***短編*** 蝶よ花よ、と。 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




注)このお話は一話完結です。


『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
今回のお題は「蝶」でした。

<おまけの話>下にあります。
          
           





***短編*** 蝶よ花よ、と。 ***








「と言うわけで、瑠璃さん、くれぐれも・・」

「大丈夫よ、この瑠璃に任せなさいって」

後宮へと向かう牛車の中、瑠璃さんは元気いっぱいに自分の胸を叩いて見せた。

胸を叩かれて見たところで不安は払拭されず、それどころか増すばかり、いや、有り体に言って不安しかない。

「・・・・」

ぼくはもう何度目かも知れないため息を吐いた。

姉上、つまりは承香殿女御さまの呼び出しで瑠璃さんを後宮に連れて行く最中なのだけど、これはもうパターン化してると言っていいほどのお決まりコースなのだ。

遊び好きの姉上が瑠璃さんを呼び寄せ、それに瑠璃さんがホイホイと乗る───

そうして毎回毎回ぼくは反対し、そうすると、これまた毎回毎回、姉上は

「そんなに心配なら、高彬、あなたも見張り役として同行して来たらいいではありませんか」

と仰られ、こうして牛車で三条邸に向かえに行く・・・

とまぁ、大体、いつもこういうパターンを辿ることになるのだ。

久しぶりに着飾った瑠璃さんは「重い、苦しい」と言いつつも満更でもなさそうで、機嫌よく牛車に揺られている。

「瑠璃さん、とにかく、もし話すことになったとしても適当にはぐらかすんだよ。決して本当のことをペラペラと喋ったりしないようにね」

「分かってるわよぅ」

とうとう瑠璃さんは頬を膨らませてしまい、ぼくは慌てて口をつぐんだ。

何も怒らせようとか、ましてや喧嘩をしようと思っているわけじゃない。

ただ何と言うか、今回は目的が目的なだけに、ぼくもついつい繰り返し口うるさいことを言ってしまうのだ。

今回の目的───

なんて言うと仰々しいけれど、今回、姉上が瑠璃さんを呼んだ理由は

「春ですし、女同士で楽しい時間を過ごしましょう」

とのことで、姉上は瑠璃さんの他にも妹の由良や気心の知れた女官たちを呼び集めていると言う。

そこで何をするかと言うと、まずは賽の目を振って「お題」を決め、くじで当たった人はそのお題について打ち明け話をしていく・・・

と言うことをするらしいのだ。

本当かどうか知らないけど、宮廷の女房たちの間で流行っている遊びらしい。

もちろん「お題」が「昨日、食べたものは?」や「好きな動物は?」なんてことになるわけはなく、まぁ、要は恋愛絡みの話になる、と、つまりはそう言うことらしい。

一体、それのどこが「楽しい時間」を過ごすことになるのかさっぱりわからないけれど、女の人同士、えらく盛り上げるらしいのである。

しかも、通常だったら「当たった人」が話して行くところを、今回は当たった人以外は全員話して行く、と言うローカルルールを姉上は作ったらしいのだ。

と言う事は、5人いたら4人は話すと言う事で、これはもう話すも同然、と思っていた方がいいと言うわけだ。

姉上や由良、後宮の女官たちの前で、瑠璃さんがぼくとの恋のあれこれを話すだなんて、想像するだに怖ろしい・・というものである。

何が「楽しい時間」を過ごしましょう、だ。

ホラーじゃないか。

何度も来ている勝手知ったる後宮、と言う感じで、瑠璃さんが渡殿を歩く姿はすっかりサマになっており、ぼくの胸中は複雑である。

「お待ちしておりましたわ、瑠璃姫」

部屋に入って行くと、姉上以下、由良も女官たちも勢揃いしていた。

