***短編*** 情緒とか、風情とか。***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は一話完結です。


『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
今回のお題は「霜or椿」でした。

<おまけの話>下にあります。
          
           





***短編*** 情緒とか、風情とか。***








「瑠璃さん、どうしよう」

ただいま、もあらばこそ、部屋に入ってくるなり高彬は言い、しかも先導の女房がいると言うのに、両手であたしの手をギュウギュウと握りしめてくる。

「ど、どうしたのよ」

放っておいたらこのまま抱き付いてきそうな勢いに、あたしはチラチラと女房を見つつ言った。

「大変なことになったんだ」

「だから何が」

普段だったら理路整然と話す人なのに、まるで融が乗り移ったみたいな要領を得ない話し方に段々と不安が募ってくる。

「何があったの。聞くから。落ち付いて」

女房を下がらせ、2人きりになったところで、まずは落ち着かせるために、高彬の両肩に手を乗せ座らせる。

向かい合って座り、両手を包み込んであげながら

「何があったの?高彬」

保母さんよろしく優しい口調で聞く。

まだ結婚する前のこと「あたしたちって姉さん妻と、コドモ夫なのね」なんて思ったことがあったのを、久しぶりに思いだしてしまった。

「実は歌合わせに出なきゃいけなくなったんだ」

「え。歌合わせに?高彬が?」

「うん」

何とも情けなさそうに言い

「本当にどうしたらいいのか・・・」

大きなため息を吐く。

「歌合わせって、前に言ってたやつ?新年を寿ぐために帝が開催するとか言う」

「うん。近衛府から一名と言うことになってさ、で、気が付いたらぼくに決まってたんだ」

「気が付いたらってそんな・・・」

「右大将どのがおっしゃるには、今上が直々にぼくをご指名なさったと言うことらしくて・・・、本当のところは判らないけど」

「・・・」

高彬が歌が苦手なことは宮中で広く知れ渡ってるらしいし、それなのにわざわざ指名してくるなんて、高彬に恥をかかせてやろうとでも思ってるに違いないわ。

鷹男め、なんちゅうサドなのよ。

「誰か他に近衛府から出てくれそうな人はいないの?」

「いないね。皆、ぼくが出るってことに大喜びでさ。面白いから出ろ出ろって」

「んまぁ・・」

呆れた。

なまじっか他が有能で敵わないもんだから、きっと高彬が苦手な歌のことで笑い物にしようって魂胆に違いないわ。

ほんと、陰険で幼稚なんだから。

「わかったわ、高彬。今日から特訓よ!」

「え」

「この際、泥縄式だろうが付け焼刃だろうが、そんなこと構うもんですか。とにかくそれなりに形にして、せせら笑う気マンマンの奴らの鼻をあかしてやるのよ!」

「でも、瑠璃さん、歌合わせまで一週間だよ。たった一週間で間に合うかな」

「間に合うかな、じゃなくて、間に合わせるのよ、高彬!成せば成るよ!」

「・・・」

───と言う経緯で、高彬とあたしの秘密の猛特訓が始まったのである。



******



「何なの、これ」

一読し、あたしはあんぐりと口を開けた。

料紙にはミミズが這ったようなヨタヨタ文字で

「川上の つらつら椿つらつらに 見れども飽かず 京の春野は」

と書いてある。

特訓4日目の今日、出したお題は「椿」で、確かにお歌の中に椿が詠まれてはいるけれど、だけどこれは古(いにしえ)の歌人が詠んだ

「川上の つらつら椿つらつらに 見れども飽かず 巨勢(こせ)の春野は」

と言う歌をアレンジ、と言えば聞こえは良いけど、何てことはない、地名を変えただけじゃないの。

「勉強不足です。もっと工夫しましょう!!」

朱色の墨で大きくバツを書いた上に一言書き加え、待たせていたお使者に託し宮中にいる高彬に届けさせる。

翌日のお題は「霜」。

少しは上達してるかしら、と期待に胸膨らませてはらりと開いたあたしは、思わず料紙を床に叩きつけそうになってしまった。

料紙に書かれていたのは

「霜雪も いまだ過ぎねば、思はぬに 吉野の里に 梅の花見つ」

と言う歌で、だからこれも古のお歌の「春日の里」を「吉野の里」に変えただけじゃないの!

もう!高彬ったら!

