***短編*** うつくしき、をみな ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




※リクエスト企画作品※

注)このお話は一話完結です。平安編設定の2人です。
               
        






***短編*** うつくしき、をみな ***







もう少し、早い段階で気付いておくべきだった────

いや、手を打っておくべきだった。

目の前には、きっちりと下ろされた簾。

そっと手で掬い、入って行こうとすると

「入っちゃダメ!」

中から、ツンケンとした瑠璃さんの声が聞こえた。

「瑠璃さん、謝るからさ。取りあえず、顔を見せて」

「嫌!だめ!無理!」

「・・・」

拒否の三連発。

どうしてこんな事態になったのか───

話は10日ほど前に遡る。



******



「沙耶姫を預かる?」

話があるから右大臣邸に寄って欲しいと由良からの伝言があり、久しぶりに仕事帰りに自室に戻ってみたら、由良はすでに部屋の真ん中に座っており、ぼくの顔を見るなり

「お兄さま、沙耶姫を預かってあげてください」

と言ってきた。

由良の隣には沙耶姫がいる。

沙耶姫と言うのは母方の縁戚の姫で、由良と仲の良いことから、ぼくも何度となく会っている姫だ。

由良よりも数歳下で、今年で12になるはずだった。

裳着も済ませておらず、切り揃えた前髪の下に見える目元が、どこか由良に似ている姫である。

「沙耶姫を預かるって、一体、どうして」

全く事態が飲み込めずに聞いてみると

「沙耶姫のピンチなんです」

「ピンチ?」

「はい、お願いします、お兄さま」

「お願いします、お兄さま」

ちなみに2度目の「お願いします」は沙耶姫で、兄がいない沙耶姫はぼくのことを「お兄さま」と呼ぶのだ。

「まぁ、別に預かるくらいならいいけど・・・」

一人は正真正銘の妹、もう1人はぼくを「お兄さま」と呼ぶ妹のような姫2人に頭を下げられるとどうにも落ち着かず、ついつい甘い返事をしてしまったのだけど、ぼくはすぐに後悔する羽目になった。

よくよく話を聞いてみると、まず沙耶姫の「ピンチ」と言うのは、来年に予定している裳着とセットにして、縁談をやんわりと勧められたことなのだそうで、昨今の結婚事情を思えば、それほどのピンチであるとは思えないと言う事。

裳着と同時に結婚すると言うのは、そう珍しいことではない。

そして、なぜ預かるかと言うと、親に対する「ストライキ」なわけで、まぁ、有体に言うと「家出」だと言う事。

更には、ここ右大臣邸に身を隠すことは、沙耶姫の親に取って想定内だから、ついては三条邸で預かって欲しいと、そう言う話であったと言う事。

一度は「預かるくらいならいい」と言ってしまった手前、今さらそれを180度覆すのも大人げない気もして、ぼくは一計を案じることにした。

まずは沙耶姫に、期間はきっちり一週間で、それを過ぎたら素直に自邸に戻ることを約束させ、裏で沙耶姫の親、つまりはぼくの叔父貴に連絡を入れ、沙耶姫はぼくが預かるから心配しないで欲しいと伝えた。

まぁ、これくらい、当然の根回しと言えるだろう。

後は瑠璃さんに事情を話し、三条邸の一部屋で一週間、沙耶姫を預かってもらえばいい。

一週間も家出の真似事をすれば、沙耶姫も気が収まるに違いない。

瑠璃さんに言ってみると、二つ返事で了解してもらえ、こうして沙耶姫は三条邸に一時預かりの身となった。

「妹が出来たみたいで嬉しい」

瑠璃さんは相好を崩して沙耶姫を迎え、全てはトントン拍子───

だったはずなのだが、3日目くらいから雲行きが怪しくなって来た。

仕事を終え、ぼくが三条邸に戻ってくると、大抵、沙耶姫は瑠璃さんの部屋にいることが多く、ぼくは2人の出迎えを受けることになるのだけど、何と言うか、沙耶姫が諸手を上げて歓迎してくれるのだ。

