムード満点のお歌もつくれないようじゃヤダ」なんて思ってたかもしれないけど、今はお歌なんていいの。

こうして一緒にいられるんだもの。それで充分だし、それが大事なのよ。

あたしも大人になったなー、などとひとり納得していると、ふいに外で人の動く気配がして、従者の遠慮がちな声が聞こえてきた。

「右近少将さまに申し上げます」

「なんだい」

「ただ今、宮中からのご使者があり、至急、参内するようにとの伝言でございます」

「宮中から?」

「はい、何でも帝直々のご指図であられるとのことで・・・」

「わかった、すぐ参るとご使者殿に伝えてくれ」

あまりの話にポカンとしていたあたしも我に返って慌てて口をはさんだ。

「すぐ参るって・・・そんな!それより、どうして帝は高彬がここにいること知ってんのよ。あんた、身体のどこかにGPSでも付けられてんじゃないの!?」

「ごめんよ、瑠璃さん。行かないわけにはいかないんだ。仕事を終わらせたらすぐ戻るから、邸で待っていて」

あたしの言葉は無視して、高彬は早や車を降りる準備をしている。

「邸でって・・・」

「ほんと、ごめん」

すまなそうにそう言い、それでもそそくさと車を降りる高彬をあたしは呆然と見送った。







         
             ******************************************









「姫さま、どうかそのようにお怒りになられないでくださいまし。少将さまだってお辛いはずですわ」

「小萩っ!あんた、高彬の肩持つ気?」

「肩を持つなどと・・・」

「あたしはね、イブの夜に朱雀大路に置き去りにされたのよ!あの帝オタクに!これが怒らずにいられるか!」

あたしはイライラと部屋中を歩き回った。

牛車の中で、なまじいいムードだっただけに腹が立つ。

なぁにが、すぐ参る、だ。

そんなに帝がいいなら、帝と結婚しろ、馬鹿。

「小萩、出かけるわよ」

「出かけると申しますと・・・」

「パァ~と街に繰り出すのよ。イブの夜に辛気くさく部屋で過ごせるかってのよ」

「ですが、もう遅い時間ですし、少将さまも仕事が終わり次第、こちらに来るとおっしゃってるのですもの。ここは静かに高彬さまのお帰りをお待ちになられたほうが・・・」

あたしの怒りを静めようと熱心に話していた小萩は、ぎろりとあたしに睨まれて口をつぐんだ。

それでも、こんな時間からの外出を止めようと必死に言い募る。

「こんな時間の街は不届き者の輩が多ございますわ、姫さま。万が一にもナンパでもされたら・・・」

「万が一って何よ。まるであたしがもてない女みたいに聞こえるじゃない」

「いえ、そういうわけでは・・・」

「イケメンサンタにナンパされたら好都合、そのまま一気に逃避行よ!」

「そんなことしたら少将さまが・・」

「あんなやつ、トナカイに蹴られてしまえばいいのよ」

「姫さまったら・・」

呆れたように小萩は呟き、やがて改まって話しかけてきた。

「姫さま。小萩には姫さまがお怒りになるお気持ちがすこぉしわかる気がしますわ。姫さまのお怒りは、楽しみにしていた気持ちの反動ですもの。楽しみにしていた分、お怒りも深いのですわ」

