***短編*** 花より言葉より ***

『なんて素敵にジャパネスク〜二次小説』




         注)このお話は一話完結です。

         『らぶらぶ万歳サークル』さまに出品した作品の再録です。
         今回のお題は「椿」でした。

          <おまけの話>下にあります。
           





***短編*** 花より言葉より ***









宿直明けの朝、詰め所から車寄せまでの渡殿を歩きながら、ふと瑠璃さんのところに行こうと思い立った。

今夜から方違えや仕事の関係で、数日は瑠璃さんのところに行けないのだ。

短い時間になってしまうけど、少しだけでも瑠璃さんに会っておきたい。

────ふいに訪ねたら、瑠璃さん、どんな顔するかな。

驚くか、喜ぶか。

その時の瑠璃さんの顔まで想像できる気がして、連日の激務と宿直明けで疲れてるはずなのに何となく楽しくなってくる。

やっぱり瑠璃さんはぼくのカンフル剤だよなぁ・・・。

車寄せまで来ると

「若君」

政文が慌てたように駆け寄ってきた。

「すまないが三条邸に寄ってくれ」

言いながら、ふと政文の手元に目がいった。

後ろ手に隠すように持っているのは・・・・椿・・か?

「いや、その、これは・・・」

ぼくの視線に気付いたのか、政文はバツが悪そうに口ごもり、その顔がかすかに赤い。

「どうした。花でも贈りたい相手が出来たのか」

何となくピンとくるものがあり言ってやると、政文はさらに顔を赤らめた。

その顔が全てを物語っていて、また、あまりにも判りやすい反応だったから、からかうのも気が引けて

「がんばれよ」

そう声をかけると、ぼくは車に乗り込んだ。

壁にもたれかかって目を瞑る。

少し休むか・・・そう思うそばから、今見た椿の花がチラチラと浮かんでくる。

・・・そうだよなぁ、政文だってぼくとそう年は違わないんだから、好きな人がいたっておかしくないし、そろそろ結婚だって考えるはずだ。

いや、政文だけじゃない。

ぼくの従者は、どういうわけだが揃いも揃って独り者ばかりだから、近いうちにバタバタと皆が結婚したっておかしくないんだ。

結婚して妻子を持つようになったら、当然、男には責任が出てくる。

ぼくがコケたら、あいつらもコケるわけで、つまりはぼくの仕事ぶりいかんで、従者はもちろん、その家族の生活まで左右されてしまうと言うわけだ。

これはぼくも相当、身を入れて頑張らないといけないよなぁ・・・・。

そんなことを考えてるうちに、いつの間にか寝てしまったようで、カタンと言う揺れで目を覚ました時、車は早や三条邸の門をくぐっていた。









**********************************************************








「まぁ!少将さま」

「先触れもなしで悪かったね」

転がるようにやってきた小萩に声をかけると

「いいえ、姫さまもさぞお喜びでしょう。ご案内いたしますわ」

小萩はすぐに先を歩き出した。

見慣れた三条邸の庭は、さすがにこの季節は彩りもなく、遠くに見える寒椿の赤がいっそう際立って見える。

「姫さま、高彬さまがおいででございますわ」

少し先を行く小萩の声が聞こえ、さぁ、瑠璃さんは驚くか喜ぶか、イタズラをする童のような気持ちで部屋に入って行くと

「お疲れさま」

ゆったりと微笑む瑠璃さんに迎えられ、ぼくは何だか拍子抜けしてしまった。

「・・・どしたの?変な顔して」

「いや、急に来たから、もっと驚くかと思ってたから・・・」

さすがに、喜ぶかと思ったとは言えなかったけど、ぼそぼそと言うと

「いちいち夫が帰ってきたくらいで驚いてたら身体が持たないわよ。高彬が来るのは当然なんだから」

「・・・そうか」

何でもないことのように言う瑠璃さんに、同じように何でもないことのように返事をしながら、ぼくは奥歯をグっと噛み締めた。

ぼくが三条邸に帰って来るのは当然、か。

・・・まずいな、これはかなり嬉しいぞ。

ともすれば緩みそうになる頬を気合で引き締める。

小萩だっているし、こんなことであからさまに喜んだら男のコケンに関わる────。

と思いつつ、やはり頬が緩みそうになって、ぼくはごまかすように庭に目をやった。

庭の隅の寒椿が目に入る。

そうか、渡ってくる時に見えたのはこれか。

椿を見ていたら、ふとある考えが浮かんできた。

さっき政文が持っていた椿は少し終わりかけていたように見えたから、少し持って行ってやろう。

「・・・小萩。すまないが、あの椿の花を出るまでに用意してもらえないかな」

「椿、でございますか」

「うん、何枝かでいい」

「かしこまりましたわ」

どこか不心得顔だったが、それでも小萩は用意のために下がっていき、と思ったら今度は瑠璃さんが話しかけてきた。

「珍しいじゃない、高彬が花を持っていくなんて」

確かにガラじゃないよなぁと思いながら、ぼくは政文のことを話した。

「椿を好きな人にねぇ・・・」

ふぅん、と頷きながら聞いていた瑠璃さんは、ふと眉をあげると

「少し前までは、人の恋愛なんて口出しするものじゃない、なんて言ってた高彬が、恋の橋渡しの手伝いをするなんてね」

からかうように言った。

「橋渡し、なんてほどのことじゃないさ」

「そうかしら?」

にやにやと笑う瑠璃さんの顔が、どこか勝ち誇っているように見え、ぼくは恥ずかしさも手伝って負けじと言い返した。

「そういう瑠璃さんこそ、少し前までは独身主義者だったじゃないか。今はどうなの?ぼくの記憶違いじゃなければ、つい最近、小萩の結婚相手の心配をしてたと思うんだけどなぁ」

