***短編*** <続>One spring day ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は一話完結です。


    
           




***短編*** <続>One spring day ***








「小萩、早く早く」

高彬の風邪が心配なのと、持って生まれたせっかちな性質で、ついつい小萩を急かしてしまう。

「姫さま、少将さまのお身体が心配なのは分かりますけど、そう慌てては良いお薬湯が出来ませんわ」

京にいる時、小萩は薬湯を煎じたりはしないけど、ここ吉野にいる時は小萩の担当となる。

三条邸に比べ圧倒的に人手が少ない山荘では、女房や雑色の一人当たりの負担は増えてしまい、その分、と言うか、だからこそ選りすぐりの者たちを連れてきている。

まさしく<少数精鋭>と言う感じ。

しばらく待って出来上がった薬湯を盆に載せ、小萩と一緒に部屋へと向かう。

部屋に入り几帳を回り込むと、さっき急ごしらえで作らせた寝所で高彬が横になっている。

膝を付き、そっと顔を覗き込むと、目を瞑り眠っているように見える。

「高彬」

そっと声を掛ける。

「薬湯持ってきたわよ」

耳元に近づけて言うと、あたしの声に反応するように高彬の目が開けられた。

「寝てた?起きられる?」

「いや、目を瞑っていただけ」

高彬は言い、肘を付くと上体を起こした。

「さ、飲んで。これを飲んで寝れば、たちどころに良くなるはずよ」

病は気からって言葉があるくらいなんだから、その逆もまた然り、よね。

薬湯を疑心暗鬼で飲むのと

(絶対、効く!)

と思って飲むんじゃ雲泥の差があるはずよ。

鄙びた吉野では有能な医師なんかなかなか呼べないから、この際、思いこみだろうと暗示だろうと何でもいいから、この薬湯を飲んで高彬には回復してもらわなくっちゃ。

吉野に来て風邪で寝込まれたんじゃ、わざわざ吉野に来てもらった甲斐がないもの。

「・・ふぅ」

やがて飲み終えた高彬は小さく息を吐くと

「薬湯のせいかな。何だか眠くなってきたよ」

目をこすると、チラリとあたしの横に控える小萩に目線を送った。

その視線でピンときた。

「小萩、ここはいいから下がっていいわよ」

一礼し小萩が部屋を出て行くと、高彬はホッとしたような顔で身体を横たえた。

やっぱり思ってた通り、小萩がいると落ち着いて眠れないみたいね。

白梅院の女房ならともかく、婚家の女房の前だと、例えそれが小萩でもやっぱり完全には寛げないんだと思う。

女房に何を気を遣うんだって感じだけど、高彬ってそう言う人なのよ。

ほんと、お固いって言うか、根が真面目って言うか。

ま、そこが高彬の良いとことでもあるんだけどね。

横になり目を閉じた高彬から、ほどなくして寝息が聞こえて───

と思った次の瞬間、あたしは夜具に倒れ込んでいた。

正確に言うと、高彬の身体の上に。

一瞬、何が起きたのか分からずポカンとしてしまったんだけど、何てことはない、高彬に腕を掴まれ、グっと引き寄せられていたのだ。

慌てて顔だけ上に向けると、じっとあたしを見てる高彬と目が合い、状況だけ見たらさっきの野原と全く同じ構図なんだけど・・

「な、な、何よ、どうしたの、高彬。苦しいの?」

まさか風邪が急激に悪化でもして、助けを求めて腕を引かれたのかと思って聞いてみると

「いいや、治った」

「治った?」

ケロリとした口調に、思わず頓狂な声が出てしまう。

「な、治ったって、こんなに早く?!」

「うん」

「うんって・・・」

「何を驚いてるんだよ。この薬湯を飲んだら、たちどころに良くなるって言ったのは瑠璃さんじゃないか」

「そりゃ言ったけど・・」

「だから治った」

「・・・・」

いくらなんでも早く治り過ぎでしょ・・・

ポカンと見てると、にっこり笑いながら高彬は上体を起こした。

釣られてあたしも同時に置起き上がる。

小萩ったら───

案外、凄腕の薬湯師なのかしら?

