*** 筒井筒のお約束をもう一度・・42 <高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』


           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・42 <高彬・初夜編> ***  









「姉上。再度、申し上げますが・・・」

「高彬、あなた、良い方と巡り合えましたね」

瑠璃さんと意気投合しすっかり普段の元気を取り戻したのか、姉上はぼくの言葉を遮るとにこやかに話しかけてきた。

その屈託のなさに脱力感を覚えながらも、ぼくは尚も食い下がった。

「姉上。お忍びなどということを・・・」

「瑠璃さまのご記憶が失いということは、あなた方の結婚は・・・?」

すでにぼくの言うことなど聞いていないようで、ふと思い出したように言い、ぼくは不覚にもかぁっと顔が熱くなってしまった。

思えば姉上にはまだ結婚することを話していなかったわけで、まさかこういう形で耳に入れることになるとは思ってもいなかったのだ。

「あ、あの・・・女御さま・・。あ、あたしたち、やっぱり結婚するのですわ。その・・・記憶が失くなっても、・・・結婚の約束をしたのですわ」

口ごもりながらも質問に答えたのは瑠璃さんで、ぼくは今度は首筋までもがかぁっと熱くなった。

何だろう、この居心地の悪さと言うか、イタズラが見つかった時のような気恥ずかしさは・・・。

「おほほほ。高彬も成長したのですね。お堅いおまえが瑠璃さまをしっかり口説いているというわけですのね」

ぼくの気持ちを知ってか知らずか楽しげに姉上が言い、ぼくはもう恥ずかしさと何とも言えない敗北感でこの場を立ち去りたいくらいだった。

姉上の軽率さを諌めるつもりが、どうしてこうなるんだろう・・・。

「瑠璃さま、京に戻られたら、ぜひ後宮にも遊びに来て下さいな。後宮は毎日過ごすには退屈なところですが、時々遊びに来るには楽しいところですのよ」

もうどうにでもなれとあらぬ方を見ていたぼくは、姉上の言葉にぎょっとして振り返った。

「姉上!畏れ多くも帝のいらっしゃる後宮をそのように・・・。しかも後宮は物見遊山で遊びに行くようなところではありませんよ」

時々遊びに来るなら楽しい、などと、姉上は後宮を近江の石山詣でや清水観音の縁日と同じくらいにお思いなのではないだろうか。

日夜、我々、近衛府の武官がどんな思いで・・・

「あら、主上もお喜びになられると思いますわ。だって瑠璃さまは東宮の恩人ですもの」

「瑠璃さんを、一貴族の姫を今上に会わせるなどと・・・そんな、姉上・・・!」

あまりと言えば、あまりの言いように、思わず声が裏返ってしまう。

「高彬」

狼狽するぼくを見て、にわかに姉心が刺激されたのか、姉上は改まった口調でぼくに向き直った。

「おまえは堅苦しくていけません。右大臣家の女房に紛れ込んで、後宮に上がることなどたやすいことではありませんか」

「・・・・・・」

「それとも、なんですの。瑠璃さまを外の風にも当てたくないほど、熱愛していらっしゃるのかしら」

いらっしゃるのかしら、と聞いてきたわりには、ぼくの答えなど期待していないのか、すぐに瑠璃さんの手を取ると

「ね、瑠璃さま。ぜひ、遊びにいらしてね」

と念を押し、瑠璃さんが頷くのを見ると満足したように笑っている。

姉上が瑠璃さんを気に入ってくれたのは嬉しいけど、だけどそれを差し引いたとしても、まるで野摘みに行く約束でもしてるようなこの話の流れは一体・・・。

姉上が退出し、すっかり姉上のペースに飲まれ呆然としていたぼくはすぐに気を取り直し、とりあえずは瑠璃さんに後宮になどくれぐれも行くことのないようにと釘を指すと部屋を飛び出した。

牛車へと向かう姉上に声を掛け、回りの女房らを下がらせ2人きりになったところで切り出す。

「姉上。今回の事象はくれぐれもご内密になさりますように。ご無事だったとは言え、東宮の御身が危うかったのです。そこに一貴族の姫が絡んで来たとなると、これは東宮廃位を狙った作為的な事故だなどと、まことしやかに噂する輩が出てこないとも限りません。そうなれば人心は惑わされ、ひいては都の乱れに・・・」