その数ざっと十数人・・・

この中で瑠璃さんが恋の暴露話をするのかと思うと、陽光溢れる春だと言うのに、寒さで身震いがしてくる。

姉上は瑠璃さんを部屋の中央に招き入れ、ぼくは邪魔者と言う事で、部屋の隅も隅、廂の端っこに追いやられてしまった。

さすが姉弟となると遠慮という物がない。

「さて、さっそくですが始めましょうか」

姉上がそう言うと、控えていた女房たちは心得顔で格子を下ろし、妻戸を閉め始めた。

なんだなんだ、と思っていたら、姉上は手元にあった小さな籠の蓋を開け───

次の瞬間、一匹の蝶が飛び立った。

ポカンと口を開けてるのはぼくだけで、どうやら皆にはとうに分かっていた段取りらしく、にこやかに蝶を目で追っている。

「蝶が留まった人が『当たり』だなんて、さすがはお姉さまですわ」

由良が尊敬のまなざしを姉上に向け、ここにきてようやくぼくにも理解が出来た。

つまりは今、由良が言った通り、蝶が留まった人が当たり、───話さなくても良い人、と言うことなのだろう。

「雅ですわぁ」

「本当、春にぴったり・・」

女官たちがため息混じりに感嘆の声をあげ、恋の暴露話をする時点で「雅」とは掛け離れてると思うんだけど、ここでそれを口にする勇気はさすがになかった。

多分、総攻撃を喰らって終わりだ。

姉上が賽を振りお題が決まる。

最初のお題は「初めての接吻」で───

クラクラと眩暈がしそうになる。

ここで瑠璃さんがぼくとの接吻のことを話すと言うのか?シチュエーションとやらを?

知らぬが仏とは良く言ったもので、今回ばかりは同行してきたことを悔やんでしまった。

部屋の中をヒラヒラと蝶が舞い飛び

(どうか瑠璃さんに留まってくれ!)

と心の底から念じてしまう。

瑠璃さんに悪い虫が付かないようにと願ったことはあったけど、まさか、虫──蝶が留まってくれと願う日がくるとは思いもしなかった。

蝶はやがて羽を休める場を定めたようで・・・

ぼくの願いが通じたのか、蝶は瑠璃さんの頭に留まった。

歓声が上がり、瑠璃さんも笑っている。

暴露話が一巡し、次のお題のために姉上が賽を振り、次のお題は「言われて一番嬉しかった言葉は?」に決まり、そうして蝶は籠から飛び立ち───

またしても瑠璃さんに留まった。

その後も百発百中で蝶は瑠璃さんに留まり、瑠璃さんは暴露話を披露することなく後宮を後にすることになった。

「本当に良かったよ、瑠璃さん。どうしてだか蝶が瑠璃さんを好いてくれて」

帰りの牛車の中、安堵のため息を漏らすと、瑠璃さんはクスクスと笑い出した。

「やぁねぇ、蝶に好かれてるなんてことがあるわけないじゃない」

「でも、毎回、蝶は瑠璃さんに留まったじゃないか」

「あれは蝶が留まるように、花の蜜を頭に付けていったのよ」

「え」

「だってイヤじゃない。いろいろ話すなんて・・」

瑠璃さんは小さく唇を尖らせると

「高彬はそれでいいの?皆に話して」

恨ずるような目をぼくに向けてきた。

「イヤだよ、そんなのは2人だけの・・・その、秘め事と言うか・・・さ」

「・・・そうでしょ?うん、・・そうよね・・」

小さな声でぶつぶつと呟き、薄っすらと頬を赤らめている。

「・・・」

うん、そうだよな。

瑠璃さんはそんな話を得々と皆の前で話すような人じゃない。

口が悪くてはねっ返りなようでいて、ここぞと言うところはしっかりと恥ずかしがり屋な女の子なのだ。

正装し頬を赤らめている瑠璃さんは、陳腐な言い回しだけど、どこからどう見ても可憐な一輪の花のようで───

そうして、これまた陳腐な言い回しだけど、ぼくは花の回りを飛び回る蝶のように身体を寄せて行くと、瑠璃さんが付けたと言う蜜の匂いを嗅ぐ振りをして、すばやく額に接吻をしたのだった。