部屋に入って行くと

「お兄さま!」

今まで、瑠璃さんと遊んでいたであろう双六の賽を放り投げ、抱き付かんばかりの勢いで駆け寄ってくるのである。

「おかえりなさいませ、お兄さま」

「ただいま」

「おかえり」と言われたら「ただいま」と言わざるを得ず、そうなると、瑠璃さんは後ろで手持無沙汰に立ち尽くしている・・・

と言う格好になってしまう。

「お兄さま、今日はお仕事、どうでしたの?」

「何か、面白いことがありまして?」

矢継ぎ早に繰り出される質問に一つ一つ答えつつ、瑠璃さんの顔を窺うと、そこはやはり大人の女性のたしなみなのか、妻の貫録なのか、それは定かじゃないけど、微笑みを湛えた顔でぼくと沙耶姫のやり取りを見ている。

何となくホッとしていると

「お兄さま、沙耶と双六をして下さい」

「でも、今、瑠璃さんと・・」

「いいじゃない、高彬。沙耶姫としてあげなさいよ」

にっこりと瑠璃さんに言われ、結局、沙耶姫の相手をしてやることになった。

ルールをまだ良く分かっていない沙耶姫に教えてやりながらやっていると、沙耶姫は「もう一回、もう一回」と何度でもせがんでくる。

「さぁ、もう、今日はもう遅い時刻だ。沙耶姫も部屋に戻って寝なさい」

「お兄さま。沙耶もここで寝とうございます」

「それはダメだ」

「あらいいじゃない、高彬。ここで三人で寝ましょうよ」

「・・・」

またしても瑠璃さんはにっこりと言い、ぼくはこっそりと瑠璃さんの横顔を盗み見てしまった。

「・・・」

わからない。

本当の笑顔なのか、何か裏心のある笑顔なのか・・・・

だけど、沙耶姫がいる手前、それを聞くわけに行かないし、その夜は落ち着かない気持ちで川の字に寝ることになった。

この川の字の順番でもまた揉め、ぼくは何としてでも瑠璃さんを真ん中にしたかったのだけど、沙耶姫が

「沙耶はお兄さまの隣が良いです」

と言い、ぼくが真ん中で寝ると言う事態になってしまった。

「おやすみなさい」

ほどなくすると沙耶姫の寝息が聞こえ始め、それをしばらく聞いてから、ぼくは半身を起こして瑠璃さんを覗き込んだ。

目は閉じられ、寝てるようにも、寝たふりをしてるようにも見える。

わからない・・・。

「・・瑠璃さん」

小声で呼びかけても反応はなく、まさか揺さぶってみるわけにもいかず、諦めてそのまま眠りに就いた。

翌朝も、当然のように2人に見送られて出仕する羽目になり

「いってらっしゃいませ、お兄さま。つつがなくお勤めなさいますよう」

沙耶姫がませた口調で言い、その後ろで瑠璃さんは黙ってその様子を見ている。

車中、落ち着かない気持ちで首筋を撫でた。

愛人を持つと言う気持ちは、こんな気持ちなのかも知れない、と思う。

むろん、沙耶姫は愛人なんかじゃないけど、そう思う。

世間には、複数の愛人を持つオトコも多いけど、心底、尊敬してしまう。

あっちを立てればこっちが立たずで、皆、その辺りはどんな風に対処してるんだろうか。

そういえば・・・

ふと「源氏物語」の内容が思い出された。

かの光の君は、複数の女性を同じ邸内に住まわせていた。

確かその時に光の君は、例え他の女性の対の屋に泊まることになったとしても、帰宅した時は、まずは紫の上に顔を出していたような気がする。

読んだ時に「へぇ」と感心半分、呆れるの半分に思ったから印象に残っている。

沙耶姫は、一時的とは言え三条邸に住んでるわけだし、このことは心に留めておこう。

その道の達人の教えは、素直に聞いて置いた方が無難だ。

瑠璃さんがどう思っているのかは分からないけど、とにかく、帰宅したら、まずは瑠璃さんの部屋に直行しよう───

そう決心した矢先、もろくもそれは破られてしまった。

まだ陽のある早い時刻に帰宅することができ、足早に渡殿を歩いていると

「お兄さま!」

沙耶姫に見つかり、沙耶姫の部屋に引きずり込まれてしまったのだ。

結局、なんやかやと小半刻も引きとめられてしまい、急いで東の対の屋に向かったら、部屋に瑠璃さんの姿はなく、奇妙な顔をした小萩がぼくを出迎えた。

「小萩、瑠璃さんは?!」

勢い込んで聞くと、小萩は上目づかいでぼくを見ながら

「それが、部屋を飛び出してしまわれて・・・」

「飛び出した?!いつ?!」

「東門のざわめきに気付かれた姫さまが『じきに来るわね』とおっしゃられ、でも、待てど暮らせど少将さまがお見えになる気配がなく、遠く風に乗って少将さまと沙耶姫さまのお話になるお声が聞こえた途端、いきなり、すっくと立ち上がられて・・・」