「わかっておりますよ、右近少将」

ぱちりと扇を閉じると、姉上は真面目な顔でぼくを見て、ややしばらくそのままの表情で見ていたかと思うと、ふいに口元が緩んだ。

「高彬。おまえはどうしていつもそういう言い回しをするのでしょう」

「え・・」

「ただ一言、瑠璃姫を悪い噂に巻き込みたくない、と言えばすむことではありませんか。それをやれ人心がどうの、都がどうのと」

「・・・・」

「このたびのことは、決して口外してはならないことだと言うことはわたくしもわかっておりますよ。露見すれば、父上にご迷惑をお掛けすることになります」

「姉上・・・」

「おまえが心配せずとも、緘口令は敷いてあります」

そう言うと、ふと眩しそうに目を細めてぼくを見上げた。

「あんなに小さかったおまえがもう結婚するとは・・・・。瑠璃姫とどうかお幸せにね」

立ち去りかけ、何かを思い出したかのように振り返ると

「母上の渋いお顔が目に浮かぶようですわ。苦労しますね、おまえも」

楽しそうに笑った。

「姉上!」

「そしてもうひとつ。あまり堅苦しいことばかり言ってはなりません。わたくしには瑠璃姫が少うしばかり、お寂しそうなお顔をしているように見えましたよ」

姉上はそう言うとぼくは何か言うよりも早く、伊勢を呼びつけると立ち去っていった。





************************************************





姉上を乗せた牛車がすっかり見えなくなるのを見届けると、小萩を呼びつけた。

<瑠璃さんの後宮行き>を見張るようによくよく言い含め、更には今日、姉上が来たことも誰にも言ってはならないと徹底するように指示を出す。

里の者たちに何がどう伝わって、口の端に乗るとも限らない。

姉上にはああ言われたけれど、たとえ根も葉もないことだとしても東宮廃位策略の噂などが流れるのはやはり都の乱れにつながるし、ぼくがそこを心配しているのはまぎれもない事実なのだった。

瑠璃さんを渦中の人にしたくないと言うのも、もちろんある。

そうでなくても一風変わったところのある瑠璃さんは、何かと都人に噂されやすい人だし。

吉野と京は距離もあり、ここでの噂がすぐさま都に行くとは思わないけれど、やはり慎重を期したほうがいいだろう。

堅苦しく考えるなと言われても、やはり宮廷に身を置く公人として色々考えずにはいられないし、姉上は入内されているのだし、もう少し判ってくれてても良さそうなものなのに。

瑠璃さんにはもう一度、きちんと釘を指しておいた方がいいかも知れない。

姉上と瑠璃さんの組み合わせは、ノリが似ているだけに何だか危険な気がするんだよなぁ・・・。





**********************************************




瑠璃さんは脇息に身体を預けるようにしてぼんやりと外を見ていた。

よく見ると、その頬が少し赤い気がして、ぼくは慌てて声を掛けた。

「どうしたの、瑠璃さん。顔が赤いよ。また熱でも出たんじゃないの」

「・・・びっくりしたわ。いつからいたの」

びくっと身体を震わせ、本当に驚いたのか目を見開いている。

「たった今だよ」

正面から見ると顔は赤くなくて、光の加減か袿の照り返しか理由はわからないけれど、どうやらぼくの見間違いのようだった。

だったら、とぼくは口を開いた。

「いろいろ考えたんだけどね、瑠璃さん。やはり姉上は少しご軽率だったと思うよ。仮にも東宮さまのご生母であられるのだから、ご自覚を持たれてお忍びなどと言う軽々しい行動はお慎むべきだと思う」

瞬きもせずに瑠璃さんは聞いており、ぼくは気持ち膝を進めた。

「我々、貴族が束ねとなってお護りしているのは何も帝だけではないんだ。帝のご権威が保たれていると言う事は、宮廷の秩序が機能しているということで、つまりはそれが都の安泰へと繋がって行くんだよ。ほんの些細なことがきっかけで都が乱れることだってある。それを姉上はご存じ・・・なの・・・だろうか・・・」

瑠璃さんが小さなため息をついた気がして、ぼくはふと語気を弱めた。

気付けば伏し目がちに床のどこか一点を見ていて、その様子は何となく寂しげで・・・。

帰りがけの姉上の言葉を思い出す。

───瑠璃姫が寂しそうなお顔をしているように見えましたよ。

そうだ、それに姉上はこうも言っていたっけ。

<堅苦しいことばかり言ってはなりません>と。

もしかしたら、またぼくは・・・。

瑠璃さんの俯く横顔と姉上の言葉と、嫌な予感が交差して、ぼくは慌てて瑠璃さんに向き直った。





<続>


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