***短編*** 通り雨 ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』






注)このお話は一話完結です。
               
        






***短編*** 通り雨 ***







「またおいでよね、高彬」

融に見送られながら三条邸の車寄せに向かう途中で、ふと足を止めた。

庭の桜が満開だったのだ。

春の空に向かい大ぶりの枝を伸ばし、折からのそよ風に花弁を揺らしている。

「綺麗だね」

「うん」

手を振る融に、軽く合図を返して牛車に乗り込むと

───ふぅ・・

知らずにため息が出た。

今日も瑠璃さんと喧嘩をしてしまった。

最初は融と3人で楽しく遊んでたはずなのに、また瑠璃さんが吉野君のお名を持ち出して───

そこからはいつものお決まりのパターンだった。

売り言葉に買い言葉、留めは「あんたと吉野君じゃ比べものにならないわ」だ。

はぁ・・

いつからこんな風になってしまったんだろう。

昔は良かった。

瑠璃さんはぼくの婚約者だと、信じて疑いもしなかった。

大納言さまの勧める結婚を片っぱしから断るのも、結婚する気なんかないと断言するのも、全部、ぼくの官位が上がるまでの時間稼ぎをしてくれているんだと単純に思っていた。

だけど、どうやらそうではないと分かったのはいつ頃だったろうか。

本当に瑠璃さんはぼくとの結婚の約束を忘れているみたいだし、それどころかこの頃では会えば喧嘩ばかりしている。

自室に戻っても気分は晴れなかった。

狩衣のまま行儀悪くゴロンと横になり、頭の後ろで手を組む。

外に目をやれば春の空はどこまでも晴れやかで、白い雲が浮かんでいる。

雲を見てるうち、ふと

───久し振りに疾風と遠乗りでもしようか。

と思い付いた。

まだ日も高いし、部屋でクサクサしてるよりはずっといいように思える。

よし、行こう。

弾みを付け起き上がると女房に出掛けることを告げ、厩舎に行くと、政文が立っていた。

「政文・・・」

「若君をお一人で行かせるわけにはいきません。お供致します」

「わかった」

門衛に見送られ出発する。

「どちらに向かわれますか」

「そうだな、南に行こうか」

羅生門を抜けた辺りから速度を上げ本格的に駆け出す。

走るに連れ徐々に回りから邸や家屋が減り、川を超えると鄙びた風景になって行った。

京中よりも草木も多くて、気のせいか空も高く見え、その中を疾風と走るのはいい気分だった。

父上がぼくのためにと特別に武蔵の方から取り寄せた疾風は名馬の誉れ高く、まるで心が通じ合っているかのようにぼくの指示通りに走ってくれる。

───もっと速く。

走れ、走れ、走れ───!