「・・・・」

「環境が変われば、考え方だって変わる。・・・だろ?」

どうだとばかりに顔を覗き込むと、しばらく悔しそうに唇をとがらせていた瑠璃さんは、観念したのか最後はしぶしぶのように頷いた。

「まぁ、どんなに環境が変わったって変わらない思いもあるけど」

「そうね」

素直に同意した瑠璃さんと目が合い─────何となく2人して黙り込む。

変わらない思いって何よ、と瑠璃さんは聞いてこないし、ぼくも言わない。

同じことを思ってるのかも知れないし、違うのかも知れない。

庭からチュンチュンと雀の鳴き声が聞こえ、釣られるように瑠璃さんは場所を移し、そのまま黙って庭を眺めている。

瑠璃さん、もっと中にお入りよ・・そう言いかけて口をつぐんだ。

立ちあがり、瑠璃さんの隣に座る。

穏やかな冬の朝、時間だけがただ静かに流れて行く。

眺める庭を彩る花も、弾むような会話もないけれど。

たまっていた疲れがどんどん取れていくのがわかる。

やっぱり瑠璃さんのとこに寄ってよかった。

「じゃあ、そろそろ行くから」

そっと立ちあがると、見送る瑠璃さんに軽く手を振りぼくは歩き出した。









*****************************************************








「若君!」

待っていた政文に用意させていた椿を手渡すと、驚いたような声をあげた。

「がんばれよ」

一声かけて車に乗り込むところで、もう一度、政文に向き直った。

「好きな人に花を贈るのもいいけど、大切なのは心だぞ、心」

今さっき瑠璃さんと過ごした静かな時間を思い出しながら言う。

花より言葉より、大事なものがあるんだから。

我ながら良いアドバイスだった、さっきは瑠璃さんにからかわれてしまったけれど、確かに他人の恋の橋渡しめいたことに目が向くなんて、ぼくも少しは堅物返上かもな・・・と悦に入っていると

「ですが若君、心は見えませんから。まずは花ですよ。花で気を引いて、心で勝負はその後ですよ」

きっぱりと言い切る政文の声が車の外から聞こえてきた。

「・・・・」

「女の人って、案外、現実的なんですよ」

「・・・・」

────どうして、おまえの方が詳しいんだよ!

「何かあったら、おまえに相談するよ・・」

思わず呟くと

「は?何かおっしゃいましたか?若君」

さっきよりも近くで政文の声がした。

「いや、何でもない」

堅物返上は、まだまだ先か・・・。

壁に寄りかかり、ぼくは堅く目を閉じたのだった。









<終>




******************************************************************


<おまけの話>







動き出した牛車に揺られながら、だんだんと睡魔が襲ってくる中、ぼんやりと政文の言葉を思い出す。

心は見えませんから、かぁ。

確かに言い得て妙かもなぁ。

口に出さなくても判ってくれてるだろう、なんて虫の良い解釈なのかもしれない・・・。

瑠璃さんの顔見ただけで疲れが取れたことに満足して、大した話もせずに帰ってきてしまったけれど。

突然来て、突然帰ったぼくのことを、瑠璃さんはどう思っただろう。

「───済まないが、三条邸に戻ってくれ」

車内から声を掛けるとすぐに車が止まり、砂利を踏む音と同時に政文の声がした。

「三条邸でございますか?」

声にはありありと怪訝そうな色合いがある。

「ちょっと・・・忘れ物だ」

苦しまぎれの理由を言うと、少しの間があり、それでも牛車は今来た反対方向に動き出した。

出迎えた女房の質問を適当にかわし、とりあえずは急いで瑠璃さんの部屋へと向かう。

部屋に入っていくと、小萩相手に話をしていた瑠璃さんは、今度こそは驚いた顔でぼくを見た。

いくら<夫が帰ってくるのは当然>とは言え、さっき帰ったばかりの夫がすぐにやってきたから、さすがに驚いたのだろう。

「どうしたの」

目を見開いている瑠璃さんの前に座ると、ぼくは小さく息を整えた。

「言い忘れたことが・・・あったから」

「なぁに」

「その・・・」

瑠璃さんの丸い目がぼくの次の言葉を待っている。

「ぼくは・・・・ずっと瑠璃さんが、す・・・す・・・」

「す?」

好きだから、と言え。

「す、す・・」

「だから、す、が何よ」

「す、雀って・・・」

「は?」

「雀って・・可愛いな、と思って」

「はぁ?・・・言い忘れたことって、それ?・・そんなこと言いにわざわざ戻ってきたの?」

呆れたように言われ(無理もないけど)ぼくはがっくりと肩を落とした。

「・・・やっぱりぼくは堅物なんだな・・」

ため息を付きながら思わずこぼすと、瑠璃さんはまじまじとぼくの顔を見て、クスリと笑ったかと思うと

「高彬、こっちにきて」

ぼくの手を引き几帳を回り込んだ。

そうしてぼくの前に立つと、軽く顔を上げ目を閉じて見せた。

「・・・・・」

これは・・・。

───そういうことか。

小萩からは死角になっていることをすばやく確認し、瑠璃さんの肩に手を置き少し身を屈めて接吻をする。

唇を離したところで目が合うと、瑠璃さんの目がいたずらっ子のようにくるりと回った。

「このしぐさで妻の気持ちが判るのなら、堅物返上もそう先のことではないはずよ」

請け合うと、瑠璃さんはにっこりと笑ったのだった。









<おしまい>


(←お礼画像&SS付きです)
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