やる気あるのかしら。

返事も書かずに帰宅を待つと、夜も更けた頃、高彬が部屋に入ってきた。

「高彬、何なのよ、あのやる気のないお歌は」

「そ、そうかな。それなりに情緒溢れる歌に仕上げたつもりなんだけどな・・」

「なーにが情緒溢れるよ、既存の歌の地名を変えただけじゃない」

ぴしゃりと言ってやると

「え、瑠璃さん。あの歌知ってるの」

「知ってるわよ」

そう言えばいつかのお歌も盗作スレッスレだったわよね、と言う言葉は取りあえず胸に収めておく。

「ねぇ高彬、歌合せは明日なのよ、分かってるの?」

「うん・・・」

「いくらあたしが頑張ったって、高彬が頑張ってくれないことには・・・・、ねぇ、どうしたの?大丈夫?」

叱咤激励してたあたしは、途中で高彬の様子がおかしいことに気が付き顔を覗き込んだ。

気のせいか顔が赤くどこか気だるそうで、それに───

ほとんど無意識に額に手の平を当てたあたしはギョッとした。

額が燃えるように熱い!

「高彬、熱があるじゃない」

「うん・・」

「いつから」

「昼くらい、からかな。昨日からちょっとおかしいなとは思ってたんだけど、急に悪くなって」

「何でそれを先に言わないのよ。とにかく早く横になって」

直衣を脱がせ、設えてあった寝床に横にならせる。

女房らに言い付け、白湯と濡らした小布を用意した頃には、ますます高彬の容態はひどくなっていた。

仕事を終え帰宅したことに安心し、一気に悪化したのかも知れない。

こんな体調じゃ歌なんか考えられなかっただろうし、きつい言い方をして悪かったかな・・・

高彬の熱はどんどん上がり、小布を取り換えたりしてるうちに白々と夜が明けて行き、結局、寝ずに看病してしまった。

朝になっても高彬の容態は思わしくなく、それなのに高彬は

「・・・行かなきゃ」

起き出そうとするので、慌てて押しとどめた。

「ダメよ、この熱じゃ無理よ。今日は休まなきゃ」

「でも、歌合せがあるし・・」

「高彬が休んだら誰かが代わりに出てくれるわよ。第一、この状態じゃ歌なんか浮かばないでしょ」

それでも何のかのと粘る高彬を何とか説得し、右大臣家の従者を通して宮廷に使者を送らせた。

高彬の熱はしばらく続き、その間、殆ど水分だけで過ごし、ようやく回復の兆しが見えて来たのは、4日目の朝のことだった。

「歌合せが嫌でサボったと思われたかも知れないな」

久しぶりに寝床を離れ、楽な恰好で脇息に寄りかかりながら呟く。

回復してみれば、気になるのはやっぱり歌合せのことらしかった。

「気にしなくていいわよ。実際、3日も熱に苦しんでたんだから」

「うん、まぁ・・。でも、色々言われるだろうし、少しばかり気が重いかな、出仕するのが」

気弱そうに苦笑するので

「だったらもう行かなくていいわよ。2人で寺住まいしましょ」

にっこりと笑いながら言うと、高彬は何とも複雑な表情を見せた。

嬉しそうでもあり、照れくさそうでもあり、だけど喜んでるとは悟られたくなさそうな顔。

あたしに顔を見られたくないのかちょっとだけ下を向いて黙り込み、ふと庭に目を向けた。

「歌は・・、ぼくは本当にセンスがないのかも知れないな。情緒とか、風情とか、本当に苦手で」

照れ隠しなのか話題を変え、大袈裟にため息なんか吐いている。

あたしはゆっくりと瞬きをした。

こんなとこ見ると、高彬のことが本当に可愛くて仕方がなくなる。

可愛げのある高彬が、あたしは大好き。

確かに高彬は、情緒とか風情とかをお歌にするのが不得手かも知れないけど。

そんなことがなんだと言うの。

病み上がりで幾分痩せ、襟足の髪が若干ほつれ、ため息を吐いてる高彬の憂いのある横顔は───

情緒溢れる、魅力的な公達の風情を存分に醸し出していたのでは、あった。






<終>






<おまけの話>






「何て言うか本当に・・・、瑠璃さんが妻で良かったよ」

憂いのある顔でしばらく庭を眺めていた高彬がふいに呟いたので

「え?!」

同じように庭を見ていたあたしは、びっくりして思わず大きな声が出てしまった。

あたしが妻で良かった?

