***短編*** 春はあけぼの<おまけのおまけ> ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




         注)このお話は「春はあけぼの」の<おまけの話>のさらにおまけの話しです。

        
           





***短編*** 春はあけぼの<おまけのおまけ> ***









「え・・・ホクロ・・?」

一刻ほどで目を覚ました高彬に、耳のホクロのことを告げた時の第一声がこれだった。

すぐには頭が回らないのか一瞬ポカンとした後、鏡で確認しようと思ったのか、鏡台の前に行きしきりに耳を触って見ている。

「無理よ。自分じゃ絶対に見えない場所だもの」

一緒に鏡を覗き込み笑いながら言うと、高彬は面白くなさそうな顔をして見せた。

「仕方ないじゃない、耳の後ろなんだから。・・・さ、そろそろ参内の準備をしたほうがいいわ」

その声を合図に角盥を掲げ持った女房らが部屋に入ってきた。

「参内って・・・、いや、まだ、少し時間があるし・・・・」

起き出したばかりの寝所を名残惜しそうにちらりと見ながらぼそぼそと言い、それでも前に置かれた角盥に素直に手を浸し、顔を洗い始めた。

何度も見慣れた光景だけれど、ついつい見惚れてしまう。

捲くれた袖から覗く腕とか、あらわになったうなじの筋とか、濡れた額にかかるほつれ毛の感じとか・・・

殿方が身支度をする姿なんて結婚前は見ることなかったし、夫婦になったことを実感するのって思えばこういう瞬間なのかもしれないわねぇ。

うーん、何、ドキドキしてるんだろう、あたし。

さっきは膝枕で眠る高彬を可愛いなんて思っちゃったし・・・鴛鴦殿と言う慣れない場所にいるせいかしら?

こもごも思う間に、すっかり身支度を整えた高彬が几帳の向うから現われた。

にっこりと笑いながらあたしの隣に腰を下ろすと

「瑠璃さんはもう少しここで過ごすといいよ」

「ここで?」

「うん。たまには気分が変わっていいだろう。ぼくが帰ってきたら、三条邸に一緒に戻ろう」

「・・・・」

きっと、昨夜あたしが言った<女って損だわ。邸で過ごすのが当たり前でどこにも行けないんだもの>の言葉を覚えてくれてるんだわ。

「うん、そうするわ。・・・ありがと」

あたしとしては、昨夜の梅鑑賞でもう充分って気分だったから、このまま三条邸に帰っても良かったんだけど・・・・でも、高彬の気持ちが嬉しくて頭を下げる。

こういう心配りや優しさの示し方にこそ、殿方の真価が問われるんじゃないかしら?

その点、高彬は最高最上の殿方だと自信を持って言えるわ。

───なんて、ついつい夫をベタ誉めしてしまう。

「なるべく早く帰るから」

「うん」

いつになくしおらしく返事をすると

「まだ瑠璃さんに・・・感動も与えてないしね」

廂にいる女房たちに聞こえないように耳打ちをされ

「なっ・・・!」

思わず跳ね上がりそうになるところをすんでのところで押し留めた。

よっく言うわよ。人の膝枕でグースカ眠っちゃった人が!

夫の言う<感動>なんて、もう絶対に信じないんだから。

「感動を与えるなんて、そんな大見得切らないほうがいいわよ」

同じように声を潜め、横目で睨んでやると、高彬はあたしの視線を正面から受け止め眉を上げた。

「大見得なんて・・・心外だな」

「そう?的を得た助言だと思うけど」

澄まして言うと、高彬はまじまじとあたしの顔を見たと思ったら、たっぷりと間合いを取ると不敵に笑って見せた。

「瑠璃さんは、ぼくの本気を知らないからね」

意味ありげに言い、腕なんか組んでいる。

「本気?何よ・・・本気って」

「本気は・・・本気だよ。今にわかる」

真面目なんだかふざけているんだか判らない声で言うと、すっと立ちあがった。

「参内する。車の用意を」

女房らに言い

「じゃあ、瑠璃さん、行ってくるよ。少し羽を伸ばして・・・と言っても河原などに行ってはだめだ。自由にしていいのは邸内までだからね、判ってるね」

あたしに念を押し、だけどあたしは高彬の言った<本気>が気になってしまいそれどころじゃなかった。

何よ・・・本気って。

まだ余力があるとでも言うような、はたまた秘策を隠し持ってるとでも言うような・・・。

まるで、まるで、今は手加減してあげてるんだからとでも言いたげな・・・?

カーッと顔が熱くなったところで、高彬と目が合うと

「瑠璃さん、顔が赤いよ」

からかうように言われてしまった。

「う、梅よ。梅の花の匂いに酔ったのよ」

そのまま歩きだした高彬の背中に向かって言うと

「ふぅん。この庭から梅は見えないはずだけど」

ちらりと振り返り、その目がしっかりと笑っている。

何よ!やっぱり知ってたのね!

あわあわと何も言えなくなったあたしに、高彬は軽く手を上げ合図すると、衣擦れの音も優しく部屋を出て行ってしまった。

一人、部屋に残される形になったあたしは────

何よ、部屋から梅が見えないって判ってたんじゃない。

いやいや、問題はそこじゃないわ。

本気って・・・・何よ。本気って。

どうせ、いい加減なこと言ってるに決まってるんだから・・・。

夫の戯言に違いない、と思いつつ、だけど<今にわかる>と不敵に笑っていた高彬の顔がちらついて、惜しみなく色香を放つ梅の花に惑わされたかのように、あたしの心は期待と不安でむせ返り、くらくらと眩暈を覚えたのでは、あった。







<終>



瑞月です。

今日6月6日は氷室先生の七回忌。

氷室先生がお亡くなりになってから6年・・・。早いですね。

氷室先生も、瑠璃も、高彬も、ずっとずっと心の中で生き続けています。

今日中に何か話をアップしたいと思い、何とかぎりぎり更新することができました。

氷室先生が書かれた言葉、文章、作品は、どれも大切な宝物です。

氷室先生、たくさんの素敵なお話をありがとうございました。



(←お礼画像&SS付きです)
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瑞月(みずき)です。

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