***短編***  風の声をきかせて~after *** 

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』





注)あさぎさまからのgift「風の声をきかせて」の続きの話です。
あさぎさんにお許しをいただき「返歌」ならぬ「返話」を書かせていただきました。               
               

               
              






***短編*** 風の声をきかせて~after ***










やがてスピードを緩めた疾風をいったん近くの沢で水を飲ませてやり、また野原へと戻ってきた。

手頃な木に疾風を繋ぎ、2人して木陰に座りこむ。

秋の風に薄の穂の群生が揺らめき、その様にあたしはほぉ・・と息をついた。

「疲れた?瑠璃さん」

あたしのため息を何と勘違いしたのか、高彬が心配そうに顔を覗き込んできた。

「ううん、ちっとも。薄の穂に見とれていただけよ」

実際、薄の穂が風に揺れる様は見事だった。

強くなってきた朝の光に薄の穂の群生が黄金色に輝きだし、それらがいっぺんに同じ方向になびく様は、いつだったか高彬にもらった絵巻物に描かれていた絵のようでもあり、はたまた阿弥陀如来さまのおわす西方極楽浄土もかくやあらん、と言った感じで目を奪われてしまう。

ここから見渡す野原は、さっき馬上から見た風景とはまた違う趣で、何とはなしにあたしは(うーむ)と唸ってしまった。

ほんと、同じものを見てても、見える景色って見る方向によって変わるもので、少し前まで独身主義を掲げていたあたしが、こうして結婚一周年を夫と祝ってるんだから、自分で言うのもなんだけど現金と言うか変わり身が早いと言うか、さ。