あの子、女房勤めなんか辞めて、いっそ、薬湯師としてキャリアを積んで行った方が未来は明るいのかも・・・

何てことを考えていると、あれよあれよと言う間に接吻をされていた。

唇が触れあうだけの軽い接吻。

すぐに離れた高彬の顔を、瞬きもせずに見てしまう。

にっこりと笑う屈託のない顔。

「ねぇ、高彬。風邪は?大丈夫なの?」

「だからもう治った」

「ウソよ、だってこんなに早くに・・」

高彬はクスッと笑うと、あたしの頭に手を乗せた。

「治ったと言うのはウソ」

「はら、やっぱり。だったら横にならないと・・・」

「そもそも風邪なんてひいてないんだ」

「・・・へ?だってさっきあんなに顔が熱くて・・」

「確かにね。でも、風邪じゃないんだ」

「・・・・」

「瑠璃さんが勝手に風邪だって思いこんだだけ」

クスクスと笑い、あたしの頭をポンポンと軽く叩いたりしている。

なんだ・・、そうだったんだ・・・

あたしはまたてっきり、仕事の疲れやら道中の疲れやらがあって、あんなところでうたた寝しちゃったから、すっかり風邪だとばかり思っていたわ。

まぁ、風邪じゃないなら良かったけど。

でも、それなら。

「ねぇ、だったらまだ明るいし、またお散歩行きましょうよ」

せっかくの吉野だもの。

春の天気は変わりやすいし、ましてやここは山の麓。

今日、晴れていたって明日の天気はどうなるか分からない。

「うん、でも、まぁ・・」

ウキウキと提案したのに、高彬の返答が今一つなので

「ねぇ、だめ?」

もう一押しとばかりに言い募ってみる。

「うーん、そうだなぁ。・・・せっかくぼくがいるんだから夜の散歩って言うのはどうかな。今夜は月明かりだろうし」

「わ、素敵!」

手を打ち付けると

「だろ?」

高彬も嬉しそうに頷き

「その代わりと言っては何だけど・・・」

チラリ、と視線を夜具に落とした。

「・・・」

妻ですからね、高彬の言わんとしていることが判ってしまう。

「でも・・、まだ、明るいし・・」

「寝所を用意してくれたのは小萩だからね。有効に活用しないと」

「・・・」

うーん・・・

どうしよっかなぁ・・・

あたしは目を伏せた。

決してイヤなわけじゃないの。

ずっと仕事が忙しくて、その・・・、そういう事するの久しぶりだし・・・

でも、まだ明るいし、高彬はさっき到着したばかりだし、部屋に入るなりいきなりって言うのは・・・ハシタナイって言うか・・

「小萩だって、ぼくが寝てると思ってしばらくはこないだろうし、京と違って使用人も少ないから落ち着けるし」

「う、うん、まぁ、それはそうだけど・・」

「何よりもぼくが我慢出来なくなってるし」

「え」

普段、滅多には言わない、どストレートな発言に驚いて顔を上げると

「ずっと会えなかったから・・」

照れくさそうに言い、あたしの指先に指を絡めてきた。

指先からじんわりと高彬の熱が伝わってくる。

手の平を指先で撫でられ、まるで愛撫を受けているかのような感覚にドキリとする。

もう一度、今度は少し長めの接吻をされ、唇を離すと、高彬はすっかりオトコの顔になっていた。

「いい?」

確認するように聞かれ、コクンと頷きながら、心の中で小さく笑う。

何が(いい?)よ。もう始まっているじゃない。

ヤダって言ったって、後戻りなんかしてくれないくせに。

優しいけど、迷いのない力強い動作で、あたしは横たえられ───

その後、高彬とあたしは存分にお互いを堪能し合い、目が覚めたらお散歩に行こうと約束をかわし、スーッと二人揃って眠りに落ちたのだった。





<終>



珊瑚さん、コメントありがとうございました。
私の拙い作品が珊瑚さんの頑張りの素になっていただなんて、本当に嬉しいお言葉です。
こちらこそありがとうございます。
またよろしくお願いします。



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Secre

めろんぱんださま

めろんぱんださん、こんにちは。

> こんばんは。
> 順調に更新されていてうれしいです。

ありがとうございます<m(__)m>

> これも瑞月さんの原作への愛情や
> 深い解釈の賜物だと思います。

いえいえ、そんな過分なお言葉を・・・
でも、自分の中で色褪せない原作への思いはあり、そんな作品に出会えたことは私の人生の宝物だと思っています!
いつも温かい言葉をありがとうございます。

ベリーさま

ベリーさん、こんにちは。

> 小萩、わざとでしょう笑

わざとっぽいですよね!小萩も高彬からかうの、密かに楽しんでたり(笑)

> 月夜の明かりのデートも捨てがたいですねー♡そんな誘い方といい、 いよいよ朴念仁から脱皮ですか うふふ

2人とも月明かりデートしたんでしょうかね?
爆睡したか、それともお互いに寝所から出られなくなってたり・・?

とろくまさま

とろくまさん、こんにちは。

更新を楽しみにして下さりありがとうございます!
社会人編もう随時更新予定です。もうしばらくお待ちいただければと思います。
励ましの言葉もありがとうございます!

No title

こんばんは。
順調に更新されていてうれしいです。

吉野の医師事情や高彬くんを思いやる
瑠璃さんの心境が細やかに描写されていて
短編ながら、中身が濃いですね。
これも瑞月さんの原作への愛情や
深い解釈の賜物だと思います。

夫婦になった高彬くんと瑠璃さんの
駆け引きも楽しくってちょっと色っぽくて
こそばゆいです。

これからも、楽しみながら創作されますように。
また更新してくださるのを楽しみにしています。

小萩、わざとでしょう笑
笑っちゃうな〜。おまけの話、好きです。なんだか裏話みたいで、得した気分になります(^^)
月夜の明かりのデートも捨てがたいですねー♡そんな誘い方といい、 いよいよ朴念仁から脱皮ですか うふふ
もうこの際小萩にはバレバレなんだから好きなだけ仲良くどうぞ、ですね!

おかえりなさい

瑞月さんおかえりなさい。ずっとずっと更新されるの待ってました。やっと新作が読めて嬉しいです。社会人編や完結してない話が読みたいです。誹謗中傷に負けないで!!
人は人ですよ。
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瑞月

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