何なの、何なの、この突然の告白めいた思わせぶりな台詞は。

てっきり、甘美な文言が続くのかと思っていたあたしは、次の高彬の言葉にがっくりきてしまった。

「ほら、幼馴染の気安さもあるし、もともと瑠璃さんも情緒とか風情とかに重きを置くようなおしとやかな姫じゃないだろ。なんたって物の怪付きだし。だから日常的に歌を贈れとか言われないしさ、ほんと、良かったよ」

心底、そう思っているみたいで、あまりにしみじみと言うので、これ見よがしに頬を膨らませてやる。

前言撤回。

ついさっき

(確かに高彬は、情緒とか風情とかをお歌にするのが不得手かも知れないけどそんなことがなんだと言うの)

と思ったばかりだけど、当の本人に言われると

(ちょっと違う!)

と言う気がしちゃうわ。

自分で言うのもなんだけど、オンナ心ってほんと複雑。

「何言ってるのよ、高彬。あたしだって、出来ればうっとりするようなお歌をもらいたいわよ」

「え」

「もちろん毎日ね」

「えぇっ!」

驚愕の表情を浮かべる。

「それに何よ、あたしが情緒や風情を解せないだなんて。あたしはねぇ、高彬のレベルに合わせてあげてるのよ」

ツンと横を向いてやると、さすがにやぶ蛇発言だったと気付いたのか、慌てたように

「そうだよね、瑠璃さんは情緒も風情もある姫だよね。ごめん、ごめん」

と謝ってきた。

だけど、身の保身のために謝っているのは明らかで

「ぼくのレベルにねぇ・・」

なんて小声で呟いていて、真剣みが足りないったらありゃしない。

まったく失礼しちゃう、高彬はあたしをどんな姫だと認識してるのかしら。

あたしだって本気出せば、並居る殿方をうならせるくらいのお歌は即興で詠めるって言うのに・・。

だけど、ここで不用意にそんなこと言ったら、またぞろ嫉妬心をメラメラ燃え上がらせて

(瑠璃さん、過去にそんなことがあったの?)

なんて疑いを招くことにもなりかねないし、口は災いの元って言うし、ま、黙っていましょ。

夜になり、横になる準備をしながら高彬が

「歌、やっぱり勉強した方がいいかな・・・」

あらぬほうを見ながらボソッと呟き、あたしはまじまじと見てしまった。

よく見ると、目の下がうっすらと赤くて、あたしに見られてることを十分に意識しているみたいで、見てるうちにくすぐったいような気持になってしまった。

高彬ったら、日中、ずっと考えてたのかしら・・?

「・・・・」

うふふ・・・

だとしたら、可愛いの。

「どう思う、瑠璃さん」

あたしの視線に耐えられなくなったのか、ふいにあたしに顔を向け、その表情は真剣そのもので───

「大丈夫よ、高彬はそのままで。歌なんか下手でも、高彬には他に良いとこいっぱいあるんだから」

思わず励ましてしまい

「ほんと?瑠璃さん」

「ほんと、ほんと」

請け合うと高彬は嬉しそうに頷き

(ほんと、あたしたちって姉さん妻と、コドモ夫なのねぇ)

と改めて思ってしまう。

まぁ、いいんだけどね。

グイグイ引っ張ってくれる殿方も憧れるけど、こんな感じも悪くないし・・・

なんて思っていたら、ググ、グイっと引っ張られ、気付いたら横たえられていた。

あらら。

「歌で瑠璃さんにレベル合わせてもらってるから、ついでと言ったらなんだけど、ここでもぼくにレベル合わせてもらおうかな」

「へ?何?何のこと?レベル?合わせるって何を?」

「まぁ、いいから」

あっという間に唇をふさがれ、袿も脱がされてしまう。

「ちょ、ちょっと、高彬。あなたまだ病み上がり···」

「いいから黙って」

ぐいぐいリードされ、翻弄され───

朦朧とした意識で思う。

前言撤回!

一体これのどこがコドモ夫なのよ・・・






<おしまい>


更新滞り中で申し訳ありません。
風邪もひかずインフルもかからず、おかげさまで元気に過ごしております。
皆さんもどうぞご自愛ください。

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高彬と瑠璃のイラストは「~花の宵夢アンコール~」管理人の藍さんにいただいたものです。

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