*** 筒井筒のお約束をもう一度・・38 <高彬・初夜編> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』



           ※このお話は初夜編(完結済み)の高彬サイドの話です。
                        






***  筒井筒のお約束をもう一度・・38 <高彬・初夜編> ***  









瑠璃さんの手は柔らかく、ぼくの掌にすっぽりと収まってしまうほどに小さい。

丸い目をした瑠璃さんがぼくを見ており、ぼくは居住まいを正し息を吸い込むと言った。

「瑠璃姫、ぼくと結婚してくださいますか」

思えば、初めて口にした正式なプロポーズの言葉だった。

ぱちぱちと目を瞬かせた瑠璃さんは

「・・・記憶が戻ったら、おしとやかじゃなくなっちゃうと思うけど・・・」

何を気にしているのか、そんなことを口走っている。

「大丈夫。それには慣れてる」

「もしかしたら・・・・記憶が戻らないかも知れないけど」

「そうしたら、おしとやかなままの瑠璃さんと暮らせる。投げ飛ばされる心配がない」

からかうように顔を覗きこむと

「ひどい!まるで今の方がいいみたいに聞こえるわ」

瑠璃さんは唇を尖らせ、ぼくは慌てて言った。

「そんなことないさ。どっちの瑠璃さんも好きだよ。どっちでもいいんだ、瑠璃さんなら」

どんな瑠璃さんでも好きなんだから───

ハッと息を詰める気配があり、瑠璃さんの頬がほんのりと赤く染まる。

大きく見開かれた目、無防備に薄く開いた唇・・・・

「瑠璃さん」

「・・・・・・・」

目で返事をされた気がして、吸い込まれるように近づいていったところで我に返った。

いくらなんでも早いだろう・・・・接吻は。

瑠璃さんにとっては昨日の今日だぞ。

昨夜のは・・・あれは瑠璃さんは知らないわけだし・・・。

額に軽く触れるだけに留めて、どうやってこの甘やかな空気を変えようかと思案していると袖をつかまれた。

振り向くと、思っていたより近いところに瑠璃さんの顔があり、内心、焦る。

じっと瑠璃さんがぼくを見ており、その目は心なしか潤んでいるようにも見えて───

頼むから、こんな近くでそんな顔をしないでくれよ・・・

何か言わなければと口を開くより早く、瑠璃さんの目がゆっくりと閉じられた。

「・・・・・」

これは・・・・。

都合のいい解釈かと頭で思わないではなかったけれど、それよりも身体の方が先に動いた。

瑠璃さんの肩を引き寄せ、そっと唇を合わせる。

逃げも嫌がりもせずに受け止めてくれて、ぼくは嬉しさのあまりに瑠璃さんをきつく抱きしめてしまった。

プロポーズの返事と受け取っていいのだろうか。

「瑠璃さん」

「・・・はい」

思いがけない礼儀正しい言葉遣いに、つい吹き出してしまう。

「はい、なんて返事、瑠璃さんらしくないな」

「じゃあ、どんなのがあたしらしいの」

瑠璃さんらしい返事、かぁ。腕を組んで考える。

「そうだなぁ。『なぁに』とか『なによ』とか。怒ってる時は『なにさ』だったかな」

「・・・気になってたんだけど、あたしのこと『瑠璃さん』って呼ぶのね。あたしは『高彬』なのに」

風にそよぐ髪を押さえながら瑠璃さんが言い

「そう。それで、ぼくは『高彬』って呼ばれたら『はい』って返事をしてたんだ。従順にね」

瑠璃さんの髪に付いた花びらを取ってやりながら言うと

「うそよ」

不服そうに頭を振った。

「うそじゃないさ。投げ飛ばされたらいやだからね。条件反射だ」

しばらく疑わしそうにぼくを見ていた瑠璃さんは、やがて試すように

「じゃあ・・・・・、高彬」

ぼくに呼びかけてきた。

「はい」

すかさず畏まって返事をすると

「ほんとだわ」

瑠璃さんの目がくるりと回った。

「だろ」

2人して笑い合う。

「瑠璃さん」

「なぁに」

少し声音を変えた声で瑠璃さんが返事をし

「うん、その調子だ」

顔を見合わせて笑ってしまう。

笑顔はすっかりいつもの瑠璃さんのもので、こうしていると瑠璃さんの記憶がなくなったということを忘れてしまいそうになるほどだった。

ふと瑠璃さんがぼくの方に手を伸ばし、至極当然のようにぼくは抱き寄せた。

抱きしめ、髪を撫ぜながら

(あぁ、そうか、もしかしたら今、瑠璃さんはぼくの髪に付いた花びらを取ろうとしたのかも知れない───)

と思ったけれど、でも、それをわざわざ瑠璃さんに確かめることはしなかった。

今はただ、こうして瑠璃さんを抱きしめていたい。

春の風がひときわ大きく吹きわたり、瑠璃さんの髪や肩に桜の花びらを散らす。

花びらごと瑠璃さんを抱きしめ、深く息を吸い込むと、芽吹くような春の野の匂いと甘い髪の匂いがした。






<続>

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