<終>






<おまけの話>





カタンと音がして牛車が止まった。

どうやら三条邸に着いたみたいで、あたしは高彬の肩を押して身体を引きはがした。

「え、何・・」

「何って。着いたのよ、三条邸に」

「あぁ、そうか・・・、もう着いたのか・・」

ぼんやりしたように言う高彬をあたしは軽く睨み付けてやった。

高彬ったら牛車の中で、ずっと接吻してるんだもの。

牛車が止まったことにも気が付かないくらい集中してるってどうなのよ・・

少し開きかけた合わせを、急いで整える。

簾の向こうでは出迎えの女房たちの声がしているし、まさか急に簾を上げられるってことはないだろうけど、それでもドキドキしてしまう。

「お帰りなさいませ、少将さま、姫さま」

車から降りたあたしたちに向かって女房らが口々に言い、高彬は軽く頭を下げて合図なんかしている。

その姿はどこからどう見ても輝ける立派な貴公子で、ついさっきまで妻の唇をついばんでいた人とは思えない。

渡殿を歩きもうじき部屋に着くと言う直前、前を行く高彬がふいに振り返った。

何かを言いかけ、はっとしたように表情を止めると、そのまま瞬きをしないでゆっくりと近づいてきた。

どこか一点を凝視してるんだけど、あたしの目を見てるわけじゃなく、もう少し上の方。

「瑠璃さん、動かないで」

小声で鋭く言い、足音を立てないようにどこか緊張したようにそろそろと歩きながら、片手を前に差しだしている。

「え、何よ、何・・・」

高彬の様子が変で、あたしはあたしで瞬きをしないで高彬を凝視していると、急に鼻がムズムズしてきて

「くしゅんっ」

とくしゃみが出てしまった。

「あーあ」

その途端、高彬の身体から緊張が解け、さらに上の方に目が泳いだ。

「今のくしゃみのせいで蝶が飛んで行っちゃったよ」

「蝶?」

「とまってたんだ、瑠璃さんのここに」

あたしが蜜を付けていた辺りを指さし

「瑠璃さんが変なところで、くしゃみなんかするから」

横目で見ながら文句を言う。

「仕方ないじゃない、くしゃみなんだもの、我慢なんか出来ないわよ」

「まぁ、確かにね」

言い合いながら部屋に入り、それぞれの定位置に座った。

「それにしても今日は緊張したな」

「緊張?どうして?座ってただけじゃない」

「瑠璃さんに順番が当たって、何か言われんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」

心底ヒヤヒヤしたような顔で胸を押さえながら言うので、吹きだしてしまう。

「大丈夫よ。例え当たったって本当のことなんか言う気なかったもの」

「そうか」

安心したように頷いて白湯を一口飲み

「ところでさ、瑠璃さん」

「なぁに」

「瑠璃さんが、ぼくに言われて一番嬉しかった言葉ってなんだったの?」

「・・・」

「まぁ、初めての接吻は、ぼくも当事者だから聞かなくてもわかるけど、言われて嬉しかった言葉って言うのは何なのか、興味あるなぁ」

「・・・」

「教えてよ」

「うーん、どうしよっかなぁ・・」

あたしは難しい顔を作って腕を組み、考える振りをした。

ま、教える気はないんだけどね。

「これはあたしだけの秘密にしておきたいのよねぇ」

勿体ぶって言うと、高彬はさらに身を乗り出してきた。

「後学のためにもさ、瑠璃さんを喜ばせたって言うぼくの言葉を教えてよ」

「・・ふふふ」

高彬の熱心さに思わず忍び笑いが漏れ、口元を袖口で押さえていると

「あ、瑠璃さん。動かないで」

さっきと同じように高彬がするどく言い、やっぱり同じ辺りを凝視している。

「え?何?蝶々?とまってるの?」

頷くと、高彬はゆっくりと一点を凝視しながら近づいてきて、今度こそは捕獲に協力しようと身動きせずに息さえ潜めていると

「捕まえた」

あたしは高彬に抱きしめられていた。

「へ?・・え・・、蝶は?」

「・・・」

「もしかして、あたしを捕まえたの?」

「そういう事」

ポカンとするあたしににっこりと笑い、すかさず唇を合わせてくる。

優しく、まるで花の蜜を吸うみたいな接吻───

これじゃあ、あたしが花で、高彬が蝶ね。

花びらを数えるみたいにお衣裳を脱がされながら、あたしは高彬に気付かれないように心の中だけでひっそりと笑った。

言われて嬉しかった言葉、もしかしたら今日も聞けるかも知れないわ・・・

あたしが一番、嬉しかった言葉。

それは、閨の中で高彬があたしを呼ぶ、あの声。

切なげで、少し掠れてて───

閨の中でしか聞けない高彬の声。高彬の言葉。

そんなこと、高彬にだって言えるわけないわよね・・・

花びらになったあたしは目を閉じて、蜜を吸う蝶に身体を委ねたのだった。





<おしまい>


切なげで、少し掠れてる閨での高彬の声、聞いてみたいもんだと思っていただけましたらクリックで応援をお願いいたします。
↓↓




(←お礼画像&SS付きです)
プロフィール

瑞月

Author:瑞月
瑞月(みずき)です。

ランキングバナー

にほんブログ村

ランキングに参加しています。
楽しんでいただけましたら
クリックで応援をお願い致します。
1日1クリック有効です。
初めにお読みください
**当ブログの簡単な説明です**
当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
カテゴリ
別館
乳姉妹ブログ
日記ブログ
掲示板
なんて素敵にサイト様 
最新記事
ご訪問ありがとう(H23.11.28-)
**オンラインカウンター**
現在の閲覧者数:
コメントありがとうございます
お礼SSや「他己紹介」があります。
web拍手 by FC2
** あれこれ投票所 **
お好きなジャンルをお選びください。 投票は何度でも可能です。
*** あれこれ投票所2 ***
メールフォーム(ご用の方はこちらから)

名前:
メール:
件名:
本文:

カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
月別アーカイブ