「・・・・・・」

「姫さまが本当に高彬さま以外の殿方とイブの夜をお過ごしになる気があるのでしたら、小萩は止めはいたしませんわ。どうぞ、お出かけになってくださいませ」

「・・・・・・」

あたしは扇をいじくりながら、部屋の片隅に置かれている「Miyako Walker」に目をやった。

わかってる。

小萩の言うとおりなのよ。

だって、本当に楽しみにしてたんだもの。

高彬と過ごすイブの夜を。

なのに、高彬ったら・・・。

そのとき、カタンと音がして妻戸が開き、振り向くとゆっくりと高彬が入ってきた。

小萩はほっとしたように小さく笑い、一礼すると退出していった。

そういえば、小萩は今夜は何の予定も入ってないのかしら。

前に高彬の乳兄弟・・・確か守弥とかいう者と文のやりとりをしているようだと早苗が言っていたけれど。

「瑠璃さん、ごめん。待たせて悪かったね」

高彬がぺこりと頭を下げた。

「別に待ってなんかないわよ」

顔を背けたままツンと言うと、高彬は少し肩をすくめたようだった。

「怒ってる・・・よね?」

一歩近づかれて、あたしは一歩下がる。

「うん、怒ってる」

「でも・・・良かった。邸で待っててくれて」

また一歩近づかれて、一歩下がる。

「別に高彬を待って邸にいたわけじゃないわ」

あたしもいい加減、素直じゃないわね。そう思うんだけど、気持ちが収まらない。

「・・サンタクロースを待ってたのよ。お役目大事、帝大事の人なんか待ってない」

目を合わせないまま言う。

あー、可愛くない女だわ、あたしって。

どうしてここで素直に「お帰り」って言えないのかしら。

「サンタクロースは、今日は来ないよ」

高彬は穏やかに言って、すばやくあたしの手を捕らえた。

振り払おうとしたんだけど、絶妙の力加減でつかまれているので出来ない。

「今日と言うか、もう瑠璃さんのところにサンタは来ないよ」

笑いを含んだ高彬の声に、思わずあたしは振り向いてしまった。

「なぜよ」

「サンタクロースは世界中の童の家を回るので大忙しだからね。瑠璃さんのところまで手が回らないそうだよ」

「そんなのひどいわ」

「大丈夫。有能な後任が瑠璃さんの担当につくから」

「だれよ。・・・まさか・・」

探るように見ると、高彬はおどけたよう顔をして見せた。

「そのまさか、さ。後任はぼくだ。サンタクロース直々に瑠璃さんの担当を頼まれたんだ」

「高彬なんてサンタクロースよりもあてにできないわ。帝に呼ばれたら、すっ飛んで行っちゃう人だもの」

うつむいて言うと、高彬の両手が肩にかかった。

「瑠璃さん。家庭に仕事は持ち込みたくなかったから今まで言わなかったけど、今、宮廷は何かと混乱していて帝もお苦しいお立場なんだ。政治の乱れは、ひいては世の乱れにつながる。我々、貴族はなんとか食い止めようと、皆、必死なんだよ。難しいことは瑠璃さんに言ってもわからないと思うけど、ぼくだって何も好んでイブの夜に仕事に行っているわけじゃないんだ。瑠璃さんと気持ちは・・・一緒なんだ。そこはわかって欲しい」

気がついたら抱きしめられていて、だけど、あたしはもう振りほどこうとは思わなかった。

振りほどくには、高彬の身体は温かすぎるんだもん。

精一杯、意地を張っていた気持ちが溶け出して、涙が出そう・・クスン。

鼻をすすっていると、高彬が袖から何かを取り出して見せた。

「開けてごらん」

促されるままに包みを開くと、中から出てきたのはキラリと輝くネックレス。

手に取ってよく見てみると、天使がハートの形のダイヤを抱えているデザインのものだった。

「きれい・・・」

思わず呟き、お礼を言おうと顔を上げると、それより早く高彬が口を開いた。

「着けてあげるよ。後ろをむいて」

小さく頷いて後ろをむくと、少してこずりながらも高彬がネックレスの金具を止めてくれた。

「うん、思った通り。瑠璃さんによく似合う」

前を向かせて確認すると、嬉しそうに言う。

「ありがとう」

お礼を言うと

「できればずっと着けていてもらえると嬉しいな」

「いいけど・・・なぜ?」

「瑠璃さんはぼくのものだって言う印だからね。こうでもしないと、どこかのイケメンサンタにさらわれてしまうだろ」

あたしの目をのぞきこみながら、ふと疑わしそうな目で笑った。

あらら・・・聞かれてたのね。

「高彬、馬鹿なこと言ってごめんね。どうしてもイブの夜は高彬と過ごしたかったのよ・・・だから余計に腹が立って、あんな心にもないこと言っちゃって・・・」

つぶやくと、高彬が肩に手を回してきた。

「ぼくだって瑠璃さんと過ごしたいと思っているよ。イブの夜と言わず・・・・どんな夜もね」

高彬ったら・・・・。

あたしは無言で抱きついた。

抱き返してきた高彬の手に触れられている場所が、熱を持ったみたいにじんじんと熱くなる。

この言葉の方がネックレスなんかよりも、あたしには最高のプレゼントよ。

見つめ合って接吻をし、また見つめ合って接吻をする。

どんどん深くなり、止まらなくなる。

サンタクロースが忙しく世界中を飛び回っているというイブの夜、あたしたちはそれはそれは心を込めて夜遅くまで仲好くし、だけどちょっと熱心になりすぎて、翌日、揃って風邪をひいてしまったのだった。









                          <Fin>




(←拍手お礼。時々更新してます)

コメントの投稿

Secre

zouさま

コメントありがとうございます!
ジャパネスクの時代設定は、平安後期ちょっと手前くらい、って感じなのかな?と思っています。
瑠璃たちの子孫はどうなっていくんだろう・・・とフィクションながら心配になっちゃいますよね。
ssも楽しんでいただけたようで良かったです。
私も書いていて楽しかったです♪
またぜひお立ち寄りくださいませ。

新作読みました!

とっても素敵な新作でした。
平安の世とクリスマスイブのコラボがまったく違和感ないですね!あいかわらず仲の良い瑠璃と高彬で読んでてほっこりしました。瑠璃姫はますますかわいらしく、高彬はますますかっこよく、ですね。
最初に高彬が仕事してるときは、また帝にいじめられてるのかと思いましたけど、後で高彬によると宮中が混乱気味とのこと、なんだか心配になってきました。ジャパネスクの時代は少なくとも源氏物語成立後としかわかりませんけど、平安末期に近づくにつれて時代は混乱を極めてきますもんね。フィクションではありますが。。
年末のお忙しい中、素敵なSSをupして頂きましてありがとうございました。

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瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

高彬と瑠璃のイラストは「~花の宵夢アンコール~」管理人の藍さんにいただいたものです。

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