社会人・恋人編<84>

瑠璃さんが出社してきたのは、午後になってからだった。

昼ごはんは外で済ませてきたみたいで、席に付くとすぐにパソコンを立ち上げ仕事に取り掛かり始める。

「・・・」

病院に行った理由を聞きたいけど、さすがに社内で聞くのは憚られてチラチラ見ていると───





─Up to you !Ⅱ─<第84話>






「・・・何よ」

ぼくの視線に気が付いたのか、開いたノートブックに顔を隠すようにしながら、瑠璃さんが小声で話しかけてきた。

「病院って何。どうしたのさ」

同じように顔を隠すように小声で返すと、無言のまま、瑠璃さんはぼくをじっと見てきた。

その視線の強さに思わずたじろぎそうになりつつ、心の中では

(やっぱり、もしかしたら・・・)

なんて思っていた。

「後でゆっくり話すわ」

パソコンの画面に顔を戻して瑠璃さんは言い

「わかった」

ぼくは頷いた。

落ち着かない気分のままに午後の仕事を終え、定時のチャイムが鳴ったところで瑠璃さんの顔をチラリと見ると、瑠璃さんもぼくを見ていて、そのまま自然に退社する。

「どうする、瑠璃さん。今日はこれから・・」

「高彬の家に行くわ」

駅までの道を歩きながら、前を見たままさりげなく聞くと、迷うことなくスバリと瑠璃さんが言ってきた。

「・・・」

これはいよいよ・・・

水無瀬じゃないけど、結婚が一気に現実味を帯びてきたような気がして、何とも浮き足立ってくる。

いや、結婚より何よりも、ぼくは父親になるわけで・・・

瑠璃さんと出会うまでは、結婚とか、ましてや自分が父親になることなんて考えたこともなかったけど、でも、一気に妻子持ちになるわけで、人生なんて、案外そんなものなのかも知れない。

そうしたら、益々、仕事を頑張るのは当たり前として、現実的には家族が増えることを思えば引っ越しも考えなきゃいけないし、いや、そんなことよりも、まずは瑠璃さんのご両親にきちんと挨拶しに行かなきゃ行けないわけで・・・

「鍵」

「え」

「え、って。鍵、開けてよ、早く。入れないじゃない」

気が付いたら、いつの間にかマンションに着いていたみたいで、玄関の前で瑠璃さんに催促されてしまった。

急いで鍵を開けると、瑠璃さんはずんずんと中に入って行き、ドスンとソファに腰を下ろした。

「瑠璃さん。そんな乱暴に動いたら身体に・・・」

「高彬」

ジロリとぼくを見る。

「何」

「座って」

隣をポンと叩いて促すと、ふと、思い出したように

「やっぱりこっちにするわ」

瑠璃さんはダイニングテーブルに場所を移した。

自分でイスを引き座ると、前のイスに座るようにぼくに身振りで促してくる。

言われた通り座ると、瑠璃さんは腕を組んだ。

「・・・」

これは・・・

妊娠を報告するようなムードじゃないし、むしろ、どちらかと言うと怒っているようにさえ見える。

照れくささからの態度とも違うようだし・・・と思っていると

「高彬。あたしにまだ隠してることあるでしょ」

「は?」

「とぼけないで。証拠は挙がっているのよ!」

バン、とテーブルを叩かれ、反射的に身を引いてしまった。

「証拠って・・・」

「政文よ」

「え」

「政文にあたしを尾行させてたでしょ」

「・・・」

心の中で舌打ちをする。

瑠璃さんにバレてるじゃないか。

政文の奴、どんなヘマしやがったんだ。

「どうしてそんなことするのよ。あんた、まさか、あたしが浮気するとでも思ってるの?」

「ち、違うよ、瑠璃さん。そんなんじゃないよ」

瑠璃さんの怒りの原因はこれだったのか、と納得しつつ、ぼくは慌てて理由を伝えた。

渋谷でのことを思えば、これくらいの予防策は必要であること。

瑠璃さんに伝えなかったのは、きっと瑠璃さんは嫌がるだろうと思ったこと。

「だから、瑠璃さんの浮気を疑ったとか、そんなんじゃないよ」

黙ってぼくの話を聞いていた瑠璃さんは、しばらくは不満そうに唇を尖らせていたけれど、それでも何とか判ってくれたみたいで、最後には

「わかったわ」

と頷いた。

それでも

「ねぇ、高彬。もしあたしの浮気を疑うようなことがこの先あったとしたら、その時はズバリと聞いてきてよね。正直に答えるから。あたし、影でコソコソ探られたりするのイヤなのよ」

まっすぐにぼくの目を見ながら釘を刺してきて、絶対に浮気はしない、と断言しないところも含めて、それはいかにも瑠璃さんらしい正直な言葉だった。

「わかった」

頷くと

「・・・まぁ、浮気をする気はない・・けど・・・」

目を逸らしてぼそぼそと言い

「うん」

笑って頷き返す。

「ぼくも、まぁ、その気はないけど」

「・・うん」

<絶対>と言い切る危うさを思えば、これくらいで充分だろう。

何となく甘やかなムードが流れ、でも、ふと気になることがあった。

「で、瑠璃さん。病院は何だったのさ」

「その政文よ」

「え」

「転んで足を挫いたの」

「・・・」

「朝、駅までの道を歩いてたら『わぁ』だか『うぉ』だか聞こえてきて、声のした方に行ってみたら、政文が泣きそうな顔でうずくまってたのよ」

あの、バカ・・・。

「で、病院に連れて行ってやったってわけ」

「・・・」

「で、高彬の言い付けで、あたしを尾行してるって白状させたってわけ」

「・・・」

政文の奴、そこまで言うんなら、尾行は瑠璃さんを心配してのことだって言ってくれよ・・・

「それにしても、どうして政文からは連絡ないんだ・・」

独り言ちると

「あぁ、それは、あたしが口止めしたの。直にとっちめるから連絡したらだめよって。言う通りにしなかったら、小萩に言い付けるわよってね」

瑠璃さんはにっこりと笑い、ぼくはがっくりと肩を落とした。

瑠璃さんに、敵うわけなかったか・・・

「とにかくね、高彬。捜査官として協力し合いましょうよ」

「してるつもりだけど」

「よく言うわよ。絆ばっかり深めたがって」

「・・・」

「これ以上、隠し事されたら、場合によっては、絆深めるの禁止にするわよ」

「いや、それは・・・」

非常に困る、と言い掛けたところで、携帯の着信音がして、画面を見ると守弥からだった。

「もしもし」

通話ボタンを押すと

『若君。今、よろしいですか』

守弥の声が聞こえてきた。

「大丈夫だ。何かあったのか」

『実は・・・』

事件のことだと気付いた瑠璃さんは、立ち上がって回り込むと、話を聞こうとぼくの携帯に耳を近づけてきた。

正直に言えば、瑠璃さんはもう事件から離れて欲しかったけど、尾行もバレたこの状態ではもう仕方ないだろう。

「守弥、ちょっと待ってくれ」

耳から携帯を離してスピーカーボタンを押すと、テーブルに置く。

「いいぞ、続けてくれ」

『はい。若君、実は・・・』

スピーカーから守弥の声が流れてきた。






…To be continued…


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