「る、瑠璃さんは何か言ってたかい?」

「『あンの野郎』と・・・」

あンの野郎・・・

「他には?」

「『こうなったらプチ家出よ、家庭内別居よ』などと、ものすごい剣幕でおっしゃられ、そのままプイとお部屋を出て行ってしまわれました」

「・・・」

身の毛もよだつ言葉の羅列に、背中が震えた。

慌てて部屋を飛び出すと、瑠璃さんが行きそうなところを探してまわる。

だけど、思い付く場所を隈なく当たってみても瑠璃さんの姿はなく、ぼくは頭を抱えてしまった。

どこへ行ったんだろう、瑠璃さんは。

プチ家出、家庭内別居の言葉から察するに、外に出たとは考えずらいんだけど。

他に人目に付かずに隠れられる所といったら──

「・・・」

ふと、ひとつの場所が思い付き、急いで向かう。

辿り着いたのは車寄せだった。

ぼくが乗ってきた車が停まっている。

ここまで邸内を探していないんだから、いるとしたらここしかない。

そっと近づき、簾を手で掬い、入って行こうとすると

「入っちゃダメ!」

中から、ツンケンとした瑠璃さんの声が聞こえた。

やっぱり思った通りだった。

ぼくと入れ替わりに、車に乗り込んだのだろう。

簾からは手を離し、代わりに声をかける。

「瑠璃さん、謝るからさ。取りあえず、顔を見せて」

「嫌!だめ!無理!」

「・・・」

拒否の三連発か。

うーん、これはかなり手強そうだ。

「ごめん、入るよ」

返事を待たずに入って行くと、隅っこで膝を抱え膨れっ面をした瑠璃さんの姿があった。

断りもなしに入ってきたぼくを、ムゥとした顔で睨み付けてくる。

「瑠璃さん、ごめん」

隣に座り謝ると、瑠璃さんは身体ごとそっぽを向いた。

「本当、ごめん。真っ直ぐに瑠璃さんのとこに行きたかったんだけと、沙耶姫に引き留められちゃって」

ごめん、と顔を覗き込むと、また瑠璃さんは身体ごとぼくを避け

「ごめん」

「ごめん」

とそれを繰り返すうち、結局、瑠璃さんは一周してしまった。

「瑠璃さん」

このままだと埒が明かず、抱き上げ膝に乗せると、後ろから抱き締める。

「ごめんなさい、ぼくが悪うございました」

沙耶姫のませた口調を真似て言うと、瑠璃さんがクスリ、と笑う気配があった。

「・・・簡単に謝ったりして。本当にそう思ってるの?」

「思ってる。考えなしに幼い姫を預かったりして、本当に後悔してる」

「・・・」

「瑠璃さんも、妹が出来たみたいで嬉しいって言ってくれてたから、つい甘えて瑠璃さんに迷惑を掛けてしまった」

「それは別にいいけど。そう思ったのは本当だし。でも・・・」

「でも?」

「高彬、沙耶姫の言いなりなんだもん。沙耶姫、可愛いし・・」

「ムクれられて機嫌取るのも面倒だったし、まぁ、一週間の辛抱だって思ってたから」

「仲良くて、本当の兄妹みたいに見えたわ」

「由良がいるからね、兄業には慣れてるし。沙耶姫には兄君がいないから、昔からぼくを兄と思ってる節があるんだよ」

「あたしだって兄上が欲しかったわよ」

「・・・え」

「沙耶姫が羨ましい。あんなに素直に甘えられて」