だけど、変わり身が早くて何が悪いのよ、って気がするし。

今のあたしなら、独身主義を叫ぶあの頃のあたしに

「まぁそう決め付けずに結婚してみてもいいんじゃない?」

なんてアドバイスしてしまいそうよ。

かといって独身主義だった頃の自分を馬鹿にする気持ちもなくて、だって、あの頃は本当にそう思ってたんだから。

ただ・・・結婚して始めてわかったことや見えてきた景色があって、今のあたしは素直に、高彬と結婚して良かったなーって思ってるってことでさ。

こうして結婚一周年を2人で祝えてることが、小萩の言い草じゃないけど、やっぱり高彬のお陰な気がしてね。

だって、妻を何人も持つのが当たり前の現代で、高彬は変わらずあたしだけを想ってくれてるんだもん。

そっと隣の高彬を窺うと、どことなく厳しい顔付きで辺りを見回しており、どうやら野行幸のことでも考えてるらしかった。

そうよね。

高彬にとっての今回の栗栖野行きは、元々は仕事の一環なわけで、そうしてあたしはお仕事モードの高彬が嫌いなわけじゃないけど・・・・だけど・・・・

ツンツン、と高彬の袖を引っ張ってみる。

はっとしたように高彬が振り返り、すぐに気がついたように「ごめん」と小さく謝った。

こんな時、素直に「他のこと考えないで」とか「あたしだけを見て」とか言えたらいいんだけど。

どうでも言いことはいくらでもきっぱり言えるのに、こういうことはからっきし言えないあたしなのよ。

言えてたら、もっと公達連中にもててたはずなんだけどねぇ・・・。

ま、高彬以外の人にもてなくてもいいんだけど。

高彬が空を見上げ、釣られて空を見ると、高彬の視線の先には大きく羽を広げた鳥がゆっくりと回旋している。

「鳶かしら・・?」

「うん、そうだね」

鳶はいかにも気持ち良さそうに舞っており、雲ひとつない秋の空は眩しいくらいだった。

「何か狙っているのかしら」

鳶は恐ろしく目のいい鳥らしくて、台盤所のものたちが、魚を取られただの干し芋を取られただのと、ずいぶんと悔しい思いをしているみたいだし。

「うーん、物色中ってところじゃないかな。食べ物なんか持ってないし。・・・まぁしいて言えば疾風かな」

目を細めて鳶を見ていた高彬が言い

「疾風?鳶が疾風を食べるの?」

びっくりして聞くと

「まさか。狙うのは目だよ。光ってるからね、鳶が馬の目を突くことがたまにあるんだ」

言いながら立ち上がり、どうやら疾風を安全な場所に動かすつもりらしかった。

あたしはすばやく立ち上がると、高彬よりも早くに疾風に辿りついて、疾風の前で両手を広げた。

「こらー、疾風を狙ったりしたらあたしが許さないわよー!」

鳶に向かって大声で叫ぶと、疾風は驚いたように首を一振りし、次いではじかれたように高彬が笑いだし、その笑い声が秋空に吸い込まれていった。





************************************





山荘に帰ったあたしたちは午後はたっぷりとお昼寝を取ってしまった。

昨日も今日も朝が早かったし、高彬にいたっては仕事しながらあたしのことも気に掛けなきゃいけないしで、きっと気疲れもあるんじゃないかと思う。

目が覚めた時は、寝過ぎで2人してぼんやりしてしまったくらい。

秋の陽は短くて、外は早や薄闇が迫ってきている。

北山の夕暮れはやっぱり都とはどこか違うみたいで、部屋の中にいると言うのに、身体が茜色に染まってしまうんじゃないかと思うほどだった。

簀子縁に出ようとすると、高彬に止められてしまい、あろうことか妻戸まで閉められてしまった。

「なぜ?」

不思議に思って問いただしたのに

「まぁ、いいから」

とはぐらかされてしまう。

だけど夜になって、ようやく妻戸が開けてもらえ簀子縁に出たあたしは歓声をあげてしまった。

「篝火!」

庭には篝火が焚かれ、庭に敷かれた敷物の上には所狭しとご馳走が並べられ・・・・

「何、これ・・・」

しばし立ち尽くしてしまう。

「高彬、これって・・・」

隣の高彬を振り向くと、すかさず抱きあげられてしまった。

階を下り、そっと敷物に下ろされる。

「2人で観月の宴なんてどうかな、と思って」

目で夜空を示され、見上げた先には───

「十五夜・・・」

中天にぽっかりと丸い月が浮かんでいる。

「そう、今日は中秋の名月だろう」

「・・・・」

「観月の宴なんて、ぼくら男にとっては珍しくもなんともないけど、瑠璃さんは滅多に・・・、ど、どうしたのさ、瑠璃さん」

気が付いたらあたしは顔を覆って泣いてしまっていた。

もうもう、あんたって人は───どこまで気が回って、どこまで優しいのよ。

突然、泣きだしたあたしにオロオロしながらも、それでも高彬は

「ほら、瑠璃さん、泣きやんで。せっかくのご馳走なんだからお食べよ。月も良く見て」

なんて細々と世話を焼くのも忘れなかった。

「うん、見るわ」

しゃくりあげながら月を見上げていると、高彬が頬の涙をぬぐってくれて、そっと頭に手が置かれた。

温かくて大きな高彬の手。

あたしはこの月を、一生、忘れない。




*******************************




たっぷりとご馳走も食べ、この辺りの銘酒だと振る舞われたお酒をほんのちょっぴり口にして、その頃には月もだいぶ動いたのか、庭からは見えなくなっていた。

「そろそろ部屋に入ろうか」

高彬に言われ頷くと

「締めくくりにもうひとつ思い出を作らないとね」

なんて茶目っ気たっぷりに言われ、あたしは笑わずにはいられなかった。

手をつなぎながら階を上り振り向くと、見えなくなったと思っていた月が山の端に顔を出している。

「月・・・」

未練がましく呟くと

「もうたくさん見たよね」

なんてさっさと部屋に入れられてしまった。

もうっ!

───なんて怒った振りをしてみたところで、実はあたしも、月はもう十分見たって気がしているの。

それよりも今は───。

2人で抱き合いながら、そっと横になる。

高彬の顔を見ながら、あたしは考える。

どうしたら、今のこの気持ちを伝えられるのかしら。

正確に今のこの気持ちを伝えるには、あたしには手持ちの言葉が少なすぎる。

単が肩から外され、あたしと高彬はこれ以上はくっつけないと言うほどに密着して抱き合った。

あの日───

初めて高彬と一夜を共にした日から、数えきれないくらいにあたしたちはこんな風に抱き合ってきたけど、だけど、あたしはいつまでたっても慣れるってことがない。

接吻されれば息をひそめてしまうし、抱きしめられれば胸が震える。

高彬の重みもぬくもりも力強さも、その全てがあたしの心と身体を蕩かせる。

(高彬───)

背中にしがみつくと、耳元で(好きだよ)と聞こえた気がしたけれど、それが現実の声なのかどうか、もうあたしにはわからなかった。

昼間に感じた秋の空気や黄金色の薄の群生、疾風の蹄の響きや葉擦れの音などが頭の中を駆け巡り、そうして、そのどれもが大切な思い出なのだと囁いてくるような───

そんな、風の声がきこえた気がした。




************************************




翌朝、あたしと高彬は小萩の前に座らされていた。

里の者が拾ったと言う市女笠が山荘に届けられ、あたしが市女笠を外したことが小萩にばれてしまったのだ。

「まったく。市女笠を取りたいとおっしゃる姫さまも姫さまなら、それをお許しになられる少将さまも少将さま。似たもの夫婦とは良く言ったものですわ。里の者や不届き者に万が一にでも顔を見られたらと、チラともお考えにはならなかったのでございましょうか。いくらこの辺りが里山とは言え・・・」

延々と続く小萩の小言を聞きながら

「これも・・・思い出よね」

「うん」

あたしと高彬は扇の陰でぼそぼそと言い合い、同時に大きなため息をついたのだった。






<終>


あさぎさん、このたびは続編を快諾していただきありがとうございました。

素敵なあさぎさんのお話のおかげで、妄想が膨らみました。

最初に読んだ時から気になっていた、高彬が枝にひっかけた市女笠。

こんなオチに使わせていただきました。

ありがとうございました。


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いつもご訪問いただきありがとうございます。

皆さん、シルバーウィークはいかがでしたか?

私は富士五湖のひとつ「本栖湖」にキャンプに行ったのですが、あんなに近くに行っておきながら、一度も富士山を見ることが出来ませんでした。

ずっと雲がかかっていたのです。

近くの道の駅で鉱石を売っていて、ラピスラズリ(瑠璃)を買ってきました。

あらゆる幸運を呼び寄せるんだそうです。あらゆる、です。

今後の人生が楽しみです。

次回は「My dear ジャパネスク~2」をアップする予定です。

季節の変わり目ですので、皆さん、どうかご自愛ください。


瑞月

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当ブログは「なんて素敵にジャパネスク」の二次小説を掲載しております。 二次小説と言う言葉を知らない方や苦手な方は閲覧ご注意ください。 また読後のクレームはお受けできません。 「ごあいさつ<最初にお読みください>」も合わせてご一読下さい。
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