蹄と風の音しか聞こえなくなった頃、さっきまでの好天に翳りが出てきた。

黒い雲が湧き、これは一雨来るな、と思っていたら、案の定、ぽつりぽつりと落ちてきた。

ぽつりぽつりは、すぐにしっかりとした雨脚になり、あっという間に本降りになった。

「若君!あそこで雨宿りしましょう!」

後ろから政文が声を張り上げ、見ると行く手に小さな小屋があり、近づいて見るとそれなりにしっかりとした作りの小屋で、ありがたいことに軒がある。

疾風を降り、政文と二人で軒下に走り込むと、待っていたかのようにどしゃ降りになった。

「すごい雨ですねぇ」

「うん」

ザーザーと言う雨音に負けないよう大声で言い合う。

「女心と春の空とはよく言ったもんですよ。さっきまであんな良い天気だったのに」

見るとはなしに雨にけぶる風景をぼんやりと見ていると、向こうに人影が見え、だんだん近づいて来ると里の者だとわかった。

この雨の中、傘も差さずに歩いている。

くすんだ着物に、どうやら何かを背負っているみたいで、籠の形状から収穫した農作物だと思われた。

ぬかるんだ道を俯き加減に黙々と歩いており、足は泥だらけだった。

「少し・・、休んでいったらどうだい」

ぼくの前を通り過ぎる時、たまらず声を掛けていた。

驚いたように政文がぼくを振り返り、だけど、もっと驚いたのは声を掛けられた里の者のようだった。

ハッとしたように顔を上げ、ぼくを見て、疾風を見て、またぼくを見ると

「そんなとこで雨宿りしてる暇はないよ。歩いてたら雨は上がる」

と強い口調で言い放った。

思ってたより若くて・・・

若いなんてもんじゃない、ぼくと同い年くらいの女の子で、勝ち気そうな目がどことなく瑠璃さんを思わせた。

髪を雑にひとつにまとめ、顔にも泥が付いている。

女の子はそれだけ言うと、また俯き加減に黙々と歩き出し、雨の中に後姿がどんどん小さくなって行った。

この雨の中、どこまで歩くのだろう・・・

完全に姿が見えなくなり

「政文、行こう」

ぼくは声を上げていた。

「行こうって、若君。この雨の中・・」

「行こう」

軒下を飛び出し、疾風に飛び乗る。

慌てふためく政文を尻目に、疾風の腹を蹴ると、疾風は嘶きを上げ力強く走り始めた。

雨の中、走っちゃいけないなんて誰が決めた。

そんな決まりもなければ理由もないじゃないか。

走れ、走れ、走れ───!

疾風の躍動が直に身体に伝わってくる。

大粒の雨が顔に当たり目も開けていられないくらいで、袖口と言わず襟足と言わず、雨が身体に流れ込んでくるのがいっそ気持ちいいくらいだった。

───歩いていたら雨は上がる。

そうだ、雨はいつか上がる。

そう思えば、雨なんて全部、通り雨だ。

瑠璃さんと喧嘩して、クサクサしてた自分が馬鹿みたいに思えてくる。

約束を忘れられてるくらいなんだと言うんだ。

ぼくが覚えてるんだからいいじゃないか───



*****



川を超える頃には雨は小降りになっていた。

京に入る少し手前で、ちょうど目の高さに咲く桜の木があり、今の雨にも負けずに満開のままだった。

疾風を停め、馬上のまま枝を折り、手綱と一緒に握る。

「ちょっと寄りたいところがあるんだけどいいかな」

政文に断りを入れ、三条邸に寄った。

門の前で疾風を降り、徒歩で土間に入って行くと、融付きの見慣れた女房が驚いた顔でぼくを出迎え

「瑠璃姫を」

そう言うと、慌てふためいた様に瑠璃さんを呼びに行ってくれた。

瑠璃さんはすぐに現れた。

そうしてぼくを見ると、目をまん丸に見開いて

「・・・ちょっと、あんた、どうしたのよ、その恰好。ずぶ濡れじゃない。池にでも落ちたの?」

さっき喧嘩したことなんか丸きり忘れたように駆け寄って来た。

「雨の中を馬で走ってたんだ」

「雨の中を?なんでそんな・・」

「あげるよ」

瑠璃さんの言葉を遮り、桜の枝を差しだす。

「・・・」

「満開だよ」

「・・う、うん・・」

相変わらず、丸い目のまま、それでも瑠璃さんは受け取り、ぼくはちょっとだけ笑って踵を返した。

門を出て、疾風に跨る。

心底、心配してくれてる瑠璃さんの口調がこそばゆかった。

何より、瑠璃さんをあそこまで驚かせたと言うのが、たまらなくいい気分だった。

訳のわからないまま受け取った桜の枝を見て、瑠璃さんはぼくのことを考えてくれるだろうか。

例え一晩でもいい。

いや、数刻でも、半刻でもいい。

ずぶ濡れのまま現れて、桜を差し出したぼくのことを考えてくれたなら───

雨はすっかり上がっている。

見上げた空には、雲間から春の青空が広がっていた。






<終>


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