「瑠璃さんも、ぼくに甘えたらいいじゃないか。何なら、期間限定で兄上になってあげてもいいけど」

「えっ」

よほどびっくりしたのか、瑠璃さんが身体を捻って振り返り、目を丸くしてぼくの顔を見ている。

「高彬が、兄上・・・」

「そう。どうかな。瑠璃さんが望むなら、お安い御用だよ」

「高彬がお兄さま・・・」

瞬きもせずに繰り返し言い

「高彬のこと、弟みたいと思ってたことはあったけど、兄上みたいと思ったことは・・・」

ぶつぶつと呟いたかと思ったら、はぁ、と大きな息を吐いた。

「やっぱり遠慮しとくわ。やっぱり高彬は高彬よ、兄上とは思えないわ」

「うん。だろ?ぼくも同じだよ。瑠璃さんのこと、姉さまみたいと思ってたことはあったけど、結婚した今となっては、やっぱり瑠璃さんは瑠璃さんなんだよ。姉上とか妹とか、そんな風には思えない」

「不思議だけど、その通りね」

「この先も、ひょっとしたら妹のような姫とかは出てくるのかも知れないけど、妻のような姫、なんて出てこないし」

そう言うと、瑠璃さんは吹きだして

「出て来たら一大事よ。分かってるでしょうね」

メッと怖い顔で睨む振りをしてくる。

「だから、出てこないって」

うつくしき、をみな───

ぼくにとっての「可愛い人」は、後にも先にも瑠璃さんだけなんだから、「妻のような人」なんて作る気もないし、そもそも生涯、妻は瑠璃さん一人なんだから・・・

その言葉が言わず、代わりに

「ねぇ、瑠璃さん、このままドライブに行こうか」

「ドライブ?!」

膝の上で瑠璃さんの身体がピョンと飛び上った。

「今日は東の市が開かれてる日だし、連れてってあげるよ」

「嬉しい!」

瑠璃さんとのドライブは楽しくて、ぼくたちは牛車の中でずっと手を繋いだまま、物見窓を開けてはおしゃべりしたり笑ったりしながら、久しぶりの夫婦水入らずの時間を過ごした。

やっぱり瑠璃さんと2人で過ごす時間は格別で、まったく持って、幼い姫なんか気軽に預かるものじゃない、と言う見解をぼくに強烈に印象付けた今回の出来事だった。

だけど、この話にはちょっとした続きがあり、小萩に何も言わずにドライブに出てしまったので、帰ったら、心配が高じた小萩に2人してこってりと叱られてしまったのである。

瑠璃さんのことで頭が一杯で、さしものぼくを根回しを忘れてしまったのだ。

終わることのない小萩の小言を聞きながら、小萩に取ってぼくと瑠璃さんは、出来の悪い妹と弟、のようなもの、なのかも知れないなぁ・・、とも思わされた一連の出来事ではあったのだった。





<終>


いただいたリクエスト内容は

設定は平安編で、高彬にとって妹的な存在の少し年下の可愛らしい姫が現れて、二人の仲良さそうな様子を瑠璃が目撃してしまいやきもちを焼き、高彬が瑠璃を宥めるのにあれこれいろいろ頑張るお話。
お兄さんぽい高彬と、年下の姫にやきもち焼く瑠璃が見たい。

でした。

妄想が膨らむ楽しいリクエスト、ありがとうございました!



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